大男現わる
辺りが暗くなり始めて来たけれど、歩みを止める事は出来ない。
村の灯りが遠くに見えていた。
足のマメはもう潰れて血を流していた。
ガサガサ。
藪から生き物の音!
少し震えてる体を、藪へと向けると熊と見間違える大男がこちらを見ていた。
「なんだ。坊主じゃないか。こんなところで何してる。ここらは闇の時間には魔物が出て子供にゃ危ないぞ。」
驚きよりも、人に会えた嬉しさで視界がぼやける。
「どうした。お父さんやお母さんはどこにいるんだ?こんなチビの坊主ひとりって事ないだろう。
泣くな。おっちゃん困るだろ。」
もじゃもじゃの頭をかきながら、僕を見つめるその大男の目は優しい色をしていた。
「ごめんなさい。ちょっとほっとしたら、気が緩んでしまいました。あの、アルベ村はあとどの位ですか?」
「何だ、お前。俺らの村に用があるのか。
だけど、まだまだ遠いぞ。お前のちっちゃい足じゃかなりかかる。ほら、おっちゃんにつかまれ。」
大男は突然、僕の体を抱き上げてのしのし歩き出した。
「あの。あの。」
久しぶりに触れた人の温もりを感じながら、かなりの揺れに必死で捕まった。
「子供が遠慮しちゃダメだ。ほら、俺の足ならすぐだから。」
大男の歩くスピードは確かにめちゃめちゃ早い。
本で得た知識では、人とはこんなに早く歩くものなのかと驚いた。
やがて、淡い光があちこちに見えてきた。
アルベ村は、小さな村のはず。
宿屋に泊まるお金はないけど、この世界では、村長さんが旅人を泊めてくれるはずだから。
こんな小さな子供では、怪しまれるかも。
だから、どこかの物置小屋を見つけて泊めてくれるよう頼もうと思っていた。
だが、大男はそのままどんどん進みどうやら自宅へと僕ごと入っていった。
「あの、僕お金持ってないけど何かお手伝いしますので、物置小屋を貸してください。」
人の頭の上で全くカッコのつかないお願いゴトをする。
「坊主。子供が遠慮しちゃダメだ。さっきも言ったろ。俺の家でとりあえず今晩は休め。
疲れた顔をしているぞ。ゆっくり寝たら、坊主の事教えてくれ。」
想定外の出来事に、また視界がぼやけ始めたので慌てて目をこすりながら答えた。
「こんな怪しい子供を家に泊めていいのですか。」
「はははは。面白い事言うな。おっちゃんは、結構名の知れた冒険者なんだよ。ちっちゃな坊主に
やられたらおっちゃん冒険者廃業だよ。
あんまり、考え過ぎずに今日はここで休みなさい。」
おっちゃんは僕を丁寧に下ろしてくれた。
結構広い、山小屋風の家だった。