ボクッ娘は弓使い
勇者隊ガンバレヨの中編です。魔法少女が出てきたり、蜘蛛女が出てきたりと、燃えと萌えが重なり、良い展開になってきてるのではないかと思っています……えっ?
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
■3話 ボクッ娘は弓使い
僕とギブアは剣道場にいた。
イブフェアリに、勇者隊の事情を聞く為だ。ギブアは畳に座り、真面目に聞いてはいる。
「という訳なの……分かる?」
「勇者の力が聖石に封じ込められていて……生まれ変わりである、私たちが使えるということ? それはあと、何人いるの?」
「ホワイトハウス襲撃事件の時に感じたんだけど、何人かは、敵の手に落ちている。あと2人……この学校の何処かにいるはずなの」
「それが敵の手に渡ったら……」
イブフェアリが僕の肩に座る。
「部活魔にされてしまう。もしかしたら私たちより、先に勧誘をしてくるかもしれない」
「そうなる前に見つけないとだね!」
「じゃあ、すぐにでも見つけないと……アテはあるの?」
ギブアが、イブフェアリの頭をなでなでする。
「イブフェアリセンサーの感度を上げれば、今日にでも見つけられるかも」
そう言うと、イブフェアリは目を閉じ、集中する。
すると、3つの聖石が出現し、宙に浮かび上がる。
(私は男の子でも、子供でもない! 何でみんなはそれが分からないの!)
何処からか、声が聞こえる。いや、声というよりも、頭の中に入ってくるような声だ。
「イブフェアリ、これはなに?」
「魔法の一種みたいなものかな。聖石を使えば、テレパシーのように相手が強く思っている事を聞けるの。これは弓士ガンバレヨだね」
緑の聖石の輝きが強くなっていく。
「もしかして……近くに?」
「う~ん、ブレイブ、このへんで人が集まる場所はある?」
「剣道場の近くだと、アーチェリー部が近いよ」、
「弓士だけに……アーチェリーとは……よっぽど弓が好き」
「ついてきてブレイブ、ギブア、こっちだよ」
イブフェアリが指を鳴らして、聖石を消し去ると、開いた小窓から出ていってしまう。
「待ってよイブフェアリ、僕達はその窓には入れないのに……」
「追うしかない」
「うん」
アーチェリー場は、剣道場の隣にある施設だ。
施設内は矢が当たらないように、工夫がされており、屋根付きの屋内で行われる。また、的場も、隣の人にも矢や弓の弦が当たらないよう、ネットの囲いがある。
アーチェリー場は窓から見れるようになっており、ベンチも設けられている。
施設内ではイブフェアリが、羽虫のように張り付いて、中の様子を伺っているようだ。
「イブフェアリ、どうしたの? そんな所に張り付いて……」
「しっ!」
イブフェアリが指に口を添え、入ってくる僕とギブアに黙るように、ジェスチャーで伝える。
窓から覗くと、どうやら小さな男の子が、中のアーチェリー部員の女子と、揉めているようだった。しかし、男の子の手には、体格に似合わない大きな弓を持っている。仮入部で、入ってきた中学生だろうか?
「だからフレンズ、その大きな弓は体格にあってないって」
「いいじゃないか! ボクはこの大きな弓を使えたいんだ! どんな弓を使おうと、勝手じゃないか!」
どうやらフレンズという小さな男の子と、思われた人物は、どうやらアーチェリー部員で、同じ高校生らしい。
「見栄を張って、フレンズは可愛いいね」
アーチェリー部員の女子達が、フレンズの頭を撫で回していく。
「やめろ! ボクは子供じゃないんだ!」
フレンズが逃げるように、的場から出てくる。
僕達は見つからないように、ベンチの影に隠れる。
「おい、フレンズ。矢が刺さったまんまだぞ、ちゃんと片しとけよ」
男子のアーチェリー部員が、しかめっ面でフレンズに歩み寄る。
「ごめん、すぐ片付けるからさ」
的場に戻ろうとするフレンズ。だが、的場には、からかってくる女子部員達がいる。楽しそうに話している彼女達は、的場から出てきそうにない。
躊躇しているフレンズに、男子アーチェリー部員はため息をつく
「いいよ、俺が片付けておくから」
「ごめん……ありがとう」
照れながら頭をかく男子部員、
「代わりにさ、数学の宿題のノートを見せてくれよ」
「自分でやりな。丸写しはダメだって……教えるなら良いけどさ」
「そうだよな……じゃあ、教えてくれよ」
少し困り顔のフレンズ、教えるのには抵抗がないようだ。
「何処でやるのさ? 図書室は閉館だし、教室はもうカギが閉まってるんだけどな」
「フレンズ、お前の家で……できないかな? 俺の家でもいいか?」
「ボクの家で!? 2人きりで!? ボクを誰だと思って、言ってるのさ!?」
驚きとも、怒っているような顔にも見えた。家でやりたくない理由でもあるのだろうか?
「えっ? 何で怒ってるんだ!? もしかして、女子と何かあったか?」
「別に何でもないけどさ……」
「じゃあ、気晴らしに何処かいくか? 映画のチケットが2枚あるんだ」
男子部員が、フレンズに映画のチケットを見せる。どうやら、ホラー映画のチケットのようだが……
「ボクとホラー映画って、何か意図があるのか!」
「何を怒ってんだ?」
「ボクは女の子だぞ! カップルでもないのに、そんないちゃいちゃとホラー映画なんて、見れる訳ないじゃないか!」
「わりぃ、お前とだと、女の子だって感覚がなくてさ」
頭をかく男子部員に、フレンズは顔を真っ赤にし、頬を膨らませる。
なんとフレンズは、見た目と違って女の子だった。
「もう! ボクは、帰らさせてもらう!」
フレンズは逃げるように駆けたかと思うと、アーチェリー場から出ていってしまう。
「今回のガンバレヨは、勧誘するには手ごわそうだねブレイブ」
「やっぱり僕がやるんだね……」
僕がため息をつくと、ギブアが肩を叩く。
「大丈夫……今回は私もいる」
どうしたのだろう? ギブアの目が少し怖い。
「本当に大丈夫なの? ギブアは誰に対してもいろいろ言うタイプだから、不安なんだけど」
「大丈夫……ブレイブがフレンズを勧誘するはめになったら……この泥棒猫めと! 教室でこっそりと、見ていたりしないはずなの」
一瞬、ギブアの目が睨むような目になったのは、気のせいだろうか?
「いや……不安なんだけど」
「逆にブレイブがあの女に手を出すなら……空の鍋を焼く事に、なるかもしれないの」
「じゃあ、ギブアに頼むよ」
「……任せとけなの」
「いや、ここはブレイブの出番だよ」
イブフェアリが僕の肩を押す。
「えっ? でも、女の子同士の方が良くないかな?」
「ここは男である、ブレイブの見せどころだよ。頑張らないと!」
睨むギブアを無視し、イブフェアリが言う。
「分かった……とりあえず僕が様子を見てくるよ」
様子を見るぐらないなら、大丈夫。
「もう……ギブアの好きにすればいい!」
やっぱりギブアが不機嫌だ。友達がとられるのではないかと、嫉妬しているのだろうか?
「ごめん、行ってくる……でも、今は最初に友達になった、ギブアが一番だと思ってるから」
ギブアがなぜか頬を染める。
「うん……分かった……待ってる」
アーチェリー場を出ると、中庭のベンチでフレンズが座っていた。うつむいて、だいぶ落ち込んでいる。
ここは、僕が励ましてやらないと……
「そんな所で何をやってるんだぇ?」
聞き覚えのある声に、僕はビクリと身体を震わす。
近づいて来たのは、長身な女性だった。
黒髪に特徴的なアホ毛、背丈はフレンズより高く、スレンダーな身体で、まるでモデルのようだ。年齢は……30代くらいだろうか?
「貴方は……先生?」
絵の具で汚れた、ベージュのエプロンから、恐らくは美術部の顧問の先生だろうか?
「あたしゃはこれでも生徒だよ!」
「ご、ごめんなさい!?」
本当に申し訳なさそうに、謝るフレンズに、大人びた女子生徒はため息をつく。
「いいよ、慣れてるからさ。あたしゃ、3年の美術部の部長をやってる、ラミア・サーペントって、言うんだ? あんたは?」
「ボクは2年のフレンズ・マインド……です。アーチェリー部です」
「アーチェリー部かぇ。あたしゃ、ここで絵を描いてるけどね」
ラミアが、ベンチの上に立てかけたキャンバスを指さす。
「邪魔でしたか? すぐにでもここから……」
「いいよ。花を描いていただけだからねぇ。それより、落ち込んだ顔して、何かあったのかぇ?」
「アーチェリー部の人とケンカしてしまって……みんなボクの事を男の子だ、子供だって言ってそれで……」
「そう言えば、フレンズっていうのは、男の人のような名前だねぇ。親がつけたのかぇ」
「父親が最初に決めていた名前らしいです。お腹にいる時に、男の子だって勝手に勘違いしてたみたいで……それにボクは三男で、長男、次男とよく遊んでいたし、周りも男の
友達だったから、今もそれは変わらない。別に男友達は、嫌いじゃないんだけれどね。たまには女の子として、見てくれないかなって……」
うつむくフレンズに、ラミアが口を開く。
「あたしゃね。いつもおばさんに見られて大変だよ。こーいう体型だからかねぇ。まあ、私にも長女や、次女がいてね。姉貴達の影響もあるのかもねぇ」
そう言って、胸ポケットから、タバコのような箱から、白い棒のようなものを咥える。
「タバコですか?」
「シガレットラムネさ。これにはまっていてね。食うかぇ?」
ラミアはタバコのような箱から、1本のシガレットラムネを差し出す。
「いただきます」
差し出された、シガレットラムネをフレンズも、同じように口を咥える。
ラミアが口から、シガレットラムネを口から何度か出す仕草は、タバコを吸ってるように見える。
「あーあ、気にしないでおくれよ。これで、子供の時にタバコを吸う仕草を真似していてねぇ」
こっそりと見ていたけれど、良い雰囲気で、話しかけるのは無理そうだ。けれど、もしあの生徒が部活魔だったらと考えると、フレンズの身が危ないかもしれない。
かといって、仲良くなったフレンズと、ラミアの仲を引き裂くことは、できない。それに彼女が部活魔という証拠はないのだ。
「明日も来ても良いですか?」
「ああ、いつでも大歓迎さねぇ。ここで、いつもだいたい絵を描いてるからねぇ」
笑い合うフレンズとラミア。
明日、彼女がいない時にしよう。
問題は……どう勇者隊の事をどう話すかだけれど。
「それで今日になったという訳?」
ジト目のフレンズが言う。
フレンズのクラスで、監視をする僕にギブアが言う。
「……うん」
教室のドアの隙間から、フレンズを見る僕達は、ストーカーみたいになっているだろうか? 僕達に気づいた生徒達が、不審者を見るような目である。
フレンズは小説を読んでるようで、こちらには気づいていない。話しかけるなら、今だろうか?
「いつやるの?……今でしょ! しっかりするブレイブ! 話しかけてきた部活魔の可能性があるなら、話に割り込んでもコンタクトするべきだった」
いつになく、真剣なギブア。
「アクアの時と同じで、学校の生徒が部活魔という可能性はある?」
僕は頭上に浮遊している、イブフェアリに聞く。
「う~ん。確かに魔石の反応はあるんだけど、人が多い場所だと精気が邪魔して、分からなくなってしまうからね。部活魔が近くにいれば、分かるんだけどね」
と、イブフェアリが答える。
「この駄目妖精……イブフェアリセンサーは……ポンコツというのは確定的明らか……早くも試合終了ですね」
「駄目妖精……ポンコツ……」
言われてショックだったのか、魂の抜けた人形のように、呆然とするイブフェアリ。
「何もそこまで言わなくても……」
「私は駄目妖精で、ポンコツ……ポンコツ……ポンコツ……」
ポンコツと言われて、相当ショックだったのか、青ざめた表情で呆然としている。ここまでメンタルが弱い子だったのか、イブフェアリ……
「やっぱりコミュ障のブレイブには……荷が重い……私がいく!」
そう言ってギブは、どかどかと教室に入り、フレンズの方へと向かっていく。
いくらなんでも大胆すぎるんじゃ……
「私と一緒に……勇者隊になってよ~」
いくらなんでも直球すぎるよ! 頭のおかしな人だと思われるよ!?
「え~と……勇者? 日本のアニメの勇者シリーズは、見てるけどさ」
フレンズは動揺を見せたものの、少し考えてから、笑顔で返す。
「そう……勇者シリーズは面白い……特にガオレンガーは燃える展開は好き……」
なぜかアニメの話になったが、仲良くなるという意味合いなら、これで良いかもしれないけれど。
「良いよねガオレンガー! 必殺技のガオレンナックルは、特に好きだよ!」
「私も……好きかも?」
なぜ、そこで疑問形になるの? 好きじゃなかったの!?
「えっ?」
笑顔が凍りつくフレンズ。
「私……基本、リアルロボットの機動戦士ザンダム派だから……」
そこは嘘でも、ガオレンガーの話に持っていったら、良い感じになったのに!?
「え~と、君はボクに何で話しかけたんだい?」
動揺を隠せないフレンズ。
これで、どう巻き返すつもりなのだろう。
「私はネバー・ギブア……私は只の友達が欲しい……幼気な少女よ」
「……ザンダム派なんだ……ボクはザンダムエイジが好きだけど」
「……レベル4が制作したあのザンダムは、あまり好きじゃない……なんか子供っぽいし……」
「……子供っぽい……」
沈黙が流れる。ギブアは、フレンズの禁句ワードを、言ってしまっている。
「……子供っぽい所が良いかもしれない?」
なぜか疑問形で、フォローしたけれど、大丈夫なのだろうか?
「そっかぁ……じゃあ、美少女戦士カラームーンは好き?」
「好きかも……」
また、疑問形。ギブアは話を続ける気はないのだろうか?
「じゃあ、君はカラー戦士で何が一番好き?」
「カラージュピタが好きかも……」
「ああ、ボクもジュピタは好きだよ! 特にカラーウラヌスが好き!」
逆にフレンズが気を使って、仲良くなろうとしているのだけれど、これはこれでいいのだろうか?
「ジュピタにウラヌス……? 男っぽいキャラがばかりが好き……もしかしてボクの口癖はそれが影響してる?」
また、禁句ワードを……
「アニメの影響なんかじゃないよ! ボクが何と言おうと勝手じゃないか!」
やっぱり怒らせてしまった……
戻ってくるギブアに、僕はため息をつく。
「……煽り耐性0……見た目以上に駄目な奴……」
「駄目だよ……仲間にするのに煽っちゃ駄目だよ」
「友人でも、多少の煽りは必要」
「初めて友達になる人に、煽るのは明らかにおかしいよね」
ギブアは少し考えてから……
「この……泥棒猫めと! つい、邪な感情が芽生えてしまった」
「明日は僕が勧誘するよ? 良い?」
「分かった……仕方がない」
教室にいるフレンズは、イライラした感じになってしまった。
この感じだと、勧誘は明日にした方が良いかもしれない。
次の日、僕は教室にいるフレンズに話しかける事にした。
そして……
「僕はブレイブ・ハート。僕と、友達になって欲しいんだ」
僕は、読書をしているフレンズに話しかけた。
直球だけれど、周りくどい感じよりは良いだろうか?
