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通り魔

ファミレスに残された僕は一人、オレンジジュースを吸い尽くしていた。僕はオレンジジュースを飲み終えると会計をすまし、颯爽と店を後にした。


それにしてもこの時間からのバイトとは、柔道もあるのに大変だな奏さんは。


家に帰ると、そこには誰もいなかった。当たり前である。僕は一人っ子で母さんは死んだ。それに父さんも仕事で何時も遅い。夕飯は自分で支度して、父さんの分も作るのが僕の日活である。


食べてきたし、父さんには悪いけど何か買って食べてもらうか。


僕は部屋に戻り、一人で勉強する事にした。誰もいない、その静かな空間で、一人で。だが不思議とこの空間を嫌だと感じた事はない。慣れと言うのもあると思うが、元々大勢に囲まれるより一人でいた方が落ち着くと感じる僕はこの空間をむしろ好んでいたるのかもしれない。


それから数時間が経ち、僕の携帯がなった。奏さんからだ。

僕はブルブルと震える携帯を手にし、少し鼓動の加速させながら緑のボタンに手をかけた。


「もしもし、奏さん?今日は色々ありがとう。それでどうしたの?」

「怜くん...ずっと..好きだった...よ...」


彼女の声は弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。そんな状態の彼女の声に、この内容である。僕の頭の中は真っ白になった。


「奏さん!?どうし..」


ピーピーと虚しい電子音が鳴り響く。

僕は何をするよりも先に彼女に電話を掛け直そうとしたが、無駄だった。繋がらないのだ。


時間的にはもうバイトが終わってるはず。なら今は帰宅中?


そう考えたら僕は彼女と交わした会話を思い出した。


『ねぇ水篠くん知ってる?最近この辺で通り魔事件が多発してるんだって。』


連続通り魔...もし..もし彼女が襲われてたら...


そのことを思い出した僕は色々と最悪なケースを想像してしまい、居ても立っても居られなくなってしまった。


家を飛び出し、私服で夜の町を駆け抜ける。彼女のバイト先なんて知らない...ましてやその帰り道なんて。ただ分かっているのは彼女の家、もし彼女が無事なら家に戻ってるはず。僕は彼女が家にいる事を祈りながら数100メートル先にある流川家へと向かった。


僕が足を止めると目の前には立派な二階建ての一軒家が立っていた。彼女の家だ。僕は覚悟を決め、ベルを鳴らす。「は~い」と、彼女の母親らしき人物の声が聞こえてきた。すると、エプソン姿の彼女の30代後半位の女性が出てきた。

僕は既に彼女の母親にも会った事があるので余計な事を話す必要はない。ただ僕はストレートに質問した。


「娘さんは!帰ってますか?」


挨拶もなにも無しに真っ先にその質問をした僕は傍から見たらただの無礼者だろう。しかし、今は時間が惜しい。彼女が家にいるなら問題ないが、もしいないなら..


「あら、怜くんいらっしゃい。奏ったらまだ帰ってないのよね。どう?家に上がって待ってる?」


僕はその事を聞いた瞬間一気に顔を真っ青になった。まだ帰ってない?って事は僕が考えてた最悪のケースである可能性が一気に跳ね上がった。


僕は心配そうな顔をしてる奏さんの母親に事情も話さず、一人で走り去ってしまった。今回のような場合は絶対に親に相談した方がいいに決まってる、僕はそれを分かっていて、無視した。体が先に動いてしまったのだ。


奏さんは今何処で何してるのか。彼女は大丈夫なのか?もしかするともう彼女は...


そんな考えが頭をよぎるが、僕は必死に彼女とファミレスで別れた時の事を思い出した。確か彼女はファミレスから出た時、家の反対方向に走っていったはず。それに20分位でギリギリ間に合うと考えると何のバイトだか知らないが、バイト先の服に着替える時間も考えると彼女の家とファミレスの延長線上でファミレスから10分以内の学生がバイト出来る場所。

そう考えるとかなり限られてくる。


僕は先ずは彼女といたファミレスまで足を運び、辺りを見回す事にした。


今考えてみれば奏さんの母親に聞いてみた方が全然早かったのかもしれない。でも僕にそんな事を考える余裕はなかった。今からでも戻って彼女に聞いてみるか?いや、時間が惜しい。さっき奏さんに電話かけて見たけど、全然つながらなかったし。


正式な通路を使ってるのなら今頃帰ってるはず、それに交通事故に巻き込まれたと言う可能性も考えたけど、それらしき情報はネットに上がってない。残された可能性は裏路地。でも何で彼女がそんな路地にいく必要があった?急ぎの用事があって早く帰宅しなければならなかったとか?だとすると考えられる裏路地は一つだけ。人通りがほぼ皆無で物騒な場所。柔道を習ってる彼女はそんな場所でも大丈夫だとでも思ったのだろうか。それとも急ぎの用事があってや無負えずそうしたのだろうか。

