表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご主人様召喚‼  作者: そらみつ
1/2

第1話

「努力は報われる。」

この言葉は実に偽善に満ちている。

実際、努力の結果が望んだものでなかった例などざらにある。

数えればキリがない。

にも関わらず、この言葉は大衆に正論として受け入れられている。

学校では、それを道徳的な真理として生徒に刷り込み植え付ける。

それにより、

「成功のためには努力が必要不可欠だ」

と盲信する人間を量産し、社会に送り出す。

それが事実なのかを検証させることなく、ただ一方的に絶対善として押し付けて、だ。

そのことにどんな意味があるというのか。

一体、この言葉は誰のためにあり、誰を導くものなのか。


普通に考えれば、

「全ての人々のためである」

などという優等生な回答が出るだろう。

「努力の結果として成功という輝かしい未来が保証される」

という発想は、彼らに希望を与えるのだと。

だが、果たしてそうだろうか。

冒頭にも述べたように、努力しても失敗した人間も山ほどいるわけで、

彼らの努力は、約束されていたはずの未来をもたらさなかったことになる。

その立場から言えば、

「努力は報われる」

などというのは机上の空論に過ぎず、まやかしであろう。


ここでよく使われるのは、

「彼らの努力が足りていなかった、もう少し頑張っていればきっと成功した」

という論理である。

しかし、それは完全に公平な条件下でおいてのみ有効なものだ。

誰もが完璧に平等な環境の下にいるのであれば、その成果は努力に比例して高いものになる。

だが、一般の人々を考えると、彼らは各々異なる環境におり、

さらに努力の過程で起こることもまた違ってくる。

つまり、完璧に公平な状況にはないのだ。

よって、公平な理想状態でのみ成立し得る、

「失敗は努力不足に起因する」

という論理を安易に持ち出すのは間違いである。


それを考えると、同じように努力したとしても、

運よく成功した人間と運悪く失敗した人間が生じていることになる。

そして、

「成功者は十分な努力をしたから。失敗者はそれを怠ったから」

という論理で、世の中は勝者の結果を正当なものと認めて称え、

敗者を蔑むのだ。

しかし、これは結果論的な物事の捉え方であり、非合理である。

そして、運よく成功した者達が、

自らの成功を努力の結果手に入れたものとして正当化し、

敗者や努力が実を結ばなかった人々に対して

「それは努力が足らなかったからだ」

と弾劾するための方便として用いられるのであれば、

それはもはや勝者のためのプロパガンダに過ぎず、万人を導くものでは決してない。

このような間違った理屈が許されて良いものだろうか。


よって、叶うかも分からないのに、盲目にひたすら努力することは無意味であり、

馬鹿げていると断じざるを得ない。



(だから、俺は努力なんて無駄なことはしない)


「東雲君」


(全く、ちょっと真面目にやってみればこれだ。

 結局試験は落ちるわ、訳分からない娘の従者にされるわ。

 散々だ)


「東雲君」


(普段やらないことをやるもんじゃないな、うん。

 あの調子で真面目に働き出したら終わりだ。

 …………ああ、働きたくない)


「東雲君!」


「はいっ!」


呼ばれたことに気付き、東雲明人はさっと顔を上げる。


「さっきから何度も呼んでるんだが」


「ああ……すいません。少し考え事してました」


(暇すぎて、つい中二のときに書いた読書感想文とか思い出してた。

 つか、痛いな昔の俺)


「それで、成功したのか」


薬袋が早々に本題に入る。


「まあ、はい。一応?」

 



   ***

 



