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4 バンドというものとの接触

「ハルさん電話ですよ」


 翌々日の夕方である。


「…はいもしもし… ああ、カラセさん」


 一応彼は年上らしかったので、そう呼んでみる。


『参っちゃったよー。オレあんたの名前忘れちゃってて』

「それでよく通じたわねえ」

『お姉さんの方、って言ったんだけど』

「…それで、どうしたの?」

『やだなー、こないだ言ったじゃない。バンドの練習の』

「…ああ」


 そう言えばそうだった。女の子が来るとどうの、という発言にちょいとカンに障るものがあったんで、意識的に記憶を逸らしていたようである。


「いつ?」

『明日の夕方、5時にあのスタジオ予約とってあるからさ、おいでよ。2時間たっぷりあるし』

「可愛げのない女二人が行ったところでつまんないんじゃないの?」


 少し意地悪を言ってみる。


『いやいやそんな』

「…冗談。うちの女の子はキョーミありそうだからね、行くよ」

『女の子、って、あんたがまほちゃんって呼んでいるって?』

「…そうだけど」

『妹さんのマホちゃんはどうしたの?』

「…事情があって、しばらくいないの」


 嘘ではない。


『…ふーん… じゃ、オレもあの子はまほちゃんって呼んでいいのね?』

「手え出したら怒るわよ」

『…わかりました。ところでおねーさん、名は何て言ったっけ』

「波留子よ」

『…ああそう言えば、ハルさんって呼んでたね。じゃ、明日ね』


 受話器を置いてから、ハルは半ばしまった、と思った。

 もともとハルは彼のやっているバンド自体には興味はない。ただ、カラセは「マホ」を知っている。それも自分の知らない範囲の彼女を。そしてそれを自分は知りたがっている。「まほ」が興味を持っていることは本当だが、口実に過ぎないことも知ってはいる。


「…どうしたんですかハルさん… 顔色良くない」


 掃除機を持ったまま、マリコさんは受話器のそばでぼうっとしているハルに言った。ハルは考え込んでしまっていたことに気がつくと、


「マリコさん… そう言えば最近ユーキ君元気?」

「元気なようですよ」


 表情一つ変えずにマリコさんは言う。


「会っていない?」

「私たちはそういう関係って訳じゃあないですよ」

「…!」


 マリコさんは掃除機を階段下の物置に入れると、お茶いれましょうか、とハルに訊ねた。


「廊下でする話じゃあないでしょう?」


 確かにそうである。


「寝たりはするんですがね」


 淡々と、マリコさんは言う。


「でも、私たちは友達なんですよ」

「いつから?」

「あの雷の日ぐらいですか。まださほど経ってはいませんね」

「好きなの?」

「あなたが彼に思う程度には、好きですよ。でも恋愛じゃあない。それは彼だって同じだし、私たちはそれ以上のことはする気もないし、望みもしない」

「だからと言って」

「寝る関係にならなくても良かったんじゃなかったって?」


 次の瞬間、ハルはギクリとした。マリコさんがにっこりと笑ったのだ。目以外の部分に、まんべんなく、笑みをたたえたその表情は、…怖かった。これまでになく怖いものだった。

 マリコさんという人は感情がない訳ではない。出さないだけなのだ、ということを時々鮮やかに思い出させる。確かに神経が太いのかもしれない。だが、それだけではない。非常に強固な意志でガードしているのだ。それも、身近な人間に特に気付かせないようにするために。


「どうしてでしょうね?」

「…あたしに訊くの? あたしが答えられる訳ないじゃない!」

「でも私たちの関係の中心はあなたなんですから」

「はい?」


 ハルは困惑した表情になる。どう言ったものか、と目の前の茶を飲み干す。ところが焦った喉に暖かい飲物は、ただ乾きを誘うだけだった。バランスを崩して、思わず咳込んでしまう。大丈夫ですか、とマリコさんは慌てて背中をさする。