けれど、フレンズは、聞こえていないかのような無反応。
よく見れば、イヤホンをして、読書をしていたのに気づく。
「ごめん、よく聞こえなかったんだ」
イヤホンを外して、僕を見るフレンズ。
さっきのワードを繰り返せば、良い事なのだろうけど、次の言葉が言えず、僕は慌ててしまう。
「え~と……ぼ、僕に!? べ、勉強を教えて欲しいんです!?」
咄嗟に出た言葉だっただけに、彼女の反応が怖い。
「あーあ、そういうこと……じゃあ、放課後かな。勉強場所は図書室で良いかい?」
何を納得したのか、フレンズはそう答えた。
「あ、うん……でも、本当に良いの?」
「君はブレイブ・ハートでしょ? 先生から聞いてるよ……頭が悪い子がいるから教えてくれって、言われてたけど。基本、ボクは勉強をしたくない人に、教えたくないから……」
どーいう事だろう? そんな話は聞いてないのに……
動揺している僕に、イブフェアリが耳元にくる。
「良かったねブレイブ。彼女は秀才で、全教科、学年1位の実力なんだって」
「でも、何で彼女が僕に勉強を……?」
「ブレイブの成績を見かねて……担任の先生が教えるように言ってみたいだね」
「そこまで僕の成績が悪いってこと……」
それはそれで、ショックなのだけれど……
「じゃあ、図書室で待ってるからさ」
「うん」
そして放課後になって、僕とフレンズは、図書室で勉強する事となった。
「そこ、式が違うな」
「えと……」
「この式で解くからこうなるんだ」
「なるほど」
フレンズは僕が何度も間違えても、丁寧に優しく教えてくれた。
勉強でよく先生に、怒られてる僕にとっては、フレンズは、天使のような存在だった。
いつも苦になっていた勉強が、スムーズに進み、気づけば夕方になっていた。
「今日はありがとう。フレンズのおかげで、勉強がはかどったよ」
「理解できて良かった。もちろん明日も来るよね?」
「本当に? 明日も教えてくれるなら助かるよ」
「じゃあ、明日も図書室で」
手を振り、帰っていくフレンズ。
「うん」
フレンズに、僕は笑顔で手を振った。
う~ん……これを見せられる日が来るのかな。
僕は懐にあった、緑の聖石を見る。
理知的な彼女だ。聖石の力を信じてくれるかどうか不安だ。何しろ勇者隊ガンバレヨ自体が、不可思議な力なのだ。
「仲良くなって……説明するしかないよね」
勇者隊ガンバレヨの事ではなく、できれば違った形で仲良くなりたかった。
そして次の日。
図書質で待ち合わせしていたのだけれど、問題は起こった。
今日に限って、図書室は人で埋まっていた。
「どうしよっか? 仕方ないからボクの家で勉強するかい?」
「フレンズの家で?」
「他に何処があるのさ?」
「う~ん」
僕は言葉を濁した。
フレンズは確か、家に男の人を招くのに抵抗があったのではなかったか?
僕は断る理由も見つからず、フレンズの家に招かれる事となった。
「どうしたのさブレイブ?」
フレンズの自宅は、庭付きの普通の一軒家。
最近、友達の家にあがったことがないから、何か感動を覚えてしまう。
「友達の家にあがるの久しぶりだなって思って……」
「えっ? ブレイブって、そんなに友達いないのかい?」
「部活とかいろいろあるせいかな」
何で友達がいないんだろうって、あまり考えたことはなかった。僕にはサタンが居たから……もうケンカ別れしてしまったけれど。
「大丈夫、ボクが友達になってあげるからさ」
肩を叩かれ、励まされる。
「お邪魔します」
案内されたのは2階。
フレンズの部屋は、2階にあるようだ。
「あがって」
室内に入ると、ジャスミンの匂いが広がった。
アロマオイルを炊いていたのだろうか?
僕が鼻をひくひくさせると、フレンズがそれに気づく。
「ああ、アロマオイルにはまっていてさ。良い匂いでしょ?」
「うん」
部屋はピンクを基調とし、ぬいぐるみなども置かれている。思った以上に女の子らしい部屋だ。
特に目立つのは、両スライド式の本棚。本は百科事典に参考書、小説、各種の辞書、図鑑などがぎっしりに並べられた。驚いた事に漫画本が一つも無い。
「本棚に、だいたい勉強に必要なものは揃ってるかな」
「凄いね」
「僕は男の子とばっかり、遊んでたからね。周りは、よく思わなかった……男女関係なく、誇れる事って、何だろうって考えた。それが勉強だったんだよ」
「勉強は嫌いにならなかった? 僕なら投げ出してしまうよ」
「そんな事ないよ。元々、僕は勉強が好きだったのさ。図鑑や生物の生態を調べたり、辞書や百科事典で、単語や物事を調べるっていうのは、子供の時から好きだったのさ。勉強は探究心がくすぐられるでしょ?」
やっぱり僕とフレンズじゃ、考え方が違うんだろうな。
でも……なぜだろう? フレンズとは仲良くなれるような気がした。
「探究心か……僕にはあるかな?」
「大丈夫さ。分からない事を知ろうとする心があれば、ブレイブもきっと勉強が好きになれるよ」
小さな座卓に、ノートと教科書を置くフレンズ、
「頑張ってみるよ」
僕もカバンから、ノートと教科書を取り出し、勉強体制に入る。
その時だった。ドアを叩く音が聞こえた。
「お邪魔かしらん?」
部屋に入ってきたのは、フレンズの母親らしい女性。
パーマーをかけたような独特なくせ毛が特徴で、顔は親子だけに、フレンズと少し似ている。手にはケーキと、ジュースが入ったトレーが握られている。
「お邪魔してます」
「お母さん、こっちはブレイブ……勉強を教えてくれって言ったから、ここでやる事にしたんだ」
「あら~あら~そうなの? フレンズが男の子を連れてきたのは、何年ぶりかしら~」
そう言って、笑顔を浮かべるフレンズの母親。
「そんな前かな?」
なぜか頬を染めるフレンズに、僕も少し恥ずかしくなる。
「あら~本当にお邪魔だったかしら~?」
フレンズの母親がトレーを置くと、笑顔で出て行ってしまう。
男女2人きりだと認識してしまったせいか、気まずい沈黙が流れる。
「えと、勉強を始めようか」
僕が話を切り出すと、フレンズが慌ててシャーペンを持つ。
「そうだね。はじめよっか」
それから僕は、勉強で分からない部分をフレンズに教えて貰い、夜にまで時が過ぎた。勉強は好きではなかったけれど、フレンズと過ごす時間は凄く楽しく思えた。
「今日もありがとうフレンズ」
母親とフレンズが、玄関まで迎えてくれた。
「あら~帰るの~? 夕飯食べて行けば良いのに~」
エプロンの姿のフレンズの母親、既に僕のぶんまで夕飯を作っていそうだ。
「お、お構いなく……」
「明日はどうしよっか?」
「図書室で良いよ」
「勉強ばかりじゃ駄目よ~たまには、息抜きもしないとね~」
そう言って、母親が僕とフレンズに渡したのは、美術館のチケットだった。
「ボクとブレイブで行けって言うの?」
恥ずかしそうに言うフレンズ。
「あら~フレンズは美術館大好きだったじゃない~」
「そりゃあ、好きだけどさ……何でブレイブと……」
なぜか、フレンズの頬が赤くなっていく。
「ブレイブちゃんも良いでしょ?」
「はい」
「分かったよ……じゃあ、明日の4時だね」
「うん」
なんだか勉強を教える仲だけじゃなく、遊ぶ間柄にもなってしまった。
「待ったかな?」
神殿を模した石造りの美術館の前で、待っていた僕に、フレンズが話しかける。
「今、来たところだよ」
フレンズの服装は帽子にTシャツ、短パンのジーンズといった、少し男らしい格好だった。アニメのロゴ入りのTシャツは、さらに子供っぽさがにじみ出ているような感じがする。
「じゃあ、入ろっか」
「うん」
美術館には絵画、工芸品、銅像、古代の武器や防具、装飾品などが展示されていた。
「ブレイブは、あの鎧を着てみたら格好良くないか?」
フレンズは、ショーケースに飾ってあるプレートメイルを指差す。
その鎧を見て、僕は唖然としてしまった。なぜならそのプレートメイルは、勇者ガンバレヨの機械鎧と酷似していたからだ。
「どうしてこれが……」
「どうしたのブレイブ、深刻な顔してさ……」
「なんでもない」
イブフェアリは、僕が勇者の生まれ変わりだと言っていた。もしかしたら生まれ変わる前の、勇者ガンバレヨの着ていた模造品があったとしても、おかしくない。
「見て見て狩人の服だってさ」
マネキンに着せられているのは、羽根付き帽子に緑の服、毛皮の腰巻だった。フレンズがガンバレヨになったら、やっぱり弓使いなのだろうか?
「フレンズはもし、戦争になって戦ってくれと言われたらどうする?」
「戦わないかな……ボクはアーチェリーを始めたのって、物事に集中する為なんだよ。気晴らしも兼ねてね……弓で自衛の為とか、戦う為とか考えたことないからさ」
「やっぱり……そうだよね」
フレンズを勧誘するのは、難しいかもしれない。魔王理事長ルシファーと、戦えと言われたらフレンズは、きっと断るかもしれない。
「だって戦うことって男の仕事でしょ? 女性は戦争に徴兵されないよ。ボクは女の子だもん。それにいざという時は、ブレイブが守ってくれるんでしょ?」
フレンズが僕に抱きつく。
「でも、もしフレンズにそういった力があったらどうする?」
心なしか、抱きしめるフレンズの力が強くなった気がした。
「ブレイブ、その話やめよう。戦う女の子って、あんまり格好良くないと思う」
うつむくフレンズ。
「……ごめん」
何か僕は、悪い事を言ってしまっただろうか?
「あっ、そうだ……絵画の方も見ようよ」
フレンズが僕の手を引っ張る。
連れて行かれた場所は、絵画が飾られたフロアだ。
風景画から、人物画が飾られている。特に目立つのは宗教画だ。神様や天使、悪魔などが描かれているものが多いような気がした。
「勇者と魔王の戦いだって……何で女性ばっかりなんだろう」
「これって……」
描かれているのは剣を持った少年、恐らくは勇者。黒い翼を持ったものが魔王だろうか? 勇者と魔王の背後には、仲間が戦っていた。
勇者の背後には斧、弓、杖を持った少女達。魔王の背後には人間ではないものが戦っている。スライム、蛇、蜘蛛といった悪魔はどれも少女の姿をとっていた。確かに女の子ばかりだ。
「画家さんは女の子好きだったのかな?」
「女の子でも、戦わなくちゃいけない理由があるんじゃないかな?」
「女の子が戦わなくちゃいけない理由ね」
フレンズが少し嫌な顔になる。課題を変えた方が良いだろうか?
「え~と、フレンズは絵画が好きなの?」
「うん。絵だけじゃなくて、画家さんも好きなんだ。その人との芸術性とかだけじゃなくて、その人の送った人生に物語性があってね。地下牢に閉じ込められてずっと絵を描き続けたとか、貧乏でありながらも働きながらずっと画家を目指し続けたとか、絵によってそれぞれメッセージ性も違う」
そのフレンズの見る目は、光に満ちていた。
フレンズは絵画について、いろいろ語ってくれた。絵のタッチから何を伝えようとしているのか、その画家の生涯までも熱く語ってくれた。
清々しい気分で、僕とギブアは美術館を出た。
「今日は楽しかったよブレイブ」
「たまには息抜きもいいね」
「明日の日曜日……良かったらさ……勉強も兼ねて、バードウォッチングに行かない?」
なぜか恥ずかしそうに言うフレンズ。
「えっ? どうして?」
「勉強ばかりじゃ飽きるでしょ? 少し時間を潰してからやった方が、効率は良いと思うし……それに生物の教科もあったでしょ?」
気のせいか、何処からか妙な視線を感じる。それに殺気に似た何かが……
振り向くと、電柱から覗くギブアが、恐ろしい形相で、こちらを睨んでいるのを見つけた。しかも、隣にはうすら笑いの、イブフェアリの姿も見える。
なぜここにイブフェアリと、ギブアがいるのだろうか? 睨んでいる理由は分からないが、あるとすれば、友達に対する嫉妬のようなものだろうか?
「どうしたのブレイブ? 青ざめた顔してさ」
「何でもない。明日だよね? 大丈夫だよ」
「良かった。じゃあ、明日の10時……学校の裏にある、エデン山の記念碑前に集合ね。泊りの用意も忘れないでね」
エデン山は、エデンアップル学園の裏にある。ハイキングコースの山としても観光客に利用され、子供からお年寄りにも人気のスポットだ、
「うん」
フレンズは笑顔で、手を振り、帰っていく。
何だか凄く嬉しそう……明日に聖石の話をするのは、やめた方がいいだろうか?
「ブレイブ……何をやっているの?」
怖い形相で、ギブアが詰め寄ってくる。
「聖石の話をいつ切り出そうかって、考えていて……」
「そんなことじゃ……いつになっても……聖石の事を話せる訳がない!」
「でも、楽しい事をやってる時に、勇者隊の話をするのは……それにフレンズは戦うことが嫌いみたいなんだ」
「誰だって戦う事は嫌い! だからって……ずっと事情を話さないで……友達ごっこをするのはナンセンス! それともブレイブは、フレンズの恋人にでもなりたいの?」
「恋人だなんて……僕はそんなつもりは……」
ギブアは何を怒っているのだろうか?
