裏切り
疑問は無かった。自分のこれまでやってきた事に。
いやっあえて疑問を持つ事はしなかった。
民に重税を課して搾取している貴族や真っ当に生きている人を騙し、利益を貪る商人から盗みを行い貧しい家に分け与えているのは、正しい行いだと思った。
俺が行為は間違っていない事を証明するかの様に、盗みを働いている最中にへまを犯し、衛兵に追われている最中に何も聞かないで匿ってくれる奴もいた。
そして徐々にだが俺の行為に理解を示し支援してくれる奴も出来た。
時には見知らぬ子供や大人から感謝される事もあり、俺は得意になっていたのかも知れない。
「俺は正しいんだ! 俺は皆の希望なんだ!」と。
・・・その日が来るまでは。
ある日森から狩りを終えてねぐらがある村に戻ってみると広場がざわついていた。
不審に思い近づいてみると立て看板が立っており、その中央に俺の人相書きに金額が付いた紙が張り付いていた。
懸賞金を掛けられていた。
金額は大の大人が一生遊んで暮らせる金額だった。
だがあの時の俺は村の皆を信じていた。
こんなに村の為に尽くしてるんだ。大丈夫と。
そして馴染みの酒場で酒を頼み飲んだ後、俺の義賊家業を支援してくれている親友と、明日盗みに入る貴族の相談をし、家に帰り備えた。
決行の日の夜。
貴族の金庫からあらかた金目の物を盗み、俺は村はずれの街道まで来ていた。
ここで友人と落ち合い盗んだ物を受け渡す予定になっていた。
だがそこには友人はおらず、武装した大勢の傭兵に俺は囲まれた。
「こっ! これは!?」
「残念だったな兄ちゃん。お遊びはこれまでだ。」
右目に眼帯を付けた大柄な傭兵に睨まれた瞬間、気が付けば地面に前のめりに倒れていた。
胸の辺りに刺すような激痛が走る。切られたんだ!
そう思った時に次浮かんだ疑問は何故? だった。ここに来る事はあいつしか知らない筈なのに。
この期に及んでも俺はまだ親友を信じていた。
信じていたかった。
「ヴァルハラに行けるかわからねぇけど、最後に教えておいてやるよ。」
「お前を売ったのはお前の大事な親友様だ!」
そう言われた瞬間すぐには信じられなかった。
あいつとは生まれてからずっとの付き合いだし仲間を、ましては親友の俺を売るわけが無い!
「嘘を付くな! あいつはそんな奴じゃない!」
俺は激痛を抑え、頭を足蹴にされながらも眼帯の傭兵に言った。
「嘘じゃねえよ。その証拠にあいつはお前の盗みの手口から、今までどれくらいの家や商人から盗んだか洗いざらいしゃべってくれたよ。金をやったら大層喜んでいたな~。いい友達をもったな、おまえ」
「そんなっ・・・そんなっ・・・バカなっ!!! あれだけ村の為に一緒に頑張ろうと語り合ったのに。金の為に俺を売ったのか!」
「ああ! 遊んで暮らせるってはしゃいでたぜ! 所詮この世で信じられるのは己と、金のみよ」
眼帯の傭兵が笑みを浮かべながら答える。
俺は自分の命が無くなる事よりも、裏切られた絶望が体に広がっていった。
「話はこんくらいだな。俺も暇じゃないんでな。さっさと仕事させてもらう。じゃあな兄ちゃん。」
傭兵はそう言うと、剣を逆手に持ち替え俺の体に突き立てる。
瞬間、包み込む様な温かい光に包まれた。