 事の始まりは半年前に遡る。


 東雲明人は、一年前に受験の結果、第三志望の大学に進学した。

元から成績は悪くなかったし、そこも別に悪い大学というわけではない。

第一と第二はかなりの上位校で、受かる方が奇跡だった。

そもそもその志望だって、適当に選んだものだったから、特別悔しさは感じていなかった。


だが、彼は進学してからもモチベーションが上がらず、講義はしょっちゅうサボっていた。

それでも単位だけはきた。

何をしても満たされなくて、毎日を単調に感じていた。


そうして一学期を過ごして夏休みに入る頃、その男は現れた。


明人が、試験も終わって、

キャンパスの真ん中に設置されているベンチに腰掛け、

ただボーっとしていた時だった。


「あーつまらん」


そう呟いて見上げた青空は、澄み渡っていて、無性にイラついた。


「隣、良いかな」


丁度前の自販機でコーヒーを買ったらしい男が、彼の座っているベンチを指さし、尋ねた。


「ああ、すいません。良いっすよ」


腕を広げて場所を取っていたっことに気付き、明人は腕をベンチの背もたれから離した。

「そうか。ありがとう」


男は例を言って、明人から人一人分の間を空け、隣に座った。

そして、買ったばかりのコーヒーの缶を空け、一口飲んだ。


「ふう。そういや君、さっき何か言ってたね」


男は明人に話しかけた。


「何でもないっすよ」


「いや、言ってたじゃない。つまらないって」


そっけなく返した明人に、男は笑いながらしつこくまた尋ねる。


「何。何がそんなつまんないの?」


はあ、と明人はため息を吐いた。


「特に何がってわけじゃないんだが」


そう言って、彼はまた上を見た。


「何か、どうしようもなくつまんないんですよ。

 …………別にこの大学入って後悔してるとかじゃなくて。

 そもそも後悔とかするほど考えてないし。

 …………ただ何もやる気が起きないって言うか。

 何かやりたいことがあるって言うなら別なんだろうけど、

 そういうわけでもないし」


そう言って、彼は盛大なため息を吐いた。


「なるほどね」


静かに聞いていた男は、コーヒーをまた一口飲んだ。


「要は、何をしていいのか、目的を見失ってるとか、そんなとこかな」


「その目的ってやつが無くて困ってる訳なんだが……ま、そんなとこです」


「なるほどねえ」


男は何かをぶつぶつ呟き始めた。


「こいつならいけるかな」


「…………」


男の横で無言のまま、明人は空を見上げた。


「なあ、君」


「何ですか」


「君さ、やること分からなくなって悩んでるんだよね?」


「……はあ」


唐突に確認してくる男を少し不審に思いながらも、一応返事をする明人。


「なら、紹介したい話があるんだけど、どうかな?」


「……はい?」


初対面の男からこんな誘いを受けるとは思っていなかった明人は、その言葉を訝しんだ。


「どういうことですか」


「まあ、なんと言うか……。

 一種のインターン?みたいなものにお誘いしようかな、

 とか思ってるんだけど」


「ああ、嫌なら別に良いんだけど、……興味があったら聞く?」


「まあ、暇ですし…………気になるっちゃ気になるんで」


「そう?」


そう言って男はコーヒーを飲み干した。

そして、一枚の紙を脇に置いていたカバンから取り出し、明人に渡す。


「その会社なんだけど、新しく出来たばっかで、

 これから優秀な人材集めようとしてるんだよね。

 で、人集めて半年くらい研修みたいなことして、

 そこから人材発掘するつもりらしい」


明人は渡された紙をじっくり読み始めた。

どう見ても普通のチラシにしか見えないそれから得られる情報はそこまで多くなかった。


「これ、どういう会社なんですか」


「詳しいことはここで言えないんだけど、

 既存のものとは全く違う新しい産業を開発してる、

 とでも言えばいいかな。

 まあ、その辺の話は研修をやってればそのうち教えて貰えるはず」


「…………」


「どうする?研修中も給料は出るみたいだし。

 ただ、しばらくは寮みたいな所で暮らすことになるみたいだけど」


正直、あやふやなことしか分かっていないこの話に乗れるか、と聞かれれば、


(普通に考えれば無しだろな)


こう言っちゃ悪いが、この人うさん臭いし、いまいち信用できない。


(でも)