「だったら明日に聖石の話をする! いい?」
「私はブレイブの好きなタイミングで、言えば良いと思うよ」
笑顔で言うイブフェアリに、ギブアがぎろっとした表情で睨む。
「分かったよ……明日には聖石の話をするよ」
「……分かれば良い」
そうだ。僕は、勇者ガンバレヨなんだ。一刻も早く仲間を集めて、サタンいや、魔王理事長ルシファーと、戦わなければいけないのだ。
『ブレイブの好きなタイミングで、大丈夫だよ』
「こんな所に蚊がいた!」
イブフェアリの小声の言葉だったが、ギブアにはしっかりと聞こえていたようだ。凄い形相のギブアに鷲掴みにされ、イブフェアリの身体がボキボキと、骨が折れるような音がする。
「ぎゃうっ!?」
僕はイブフェアリの悲鳴が響くなか、フレンズに聖石の事を、打ち明ける事を決心したのだった。
10分前だったのだが、記念碑の前では既に、フレンズが待っていた。
いつもよりお洒落な白のワンピースを着て、いつもと違って女の子っぽい。
「待った?」
「遅―いブレイブ! ボクなんか30分前に来てたのに」
時間より前で、少し理不尽ではあるけれど、ここは謝った方が良いのだろう。
「ごめん、もうちょっと早く来れば良かったね」
「冗談だよ。10分前が基本だもんね。さぁ、行こう!」
フレンズが僕の手を引っ張る。
「フレンズは、好きな動物はいるの?」
「隼が好きかな」
「フレンズはバードウォッチングが好きなの?」
「うん、趣味で遠くの山や川の方へ行くんだけど、今日は勉強の時間もとりたいからさ」
「やっぱり、この後は勉強なんだ」
僕は思わず肩を落とす。
「そうさ。ブレイブには教えたい事が山ほどあるんだ」
でも、僕の事を考えて、勉強を教えてくれてるんだ、感謝しないと。
「その荷物はなに?」
フレンズが背負っている大きなリュックが気になった。
「ふふっ、テントさ。今日は泊りだけど、大丈夫なんだよね?」
「うん、フレンズの方こそ大丈夫なの? 男の子と女の子が泊まるって……」
「何が?」
気にしていないのだろうか? まあ、本人が良いのなら、大丈夫なのだろう。
「さぁ、行こうブレイブ」
フレンズが僕の手を引っ張る。
楽しそうに森の中へ突き進むフレンズの姿は、勉強している時とは、まるで違って見えた。
「たいした鳥はいないけど、泉があるから良い環境なんだ。見てごらんブレイブ」
フレンズの言う通りに、双眼鏡を覗き込む。
「凄い! この森にはワシがいるんだ!?」
少し大きな声を出してしまったせいか、羽ばたいて、森の奥へと行ってしまう。
「やれやれ行ってしまったね。もう少し静かにしないと」
「ごめん」
「大丈夫、他にまだ鳥はいるよ……こっちを見てごらん」
フレンズが指差す方向を見ると、見知らぬ小さな鳥がいた。
「あの鳥はなに?」
「あれはマネシツグミ」
「あの大きなのは?」
「ニシマキバドリだよ。腹と喉にかけては黄色で、胸には黒い帯が入っているのが特徴だね」
「上にいる鳥は?」
「ハシボソキツツキかな……」
フレンズは物知りで、鳥に関して何でも知っているといった感じだった。
「こんなところかな……そろそろテントを張ろう」
夕方近くになると、フレンズがテントの準備を始めた。これも勉強だと、フレンズはテントの張り方まで、丁寧に教えてくれた。
本当にフレンズは何でも知っていた。料理の準備も手際が良く、ジャンバラヤの作り方までも、レクチャーしてくれた。
アメリカの伝統料理だと思っていたジャンバラヤも、スペイン料理のパエリアが起源になっているというのも、フレンズに教わって初めて知った。
ジャンバラヤはフレンズの独自のアレンジが加わり、森で採れた山菜や木の実が入っていて、美味しかった。
テントの中で、寝転がる僕とフレンズ。
シェラフに入った僕とフレンズは、もちろん2人きりだ。
それが自然の流れで、意識はしなかったが、隣のフレンズから、僕とは違う、シャンプーの匂いがして、女の子だと意識してしまう。
「どうしたのブレイブ? やっぱり外だと落ち着いて眠れない?」
「フレンズは何でも知っているし、何でもできるなって思って……僕なんか何もできないから……」
「ボクだって苦手な事はあるさ。こう見えて運動は苦手なんだよ。不思議だろ? 山歩きやアーチェリーは、大丈夫なのに」
「そうなの?」
「走るのが苦手でね。マラソンや球技は特に、苦手なんだよ。体育の時はいつも見学してる……教室の窓から体育の授業の時の君を、見ていて思うんだ。どうして諦めずに走っていられるんだろうって……」
「僕はいつもビリだから、そのぶんみんなより頑張らなくちゃって、思うんだ」
フレンズが、僕を不思議そうな目で見る。
「それだけで頑張れるって、凄いよ。ボクなら諦めてしまうね」
「僕はあんなんだけど、フレンズもその……頑張っていこうっていう気持ちがあれば、みんなより速く走れるんじゃないかな?」
「どうだろう……いや、ボクには無理かもしれないな」
「無理じゃないと思うよ……挑戦してみるのも悪くないんじゃないかな」
「挑戦か……この課題はやめよう……ボクには無理だから……」
「無理なんかじゃないよ……フレンズならきっと!」
フレンズを見ると、いつの間にか寝息を立てて眠ってしまっていた。
「おやすみフレンズ……」
そう言って、僕も眠りについた。
気のせいか、かちゃかちゃと、金属がこすれるような音がする。
起きてみると、フレンズがテントのパーツを片付けて始めていた所だった。
「君はボクに対して何もしないんだな? 襲ってくるなら矢尻で、尻を刺してやろうと思ったのにな」
「えっ?」
フレンズの言葉に首を傾げる。
「ラミアさんの話と違うな……ブレイブ、君は異性交遊を求めて、いろんな女子と付き合っていると聞いた」
「僕はそんなことしないよ!」
「クラスのギブアと付き合っていると聞いたけど、それは違うと言える?」
「ギブアとは友達で、そういった仲じゃないよ」
「じゃあ、本当に勉強目的で、ボクに近づいたっていうの?」
「それは……」
ここで聖石の事を話すべきだろうか? でも、前のギブアの時のように信じてもらえなかったら……
「君はどうしてそこで黙るんだ! やましい事がないんだろ!」
「フレンズ、聞いて……僕は勇者ガンバレヨなんだ」
「何を言っているんだ君は……」
「僕は、魔王理事長ルシファーと、対になる力を持っている。それが勇者ガンバレヨなんだ! フレンズは弓士ガンバレヨの、力を持っている……だから、僕はフレンズに近づいたんだ」
フレンズは、理解できないと言ったふうに、頭を押さえる。
「君は……そんな訳の分からない事の為に近づいたっていうのか?」
「フレンズ、僕と一緒に魔王理事長ルシファーと戦ってほしい……この石にはその力がある」
僕はフレンズに緑の石を見せる。
「君はそんな馬鹿みたいな妄言で、女の子を口説いているのか?」
「違う! 本当に力があるんだ!」
「もういいよ……学校の時間だ。そんな話を繰り返していたら、学校に遅れてしまう」
フレンズは、僕にカバンを投げ渡す。
「聞いてフレンズ! 僕は……」
「もうボクは、君とは付き合わない事にする」
そのまま、森の奥へ行ってしまうフレンズを、僕は見送ることしかできなかった。
あれからフレンズとは、全く交流はない。
いつもの授業。
教室の黒板には、僕の理解できない数式が、展開されていく。
フレンズに教わるはずだった数式、聖石の事を話さなければ、この授業を少しは理解できたかもしれない。
「あんなに仲良いと思ったのに、ケンカ別れしちゃったの?」
頬杖をつく僕に、ノートの上に座るイブフェアリが話しかける。
「勇者隊の事は誰にも知られてないから、信じてくれないみたいなんだ。それに変な噂が、広がっているみたいなんだ」
「どんな噂?」
「僕がいろんな女の子と異性交遊しているって……」
最近、女子のクラスメイトが僕を見て、何やらこそこそと話しているのをよく見かける。噂は思った以上に、広がっているかもしれない。
「しかも、ラミアさんが異性交遊しているって、言ってたみたいなんだ」
「ラミア・サーペント、調べてみたけど……あいつ、少し怪しいよ」
「怪しい?」
「ラミアと付き合った男性が、次々と行方不明になっているみたいなの……しかも、たて続けに5人もね」
「それは確かに怪しいけど……」
「けど、行方不明になった5人のうち、1人が帰ってきたの。その証言だと、ラミアが蛇に変身して、石にされたって……」
「それって!? 美術部メデューサ!?」
「問題はラミアがやったなんて、信用していないってこと……警察も全然、話を聞いてくれなかったみたい」
「政府はもう、魔王理事長ルシファーに、操られているからねって……イブフェアリは何処からその情報を仕入れてきたの?」
「イブフェアリさんは、だてにみんなの玩具にされてないからね」
肩を落とすイブフェアリが、疲れた表情を見せる。
どうやら未だに、生徒に発見されては、いろんな生徒に捕まってしまうようだ。
「じゃあ、この事をフレンズに早く話さないと!? でも、フレンズは信じてくれないよ」
「その件に関しては大丈夫! 生き証人であるイブフェアリさんが説明してあげる」
確かに妖精という存在がいれば、信じてもらうきっかけになるけれど。
「分かった。行こうイブフェアリ!」
僕とイブフェアリは、フレンズのいる教室へと向かった。
僕が歩み寄ると、フレンズは嫌な顔をする。
「また君か……ボクは君を信じないよ」
「はじめまして、私は神の使いの代理妖精、イブフェアリ・パックと申します」
イブフェアリはスカートを広げ、丁寧に会釈する。
「なんだいこれは? 小型のドローン? いや、フィギュア型のロボット? なかなか精巧に作られているようだけど」
「私は小型のドローンでなければ、ロボットでもない! れっきとした妖精だよ!」
「そんなことを言って! どこかにスイッチがあるんだろ?」
掴もうとするフレンズに、イブフェアリは避ける。
「ちょっと! なにすんの?」
「自衛機能がしっかりしてるようだね。誰が作ったの?」
「それは本当に妖精なんだ。僕に聖石を渡し、力を与えてくれた」
「またその話か……君も飽きないね」
嫌そうな顔をするフレンズ。
「聞いてフレンズ! ラミア・サーペントは魔王理事長ルシファーの配下、美術部メデューサかもしれないんだ。付き合った男性が、何人も行方不明になってる」
パチンと、乾いた音が響く。
鈍い痛みと共に、フレンズが僕の頬を平手打ちで叩いたのだと、確信した。
「私の友達に対して、君がどうこう言う筋合いはない!」
カバンを放り投げ、僕は倒れるように畳に寝転がる。
普通の床と違い、剣道場の畳は倒れても怪我をしないように、クッション性のある素材が使われており、寝転がると気持ちが良いのだ。道場は、数年前までは柔道部と兼用で使っていて、このような畳が使われているのだ。柔道部も廃部になってしまったが。
「どうすれば良いのかなイブフェアリ」
「本人が拒否したら、私にもどうにもできないよ」
「なら、無理にでも引き込めば良い」
ギブアが、戸を開けて入ってくる。
「いくらなんでも……無理強いはできないよ」
「世界の平和が、かかっているの。無理にでも仲間になってもらうしかない」
「無理だよ。僕は全く信用されていないし」
「じゃあ、彼女が石にされるか、魔王理事長ルシファーの配下になるのを黙って見ている? 運動部の子から聞いたけど、彼女はラミアの絵のモデルになるって、喜んでいた」
「それじゃあ、フレンズは危ないんじゃ!?」
「こうしちゃいられないよブレイブ!」
「美術室に行こう!」
フレンズが石にされたり、僕達の敵になる未来は阻止しなければ、ならない。
美術室のドアの隙間から覗くと、フレンズとラミアの姿があった。
「良かった。まだ、無事だ」
僕が美術室の戸を開けようとすると、イブフェアリが目の前に、立ち塞がる。
「ちょっと待ってブレイブ! まだ、ラミアが美術部メデューサだって決まった訳じゃないし、ここで入っていったら、さっきの二の舞だよ」
「でも、フレンズがピンチかもしれないんだよ!」
「ここは様子をみようブレイブ。もし、危なくなったらその時に出ていこう」
「分かったよ」
確かにラミアが部活魔という証拠は、まだどこにもないのだ。
見る限りでは、フレンズとラミアは、楽しく会話してるだけだ。
「悪いねぇ。絵のモデルなんて頼んで……退屈だろう?」
「いいえ! ラミア先輩の絵のモデルになれるなんて、光栄です!」
椅子に座るフレンズは、本当に嬉しそうな笑顔を見せる。
「ところで、ブレイブとは付き合ってるのかぇ?」
「もう付き合ってませんけど、どうしてですか?」
「ブレイブは嫌な噂が絶えないだろう。泣かされているんじゃないかと、心配でねぇ」
やっぱり、ラミアさんが僕のことを、いろいろ言っていたのは本当だったのか?
