不明との接触
目の前の相手が、ただ恐ろしかった。
全身真っ黒の狼の魔物を二匹も付き従えた、全身真っ黒のローブを羽織り、真っ黒の帽子深くをかぶった魔道士。その白い両目がこちらを見据える。この安全な森の中に、こんな奴らが居るとは、聞いたこともない。
魔法を一発受けて気絶しているユーリを庇いながらでなくとも、到底歯が立たない存在なのは、駆け出しのあたしでもわかる。だからと言って逃げるのも難しい。狼にやられた足の傷がなくても、あたしは逃げられただろうか。
魔道士が静かに魔力を貯め、あたしを仕留める準備をしている。横に避ければユーリに直撃する。かと言って受ければどうなるかは、後ろを振り向けば分かるだろう。
全身が自分のものではないかのように感じる。あたしは驚くほど冷静に、物語を読むかのように、目の前の状況を見て、諦めた。
次の瞬間、魔道士の頭に槍が突き刺さっていた。黒髪の長身で薄着の彼女が横槍を入れたのだ。彼女はすぐに槍を抜いて構えた。
「…まだ狼がいる!油断しないで!」
「わかってるよ」
喋り終わったのと同時に、彼女は、飛びかかってきた狼を槍で真っ二つにした。もう一匹の狼は、赤い使用人服をつけた女性の大鎌で、喉笛を突かれて動かなくなっていた。
「大丈夫?」
あたしは助かった安心で力が抜け、その場にへたりこんだ。