今はそんな事はどうでもいい、彼女がそこにいるかどうか、確かめるのが先だ。


僕は急ぎ、その裏路地に足を踏み入れた。その瞬間、感じた事もない様な『空間の揺れ』を感じた。どうしてこの感覚が『空間の揺れ』だと理解できたのは僕にも分からない。ただ、ここに僕の常識を大きく覆す様な何かが存在するような、そんな気がした。


僕はこの裏路地に不安を覚えつつ、足を止めずに突っ走って行った。


最初の角を曲がった時、僕の目の前に信じられない物が映った。いや、これは僕が既に想定していた最悪なケースだ。真っ赤に染まったコンクリートにうつ伏せの状態で横たわる黒髪ロングの少女。うちの学校の制服を着ており、何処か見覚えがある..それは間違いなく奏さんであった。


ただ僕はその光景を受け止める事が出来ず、彼女にゆっくりと一歩一歩近づいていった。


「あの、大丈夫ですか..」


大丈夫なはずがない。コンクリートが真っ赤に染まるほどの出血に、もう息をしてる様子がない。これで生きてたら正に奇跡だろう。


僕はそっと彼女の顔に近づき、その体に触れながら顔を覗き込んだ。そこには目を半分開いた状態の紛れもない流川奏さんの姿があった。

彼女の瞳の色は既に失われており、もうこの世界にいない事を示していた。


「嘘だ...だって..奏さんは..さっきまで...」


僕はその瞳からゆっくりと涙を流し、腰を抜かしてしまった。彼女の死んだ瞳を見つめながら一生懸命後ずさる僕の姿はとても汚らしかった。


「あれ?お友達ですかねぇ!」


僕がついさっき通ってきた所から甲高い男の声が聞こえる。

僕は反射的にその男の方へと目を向け、派手なスーツ姿の男が目に入った。その男は派手な緑色の髪をオールバックにしており、20代後半位の容姿をしていた。片手には髪色と同じ色の、余り見かけない短剣を持ち、空に向けていた。


どういうことだ?こいつがもしかして、連続通り魔事件の犯人?こいつが...奏さんを!!!!


そう考えたら瞬間、僕の中で怒りが舞い上がった。ただ僕は動こうとしなかった、目の前には知られてるだけで11人の被害者を出した連続通り魔事件の犯人、そんな男を前にして恐怖を覚えない学生なんていない。


「何をそんな顔をしているのです?」


自身が僕に睨み付けられてる事に気が付いた男は、彼は信じられないと言わんばかりの顔を僕に向けてきた。


「彼女は転生者になったのですよ!!もっと喜ぶべきではないですか?」


その男が何を言ってるのか僕には全く理解できなかった。まぁ殺人鬼の言う事を理解しろと言われても無理そうなので仕方ないかもしれないが、彼が口にしていたのはそんなただのサイコパス男が口にするようなことではなかった。転生者?なんだそれは?生まれ変わるのがなんだと言うのだ。


「貴方...何も理解してないようですねぇ...まぁいいでしょう、貴方もその『転生者』になるのです。向こうに行けば嫌でも理解するでしょう。」


なに言ってんだよこいつ。今サラッと僕も『転生者』にするとか言ってなかったか?それって殺害予告ってやつなんじゃないのか!?


「因果を司る女神アラムよ、この者の罪を許し、新たなる生を与えよ!リンカーネイション!!」


彼がそう叫ぶと、何故か彼の持ってる短剣が光りだした。僕はこの状況を見てどうすることも出来ず、ただ呆然と彼の行動を見つめていた。ただ次の瞬間、彼は消えてしまった。ぱっさりと、何の前触れもなく姿を消してしまったのだ。


「女神アラム様の下で文明の発達に協力するのです..」


彼が消え、少し安心してしまった僕の背後から彼の囁きが聞こえてきた。それと同時に腹に焼けるような痛みが襲いかかってきた。


有り得ない、さっきまで目の前にいたのに...消えたと思ったら後ろにいるなんて..物理的に...不可..能...


僕の意識は段々と失われ、力も入らなくてなってしまった。生きる気力も失われる中、僕の目に奏さんの姿が目に入った。横たわっていた彼女も今は僕と同じ目線にいる。いや、違うか、僕が彼女の目線に落ちたんだ。


「貴方は13人目の転生者です。いいですねぇ何だかロマンチックな数字です...」


そんな男の声を最後に、僕の意識は完全に失われてしまった。

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