「ブレイブはラミア先輩が言うほど、悪い人じゃないですよ。馬鹿正直で、ひたむきで、努力家なんです……窓から体育の授業風景を見てれば、分かります」
フレンズ……僕のことを嫌っていたんじゃなかったんだ。
ラミがゆっくりと、フレンズに歩み寄る。
「人は見かけによらないものさね……おとなしい子が殺人犯になる事なんて、珍しくないだろう?」
ラミアがフレンズの服を触り、身だしなみを整えていく。
「制服、乱れてましたか?」
「良い絵が思いつかなくてねぇ。ヌードモデルなんてできるかぇ?」
「ヌードなんてそんな!? ボクには荷が重いというか……胸も小さいですし!?」
「ヌードに必要なのは、胸の大きさじゃないんだよ。身体のラインさね」
フレンズの制服のリボンが、ラミアによって外される。
「う、上だけなら……」
フレンズの制服の上着が脱がされ、その小さな胸が露出する。
「良い身体だねぇ。その身体で石像を作ったら、良い美術品になるねぇ」
その言葉に、フレンズの身体がびくりと震える。
「ボクもラミア先輩の、変な噂を知ってるんですけど」
「どんな噂かぇ?」
ラミアは近づき、フレンズの耳元で言う。
「ラミア先輩と付き合った男性が、次々と行方不明になっているって聞いて」
「噂は一人歩きするものさねぇ」
「あれからボクは調べたんです。ラミア先輩と付き合った男性の1人が戻ってきて、警察の事情聴取でこう言ったそうです。ラミア先輩が蛇に変身して、石にされたって」
真顔のフレンズに対し、ラミアは笑い声を上げる。
「あはははっ!? そいつはアホのロバートと言って、狂ってるさねぇ。私が蛇に変身して、石にしたって言うのかぇ? まさかあんたはそんな与太話を信じてるのかぇ?」
「調べた事はまだあるんです……父が警官だという事もあって、話を聞くことができました」
「警察? ロバートの身体に、あたいの指紋でも付いてたのかぇ?」
「警察はホワイトハウス襲撃の際、魔王理事長ルシファーの配下と戦っているんです。その配下の攻撃は、目を見ただけで石にするそうです。その配下の名前は美術部メデューサ」
そのフレンズの言葉に、ラミアは動揺を見せない。
「良い推理だねぇ。確かに石にする力を持っている化物なら、男を石にするなんて簡単さねぇ。けどねぇ、男1人が戻ってきたのは何でだぇ? 石にされたのなら、戻ってこれないはずなのにねぇ? それにあたいが、美術部メデューサだっていう証拠はあるのかぇ?」
「恐らくは石化の効力は数日しか持たないじゃないかと、ボクは考えています。もしくは魔王理事長ルシファーがTVの演説の通りの人物なら、美術部メデューサは、魔王理事長ルシファーの思想と違った行動をした為に、解放をせざる得なかった。そしてブレイブが言う勇者隊の存在、魔王理事長ルシファーと対なる力と言っていた。それが本当なら、ラミア先輩はブレイブが持っていたような石を持っているはずだ。ロバートさんが言うような、蛇に変身する力をね。
再び、大笑いするラミア。懐を探るような手つきを見せる、ラミア。
「まさか魔石の存在に気づくとはね。そうさねぇ、あたいが美術部メデューサだよ。ただ、石化の効力は永遠、解放したのは私の気まぐれさ」
ラミアが魔石を取り出すと、赤い光を放ち、闇の衝撃波を生み、フレンズの身体を紙くずのように飛ばした。
「ラミア先輩……まさか本当に…‥こんな力が……あり得るというのか!?」
そのラミアの姿は、緑の髪は無数の蛇になっており、下半身は蛇体、顔や身体に、ペイントが施され、芸術家というよりも部族を思わせる。それは間違いなく、美術部メデューサの姿だった。
「さぁさ、選びな! あたいの石像のコレクションにされるか、魔王理事長ルシファー様の配下になるかを選ぶんだ」
美術部メデューサが、衝撃波で倒れているフレンズにゆっくりと歩む寄る。
「どっちもごめんだ!」
立ち上がり、美術倉庫の奥へと逃げ込むフレンズ。
「フレンズが危ないよ!? 助けるよブレイブ、ギブア!」
「そうしたいのはやまやまなんだけど……戸が開かないんだ!?」
僕が何度も引いても、戸はビクともせず、開かないのだ。
「まさか!? さっきの衝撃波で、戸が壊れちゃったの!?」
「退くのブレイブ!」
僕が退くと、ギブアが飛び膝蹴りを放つギブア。
戸は大きな音を立てて、倒れた。
「凄いキック力だね。さすが格闘家の娘!」
「ブレイブ、何をぼうっと突っ立っているの! 早く行く!」
唖然とする僕に、ギブアが促す。
「分かったよ、行こうギブア!」
「うわああっ!?」
僕達が美術室に入ると、フレンズの悲鳴が聞こえた。
「何これ? また開かないよ!?」
先行したイブフェアリが、美術倉庫の扉に手をかけるが、開くことはできないようだ。
「貸して!」
僕の力でも、扉は開かなかった。
美術室の倉庫扉は、中から鍵がかけられており、小窓からは、倒れたフレンズと、美術部メデューサの姿があった。
「何なんだこれは!?」
美術倉庫には、男性の裸体の石像が並べられていた。しかも、それは4体あり、妙にリアリティがあり、苦悶の表情までもがしっかりと表現されている。それはまるで生きていたみたいに……
「それがあたいのコレクションの一部さね。見事な表情で、固まっているだろう? あたいの仲間になれば、みんな気にいらない奴を石にしてやるさねぇ」
「ボクに、気にいらない奴なんていない!」
「そうかねぇ? あんたはアーチェリー部の連中に、男だの女だのと、馬鹿にされてきた……相当、腹が立っていたんじゃないかぇ?」
「お前に何が分かる! ボクにだって傷つく言葉くらいある!」
「それじゃあ、感動的な作品を見せようじゃないかぇ」
美術部メデューサが、白布が被さった物を取り外すと、弓を構えた無数の石像が現れる。
それは、アーチェリー部員達だった。
「なんて事を……」
「見事なアーチェリー部員の石像だろう? あたいが、気にならない奴を全て石像にしてやろうって言うんだぇ」
「ボクはこんな事を望んじゃいない! ボクが男とか女とか言われても……できれば怒らずに接し、みんなと仲良くなりたかったんだ! なのに……」
「気にいらないかぇ? なら、仕方ないねぇ。あんたも石像になりな! あんたはどんな表情で、固まってくれるのかねぇ?」
フレンズを見る美術部メデューサの眼が光った。
「なっ!? 馬鹿な……ボクの足が!?」
何処からか、何かにヒビが入ったような音を立てる、フレンズの足下を見ると、靴から徐々に石化していくのが分かった。
「すぐに石にはならないからねぇ。恐怖を感じながら、ゆっくりと石になるがいい」
「くそっ!? テロリストのコレクションにされるなんて……」
「今からでも遅くないさねぇ。あたいの仲間になりな。今なら石化を解いてやっても良いさねぇ」
「ふざけるな! 誰がお前なんかに!」
美術部メデューサは、フレンズを後ろから抱き寄せると、胸を撫で回し、スカートとショーツを下ろしていく。
「全身が石化したら楽しみさねぇ。ボーイシュで、子供じみたその身体は撫でくり回したら面白そうだねぇ」
「貴様! ボクの身体が目的で!」
「勘違いしないでおくれよ。あたいが興味あるのは、サジタリウスの力さねぇ。あんたは弓士ガンバレヨでもあるけど、あたいと同じ化物になる力を持っているって事さねぇ」
もう、フレンズの膝先までもが、石化してきている。
「ギブア、蹴破れる?」
「任せるの!」
勢いをつけた、ギブアの後ろ回し蹴りが、扉を破る。
「誰だぇ! 邪魔するのは!」
「フレンズを放してもらうよ!」
「ブレイブ・ハート! ここを嗅ぎつけたいのかぇ!?」
「変身だよ! ブレイブ! ギブア!」
「うん!」
僕とギブアが聖石を掲げた刹那。
「馬鹿かぇ!」
美術部メデューサの眼が光り、僕とギブアの足のつま先を石化させる。
「僕達まで石に!?」
「ブレイブ!?」
イブフェアリの声が響き、僕の目の前に巨大な蛇の尻尾が迫る。
「しまった!?」
気づけば、持っていた僕とギブアの聖石が、美術部メデューサの尻尾によって、床に落とされる。
「逃げるんだブレイブ……君達まで石にされてしまう」
「飛んで火にいる夏の虫さねぇ。もう逃げる事も、できないんじゃないかぇ?」
足が動かそうとしても、石化が踵まで進行し、もはや歩く事すらできなかった。
「う、動けないの!?」
ギブアもそれは同じで、足の踵まで石化し、一歩も動けない。
『ブレイブ、こっち見て』
イブフェアリが、僕の耳元で呟く。
どうやら、イブフェアリは石化を免れていたようだ。
「イブフェアリ、石化は大丈夫なの?」
『私はこれでも、魔法には耐性あるからね……こっそりと、聖石を渡すから変身して』
イブフェアリが、落ちた聖石へと向かう。
「お前達は後でボディペイントでも施して、楽しみにしとくかねぇ。さて、メインディシュさねぇ」
フレンズの石化は、膝まで進行していた。
「やめろ! ブレイブ達を放してやれ! 興味があるのはボクだろ?」
イブフェアリが、僕の聖石を拾う……だが、這いずる美術部メデューサの蛇体によって、踏み潰されてしまう。
「うぎゃっ!?」
あれ? イブフェアリ!?
落ちた聖石も、美術部メデューサによって、遠くへと転がされてしまう。
「へぇ……他人を気遣う余裕はあるようだねぇ? けどねぇ、そいつらは本音で、友達とは思っちゃいない。そいつらもあたいと同じで、力だけが目当てなんだ」
フレンズの石化した足を撫でさする美術部メデューサは、妖艶な笑みを浮かべる。
「違う! 僕達は本当に、フレンズと友達になりたかったんだ!」
「嘘を言うんじゃないよぉ! フレンズが勇者隊の一員でなければ、見向きしなかったろうに!」
「ブレイブ、そうか君は、ボクを仲間にする為に近づいたんだったな」
「そうさねぇ。しょせんあんたは力の為にしか、価値がない人間だ……だが、魔王理事長ルシファー様なら、戦う事はさせず、お前の頭脳を生かしてくれるはずだよぉ」
「駄目だフレンズ! 魔王理事長ルシファーはこの世界を滅茶苦茶にしようとしている」
「世界なんてどうでも良い! ブレイブ、ボクは君の本心を聞きたいんだ!」
「最初は、仲間にする為、近づいた……けど、僕にとってフレンズが大切な人だっていうのは変わらない! 僕は君のことが好きなんだフレンズ!」
「ブレイブ……何それ? 付き合っている私を差し置いて……」
僕を睨むギブアが怖い。
「そんな……君がボクに……そんな思いを抱いていたなんて……」
頬を赤らめるフレンズ。
2人の反応が、何かおかしい……僕は何かおかしな事を言っただろうか?
「ガキが! 生意気に色づいているんじゃないよぉ!」
僕は美術部メデューサの尻尾に弾かれ、壁に強く打ち付けられる。
「ぐっ!?」
「そんなに仲間が大事なら、あんたに選ばせてやろうじゃないか……どちらの石像の仲間が失敗作かをねぇ。フレンズ、あんたが失敗作という石像を壊してやるよ。ブレイブかアーチェリー部員、どちらかをねぇ」
「そんなの! 選べる訳がないだろ! ボクにとってはみんな友達なんだ!」
「つまらないねぇ。みんな長く話せば、友達だって言うのかぇ? ブレイブなんて、知り合ったばかりだろうにねぇ……そんなのあかの他人じゃないかぇ?」
「ブレイブはあかの他人なんかじゃない! ボクの大切な友人だ!」
「決めた……ブレイブのなりかけの石像を壊すかねぇ……失敗作の美術品はどうしてくれようかねぇ。足でも砕いてやれば、見栄えはよくなるかねぇ?」
美術部メデューサが、机に置いてあったハンマーとノミを手に取り、僕に近づいてくる。石化は、足の股まで進行していた。僕の足を本当に砕く気だろう。
「お前の仲間になる! だから、ブレイブには手をだすな!」
「聞こえないねぇ。あたいに逆らった奴が、どうなるかをよく見ておくんだ」
石化した僕の足に、美術部メデューサがノミを当てる。
「やめてくれ!」
「さぁ! 解体ショーの始まりだよ!」
『貴方は戦う力が欲しいの?』
何処からか、頭の中に語りかけてくるような、イブフェアリの声がする。
「欲しいさ! ボクはブレイブを守りたいんだ!」
「ん? 何を言ってるんだぇ?」
美術部メデューサがフレンズの方へと、振り向く。
天井付近まで浮遊したイブフェアリが、フレンズに聖石を投げ渡す。
「フレンズ! ジョブチェンジって言って変身して! 貴方は何を守りたい?」
「ボクはブレイブを……友を守りたい! みんなと仲良くなって、友情を深めたいんだ! ボクは全ての友を守りたい! その為にボクは戦う! ジョブチェンジ! 弓士ガンバレヨ!」
そしてフレンズは、変身する。服を光の粒子に分解し、裸にした後、胴体、腕、足と、射手をイメージした、緑の機械鎧を構築し、背中にマントと、頭にティアラが構成される。
光が晴れると同時に、現れたのはフレンズとは違う姿だった。これが新しい勇者隊、弓士ガンバレヨの姿なんだ。
「大切な友を守る為……全ての友情を守る為! 弓士ガンバレヨ! ここに見参だ!」
弓士ガンバレヨはすかさず、風弓サジタリウスアローを魔方陣から取り出し、構える。
「変身したところで、ブレイブの足を砕く事に変わりないさねぇ!」
ブレイブの足にノミを当て、ハンマーを振りかざそうとした刹那。風を帯びた緑光の矢がハンマーを貫き、粉々に砕いた。
「ブレイブには指一本も触れさせない!」
「馬鹿な!? 数秒をかけずに矢を放ったというのかぇ!?」
「ブレイブ! ギブア! 変身だよ!」
イブフェアリが、僕とギブアに聖石を投げ渡す。
半身が石化していたが、僕とギブアは何とか腕を動かし、聖石をキャッチする。腕まで石化していたら、アウトだったかもしれない。
そして僕とギブアは、ガンバレヨに変身する。
「ジョブチェンジ! 勇者ガンバレヨ!」
僕が聖石を掲げると、服を光の粒子に分解し、裸にした後、胴体、腕、足と、獅子をイメージした赤い機械鎧を構築し、背中にマントと、頭に小さなクラウンが構成される。
「ジョブチェンジ! 戦士ガンバレヨ!」
ギブアも聖石を掲げると、勇者隊ガンバレヨになるべく……服を光の粒子に分解し、裸にした後、胴体、腕、足と、牡牛をイメージした黄土色の機械鎧を構築し、背中にマントと、頭にティアラが構成される。
【勇者隊ガンバレヨ!】
僕、勇者ガンバレヨと戦士ガンバレヨ、弓士ガンバレヨが揃い、陣形を組んで構えた。それは、僕達が生まれ変われる前にやっていた陣形でもあった。
「揃ったところで何もできないさねぇ!」
美術部メデューサの眼が光り、石化の光を放つ。だが、石化する事なく、僕達は美術部メデューサに距離をつめる事ができた。
「勇者隊ガンバレヨは、魔法の力を持っているんだよ。効く訳がないよ!」
と、イブフェアリが自慢気に言う。
「あたいより魔力が強いって言うのかぇ!?」
「覚悟しろ! 美術部メデューサ!」
僕達は、美術部メデューサを囲むようにする。
「覚悟するのはお前達の方さねぇ! 人質がいるのを、忘れているんじゃないかぇ! ストーンプレス!」
天井から巨大な石の瓦礫が迫り、それが、アーチェリー部員の石像に落ちようとしていた。
「卑怯な!」
弓士ガンバレヨが神速で飛び込み、瓦礫を受け止める。
「あはははっ! 魚拓ならぬ、良い人拓ができそうだねぇ」
受け止めるのが、やっとなのか、今にも崩れ落ちそうな弓士ガンバレヨ。
「戦士ガンバレヨ、助けるよ!」
「分かった!」
僕が戦士ガンバレヨと共に加勢にいこうとすると、美術部メデューサが黒光の魔法陣から、巨大絵筆を取り出す。
「喰らいな! ペイントビースト!」
巨大な絵筆で、カラフルな狼を描くと、僕と戦士ガンバレヨの手足に食らいついた。
僕の手足に鈍い痛みが走る。絵の具とはいえ、実態はあるようだ。
「身体が動かないの!?」
あの戦士ガンバレヨの力でさえ、絵の具の狼が粘つき、ビクともしない。
僕も手足を動かしても、絵の具の狼は粘ついて動かない。しかも、その狼は僕の手足の付け根部分を目指し、喰らい進んでいく。
「良い事を教えてあげようじゃないかぇ。その絵の具の狼はお前達を喰らい、絵画にしてしまうんだ……こんな風にねぇ」
美術部メデューサは巨大な絵筆で、床に描くと、人の背丈ぐらいありそうなキャンバスが出現する。
絵の具の狼達が、僕とギブアをキャンバスへと引き込もうとする。
まさか、あのキャンバスに引き込まれたら、本当に絵画にされてしまうというのだろうか?