「…大丈夫…それより、コトバの意味が判らない! どういう意味なの? あたしが真ん中にあるって」

「判りません?」

「判らない」

「私たちは、あなたのことを、同じくらいに好きなんですよ」


 先程の笑顔のままで、言う。ハルは一瞬息を呑み、その拍子で再び激しくむせた。今度はマリコさんは手を掛けなかった。…胸を押さえながら、ようやくそれが治まったころに、マリコさんはそれまでの笑みを消した。


「…私たちは、ずっとその状態を続けたかったんですよ。あなたと、私と、彼と。私と彼があなたを好きで、あなたのために何かをして暮らしていくという構図。バランスのとれた三角形」


 マリコさんは軽く目を伏せる。


「でもそれは終わったんです」

「何故」

「彼女がいます」


 まほのことだった。


「私もユーキ君も、別に彼女のことは嫌いじゃあありません。でも滅茶苦茶好きという訳でもない。それは判るでしょう?」

「…」

「ただ、あなたは彼女のことが妙に好きでしょう?」

「…そうね」


 否定はできない。よく判らないけれど。


「バランスは、崩れたんです。もう」

「それとマリコさんとユーキ君がそういう仲になるのとどう関係があるってのよ」

「判りません?」

「判らないわよ」


 言わなくては、判らないのよ。ハルは思った。マリコさんは表情からも行動からも、自分にその意味を悟らせないんだから。


「…もともとバランスが崩れる気配は、彼女を拾った時点から感じてはいました。でも、私たちはそれでもしばらくは目をつぶっていたんです。バランスが崩れはじめたことから」


 だけど、雷が鳴った。


「いつまでも目をつぶっている訳にはいかないんですよ」


 だから、自分達の間で無意識に張っていた結界を破ることにした。言い出したのは彼。だけど自分だってそう言ったかもしれない。


「きっとあなたはもっと先へ行く。それもたぶん彼とは関係ない世界へ。私はあなたについていくことはできるけれど、彼はできない。彼には彼のしたいことがあるし、あなたの為に彼は自分を変えることはできない」

「関係ない世界?」

「あなたはジャズ向きではない。クラシックを一緒にしたい相手はもういない。だったら彼と同じ方向は向けないでしょう?」


 …退屈な、退屈な、とても優しい世界…


「だからと言って私にはそれがどの方向か、なんて言えませんけれど」


 マリコさんは伏せていた目を開く。


「でもあの子の居る方向でしょう?」



「どうしたの?」


 え、とハルは問い返す。


「どうしたのって?」

「…」


 まほはハルの手にあるアイスクリームのカップを指す。あ、とハルは声を立てる。半ば以上溶けていた。


「うーむ」

「今日変だよお、ハルさん」

「そうかなあ」

「絶対そお」


 そうかもしれない、とハルは思う。マリコさんの言葉がどうしても頭から離れない。横で食べ尽くしたアイスクリームのカップを何処に捨てようかときょろきょろしている彼女。そして自分はその彼女と同じ方向を向こうとしているのだろうか。

 いらいらする。いや、いらいらと言うより、もやもやだ。

 はっきり言って、ハルは自分が何が欲しいのか、どっちの方向へ行きたいのか、見えないのだ。見えないからとにかく動きたい。だが動いても、なかなかはっきりしたものが見えてこない。もどかしい。溶けかかったアイスはプラスチックの薄いスプーンじゃすくいにくい。面倒くさい。ぐっとハルはカップを口につけて、すずっとすすった。

 はい? と横ではまほがどうしたんだ、という表情で見ている。さすがにいきなり冷たいものを飲んだので、やや喉がこそばゆいが、手の中のカップが空っぽになったのには満足した。