「…………いいですよ。どうせすること特に無いし」


「本当に?」


このまま流されるまま、ただ何も考えずにだらだらと大学に通い続けてるよりは、

明人には幾分かマシに思えた。


「じゃあ、私はこれで。

 応募方法とかはその紙に詳しく書かれてるはずだから、

 それ読んでやっといて」


そう言って、男は飲み終えた缶を持って去っていった。


「…………ノイエコスモス社か」


改めて紙をよく見る。


(せめて、退屈しないと良いな。期待はしないけど)


明人はゆっくりとベンチから体を起こし、歩き出した。

 



   ***

 



 帰ってから明人が親にその件を相談すると、


「好きにしろ」


との返事。


(何それ。家の親、俺の扱いテキトー過ぎませんか?)


何はともあれ、彼は早速チラシの通りにノイエコスモス社のホームページに行った。

結構凝ったデザインになっていて、チラシの方とのクオリティーの差が歴然としていた。


とにかく、明人はそこから応募画面に進み、必要事項を入力して応募を完了した。

応募期限は次の日だったようだから、幸運だったと言えるかもしれない。


その一週間後には、研修に必要な書類等が送られてきた。

段ボール箱の中には、何に使うのか分からない、

分厚くて不思議な文字が書かれた本も何冊か入っていた。


そこからしばらくは慌ただしくなった。


まず、彼は学校に休学届を提出に行った。

半年の研修期間の間、学校に通うことは不可能だ。

その間は休学せざるを得ない。


(まあ、給料は出るみたいだし、

 寮での生活にかかる費用は向こうで何とかしてくれるらしい。

 そこまでのデメリットも無いだろう)


それに、上手いこと最後まで残って選考で受かれば、就職は保証される。


そしてなんやかんやと準備を終えた九月の初め頃、都内某所にて研修は開始された。

しかし、そこで行われたのは、それまでとあまり変わらないことだった。

研修で何をやるのかは、一応把握はしていたが、

実際に学校の講義と似たようなことをさせられる。


(結局、大学行ってても大した違いは無かったんじゃ)


明人は、幻滅するとまではいかないものの、

期待外れに感じた。


加えて、多種多様な教科は、何の意味があるか分からないものばかりだった。

特に語学の授業は謎だった。まだ英語や二外を教わるとかなら分かる。

見たことの無い文字を覚えさせられ、聞いたことも無い言語をいきなり学ばされる。

挙句の果てに、会話とかやらされるのだ。


学校の勉強がどう役に立つのかなんて、正直生徒には分からない。

それと似たようなことが起きていた。

それなら、考えるだけ無駄だと割り切ってしまえば良い、

と明人はやり過ごした。


(考えるのも面倒だし)


しかし、何名かはこの時点で脱落していった。

期待していた分、彼らの失望は大きかった。


そうして、研修も折り返し地点、というところで一次選考が行われた。

簡単に言えば、それまでに学んだことを基にした試験が行われ、

成績悪いのがふるい落とされるのだ。


その結果残ったのは明人含めて五十二名、と研修開始時の半分以下だった。




***




一次選考終了後、合格者だけが集められ、説明会が催された。

そこでは、改めてこの研修会の趣旨が語られた。

それは明人達の想像をはるかに超える内容だった。


「皆さんは、所謂異世界という概念を知ってますね」


三十代前半位の眼鏡を掛けた男性が、研修の参加者達に向かって尋ねる。


「異世界というのは、多くの小説や漫画、映画などに出て来ますし、

 よく知られたものだと思います。

 ここにいらっしゃる方々も、それらの作品に親しまれていると思われます」


「しかし、多くの方にとって、それらはあくまでもファンタジー。

 そんなものを信じている方は少ないことでしょう」


そこで男は言葉を切った。そして息を吸ってこう続けた。


「では、その異世界が現実に存在するとしたら」


(は?)


