山小屋風の家の中で
山小屋風の家の中に入ると、大男は奥の部屋に僕を連れて行った。部屋には、大男にぴったりの大きなベッドがひとつあるだけで他の家具らしいものはなかった。
それは、寝に帰るだけだと分かる部屋だ。
ガランとしたスペースだけはたっぷりあるのは、大きな体に見合っているように思えた。
大男は、ぽんと僕をベッドに入れると寝ろと言った。
「あの、僕ずっと藪を歩いて来たからめちゃめちゃ汚いです!だからあっちにあったソファを貸して貰えれば。」
言いかけた側から、大男もベッドに入ってきた。
「きれい、きれい。俺たち冒険者はこれをきれいって言うんだよ。ほらほら、明日は美味いもの食わしてやるから今日は寝ちまおう。
坊主の目が、眠くてさっきから細ーくなっているぞ。ははは。」
よく笑う大男だ。
確かに眠い。こんなに夜まで起きていた事はないし、でも前世の記憶が邪魔をして汚い体でベッドに入いるのに対抗がある。
自分の体を見ると、草やら土やらあちこちについているから、気になる。
僕がじっと自分を見ていると大男は、突然魔法をかけた。
「この浄化を我に与えよ。」
薄い光が体を包むと、体から爽やかな風が吹いた。
始めて見る、人の魔法に興味津々で見つめた。
「ははは、何だ。魔法を見るのは初めてか?
これは浄化の魔法で生活には欠かせないものなんだ。まぁ、俺たち冒険者はあんまり汚れなんて気にしないから使う事もあまりないけどな。
坊主、さぁ本当に休めよ。もう、体は限界だぞ。」
大男の言う通り、もうギブアップだった。
用心も何もなく、そのまま眠りの世界に入った。
この坊主は、何だ。
先程からおかしな事ばかりだ。
世界中を渡り歩いて来た自分でも、この坊主の鑑定は出来ない。ただ、善良な人間だと分かるだけだ。
だいたい、黒髪に翠の瞳なんて見た事もない。
ここ、アイル民国は雑多な人間が多いがこの翠の目が、あまりにもありえない。
おかしな事だらけなのに、どうしてもこの坊主の世話をしてやりたくなる。
風来坊と言われる俺には、余計おかしな事に思える。
明日の朝、坊主の話をきいたらとにかく目と髪の色を変えてしまわないと大変だ。
ベッドで丸まって寝ている姿は、普通の子供だ。
何せ魔の森方から歩いて来たのだから。
魔物が多くかなりのレベルの冒険者でないと、近寄る事も難しいあの森から来たように見えた。
「はぁー。俺は難しい事を考えるのは苦手なんだよ。直感で生きるタイプなのになぁ。」
一人きりの呟きをこぼしながら、自分もベッドに入る。
もちろん、防御魔法を最高レベルで家中にかけてからだ。
何だか嬉しい気分の自分に首を捻りながらも、ベッドに入るとすぐさま眠った。