「ハルさあん」

「んー…」


 せっかくの「お出かけ」で、しかも5時には約束がある。その前からこんな調子じゃあ仕方ない。少なくとも、態度でまほに当たることはないのだ。


「調子よくないなら、今日別にいいからさあ」

「いーや」


 ハルは苦笑しながら頭を振る。まほはベンチに座るハルの前に立ちはだかる様にして、困った表情になっている。暗に「あたしのせい?」と問いたそうな目をして。

 違うよ、と言ってやりたい。それはあんたのせいじゃないんだよ、と。

 でもまほは言葉にしてそれを問いかけている訳ではない。なら言葉でいくら言ったって本当に通じはしない。せいぜいがところ一番大事な一言だけ。


「ごめんね」


 そう言ってハルはまほの頭をくしゃ、となでる。そして気がつく。彼女は、自分を見ている。視線を飛ばしてはいない。それまで、いくら「見て」いるようでも、ほんのわずか、焦点を逸らしているようだった彼女の視線がまっすぐ。

 目が、離せない。彼女の目はひどく深かった。あまり大きくはないが、形はいい。やや黒目がちで、そしていつもやや涙がたまっているようで、しかも底無しに深い。


 …こんな目だったっけ。


 どれくらいそうしていただろうか。先にその視線を外したのはまほの方だった。貸して、と空いたカップをハルの手から取ると、ようやく視界に入ったくずばこの方へと駆け出して行く。

 どうしたって言うのよ。まほはまほで、ひどく焦り出す胸を、走る事で鎮めるしかなかった。最も、いつのまにか自分がハルに対して視線を外さなくなったことなど、まほは気付いてはいない。それもまた、無意識のものだった。

 そうして自分のことも、相手のこともこういう言葉ひとつで片付けたくなる。自分のことは棚に上げて。


「今日は特にハルさんおかしいよ」

「…うーん… そうかもねえ」

「もうそろそろ時間じゃない?」


 手首を外側に返して時計を見る。ああ、そうだね、とハルは答える。



 防音の重いドアを開けたら、どかどかどか、と一気に音が溢れ出してきた。まほはハルの所に昼間用がある時にはいつもそんな感じだったから慣れていたが、ハルは自分を自分で訪ねる趣味はないから、なかなかその勢いにはびっくりした。低音がうなっている。

 ずいぶん速いベードラだな、と彼女は思う。少なくとも片足ではこうは踏めない。バスドラムのヘッドを見る。確かに黒い真ん中の部分がわずかに違った場所で交互に震えている。


「あ、来たね」


 空気が一瞬変わる感覚に、カラセは気付いたのか、にこにこしながら二人を出迎えた。


「あ、言ってた子達?」


 とドラマーが訊く。


「そお。ハルさんとまほちゃん」

「前言ってたマホちゃん?」


 色はついてないが、長い髪を後ろで無造作にくくったベーシストが訊ねる。


「や、あの子とは別…でもハルさんはそのお姉さんで、あの子と同じ、ドラマーだよ」

「ひゅう」


 手を止めて、バンダナを頭に巻いた、大柄なドラマーがハルの方を見る。


「じゃああんたは?」


と、やや不機嫌そうに目を細める、楽器は手にしていない、肩よりやや長めの髪の細身の男がまほに声を掛ける。まほはびくっとしてハルの方に寄る。ハルも何となくその男には嫌なものを感じた。そしてまほの代わりに、