何寝ぼけたことを、

と明人は言いそうになる。


だが、男の口調も顔も真剣だった。

決して冗談で言っている雰囲気ではない。


ざわざわと声が上がる。


「お静かに」


男が告げ、参加者たちは鎮まる。

それを確認し、彼は


「皆さんにとって、この事実は簡単に信じられるものではないでしょう。

 ですが、当社はその異世界が実際に存在することを確認しております」


とはっきりとした声で語った。


「その世界は、私たちの世界とは全く異なる社会システムや理屈で動いています」


男は続け、


「興味深いのは、

 その世界では科学の代わりに魔術なるものが発展しており、

 それなりに進歩した世界である、ということです」


大真面目にそんなことを言う。


「当社は、その世界とつながり 

 あちらの様々なものを利用して事業を展開していくことを目的としています。

 また逆に、こちらの技術を用いて、向こうの世界でも商売していこうとも考えてます。

 そのために働いてくださる方々を、このような形で集めることとしました」


しばしの間、静寂が流れる。


「質問宜しいでしょうか」


一人の参加者が手を挙げた。


「どうぞ」


男が促すと、手を挙げた彼は、立ち上がった。


「先程まで語っていただいた異世界や魔術のことですが、

 それらの証拠をお見せいただけませんか?

 正直な話、信じられません」


「証拠ですか…………」


しかし、檀上の男はそれを予想された質問だとでも言うように、余裕を醸し出していた。


「実は、この異世界のことは三年程前に分かったばかりで、

 まだよく分かっていませんし、直接お見せすることは出来ませんが

 ……そうですね。魔術の方でしたら」


そう言って、男は立っている例の参加者に左手を向けた。

その手の前に赤い球体が形成され、


「はっ」


という掛け声と共にそれが発射され、質問者の右頬をかすり、通り過ぎた。


会場が驚きでどっと沸き、例の参加者の方は呆然と立っていた。


その反応を見て、男は満足気な表情を浮かべた。


「これで皆さん、信じていただけたでしょうか」


ぐるりと会場内を見渡し、彼は尋ねる。


「まだこれだけでは信じられない、という方もいるかと思いますが」


そう言って、男は講義に使用されていた教科書を手に掲げた。


「皆さんがここまで勉強してきたのは、

 その魔術の基礎を学ぶ上での基礎知識にあたるものや、

 あちらの世界の言葉や、常識、教養です。

 これらを身に着けることは、

 弊社での異世界業務に従事する上で必須となります」


そして、と男は語る。


「ここからは本格的に魔術などの訓練も行います。

 ここで特に優秀な成績を残した方に関しては、重要な役職に就くことを保証します。

 もちろん、それ以外の方にも弊社への入社の権利は与えられますが、

 二次選考に合格された方が、働く上で遥かに有利になります」


にっこりと笑い、男は最後にこう告げて檀上を降りた。


「ぜひとも皆さん、頑張ってください。

 ご健闘を祈っております」




 ***




研修後半のプログラムは、明人にとって充実したものだった。


それまでに比べて実践的な内容。

実際に魔法を使うというのは、実に刺激的な体験だった。


彼はどの教科においても悪くない成績を修めた。

特に実技と語学は常に上位の方だった。

まあ、あくまでも比較的だが。


そしてつい先日二次選考を迎え、その結果が今日、一足先に彼に教えられたのだった。




「お呼び立てしてすみません、東雲さん」


「いえ…………」


会議室のような室内には二人だけ。

一人はスーツに身を包んだ女性。

そしてもう一人は、適当に選んだパーカーを羽織り、

色褪せたジーンズを履いただるそうな明人だった。


「それで、早速東雲さん。

 選考の結果ですが」


「はい」


 室内に緊張が走る。


「残念ながら、不合格ということになりました」


女性の口から、無情な宣告が告げられる。


「……マジですか」


「ええ」


 そう言って、女性は手元の資料をパラパラと捲った。


「一応、これを見る限りでは、どの分野においてもそれなりに悪くない成績で、

 特に実技と語学に関しては比較的上位にいるわけですし。

 ……かなりギリギリで落とされたみたいですね。

 おそらく、実技などが選考基準において重視されていなかったことと、

 他に優秀な方が多かったのが原因ではないかと」


「はあ…………」


(それ、今更聞いても意味無い気が……)


