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いつもの日常。このままずっと。

作者: うまのつき

長期ものをひそかに用意しているのですが、あまりにも暗すぎて息抜きしたくなりました。

好きだなぁ、と感じることがある。

別になにか特別なことがあったわけでもない、本当に何気ない瞬間に。


例えば、それぞれスマホをいじって、私は電子書籍を見て、彼は動画を見ている。

肩が触れ合っているわけでもなく、手をつないでいたりするわけでもないけれど、どちらかがほんの少しだけ身じろいだりして空気が動いた瞬間なんかに。


多分、本当に好きってこういうことを言うんじゃないのかなぁ、と最近頓に思う。

きっと今までの人生で好きだと思っていた人たちとの恋愛は、真に恋愛ではなかったのではないかと。

私に貴重な時間を割いた、元カレ達には非常に申し訳なく思うけれども。


「ねぇ、」

「ん~?」


声をかけた、その返しで分かる。動画が面白くて正直目を離したくない、集中していたいときの感じだ。

だから話しかけておきながら、その先を言うのを止めた。どうせまともな返事はこないからだ。大したことを話そうと思っていたわけではない、というのも理由の一つである。


「…なに?」


たっぷり間が空いた後、改めて話しかけられた。動画が終わったのだろう。


「ちょっと呼びたかっただけ。動画面白かった?」

「ん~…まぁ?」


本人的には面白かったのだろう、でも私にはきっと分からない面白さの動画だと、そう思っている。これはそういうときの反応だ。

そういう機微が分かるくらいにはもう一緒に過ごしたんだなぁと感慨深くなる。


私の気持ちがなんとなく伝わったのか、彼が徐に顔をこちらへ向けてきた。ジッと見つめてくる瞳は大きくて、私はその視線を受ける度に実家の犬を思い出す。

なんというか、真摯に見つめてくる感じがちょっと似ているのだ。


「…一緒に見る?」


気を遣わせたらしい。


「見ないよー。私が見て面白いものじゃないんでしょ?」

「それは…見てから判断してよ」

「どう思う?見たら面白かったって言うと思う?」

「思わない」

「おい」


じゃあやっぱり見る必要ないじゃん。と言い返そうとしたけれど、ふと身体を持ち上げられて膝の上にふわりと誘導されてしまう。そして始まった、私はやっていないゲームの実況動画の再生。


彼は身長が高く、私は当然彼より小さい。だからこの体勢になると必然的にすっぽりと包み込まれるような感じになる。

嫌いじゃないというか好きだけれど、足とかを伸ばすことができないので若干窮屈さは感じる。

それにこの姿勢になるとちょっとスマホが弄りづらい。

しょうがないなぁという体で、腕に抱きついてみる。


そういえば女性は匂いで相性の良い男性が分かるという説があるが、どうなのだろうか。

私にとっていい匂いだと感じるこの匂いも、別のだれかにとってはあまり良くない匂いだったりするのだろうか。


そんなことを考えていると、彼も私のうなじに鼻を押し当てるようにしてきた。


「動画見ないの?」

「ん~…」


彼のスマホからは変わらず、動画の音声が流れている。

首の後ろで、ふんすふんすと鼻が息を吸う音が聞こえる。ますます犬っぽいと思ってしまうが、もうこれはしょうがないだろうと思う。


「見れない」

「動画見る邪魔してないじゃん」

「見れないの」


うなじにぐりぐりとおでこあたりを押し付けているようだ。今日は動物らしさを前面に押し出してくる日らしい。


「なに、どしたの?」


私からの問いには答えず、えへと笑う。ダメだ、可愛がりたくなってきた。


本当はこの後、買い物に行ってご飯の用意をして、なんて考えていたけど、もうどうでもよくなってきた。

このまま二人でやるべきことは脇に捨ててまったりしよう。それがいい。


「おいで、お昼寝しよー」


狭い家でよかったと思うのは、こういうときほんの数歩でベッドまで辿り着けることだ。


結局、その後、日が暮れるまでたっぷりと寝て、夕飯はデリバリーをお願いした。

こういう日々が当たり前に過ぎていくことを、本当に幸せだと思う。


お読みくださりありがとうございました。

少しでもほっこりしていただけましたらこの上ない喜びです。

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