「この子は別に楽器はしてないけど。そちらもそうでしょ?」

「ふーん… じゃあまあゆっくりしてって」


 そう言ってヴォーカルらしいその細身の男は、二人には興味なさそうにベーシストの所へ行って、何やらこそこそと話を始める。


「『NO-LIMIT』って言うんだけどさ、こいつはドラムのヤナイ。あっちにいるのがヴォーカルのユキタカとベースのエジマ。うちは4人編成ね」

「ギター一本ってタイプ」

「そお。ツインギターってのもいいんだけど、いまいち性に合う奴がいなくって。あ、んでもって、ハルさん、お宅の妹のマホちゃんは、こいつの弟子だったの」


と、カラセはヤナイを指す。弟子ってのはおおげさだよ、とヤナイは低い声で言う。大柄だが、優しそうな小さい目をしている。象みたいだな、とハルは内心評した。


「妹がどーも御世話に」

「いやいやこちらも楽しかったし… 最近彼女見なくなったけど」

「用事ができて、しばらく帰ってこれなくなったんですよ。あの子、多少なりとも上手くなりました?」

「筋良かったスよ」

「…ま、そうゆう話はいーからさ、演奏聴いてってよ」


 カラセはそこから話を逸らした。ハルがあまりその方向に話を持って行って欲しくないようなのは彼でも判る。彼はずっとハルの態度に不自然さを感じていた。

 いきなり連絡が途絶えた。だってあの時は翌週の予約だって入れてあった。なのに、あの律儀な子がそれをすっぽかした。あの時はヤナイが待ちぼうけ食わされた。そして注文した楽器も… 代金は払ってあったけど、すっぽかしたままで。その楽器は彼女の姉がやっている。

 変だ。変に決まっている。それに姉であるハルはあまり妹の話を… 聞きたそうに喋ってはいるが、聞きたくなさそうな感触も受ける。

 カラセはギターの音を合わせながら、ドーナツ椅子にちょこんと座っている「妹ではない」まほの方を横目で見る。同じ名。身体付きは似ているが、顔だの声だの、第一印象だの、全く似ていない。なのにハルはそれを妹の名で呼ぶ。

 何なんだ。カラセは指慣らしに、よく弾くコピー曲のイントロの部分だけカッティングしてみる。女の子二人はかなりくっつき気味になって、あっちを見、こっちを見、しながら音程を持たない声で話し合っている。


「さて、やるぜえ」

「どれから行く?」


 ユキタカが訊ねる。


「オレちょっとアレ不安。時計」


とエジマ。


「ああ時計ね」


 カラセはじゃかじゃかと音を出す。時間のことではなくて、曲のタイトルのことだとハルはようやく気付く。


「んじゃアレ、一度通してみるか。どっか変?」

「あのサビからギターソロへつなぐ部分の、降りてくところのリズムがさ」


 こうだろ、とエジマはベースラインをどどどど、と示す。うん、とカラセとヤナイもうなづく。


「だけどさ、オレこの方がいいと思うんだけど」


 そう言ってエジマはほんの少し違うラインを示す。


「うーん… よく判んねぇな… あそこからやるか。サビのとこ」

「オレあそこからじゃきついって」


とユキタカは顔をしかめる。


「じゃその4小節前から」

「OK」


 カウント4、でインストが4小節流れた。カラセのギター音はあまり歪んでいない。どちらかと言うと、良く伸びる系統の音だった。そしてヴォーカルが入る。その入る直前に、ユキタカが思いっきり息を吸い込んでいるのがハルにもまほにも判る。かなり彼にとってはぎりぎりの音域らしい。

 サビを歌い終わってインスト。単調なリズムでベースが降りていく。あ、こうゆう感じって好きだな、とまほは思う。


「…と、こうだったよな」

「うん」

「そこんとこを… ってやりたいの」

「んじゃもう一度」


 同じ部分からもう一度、始まる。またあのやや苦しそうな声が聞こえる。


「うーん… オレ前の方がいい」

「オレも」

「前の方がすんなり曲がつながるよ」


 だろうな、とハルも思った。サビの様子からすると、あんまり凝ったラインで行くより、あっさりと流してしまうほうが耳障りがいい。歌メロとギターのラインはそう悪くない。馴染み易いメロディだ。ただ、一歩間違うと「歌謡曲」だったが。