「何かご質問はありますか?」


「…………これって、再チャレンジみたいなのって無いんですか?」


「ええ。残念ですが、今のところは……」


 女性は申し訳なさそうな顔をした。


「そうですか…………」


(まあ、倍率は高かったわけだし、そこまで落ち込んじゃいない)


当然といえば当然の結果だ。


そう明人は自分を納得させた。


「ですが」


 そう言って女性は真剣な表情を明人に向けた。


「あなたには今回、特別に一度だけチャンスが与えられることになりました」


「え?」


 思いがけない言葉に、明人は耳を疑った。


「受けますか?」


「いや、まあ。

 チャンスがいただけるっていうなら、そりゃ受けますけど」


「そうですか。それでは付いて来てください」




***




「着きましたよ」


会議室から連れてこられたのは、地下二階にある修練場だった。


「あの、ここで何するんですか」


「中でお待ちください。

 説明があるみたいなので」


そう言って、女性は階段を上がって行ってしまった。

仕方なく入ると、そこには誰も居なかった。


「はあ」


明人はため息を吐く。


「本当にどういうつもりだよ。

 呼んでおいて、向こうが先に待ってないとか」


そう呟いた直後、後ろの扉が開いて三人入って来た。

実技の藤村教官と、いつぞやの集会で話をしてた男(たしか薬袋とかいう名前だった)。

そして最後の一人は、半年前に大学で会ったあの男だった。


「やあ」


半年ぶりに会ったそいつは、手を振って近付いて来た。


「半年ぶりだったかな。

 久しぶり。ゴウカ・オスクだ」


「彼は異世界の人間だ」


そう付け加えたのは、藤村。


「そ。

 で、こちらはもう知ってるだろうけど、藤村さんと薬袋さんだ」


そうゴウカは残り二人を紹介する。


「東雲明人君」


薬袋は明人に声をかける。


「残念ながら、君は二次選考では不合格だったわけだが」


「……はい」


(知ってるよ。わざわざ確認すんな。へこむだろ)


「今回、君には特別に出世コースへの切符を掴む機会を与えようと思う」


「はあ」


(さっき会議室で聞かされた内容だし、さっさと本題に入ってくんないかな)


明人は適当に相槌を打つ。


「何だ。嬉しくないのか」


「いや、そういう訳じゃ。

 それより、何すれば良いかを教えて貰えると有難いんですが」


「そうか」


そう言って、薬袋は、部屋の中央を指さした。


「あれが何だか分かるか」


 彼の指す先をじっと見て、明人は答える。


「……魔法陣か何かですか?」


「そうだ」


そして彼は明人に向き直る。


「君にはあれを使って召喚魔法を使って貰う」


「は?」


「この男が、一度向こうの様子を見て来た方が良いとか言い出したんだ」


と、藤村がゴウカを親指で指す。


「時期尚早ではないか、と反対したのだが……」


「で、誰かを派遣することになったんだけど、今は誰も手が離せないだよね。

 それで、君に行って貰おうかってなったんだよね」


「はあ」


「ま、そういう訳で、君にもいい機会になるんだし、是非協力してほしいってこと」


「それは良いですけど、何で召喚魔法」


「細かいことは後で説明するから、

 成功したら二階の第一会議室まで来て。

 やり方はこの紙に書いてあるから。

 じゃ、こっちは会議あるんで」


そう言って、三人は修練場を後にした。


「あのー。せめてもう少し位説明してくれても良いんじゃ……」


だが、それは彼らに届くことは無い。


「はああ」


明人はまた大きなため息を吐く。


「やるしかないか」


(せめて、可愛い娘か凄いカッコ良いの出ないかな。

 期待はしないけど)


部屋の中央に描かれた魔法陣とやらに向かう。


「で、どうすんだっけ?」


そう言って、手の中の紙を見る。


「えっと、何?