何とか抵抗するも、僕の手がキャンバスに付けられた。すると、僕の手は沼のように沈んでいき、絵画になった。
「そんな!? 僕の手が絵画に!?」
絵画になった手の感触は、まるで泥沼に突っ込んだような感触がして、気持ち悪い。このまま、全身まで絵画にされたら、泥沼の感触が駆け巡る事になるのだろう。考えただけで、恐ろしい。
「良い絵画になったら、展覧会にでも飾ってやろうじゃないかぇ」
さらに僕の足がキャンバスに引き込まれ、絵画にされてしまう。
「すまない勇者ガンバレヨ……弓士ガンバレヨ……せっかく仲間になったというのに、役に立てそうにないな」
瓦礫を持ち上げる弓士ガンバレヨが、苦悶の表情で言う。
「ドンマイ……こういう事もある」
キャンバスに引き込まれまいと、絵の具の狼と綱引きをしている戦士ガンバレヨが答える。
「大丈夫……僕達、ピンチなのは日常茶飯事だから」
「こんな力があっても誰一人、友達を守れないなんて!」
「あはははっ! 強がりを言うんじゃないよ勇者ガンバレヨ……あんたが先に美術品になりそうだねぇ」
気づけば、僕の半身に絵画に引き込まれ、絵画と化していた。
「まずい!? このままじゃ、本当に絵画にされてしまう!」
「お前の絵画を魔王理事長ルシファー様に献上すれば、大喜びさねぇ」
美術部メデューサの手が、僕をキャンバスに押し込み、絵画化を早めていく。
「馬鹿! 勇者ガンバレヨを絵画にしないで!」
イブフェアリの小さな手が、僕の腕を引き上げようとする。だが、その腕は美術部メデューサによって、押し込められ、絵画にされてしまう。
無事なのは、顔だけになってしまう。
なぜかサタンと過ごした日々が、脳裏に思い浮かんでくる。
サタン……こんな事をする君でも……僕は君を信じたかったよ…‥
「離れろ妖精!」
聞き覚えのある声で、誰かが叫ぶ。
「えっ?」
「リカバリーフェザー!」
僕の顔の横に輝く羽が刺さったかと思うと、キャンバスと絵の具がドロドロに溶けていき、身体が解放されていく。さらに輝く羽は戦士ガンバレヨの絵の具の狼にも刺さり、ドロドロに溶かした。
翻るターバンとマフラー、その人影が通り過ぎた刹那。光る剣閃が、弓士ガンバレヨが持ち上げていた石の瓦礫を粉々に砕いていた。
「邪魔するのは誰だぇ!」
「……魔法戦士ガンバレヨ」
魔法戦士ガンバレヨと名乗った男は、ターバンをし、マフラーで口を隠し、胴体は山羊を模した黒の機械鎧とマントを纏っていた。それは間違いなく、勇者隊ガンバレヨの姿だった。
「イブフェアリ……あなたいつの間に勧誘してたの?」
ギブアの質問に、イブフェアリは首を横に振る。
「誰かに聖石を渡した覚えはないのに……私以外に、聖石を持っている者がいるって言うの!?」
「まさか……あんたまで……あたいを許さないって言うのかぇ!?」
「美術部メデューサ! 悪事を働きすぎたお前にはお仕置きが必要なようだ!」
光の刃を構える魔法戦士ガンバレヨに、美術部メデューサは後退りする。
「これを見な! 魔法戦士ガンバレヨ! 石像にした男子生徒さ……これを傷つけたくなかったら退いておくれよ」
余裕の笑みを見せる美術部メデューサは石像を抱き抱え、それを盾にしようとする。
「いでよ! 風弓サジタリウスアロー! 悪いが……ボクはお前を迷いなく撃ち抜ける」
弓士ガンバレヨが銀の大弓、風弓サジタリウスアローを構えてみせる。
「あはははっ!? 撃てるのかぇ? この倉庫にはあたいのコレクションが、山ほどある! 当たればお陀仏さねぇ」
美術部メデューサの背後には、飾られた絵画や無数の石像がある。人間を石像や絵画にする力があるなら、あれが人間であった者の可能性は高い。
「残念だが……ボクの計算ではお前にしか当たらない!」
弓士ガンバレヨが、魔法戦士ガンバレヨ。
「何だってぇ?」
弓士ガンバレヨが、風弓サジタリウスアローに緑光の矢をつがえ、狙う視線の先は天井だった。
「ダウンバーストアロー!」
緑光の矢が、くるりと回転し、突風を纏い、美術部メデューサを押し潰し、右腕を貫く。
「この狭い天井で、矢を落下させたというのかぇ!?」
落とす石像を魔法戦士ガンバレヨが飛び込み、キャッチする。
「この隙を逃さないの! いでよ地斧タウルスアックス!」
戦士ガンバレヨは、魔法陣を描き、そこから斧を取り出す。
地斧タウルスアックスが、砕いた瓦礫の石を吸着させると、巨大な石の塊と化す。
「に、逃げるが勝ちさねぇ!」
逃げようとする美術部メデューサだったが、石の巨魁と化した地斧タウルスアックスは、その身体を捉えていた。
「ストーンブレイカー!」
石の巨魁を纏った斧、地斧タウルスアックスに叩きつけられた美術部メデューサは、吹き飛び、窓ガラスを突き破った。
「ぐっぎゃっ!?」
落下する美術部メデューサ、まだ余力はあるのか、蛇体をくねらせ、態勢を立て直そうとしている。
被害をこれ以上、増やささない為にも、ここで倒す。
「サンフレア!」
僕は飛び降り、落下する美術部メデューサの胸のアンクレットの魔石を狙い、炎を帯びた刃で、円形に斬り裂いた。
地面に着地と同時に、美術部メデューサの中心に、小さな炎の太陽が生まれ、爆発する。
「ぐっぎゃあああっ」
「やった……の?」
気づけば、学校の中庭の方まで来ていた。上を見上げれば、美術室があった場所は、さっきの攻撃で半壊、見事な風穴が空いている。人がいれば、大騒ぎになっていたかもしれない。
地面を這いずるような音が聞こえ、振り向くと、煙を上げた美術部メデューサがこちらにゆっくりと向かってくる。
「残念だったねぇ。魔石を狙わずに身体をやるべきだったねぇ」
「そんな!? あれだけのパワーを叩き込んだのに!?」
「魔石は意思の強さで、より固くなるさねぇ。あはははっ!? どうする勇者ガンバレヨ? あたいを殺すしかなくなったねぇ!」
笑い声を上げる美術部メデューサに緑光の矢が、魔石に当たった。
「なっんだぇ!?」
直撃した緑光の矢が消え、魔石がわずかに欠ける。
「なら、何度でも狙い撃つさ……お前が人の姿に戻るまでな!」
矢を飛んできた方向を見ると、美術室に空いた風穴から、風弓サジタリウスアローを構えた弓士ガンバレヨの姿があった。
「覚えておきな……次こそはあんた達の石像を造ってやるさねぇ」
そう言い残すと、美術部メデューサは黒い魔法陣を描く。その黒い魔法陣の中に沈み込み、美術部メデューサは消えていった。
「ずいぶんと派手にやったな」
魔法戦士ガンバレヨが、飛び降り、中庭に着地してくる。
「え~と、魔法戦士ガンバレヨ? 君は何処かで会った気がするのだけれど」
顔は懐かしさを感じる……まるで親友のように……
「気のせいだ……それより早くここから立ち去った方が良い。いくら放課後とはいえ、爆発の騒ぎで、誰かしら駆けつけてくる」
何処からか、パトカーと消防車のサイレンの音が聞こえ、爆発騒ぎに誰かが、通報したかもしれない。
「石化した人はどうするの?」
戦士ガンバレヨが、中庭に着地してくる。
「俺が元に戻す。事後処理は俺がやっておく…‥お前達は先に逃げておけば良い」
「魔法戦士ガンバレヨ……貴方は誰から聖石を貰ったの?」
「ヴァルキリーからだ」
「えっ? そんなはずは……」
魔法戦士ガンバレヨの返答に、イブフェアリはなぜか青ざめた表情をする。
「ボクも君の事をよく聞きたいんだ……例えば、美術部メデューサがなぜ、君の事を知っていたのかとか」
弓士ガンバレヨが着地し、魔法戦士ガンバレヨに歩み寄る。
「奴とは過去に戦った事がある……それだけだ」
「仲間だったの間違いじゃないだろうな?」
睨むように見る弓士ガンバレヨに、魔法戦士ガンバレヨは視線を逸らす。
「弓士ガンバレヨ、魔法戦士ガンバレヨは僕達を助けてくれたんだよ。いきなり疑うなんて酷いよ……ありがとう魔法戦士ガンバレヨ」
「残念だが、俺はお前達とは違い、単独行動で戦っている……馴れ合いはしない」
握手を求める僕の手に近づくかと思えば、美術室に飛び上がる。
「感じが悪い奴だなブレイブ。あれは本当にボク達の味方なのか?」
魔法戦士ガンバレヨに、あの懐かしい感じがするのは……気のせいなのだろうか? まるでサタン・ホープと似た顔立ちと、雰囲気を持っていた。
■ 4話 本物のガンバレヨはどっち? ドジっ娘と毒舌少女
いつもの剣道部の道場なのだが、なぜか居心地が悪い。何というのだろうか、空気が異様に重い……決勝戦の試合直前の雰囲気のような、ピリピリとした殺伐としたものを感じるのだ。
道場の畳に座っているのは、ギブア、フレンズ、イブフェアリの3人の女の子はずなのだけれど……
「で……結局、君はブレイブの何なんだ?」
腕にしがみつく、ギブアに殺意に似た視線が飛ぶ。その状況をイブフェアリは、楽しそうに見ているように感じる。
「友達未満……恋人以上の関係」
「そうなのかブレイブ?」
怒気を感じるフレンズの声に、身体がビクリとなる。僕は首を横に振る。
「え~と、ギブアは大切な仲間であって……そんな関係ではないんだけれど……」
「酷いブレイブ、私という女がいながら……私の事が飽きてそのインテリ女が好きだって言うの?」
「ギブア、ここで誤解を招くような事を言わないで欲しいのだけれど」
「やはりそうか……君はボクの事を好きだと言った……その責任をとってもらわないといけないからな」
頬を染めて言うフレンズ。
「イブフェアリ、何がどうなってるの?」
「ブレイブは本当に自覚が無いんだね?」
「えっ?」
少し呆れ顔のイブフェアリ、その返答に頭の悪い僕には、それなりの時間が必要なような気がした。
「とにかく! ブレイブは私のもの! 誰にも渡さない!」
「僕は誰のものでもないよね!?」
「ふざけるな! ブレイブはボクのパートナーだ!」
フレンズも負けじと、僕の腕を抱く。
「ブレイブは私の所有物!」
「ギブア、僕が所有物って……痛い!? 引っ張らないで!?」
「ボクのパートナーだ!」
さらにフレンズが僕の腕を引っ張り、綱引きのような引き合いが始まってしまう。
「ちょっと待って!? 本当に痛いからやめて!?」
僕の右腕と左腕が、裂かれるような激痛が走り始める。
ギブアの馬鹿力は洒落になっていないし、フレンズは負けじと、引っ張るれるので、思った以上に痛いのだ。
僕の身体が2つに裂かれるのではと、思ったその時、誰かが戸を開けて入ってくる。
「私も勇者隊に入れてください!」
その言葉に僕達は唖然とした。なぜなら、僕達から勇者隊に勧誘する事はあっても、その逆は無かったからだ。
「どうして僕達が勇者隊ガンバレヨだって……」
入ってきた少女、ロングの髪に、虫も殺せぬ、おだやかな顔立ちは、見た限りでは普通の人に見えるのに……
「それはですね……」
駆け寄ろうとした少女は転び、僕を押し倒す形となる。
僕は立ち上がろうとするも、少女のふくよかな乳房に挟まれ、息がつまりそうになる。
「はううっ!?」
目を回す僕。その驚異の乳房によって、僕は本当に窒息死寸前だった。
「ブレイブから早く離れるの! この牛乳女!」
「はわわっ!? ごめんなさいです!」
僕は乳から解放され、僕は何とか息を整える。
「君はどうしてボク達が勇者隊ガンバレヨだって分かったんだ? ボク達の存在は、TVでも、公表されていないしな」
フレンズが、怪しむ目つきになる。
「外に書いてありましたよ……ここが勇者隊ガンバレヨの本部だって」
僕は慌てて、道場を出て、看板を見る。
看板があった場所には、手書きで【勇者隊ガンバレヨ本部】と書かれた紙が、貼られていた。しかも、隣には、お悩み相談BOXと書かれた箱がちゃっかりと、置かれていた。
「すっかり言うの忘れてたよ。今日から、ここが勇者隊本部だよ!」
胸を張るイブフェアリ、いくら剣道部が来なくなったとはいえ、勝手に勇者隊の本部にしてしまうなんて……
「イブフェアリ、剣道部室を勝手に本部にしちゃ駄目だよ……一応、僕はこれでも活動してるんだよ」
「1人で?」
首を傾げるイブフェアリ、悪意を感じるのは気のせいなのだろうか? そりゃあ、竹刀で素振りしかしていないけれど。
「君は……この看板を見て、どうして勇者隊ガンバレヨに入りたいと思ったんだ? この組織? が、何をやる活動なのか分かっているのか?」
「えと、私はラブ・スペルって、言います……間違ってたらすいません。予測なんですけど、勇者隊ガンバレヨは世界を救う為に戦う活動ではないですか?」
間違ってはいない……名前からは、確かに連想できるかもしれないけれど。
「ちょっと待て……この看板は今日、貼ったものだ……用があって剣道場に行かない限り、この看板を目にする事なんて……ないはずだが」
理解できないと言った風に、フレンズは頭を押さえる
確かにそうだ。剣道場は見通しが悪いうえ、用が無い限りは、看板を目にする機会は無い。部員か、本当に剣道場に用がある人間しか、立ち寄らない。つまり、彼女はここに用があって、来た事になる。
「私……感じるんです……皆さんは私と似たような魔力を感じるんです。それが、3人も集まってる……運命を感じて、剣道場を見たら、勇者隊ガンバレヨの本部の看板……これは救わなくちゃって思いました!」
僕達の魔力を感じた? イブフェアリには、勇者隊ガンバレヨの力を察知する力はあった。けれど、僕達はその力を持っていないのだ。変身しなければ、只の人間と変わらない。
「イブフェアリ、彼女は勇者隊ガンバレヨなの? それとも……」
なぜか、考え込むように腕を組むイブフェアリ。
「そこか! イブフェアリセンサー!」
ラブを見て、イブフェアリの髪の毛の1本が逆立ったかと思えば、ふにゃりと倒れてしまう。
「どう、イブフェアリ?」
しばらく間が空いた後、イブフェアリは、アホの子供のような顔になる。
「ラブはガンバレヨじゃないかな?」
「イブフェアリセンサーが、ポンコツ化してるの……絶対に適当に言ってるだけ」
呆れ顔のギブア。
確かに適当に、言ってるように感じるけれど、イブフェアリは、今までに勇者隊ガンバレヨの当ててきているのだ。ラブが勇者隊ガンバレヨのメンバーである可能性は、高い。
「僕はイブフェアリを信じるよ。だって、今までにイブフェアリはガンバレヨのメンバーを当ててきたんだ」
イブフェアリが、アホの子供のような顔で、僕を見る。
「ブレイブ……間違ってたらごめんね」
「ええっ!?」
慌てる僕に、フレンズが口を開く。
「ボクは信じても構わないが……違った場合の2つのリスクがある。ラブが勇者隊ガンバレヨじゃなくて、一般人だった場合、部活魔にマークされ、交流があったという事で、何かしらの力を持っていると、勘違いして、部活魔が彼女を攫う可能性がある。もう1つの可能性は、スパイという可能性だ。彼女が部活魔だった場合、いつ不意打ちをやられても、おかしくない状況に陥る」
「はわわっ!? 私は悪い怪人さんじゃないですよ。その証拠にもう1人、勇者隊ガンバレヨと、思われる人を呼んでるんです」
ラブは何やらスマホを取り出して、何やらキー操作で文字をうっているようだけれど、何をするつもりだろう?
