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神殺しの魔物達  作者: 噺 遊月
無魔【壱】
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依頼の朝

 私は窓から差し込む朝日で目を覚ました。

 今日は依頼された遺跡の調査をリベンジする日だ。昨日は黒い魔道士と狼に邪魔をされて、私は気を失った。しかし今日はレイさんとラムダさんが護衛をしてくれるので、大丈夫だろう。本当は自分達で護衛を頼んだり、自衛したりするべきなのだが。

 私は2段ベッドの上に寝ているリタを起こしに、はしごを登った。ここは私が所属しているギルドが開放している宿泊施設の部屋の1つだ。ギルドに所属している人が使えて、お金もかからず自由に使える。簡素な板張りの部屋で、家具もクローゼットとこの2段ベッドだけだが、清潔で物を盗まれる心配もない。駆け出しで貧乏な私達にはとてもありがたい施設だ。

 リタは案の定まだ寝ていた。私は師匠の元にいたとき、雑務の為に早起きする習慣がついたので、リタより早く起きるのだ。しかし、駆け出しとはいえ狩人なのに、魔法使いの私より起きるのが遅いのはいかがなものか。特に、今日は調査の為に早くここを出発しないといけないのに。

「んん……ステーキ…」

 昨日食べたステーキがそんなに忘れられないのか、リタはステーキを寝言でつぶやいた。このまま順調に腕を上げて…もっとお金を稼いで…そしたら毎日ステーキが食べられるだろうか。

 少し気が変わった。リタはそのまま寝かせておこう。

 私は髪を櫛で梳かして、下に降りた。1階には、自由に使える湯沸かし用魔法道具や調理道具一式、そして食事スペースがある。そこでコーヒーでも飲もう。

 1階に降りると、何故かレイさんとラムダさんが居た。なぜわざわざ迎えに来たかを考える前に、

「ああユーリちゃん。ラムダに食事を用意させたから。向こうに用意してあるから、食べて来なよ。リタは2階で寝てるよね?」

 と、向こうから理由を答えてくれた。しかも、リタを起こしに行くつもりなのだろう。

「じゃあ、起こしに行ってくるよ」

 その上、こちらの返事を聞こうともせずに2階に上がって行った。部屋はおそらくギルドマスターに聞いたのだろう。

 食事スペースの奥の方を見ると、食事用に配置されてある木製のテーブルの1つの側に、ラムダさんが皿を並べているのが見えた。

 私は次に口に出す言葉を、何度か反芻した後

「てっつだいます」

 と、ラムダさんに近づきながら話しかけた。

 落ち着け、私。ラムダさんは昨晩散々話して、慣れた筈だ。

 私は、かなりのあがり性で、初対面の人や慣れない人と話すのが苦手だ。幼い頃はリタの後ろに隠れてやり過ごしたことも多かったが、今はそういうわけにはいかない。

 特にラムダさんは、目つきが鋭く、身長もかなり高くて(大人の男性ぐらい?)、厳しい印象を受ける。更に窓からの光が逆光になって、威圧感が増している。

 大丈夫だ。ラムダさんは、酒場で話したときにわかったが、厳しくても笑ったり褒めてくれたりする人だ。だから師匠のようにきつく怒ったりはしない筈だ。

「丁重にお断りします」

 私の想いは簡単に砕かれた。時間が止まったように感じる。

「お食事の用意は、レイ様に申し付けられたことなので。それをお客様に手伝わせたとあれば、レイ様のメイドである私のプライドが許しません。どうか、椅子に座って、お食事の用意をお待ちください」

 そう言った後、手に持っていた皿をテーブルにのせて、調理台がある方へ行ってしまった。

 私は大人しく椅子座った。木製のテーブルと椅子は、これまた簡素だが、木造のこの建物によく似合う。そのテーブルに乗せられた皿には、スクランブルエッグと焼いたベーコン、千切られた葉野菜が乗っていた。

 奥からラムダさんが戻ってきて、更に二人分の料理を運んできた。その後何往復かして、一人分の料理は、スクランブルエッグ、焼いたベーコン、葉野菜、黒パン、白いスープ(後でジャガイモのスープだと教えてもらった)、そして紅茶となった。ラムダさんはその後、銀の食器をラムダさんの持ち物が入っていると思われる袋から取り出して並べていった。

 朝からかなり豪華な食事になった。いつもは切ったジャガイモと塩を入れて煮込んだスープと、固くなった売れ残りのパンを食べているのに。私も早くこんな食事を毎日食べれるようになりたい。

 そうしてるうちに、レイさんが降りてきた。リタはレイさんに担ぎ上げられている……。

 大方普通に起こそうとしたレイさんが、リタを担ぎ上げて、そのまま降りてきたのだろう。リタもじたばたしているし、もう起きているみたいだ。

 ラムダさんがレイさんの方に歩いていった。どうやら何かレイさんに話かけにいったらしい。この椅子から階段近くまでは、距離があって、何を話しているのかは聞こえなかった。

 遠くから眺めても、レイさんとラムダさんはとても目立つ。どちらも大人の男性ぐらいの身長と、出るべき所は出て、引っ込むべき所は引き締まっている体を持っている。更に目鼻立ちも(それぞれ受ける印象は違うが)かなりの美人だ。

 レイさんはこの辺りではあまり見ない長い黒髪を後ろで縛った髪型をしている。そしてチャイナドレスというらしい服を改造した、黒くて半袖の短い服を着ている。腕や脚は血色の良い肌が丸見えになってしまっている。靴は踵まで覆うスリッパのような靴を履いている。

 ラムダさんは金色の髪を後ろで二つに分けて縛っている。服は使用人服の黒を、暗い赤にしたような、ロングスカートの服と頭飾りを着ている。靴はロングスカートでほとんど隠れているが、革のロングブーツを履いている。

 服も髪もこの辺りでは見かけない服で、これだけ美人な二人は、この場には私達しか居ないが、きっと外に出れば男性達によく声をかけられるのだろう。それだけ女性の私からでもわかる魅力を彼女達は備えていた。

 それに比べて私はどうだろう。胸が大きいばかりで、姿勢も悪いし、実力もない。事実、昨日レイさんとラムダさんに助けてもらったばかりでだし、姿勢の悪さも指摘された。更に稼ぎも悪く、身長も同年代の町の女の子に比べて低い。堂々とするどころか、怯えていて自身もない。ギルドマスターに不安と言われるような自分では冒険者はやっていけないのではないだろうか。

「ユーリ、…ユーリ!」

 正面から聞こえたリタの声で、私ははっとした。私が考え事している間に、いつの間にかリタが正面に座っていた。見回すと右隣にはレイさんが、右斜め向かいにはラムダさんが座っている。

「じゃあいただこうか。イタダキマス」

「イタダキマス」

 レイさんとラムダさんが言った知らない言葉も気にも止めず、私は淡々とラムダさんが用意した料理を食べた。この料理の美味しさが、そのまま私と二人との差に思えた。

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