 『下の呪文を唱えろ。以上』?

 何だそれ。全然説明になってねえ」


(まあ良いか。とりあえずやってみよう)


下にある魔法陣をちらりと見てから手元の紙に目を移し、

明人はそこに書かれた呪文を読み上げる。


「イー・イス・レ・カイン。イー・イス・ロ・ザイン」


息を再び吸って続ける。


「アゲ・ゼロ・イス・ジョス。

 コメ・ジュ・フェア・イー・アゲ・メスラ」


そして、最後に大きく唱えた。


「コンクレ・アッペ・ヘア・アズ・エ・エア!」


そして、魔法陣は輝き、修練場はそこから発せられる光に飲み込まれた。


(まさか、本当に成功したのか?)


その光も次第に収まってくる。

明人は恐る恐る目を開けた。


そこに居たのはー




「あ、当たりだ」




現れたのは、ごく普通の、そこそこ可愛い娘だった。

少々変わった服装と髪の色をしていたが、

まあ、それは異世界から来たということで良いのだろう。


(成功したみたいだし、後で報告しに行くか)


と考えたところで、


「あー眩しかった!」


少女は目を開け、軽く周囲を見渡す。

そして、一通り観察したところで、じっと明人を見た。


「えーっと、あんたが呼び出したの?」


「そうだけど?」


すると、少女はにやっと笑って彼を指さし、こう言い放った。


「私はカレン・ノーシャ。

 未来の大魔術師よ。

 私があなたのマスターになったことを光栄に思いなさい!」


(は?)


明人は一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった。


(いや、待て待て待て待て!主人?彼女が?俺の?)


当然、彼は混乱した。


(召喚魔法って、使い魔とかそういうの呼び出すもんじゃないの?)


「待て。お前の方が主?

 え?俺じゃなくて?」


考えても埒が明かないので、疑問を直接ぶつけてみた。

すると、


「はあ?」


手を腰に当て、何を寝ぼけたことを、とでも言うようにカレンは答える。


「あなたが呼び出したんでしょう?

 召喚魔法を使って、マスターを。

 それでこの私が引き当てられたんじゃない」


(召喚魔法で使い魔じゃなく、主人を呼び出す?

 そんなことが……)


だが、彼はそこで気付いた。


(そう言や、召喚魔法とは言われたけど、

 具体的に何を呼び出すかまでは言われてなかったような…………

 え?でもそれもう、詐欺だろ)


「何?私何かおかしい?」


(いや。確かに、こっちの常識から考えると十分おかしな話なんだが…………)


「とにかく、私はあなたに呼ばれたあなたのマスターなの。

 で、これから契約を結ぶんでしょ」


そう言って、カレンは手を前に出す。


「ほら、あんたも手出しなさいよ」


言われるまま、明人は右手を差し出す。

その手を彼女は取り、


「オン!」


そう呟いた。

バチッ

そんな、電気が走ったような感覚に、明人は驚いて手を引っ込めた。

「痛った!何だ今の」


「契約の儀式よ。こんなのだとは知らなかったけど。

 まあ、いいわ。これで晴れて、あなたは私の下僕……じゃなかった、従者になったの。

 今後は、私に仕えることになるから、よろしく」


(…………マジか…………)


明人は現状が信じられなかった。


(まさか二次選考落ちて、その後チャンスあげるからとか言われて、

 使い魔どころか変な娘召喚して主従契約結ばされるとは……。

 しかも、向こうが主人とか…………)


「それで、あんたの名前なんだけど

 ……って、こんな時間?

 ヤバッ。バイト戻んなきゃ!

 それじゃあ、また後で?」


そう言って、彼女は魔法陣を足元に展開し、消えてしまった。


(バイトって……えー)


明人は自分の右手の甲を見る。

そこには、タトゥーでも入れたかのように、変な模様が描かれていた。


(銭湯とかもう行けねえな)


「はあ」


(これからどうなるんだ、俺の人生)


明人はため息と共に、天井を仰いだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