「ちょっと待て!? 君は自分と似た魔力を感じていると言ったが……その呼んだ人間も似た魔力を感じると言うのか?」
「はい! 私達に似て、より高い魔力を感じるんです」
「すまないが……これ以上、勇者隊候補が増えるというのも、ややこしくなる。君の選定を終えてから、紹介していただけたら助かる」
「すいません……もう、近くに来てます」
「なんだって!?」
「ラブ、私をこんな所に呼び出して、どういうつもりだい?」
戸を開けて入ってきたのは、1人の少女だった。髪をポニーテールにし、狐のような顔立ちは、妖艶な色香を感じさせる。
「この人が勇者隊候補の方です!」
ラブが、嬉しそうに手を差し伸べるその少女は、ラブの友人のように思えるのだけれど。
「その方は……君の仲の良い友人に思えるんだが……」
「そうです! 私のクラスメイトのポイズン・スパイダーさんです!」
「君には理解できないと思うが……勇者隊は楽しい部活でも研究会でもない……本当に世界を救おうと思っている人間達の、集まりなんだ。君はこれが何に見える?」
イブフェアリを指さすフレンズに、ラブは首を傾げる。
「私には妖精さんに見えます……もしかして他の人には違う風に見えるんですか!?」
「そうじゃないが……君はこの浮遊している妖精を信じられるか、という話なんだ」
妖精が当たり前のように言うラブに、頭を押さえるフレンズ。
「ラブ、こいつらはなんだい? お前と同じで、頭の悪い連中じゃないだろうね?」
「違います! この人達は世界を救う方達で……え~と、具体的に何をやる方なのでしょう?」
「分からないで……入りたいと思ったのか?」
頭を押さえるフレンズ。
「僕達は魔王理事長ルシファーと、その配下と戦おうとしているんだ……ラブが入ってくれるなら助かるよ」
僕は笑顔で、ラブの手を取る。
「魔王理事長ルシファーと戦うだって!? あんたらは、とち狂ってるのか! あれはホワイトハウスを襲ったテロリストだ! ラブを危険な目に合わせるなら反対だよ!」
「ポイズンさん、はじめまして……私は神の代行者、妖精のイブフェアリです。ラブさんは、勇者の生まれ変わりである魔法少女ガンバレヨである可能性があるの」
「人形? これはどういうカラクリなんだい?」
イブフェアリは、一から説明を始める。勇者隊の事……僕達が勇者の生まれ変わりであり、聖石の力で変身できること、魔王理事長と部活魔と戦っているという事を……
「……信じがたい話だけどね……魔王理事長ルシファーの存在自体は真実だし、浮遊する人形など、今の時代にはあり得ないからね」
ポイズンはイブフェアリを見て、ため息をつく。
「私は人形じゃないよ! ポイズンさん!」
人形と言われて、膨れ面のイブフェアリ。
「ポイズンで良いよ……ラブは分かったのかい? 今の話?」
「何となくですが、分かりました……私もラブで良いですよ。イブフェアリさん」
「分かった。よろしくねラブにポイズン」
「でもね……今の話が本当なら、ラブを危険な目に合わせる訳にはいかないよ。私が代わりにやる事で、何とかならないかい?」
「イブフェアリ、ラブが、ポイズンに感じた魔力って……いったい?」
僕が聞くと、イブフェアリは腕を組み、悩むような素振りを見せる。
「はっ!? このプレシャーは!? ポイズンか!?」
イブフェアリの髪の毛の1本が逆立つかと思えば、ふにゃりと崩れ落ちる。
「まさかイブフェアリ、ポイズンも勇者隊ガンバレヨの可能性があるって言うの!?」
しばらく間が空いた後、イブフェアリは、アホの子供のような顔になる。
「ポイズンはガンバレヨじゃないかな?」
「イブフェアリセンサーは、やっぱりポンコツなの」
呆れ顔のギブア。
「私にも、力があるなら、その聖石を見せておくれよ。もしかしたら、変身できるかもしれないよ」
「う~ん……例え、勇者隊の力があったとしても……変身できないんじゃないかな?」
「なぜだい? あんた達はその聖石というので、変身できるんだろ?」
「勇者隊が変身する力は心だからね……例えば、勇者ガンバレヨは勇気、戦士ガンバレヨは努力、弓士ガンバレヨは友情というエネルギーで、変身するの。何かに戦うという意識が無ければ、聖石はその効力を発揮しないの……ちなみに魔王理事長ルシファー達が使う魔石は、悪意で変身するの」
「持つぐらい良いでしょ? ドジなラブよりは役に立つはずよ」
「駄目だよ。貴方が魔石を持つ部活魔四天王という可能性は、捨てきれない……認められたければ正義の心を見せて!」
ポイズンが、悔しそうに舌打ちをする。
「正義の心って、何さ?」
「どうすれば、聖石を持つ者として認めてくれますか?」
ラブが真剣な眼差しで、イブフェアリを見る。
どうやら、ラブは本気で、勇者隊になりたいようだ。
「そうだね……じゃあ、貴方達が奉仕と思われる活動をやってもらおうかな。私はそれで判断するよ」
「正義の心って、そんなもので測れるものなのかい?」
「う~ん、それは貴方次第かな……偽善者かどうか分かるしね」
「そう……あんたは私が偽善者とでも言いたいようね?」
睨むように見るポイズンに、イブフェアリは笑う。
「ちょっとイブフェアリ……」
「良いわ……私とラブで、奉仕活動をすればいいのかしらね? 期限は?」
「無期限かな? 私が良いと言うまで、やってもらうよ」
「それで良いわ……あんたも大丈夫なのねラブ?」
「はい!」
イブフェアリが提案したのは、ラブとポイズンが独自に奉仕活動をし、評価を得たものが、聖石を触る権利が得られるという事だった。ラブはボランティア、ポイズンは悩み相談室を開いた。
ポイズンは、裁縫部という事もあって、部室が相談室となった。
僕が部室に行くと、ポイズンの毒舌が聞こえてくる。
『あんたは言葉を喋る度胸すらないのかい? うじうじして何も言えないんだろ?』
『言えるさ! 告白ぐらい!』
『だったら、ちゃんとしな! 彼女の前で自分の気持ちを言うぐらいできるだろ!』
『ああ……分かった……彼女の前で言ってみせるさ!』
1人の男子生徒が、部室から飛び出してくる。
「相談室は好評のようだね……ポイズンさん」
部室はソファと机とテーブルがあり、リラックスできるスペースがある。
「恋やイジメから、進路相談まで、なかなか多くてね」
「ポイズンさんは、裁縫部なんだね」
アラクネが裁縫部という役職を持っていた……もしかして彼女が……
「ああ……卒業した先輩に部活を引き継いで欲しいって言われてね……仕方なくね。あれさ」
ポイズンは、棚に飾ってある写真立てを指さす。
写真立てには、ポイズンとセーターを着た少女が映っていた。この先輩が裁縫部アラクネっていう可能性も、ありそうだけれど……
「ラブはボランティアって言ってたけど……大丈夫かな?」
「どうだかねぇ……あんなとろい奴にボランティアなんて勤まるのかねぇ……それよりも、ブレイブには、悩みはないのかい? 聞いてあげるよ」
「僕には……」
「迷うぐらいならあるんだろ? しょうがないねぇ」
戸惑う僕の手を引き、ポイズンは対面するソファに座らせる。
「悩みなんかないよ……今が、楽しいと思ってるからね」
僕は笑顔で答えた。
それは、本音でそう思っている……イブフェアリ、ギブア、フレンズと出会えて、今では学校生活が本当に楽しいとさえ、思えてきているのだ。
「嘘だねぇ……あんたの目からそうは思えないね」
「えっ?」
「友人の事で、悩んでいるんじゃないかい?」
「調べたんですか?」
そうじゃなければ、ポイズンはエスパーなんじゃないかと、疑う。
「経験からさ、元は生徒会に所属していてね。生徒の悩みをよく聞いていたものさ」
「そうだよね……でも、相談できるほどの話じゃないよ」
まさかその友人が、魔王理事長ルシファーだなんて、言えるはずがない。
「当ててあげようか? 喧嘩別れした友人でもいるんだろ? あんたみたいなタイプは、そういった奴が多かったよ」
「ポイズンさんには敵わないな……僕には凄く頼れる友人がいて、その彼はよくピンチの時に僕を助けてくれた……僕は彼が、ヒーローのように思えていた。けど、違ったんだ……気づけば、彼は人を傷つける方法ばかり、取るようになっていた」
「それは、あんたに原因があるんじゃないかい?」
「僕に……?」
「こっちへおいで……ブレイブ、よく聞こえる場所で話してあげるよ」
僕は言われるがままに、ポイズンのソファに座った。
「ここで良いのかな?」
ポイズンが僕の肩を掴み、寝かせる体勢にすると、そのまま膝枕にする。
「これはなに? ポイズンさん?」
「この方が安心するだろ?」
ポイズンが、僕の頭を優しく撫でる。
「で、でも……この態勢はちょっと……」
「あんたの友達っていうのは多分……本当は仲良くなりたかったんじゃないかい? 悪どい事をしてでも、叶えたい野望があったんだ。ちゃんと理由を聞いて付いて行くべきだったね」
「そうなのかな……僕には彼がやっている事が理解できないんだ」
「彼の言う事に少しは耳を傾けてみなよ……そうすればすぐに分かるようになるさ」
ポイズンの顔が間近に迫る。キスしそうな程に近い、それに気のせいか、何処からか伸びた細かい糸が身体に絡まっていく。それに……ポイズンの口から、大きな八重歯のような物が見え、首筋に迫った。
「ポイズンさん?」
「大変だよブレイブ!?」
その時、イブフェアリが大きな声を上げ、小窓から入ってくる。
「どうしたのイブフェアリ? そんなに慌てて……」
僕は起き上がり、イブフェアリの方へと向かう。その際に何処からか、舌打ちが聞こえたが、気のせいだろうか?
「ブレイブ! ラブが大変なんだよ!」
「もしかして、また部活魔が襲って来たんじゃ!?」
「とりあえずブレイブ、早く来て!」
僕は、ポイズンをちらりと見る。
「行ってきなよ……ラブが大変なのはいつもの事だけどね」
ポイズンは何かを思い出したかのように、頭を押さえる。
「えっ?」
ポイズンに何か、心当たりがあるのだろうか?
「ブレイブ、早く!」
「ごめん! ポイズンさん! また、後で!」
イブフェアリに言われるままに、僕は駆け足で追いかけて行く。
ラブに、何があったのだろうか? イブフェアリが向かう先は、中庭のようだが……
「た、助けてください!」
何処からか、ラブの悲鳴と、鳥の鳴き声が聞こえた。
まさか新たな部活魔の襲撃!?
そこには尻もちをついたラブが、数羽のニワトリにつつかれ、襲われていた。
「ラブ、助けを呼んで来たよ!」
「イブフェアリ、どうしてこんな事に……?」
「ブレイブ! と、とりあえず助けてあげて!」
「助けるって……どうやって?」
「捕まえてください!」
「イブフェアリ! 誘導をお願い!」
「任せて! イブフェアリキ~ック!」
出た! イブフェアリが得意とする必殺キックだ。このキックは教室に出たネズミを追い返し、クラスの一躍ヒーローになった事がある。
ニワトリの尻目掛けて、キックをかますイブフェアリだったが、イブフェアリキックには、鳥類を誘導する力はなかった。ニワトリに睨まれるだけだった。
「そんな!? ネズミを追い返した、イブフェアリのキックが効かないなんて!?」
考えてみれば当たり前だ……イブフェアリと同じサイズの小動物ならともかく、ネズミの倍以上の鳥類に効くはずがなかった。
ニワトリの飛び蹴りによって、イブフェアリが空高く舞い上がる。
「あれ~」
「イブフェアリ!?」
「あ、え~と……餌で誘導しましょう。その方が早いかもしれません」
「うん、そうだね」
ラブの言う通り、僕は餌で誘導し、数羽のニワトリを何とか捕まえ、鳥小屋へと戻す。
「いったい何があったの?」
「ボランティアです……本当は逃げたのは1羽だったんですけど、小屋に入れようとして、他のニワトリさんも逃げてしまって……」
「そっか、大変だったんだね」
ラブなりの人助けといったところだろうか……けど、よく転んだり、ドジばかりしていて頼りない……まあ、人の事は言えないけれど。
「助けていただいてありがとうございます」
「ボランティアって、他には何をやっているの?」
「ゴミ拾いから、迷い犬さんや猫さんを探したり……教会の子供達と遊んだり、老人ホームで手品をやったりします……そういえば、学校でのボランティアは初めてでしたね」
「それって、普段やっている事なの?」
「はい! 私はこれでも魔法少女を、目指してますから!」
魔法少女って……この子は天然なのだろうか?