 そんな調子で、三曲を二時間かけて何度も繰り返した。



「どおだった?」


とカラセとヤナイは、解散後近くの茶店でハルとまほを前にして訊く。


「どおだったって…」

「良かった?」


 ハルとまほは顔を見合わせて、


「曲は… 好きだなあ」

「うん」

「結構分かりやすいし」

「だあね。こんなんでしょ」


 まほはサビの部分をさらっと流した。ヤナイはほお、と言う顔になる。


「いい声だねえ」

「…」


 まほはむっとする。カラセは駄目駄目、と隣に座る友人をつつく。彼女が誉められるのが苦手というのは、この間でよく判ったから。


「何でだよ? だっていい声じゃん。オレそおいうのは嘘つかんのよ?」


 それはオレも同じだけどさ、とカラセも言いたかったが、


「正直に言いすぎるってよく怒られたけれどさ、おかげでハルさんの妹も最初はずいぶん泣いたよ?」

「へ?」


 ハルはいきなりその話題が出たので面食らう。


「最初なんて、誰だって下手じゃん」


 あ、ドラムのことか、と納得する。


「だけど負けるの嫌いだったからさあ、出来るまでやるのよ、あの子は」

「でしょうね」

「で、誉めると『だから言っただろ』ともの凄く得意気な顔になるのが良かったね」

「そうだったね」


 その点についてはカラセも同意する。だが彼はマホの話は打ち切りたかった。だが、ヤナイはそんなカラセの気持ちには関わらず続ける。


「いつぐらいからあの子やってたの? ドラム」

「去年の夏くらいからかな」

「…へえ」

「それで秋の終わりくらいには結構上手くなってたよ。熱心だったからね」


 よくそんな時間あったものだ、とハルは思う。まほは何のことかよく判らない。ただハルの表情を追っていた。自分と同じ名の、おそらくは自分が身代わりにされているだろう彼女の本当の妹。


「どうしてあの子ドラム始めたんだろ…」

「あれ、知らない? お姉さんなのに?」

「うちはプライヴェイトって奴に異常に厳しかったの」

「ふーん」


 ヤナイは太い眉を寄せる。そして吸っていいか、と断ると煙草に火を点けた。横を向いて煙を吐き出すと、


「何か知らないけれど、時々苦しそうに叩いてたよ」

「苦しそう?」

「見た感じだからさ、どうにも言えないけれど」


 でかい手だ、とまほはヤナイにふと視線を移した時思った。


「そう突っ込んでいちいち聞く? 本人が言いたがらないこと」

「…」

「だからこれはオレの見た感じ。結構いつも細いスティックでぱらぱら、タム回しの難しいところとか聞きに来たりしていたんだけど、時々、何も言わずにただスタジオ借りて、太いスティックでひたすら8ビートの基本リズムを延々一時間叩いているようなことがよくあったから」

「あの子が」


 それでか、とハルは最初に「おまけ」で来たスティックが細いの太いの両方だったことを思い出す。


「…そう」

「…あのさあ、ここでその話はもうよしとこうよ。ねえまほちゃん? 他の曲も歌える?」

「うーん… うろ覚え」

「オレまほちゃんの声好きだけどなあ」

「…」

「だーかーらー、んー… 時々オレとヤナイだけで合わせるような日があるんだけど、そんときにちょっと歌ってみない?」

「え?」


 今度はハルの方が問い返す。


「何で?」

「うーん… 時々思うんだけどさ…うちの曲って、曲はいいって言う人多いんだけど」


 口ごもるカラセにヤナイが引き継ぐ。


「もしかしたら、女の子の声の方が合うような曲なのかもしれないかなって思う時もある訳よ。もちろん、んなことユキタカには言えないけどさ」

「別にあいつが悪いって訳じゃあないのよ? ただ、合ってない曲作っているんだったら、オレも方針変えなきゃならないでしょ」

「合う曲を作るの?」


 ハルは訊ねる。そう、とカラセはうなづく。そういうものだろうか、とハルは首をかしげる。


「どうする? まほちゃん」

「…あたしはいいけど」

「そう言ってるけどね」

「ありがたい」


 顔一杯に笑みをたたえ、ここはオレがおごるね、とカラセは伝票を掴んだ。基本的にハルはおごられるのは嫌いだが、こういう際ならまあいいか、と思った。

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