「凄いね……僕も正義のヒーローには憧れていたけど、そこまではできないよ」
でも、よく考えれば、この子は僕ができなかった行動を実践しているのだ。それだけで、本当に凄いと感じる。人助けなんて、普段からできるものじゃない。普通の人なら、どこかで苦痛に感じてしまい、続ける事ができずに挫折してしまうだろう。
「いいえ、ブレイブさんは私より凄い人じゃないですか。だって、その力で多くの人を救ってきたんですよね? 皆さんに感謝されたんじゃないですか?」
笑顔で言うラブ。恐らくは想像で言っているのだろう……残念ながら、僕達は感謝された事なんてなかった。僕達の戦いを知る者は、誰もいないのだ。この戦いを知ったのなら、大騒ぎになり、魔王理事長ルシファーのように恐れられる可能性もある。アメリカが、バベル帝国になった今、警察機関ですら、敵になっている可能性もあるのだ。
「僕達……勇者隊ガンバレヨは感謝されないよ……陰ながら戦っているんだ……見返りなんていうものも無いし……魔王理事長ルシファーを倒したとしても、逆に僕達は恨まれてしまうかもしれない……それでも、ラブは勇者隊をやりたいと思う?」
ラブは笑顔になって、僕の手をとる。
「じゃあ、私がやっているボランティアと同じですね。ボランティアに見返りなんてものはありません。感謝されるかどうかも分からないですし、失敗すれば、皆さんに睨まれてしまいますね」
「でも……戦いだよ。怪我をしたり、壁にぶち当たったりするかもしれない」
「そんなのいつもの事ですし、慣れていますよ」
よく見れば、ラブの頬から、手や膝は傷だらけだった。転んだと思われるかすり傷から、痣、噛み傷や爪痕、身体には痕がちらほらと見えた。
この娘には、本当にガンバレヨの素質があるかもしれない。僕以上に……
「良かったらだけど……僕もそのボランティアを手伝わせてくれないかな」
「本当ですか! 嬉しいです! まだ、お手伝いがたくさんあって、困っていたところなんです」
「えっ? 他にどういったお手伝いが残っているの?」
「え~とですね。ジュースの買い出しに、ボール拾い……ごみ捨て、日直の代行……それから……学校のボランティアって、こんなに大変だったんですね」
ラブが手帳を見て、確認する。
「それ全部……騙されていると思うよ……ラブに仕事を押し付けてるだけだよ」
「そうなんですか? ボランティアをしたいって言ったら、皆さん手伝って欲しいって言われたんですよ……学校の皆さん、困っている人達ばかりですね」
笑顔でそう答えるラブに、非常に不安を感じる。この娘は本当に大丈夫なのだろうか? 下手をすれば、部活魔どころか、普通の人でさえ、簡単に騙されてしまいそうだ。
「ラブは、少しは人を疑った方が良いと思うよ」
「えっ? 誰が誰を騙しているんですか?」
ラブのその返答に、僕はため息をつくしかなかった。
「心配して来てみれば、その傷……思った通りだったね」
声をかけ、歩み寄ってきたのはポイズンだった。
「この傷はですね……草原を駆け抜けていたらこうなりました!」
「草原が何処にあるんだい! また、人助けで失敗したんだろ?」
「ごめんなさい……ニワトリさんにやられました!」
「そうだと思ったよ……ちなみに、あんたが引き受けた仕事は、私が代行したよ」
ポイズンがため息をつく。
「……ご迷惑おかけしました」
「ラブ、あんたが引き受けた仕事……全部、騙されているよ!」
「騙されてなんかいません! 私は皆さんのお役に立ちたいんです!」
「ラブ! あんたの頭は本当にイカレているのかい! ニワトリはともかく、ジュースの買い出しや、ボール拾い、ごみ捨て、日直の代行なんかが、人助けかい! そんなの只の召使いだよ!」
ポイズンの言葉には棘がある。けれど、それは本当にラブを思っての、発言のように思えた。
「ポイズンさんには、分からないかもですが……これは私が好きでやっている事なんです! 口出しは不要です!」
「ラブ、あんたは人助けを本当に分かっているのかい! 人助けの失敗は自分も他人をも不幸にする。それをあんたは、理解していない!」
「せ、成功はしています!」
「見ていたよ……本当にニワトリを捕まえるのは、成功しているのかい! ブレイブに迷惑をかけた事が、成功なのかい? ニワトリにつつかれて、怪我をしたのが、成功なのかい?」
「今は駄目かもしれません……ですが、1人でも、人助けができるように、日々の努力は惜しまないつもりです!」
「いつかあんた他者を巻き込んで……自分を殺す事になるよ! そしたらどう責任とるつもりなんだい? そんな中途半端な人助けなんて止めな!」
「そんな失敗はしません……努力して頑張り続けます!」
「頑張るだけじゃ駄目なんだよ! 成功させな!」
「……はい」
うつむき、泣きそうになるラブ。
「ポイズンさん! さすがに言いすぎだよ!」
「本当の事を言ったまでだよ……こんな奴に正義の味方やら、ヒーローなんかは、できないね! こいつは、人を不幸にするだけの自殺志願者さ! そんな奴に、勇者隊ガンバレヨをやらせるべきじゃないよ!」
「それは僕にも分からないし、僕が決める事じゃない……イブフェアリが決める事だよ」
「ラブの行動を見て分からないだって? あんたには意見っていうものが、無いのかい? ブレイブ、あんたの見解はどうなんだい?」
ポイズンが睨み、僕の顔の間近にまで迫る。
「ラブには素質があると思う……でも、ポイズンさんには、それはないよ」
「ふぅ……木にぶつかって目を回してたよ……ブレイブ、どうしたの? 空気が重くない?」
イブフェアリが、パタパタと羽を動かし、こちらに向かって来る。
「友達として、私はラブを傷つけたくはないんだ……分かるだろ?」
「私はポイズンさんと何と言おうと、ボランティアも勇者隊も諦めません!」
「勝手にしな!」
ラブを睨んだ後、ポイズンは踵を返し、去っていく。
「どったの?」
泣きそうになるラブに、イブフェアリは首を傾げる。
「私……ポイズンさんに……認めてもらいたかったんです」
「う~ん……やっぱりライバルと一緒だと、トラブルになるのかな? ラブの判定はブレイブに頼んで大丈夫かな?」
なぜか、イブフェアリの表情がにやけ顔になる。
「無理だよ。僕には判断能力は無いし……」
「私はポイズンの方を見なければいけないからね。ブレイブ、ラブの判定は、直感的なもので大丈夫だよ……ラブもそれで大丈夫?」
「はい! 私はそれで大丈夫です! ブレイブさん! 判定の方をお願いいたします!」
「分かったよ」
本当に僕で、大丈夫なのかな?
「ついでにデートをすれば良いじゃないかな?」
イブフェアリの言葉の後、殺気のようなものが、僕の身体を突き抜ける。
「この……泥棒猫め!」
なぜか分からないが、学校の木の陰に隠れたギブアが怒りの目を向けている。
「これは判定で……」
「ボクというものがありながら……君は!」
ギブアの隣には、フレンズも居た。
「え~と……」
イブフェアリが、嫌な顔で舌打ちをする。
「大丈夫です! ブレイブさんには迷惑をかけません! 真面目な奉仕活動をさせていただきます!」
敬礼するラブに、皆が茫然とする。
「真面目なのは良い事……ラブは偉い」
ギブアはラブに近づき、肩を叩く。
「そうだ! 勇者隊の近道は奉仕活動が一番だ」
フレンズが腕を組み、納得したように答える。
「え~と……勇者隊って、奉仕活動やってたっけ?」
首を傾げるに僕に、ギブアとフレンズが僕の口を塞ぐ。
「何を言ってるんだブレイブ! 勇者隊は毎日のように、奉仕活動をやってるじゃないか」
「そう! 勇者隊は、地道な事からじっくりコトコトと……煮込んだスープのように……」
どうしたんだろう2人とも。
「やっぱり勇者隊は素晴らしいです! 真面目に、奉仕活動をやらせていただきます!」
「あ……うん」
勇者隊って、戦う事しかやってない気がしたんだけどな。
僕はラブとアーケードで、待ち合わせをした。
ラブからは、ゴミ拾いをするので、汚れない服装でと言われたので、Tシャツにジーンズといったもので、来たのだけれど。
「お待たせしました!」
声が聞こえ、振り向くと、綺麗なワンピース姿のラブを発見する。
「ごめん……ゴミ拾いって、聞いていたのだけれど」
服装を見て言うと、ラブは慌てたように答える。
「あ、これは気にしないでください……ボランティアの方に貰った物で、着ないと申し訳ないと思ってですね」
赤くなって答えるラブ。
制服ばかり見ていたからだろう。私服のラブは新鮮に感じる。
「何処に行こうか?」
「それじゃあ、この商店街からゴミを拾っていきましょう!」
ラブが、笑顔でゴミ袋と、ゴミばさみを掲げる。
やっぱり遊びに行くという事では、無さそうだ。
それから僕達は、街でゴミ拾いを始めた。
ラブはゴミ拾いだけでなく、行き交う人々に募金を求めた。募金は教会にいるペットの為と、恵まれない人達の為に使われるらしい。
ラブはみんなに笑顔を向け、時には道案内をし、信号を渡る老人の誘導を行うなど、本当に人助けに積極的だった。
「そろそろ休憩にしよう……お腹も空く頃なんじゃないかな?」
「大丈夫ですよ。まだ、続けられます……ブレイブさんは先に休憩してください」
ラブのお腹の音が、豪快に鳴り響く。
「無理しちゃ駄目だよ、あそこのファミレスに入ろう」
「ご、ごめんなさい」
ラブは顔を赤らめる。
「あ、でもですね……お金を持ち合わせていなくてですね」
「僕が奢るよ……それなら一緒に食べられるでしょ?」
「本当に良いんですか?」
「うん」
戸惑うラブを連れ、僕はファミレスに入った。
「本当に、何でも頼んで良いんですか?」
「どうぞ」
ラブは、嬉しそうに笑う。
「ファミレスって、初めてなんです」
「えっ? ファミレスに一度も行った事ないの!?」
「お父さんも、お母さんも、人助けで大変で……行く暇も無かったですし、犬さんや猫さん達の為には、無駄遣いできません」
「どうしてラブはそこまでして、人助けをするの?」
「私はテレビで見る魔法少女に憧れていたんです。魔法の力で、人を助けられたらって、思ったんです。マジカル×リリム、可愛くて素敵ですよね」
確かマジカル×リリムって、悪魔の力で魔法に目覚めた少女だったような……聖職者が悪魔を崇拝して大丈夫なんだろうか?
「マジカル×リリムって、可愛いよね。僕も子供の時に見てたよ」
「本当ですか!」
目を輝かせて言うラブ。
「うん、感動できるシーンが多くあったから、よく覚えてるよ……世界を救う為に悪魔に願い、魔法少女になったシーンは感動的だったよ」
マジカル×リリムを夢中になれるのも、理解できる。残虐性のある表現はあるものの、感動できる物語で、大人や子供にも人気で、視聴率が高かった。
「感動的ですよね。リリムは、悪魔になっても、魔法少女であり続けた」
「お決まりですか?」
ウェイトレスが笑顔で、尋ねる。
「ブレイブさん、本当に何でも良いんですか?」
「お小遣い貰ったし、大丈夫」
「今日は魚の日ですから、シーフードーピザが良いですね」
確か教会では、イエス・キリストが十字架にかけられた日は、鳥獣の肉は禁止だったと聞いた事がある。だから今日は、魚の日なのかもしれない。
「じゃあ、僕はハンバーグテーキと、フレンチサラダかな」
料理はラブと話をしている間に、頼んだシーフードピザが先に来た。
「では、先にいただきますね」
ピザを食べ始めるラブ、僕の頼んだ品、サラダすら先に来ない。そのせいか、お腹がぐうぐうと鳴っている。
僕は恥ずかしくなって、ラブから顔を逸す。
「と、トイレに行こうかな」
「ブレイブさん、食べますか? あーんしてください」
ラブが、ピザを咥え、僕の口に近づける。
「えっ?」
お腹が空いていたせいだろうか、僕はラブに言われるまま、口を開けた。
ピザを僕が頬張ると、ラブが至近距離まで食い進んでくる。
僕は慌ててピザを噛み切り、顔を離すと、チーズが糸を引いた。
「残念です。あと、もう少しでブレイブさんに辿りつけたんですが……」
「ちょっとラブ!? 人が見てるし……」
周りの嫌な視線が僕を射抜くようだ。にやけ顔の子供達や、嫉妬の眼差しで見る男子高校生の視線が気になる。
「ご、ごめんなさい!? 犬さんや猫さんにも同じ事をやっていたのでつい……」
ラブも周りに気づき、頬を染める。
それから、遅れてから料理の品は来たけれど、気まずい食事となった。
食事が終わると、僕とラブは再び、アーケードの方へと戻る。
「じゃあ、始めましょうか?」
「やっぱりゴミ拾いを始めるんだね」
「もちろんです」
「どんどん拾いましょう!」
「ラブ、人が多い所に行くと……」
「きゃっ!? ごめんなさい!?」
歩道で歩いていた、モヒカンに黒革ジャケットの連中に、ラブの身体がぶち当たる。
「何処を見てるんだお嬢ちゃん」
目つきの悪いモヒカン達に、囲まれるラブ。
「あわわわっ!? ごめんなさい!」
「ぶつかったお侘びに、俺達に付き合いな」
「やめろ! ラブに手を出すな!」
僕はラブの前に出て、身構える。
「何だお前? お前の彼女か?」
「だったらどうする?」
「どきな! チビ!」
僕の目の前に拳が迫る刹那、身をかがみ、殴りかかったモヒカンAにアッパーを食らわす。
「野郎!」
モヒカンBが、懐からバタフライナイフを取り出す。
「そんなものを街中で、出すな!」
僕は瞬時に足刀蹴りでバタフラナイフを落とし、右のジャブで顎を狙い、打ち倒す。
「何だこいつ!?」
「こいつ!? 金髪にこの背丈の低さ……スラムのブレイブだ! アイアスの盾の異名を持つ……」
「ブレイブ? サタンナイツの……スラムのギャングが何でここにいる!?」
「逃げるぞ!」
モヒカン達が、一目散に逃げ帰っていく。
「ブレイブさんはお強いのですね……しかも、元不良さんだったんですか?」
僕がギャングというのは間違いではない。噂で、不良達に恐れられていく内にサタンと僕が作った人助けの組織は、自然とギャング団になってしまったのだ。
「そうではないんだけど……僕達の組織は差別されたり、弱い立場の人間を救う為に結成された組織なんだ。喧嘩の仲裁だったり、時にはギャングと戦ったりもしたかな」
頭を掻く僕に、ラブは呆然とする。
嫌われてしまうだろうか? 生徒会長の女の子を助けた時には、僕をギャングと勘違いしたまま、そのまま嫌われてしまった。
「なかなかの武闘派組織なのですね」
ラブの身体が小刻みに、震えている。
やっぱり駄目だったかな。
「その……僕とあまり付き合わない方が、良いかもしれない……いろんな人に狙われているのも事実だし」
「大丈夫です。私もスラム育ちだったんです……少し、昔を思い出してしまいました」
「昔?」
「不思議ですね……ブレイブさんとは、初めてではないような気がします。子供の時に、ブレイブさんのように、助けてくれた人がいました」
そう言えば、ラブと何処かで会った事があるような……
スラムに確か……シスター服を着た、小さな女の子がいた。
「思えば……それが人助けのきっかけだったかもしれません。子犬を虐待している男の子達がいて、止めようとしたら私も危ない目にあって……でも、男の子が助けてくれたんです……ハトさん?」
「ブレイブ・ハートだよ。その呼び方、誰かと思えば……マリアだったのか? 名前を変えたの?」
「ハトさんは、ブレイブさんだったのですね。これで納得いきました……お父さんの方針でして、子供の時まではマリアという、ミドルネームを使ってました」
「どうしよう、マリアと呼んだ方が良いかな?」
「ラブで良いですよハトさん。マリアだと、聖母様の名前なので、落ち着かないんですよね……私もブレイブさんと呼びますね」
「そうだね。それにしても驚いたよ……ラブが、マリアだったなんて……」
「運命の出会いですね……これからもよろしくです」
ラブは満面な笑顔を向け、手を差し出す。
僕は笑顔を返し、ラブと握手を交わした。
昇降口の前で、僕達は立ち止まる。
「雨が降ってきたねブレイブ」
気づけば、雨が降っていた。天気予報では、雨と言っていたので、傘は忘れていなかったけれど、ポイズンと争った後だったので、少し憂鬱な気分になる。
「ギブアとフレンズは?」
「ギブアは部活の応援……フレンズは宿題があるって、帰ったよ」
「そっか……じゃあ、僕達だけだね……一緒に帰ろうラブ」
「はい! 一緒に帰りましょうブレイブさん……あっ! 傘がありません……」
イブフェアリは、大きな葉を傘がわりにし、踊るように宙を舞っていた。
「ブレイブ、入れてあげれば……」
ニヤニヤとした、イブフェアリが言う。
「分かったよ……ラブ、入って……」
「し、失礼します!?」
僕と傘をさし、ラブを入れてあげる。ラブはなぜか頬を染めていた。
「顔が赤いけど……ラブ、風邪ひいた?」
「いいえ……男の人に、こうやってもらったのは初めてだったので……」
「えっ?」
雨が降る中、僕とラブは、アーケードに向かう通学路を歩いた。その間、なぜかラブは恥ずかしそうに顔を背けていた。
「何か聞こえませんか?」
ラブに言われて、耳をすますと、雨音に混じって、ニャーニャーと、子猫の鳴き声が何処からか、聞こえてくる。
「子猫かな? 捨てられていたら可哀想だけど……家では拾えないな」
「大丈夫です! 私が拾えます」
嫌な予感がして、とりあえず聞いてみる。
「ラブは何匹……猫を飼っているの?」
「猫が10匹……犬が5匹です!」
「それは大丈夫なの?」
「家は教会なので、割と猫さんや犬さんがいても、困らないんですよ」
神父さんの娘さんなら、こういった善行は理解できるけれど、だけど、その行為は自己犠牲が強いような、気がするのは気のせいなのだろうか?
「そっか……それで……」
「魔法少女の影響もありますけど、お父さんは神父さんで、お母さんはシスターさんなので、そういった影響もあるかもしれませんね……私はお父さんと、お母さんを超えて世界を救う魔法少女になりたいんです!」
この娘には本当に敵わないな……変身しなてくても、愛をふりまけるのだ。
「猫の声、この辺で聞こえたよねブレイブ?」
イブフェアリが高度を上げ、周囲を見回す。
「そうだね……逃げちゃったのかな?」
子猫の影や、ダンボールすらない。
「ブレイブ……この先って、川だったよね?」
「イブフェアリ、もうちょっと高度を上げてみて」
「分かった」
イブフェアリが、徐々に高度を上げていく。
「どう、イブフェアリ!」
高度を上げ、豆粒くらいになって見えるイブフェアリに向かって、声を上げて言う。
「川の岸にダンボールが引っかかってる! あれは……大変!? ブレイブ! ダンボールの中に、入っているのは子猫だよ!」
「誘導してイブフェアリ!」
「うん、分かった!」
僕の言葉にイブフェアリは急降下し、前を突き進む。
「待ってください!」
後ろから駆けてくるラブが、つまずいて転ぶ。
僕は慌てて、ラブを助け起こす。
「ラブはここで待っていて、僕が助けるから」
「でも、猫さんが」
僕の頭の中に、ラブが足手纏いになるのではないかと、考えてしまう。できれば、ラブのサポートをしてあげたいのだけれど。
転んで、ラブの足が擦り剥け、血が流れ出してしまっている。
「ブレイブ! 川の流れが思ったよりも速い! 子猫が流されちゃう!」
この雨だ……下手をすれば、ラブの足が化膿してしまう。
「イブフェアリ! ラブの治療をお願い!」
「ラブ、こっちに来て!」
治癒の為に、羽の一部を千切るイブフェアリ。
「私なんかより……子猫さんを助けてあげてください! 命は一つしかないんです!」
川の方へと、駆けようとするラブを僕は抱き締めるように、静止させる。
「確かに子猫も大切な命だけれど、ラブの方も心配だよ」
「でも……」
「僕、1人で大丈夫だから……お願い待ってて」
ラブを頷かせるのを確認すると、僕は子猫の鳴き声を頼りに川岸へと駆ける。
(聞こえるブレイブ?)
僕の脳内に響いてくるような、イブフェアリの声が聞こえる
確か、イブフェアリが聖石を持っている者であれば、テレパシーのように相手が強く思っている事を聞けると言っていたけれど、、これがそうなのか?
「うん、聞こえる」
(そこから南南西に向かって! そこから土手に上がれる道に入れるはずだから)
「ありがとう」
僕の脳内に地図のようなものがイメージされ、ご丁寧に矢印まで道標を示している。
「この脇道を行けば土手?」
脇道を抜けると、土手を上がる石段が見えた。
僕は一気に石段を駆け上がる。
土手から見下ろすと、子猫の入ったダンボールが岸の岩場に引っかかっていた。イブフェアリが言っていたように、川の流れが速い。下手をすれば、子猫が入ったダンボールは、水を吸って沈むか、流されてしまいそうだ。
「あれだね……すぐに助けないと」
僕が石段を飛び降り、駆けようとした時、声が聞こえた。
「ブレイブさん!」
ラブが、イブフェアリと共に土手を上がってくる。
「ラブ、どうして!?」
「ごめん、ブレイブ。止めたんだけど、ラブがどうしてもって、聞かなくて!」
「大変です! 子猫さんが流されそうです!」
ラブが石段を降りようと、足を踏み出した途端、つまずき、転がり落ちていく。
「ラブ!?」
「ご、ごめんなさい!? また、ドジやっちゃいました」
ラブに駆け寄り、助け起こす。今度は下が草だった為に、足に傷は負っていないようだが、まずい……このままでは本当にラブの身が危険かもしれない。
「……本当に大丈夫だから……見ていて……」
「こ、子猫さんが!?」
子猫が入ったダンボールが流されていく。
「まずい!?」
僕は懐にあった聖石を取り出す。
この川の流れだ……変身してどうにかなる問題なのか? 戦闘に特化した魔法しか使えない僕には……
「大丈夫です! 私が行きます!」
迷っている僕よりも早く、ラブは駆け、川へ飛び込んでいた。
自殺行為だ!? なぜ、あんな事を!?
猫が入ったダンボールが水を吸い、ずぶずぶと沈んでいく。だが、同じように流されていくラブが子猫を受け止める。
「イブフェアリ! 誰でも良い! 近くにいる人を呼んできて! 911もね!」
「うん!」
僕の指示で、イブフェアリが飛び、大声を上げ、助けを呼び始める。
ラブと子猫は川の勢いに任せて、流されていく。このままじゃ、ラブまでもが、危ない。変身すれば、身体能力は上がる……泳いで何とかなるかもしれない。
「ジョブチェ……」
「変身の必要は無いよ!」
振り向くと、ポイズンが川へ飛び込んでいた。
「ポイズンさん!」
「ブレイブ! 浮き輪を持ってきたよ!」
イブフェアリが、街の人達を連れ、浮き輪を持ってくる。
「助かったよイブフェアリ!」
「妖精! 浮き輪をよこしな!」
いつの間にか、ラブと子猫を受け止めたポイズンが、叫ぶように言う。
「受け取ってポイズンさん!」
イブフェアリが飛び、ポイズンに浮き輪を渡す。
流されながらも、ポイズンはラブに浮き輪をさせ、子猫を肩に乗せ、捕まる。
「引っ張りな妖精!」
ポイズンの指示で、イブフェアリが浮き輪に繋がれた綱を引っ張る。
「イブフェアリパワーMAX! ファイト一発!」
気合の声と共に、イブフェアリの身体が赤く発光し、物凄い力で引っ張っていく。
「ブレイブ! 妖精が川岸まで近づいたら、みんなに縄を渡し、引っ張るんだよ!」
「うん! 分かった!」
イブフェアリが、川岸まで到達すると、僕はイブフェアリから縄を貰い、街の人達に引っ張ってもらうように指示する。
「みんな! 掛け声を上げて! えいおー! えいおー!」
イブフェアリの指示で、みんなが縄を引っ張り、えいおー、えいおーと掛け声を上げる。
僕達と街の人達の力で、浮き輪はグングンと岸の方へと、引っ張られ、何とかラブと子猫を救出する。
膝をついて咳き込むラブに、ポイズンは睨むように見下ろす。
「ラブ! また、無茶やったね!」
「……すぐに助けないと、子猫さんが危なかったんです!」
顔を上げるラブに、ポイズンは平手打ちをする。
「子猫より……あんたの方が死んじまうよ!」
その様子を見た、街の人達がざわめき始める。
「誰かと思えば……ラブさんとポイズンさんか……」
「呆れた……いったい何回……人を呼べば気が済むのかねぇ……ポイズンさんにもいつも迷惑かけて……」
「あの子……魔法少女をなりたいから、こんな事をしているんですって……気が狂ってるわ……」
「火事が起きた家の中に飛び込んで、消防士さんに大火傷させたって……強盗事件が起きた時には飛び込んで……警察官が身代わりなって、撃たれたって話だよ……」
街の人達がため息をつき、帰っていく。
「自分の命を粗末にする人間に人は救えやしないよ! あんたに勇者隊になる資格はないよ!」
うつむくラブの瞳には、涙が溢れる。
「言いすぎだよポイズンさん!」
「あんたも聞いただろ! こいつの人助けは、只の自己犠牲なんだよ! 誰の助けにもなっていない! それどころか、迷惑と思っている奴がたくさんいるんだ!」
「ごめんなさい!」
ラブが子猫を抱いたまま、逃げるように駆けていた。
「待って! ラブ!」
追いかけようとするラブに、ポイズンは静止させる。
「待ちなブレイブ! ラブは本当に勇者隊にふさわしいと思っているのかい! 仮にラブが本物の勇者隊だったとしても、あんた達の足を引っ張るのは確実だ! それでもラブを仲間に引き入れるのかい!」
「確かにラブは足手纏いになるかもしれない……でも、ラブの人を助けようとする心を僕は信じたい」
「勝手にしな!」
「私はあっちを探すね。ブレイブは真っすぐの方向を進んでみて」
「うん、分かったよ……あれ? イブフェアリ、ラブじゃないかな?」
視線を逸らした隙に、イブフェアリは、いなくなっていた。
「もう……こんな時に!」
ラブを追いかけ、辿り着いた場所は廃墟となった教会だった。
しかし、廃墟となっているはずなのに、花壇には手入れがされており、色とりどりの花々が咲いている。教会の壁も壊れてはいるが、修復した形跡がある。ただ、プロのリフォーム業者がやったのではなく、素人が釘と板を使って直したような感じだ。
「……セントマリア教会」
さすがにラブの家ではないだろう……ところどころ玩具が散乱しており、教会という意図より、子供の遊び場、秘密基地といった所だろうか?
ドアを開けると、動物の匂いに、犬や猫の鳴き声がする。けど、室内は臭いという事は無い。飾ってあるラベンダーなどの花々で、匂いを打ち消しているようだ。
「わっ!?」
進むと、金茶のラブラドールレトリバーが、飛びつき、僕の頬を舐め始める。
「ブレイブさん!?」
ラブが驚いた表情で、僕を出迎える。
「ごめん……勝手にあがりこんで」
「大丈夫ですよ。ここは家というよりも、秘密基地なんです」
「ここは廃墟だったみたいだけど‥…」
「元はグランパ……おじいちゃんの教会だったんです。今は子供達の遊び場として、開放しているんですよ」
「結構、動物がいるみたいだけど……」
「奥に皆さんがいますよ……でも、驚きました。ラブラドールのフインは、人見知りさんなんですよ……それに黒猫のキッドも、あまり人には寄り付かないはずなんですけど」
足に毛がもさりと当たる感触がして、足元を見ると、僕のズボンの裾に、顔を押し付ける黒猫がいるのに気づく。
「そうなの?」
奥へと進むと、祭壇の周囲には、無数の犬や猫がいた。
「え~と……この数は猫10匹、犬5匹ではないと思うんだけど……」
「家にいるのがその数です……秘密基地にいるのが、猫20匹、犬10匹です」
笑顔で言うラブに不安を感じる。
「世話は大変じゃないの?」
「私と子供達で、楽しく遊んでいるので、苦にはならないですよ」
この教会で、ラブは子供達と一緒に犬や猫を世話しているんだ。
祭壇の中央の椅子に座り、ラブは子猫を抱き、優しく撫でる。
「水を飲んでいなくて良かったです……これもポイズンさんや、ブレイブさん達のおかげです……」
ラブはポイズンとのやりとりを思い出したのか、うつむき、潤んだ表情になる。
「ラブは悪くないよ……ポイズンさんの言い方も悪いよね」
「いいえ、ポイズンさんが言っている事は正しいんです……私はみんなに迷惑ばかりかけている事は確かなんです……それでも私は勇者隊になりたいんです! みんなの役に立つ力が欲しいんです!」
涙を流しながら、僕を見つめるラブ。
僕に決定権はないけれど、ラブの力になってあげたい……この子は本当に愛がある。勇者隊の素質がある、馬鹿な自分でもよく分かる。
「ポイズンさんとは仲が良いの? ラブに対しては、特に酷い言い方をしてるように思えるよ」
「昔はああでは、なかったんですよ。毒舌になったのは私のせいなのかもしれません……子供の時にトラックから、子供を助けようとしたんです……その時に頭を打って、脳震盪で入院してしまいました……それからポイズンさんは、人が変わったようになってしまいました」
「ラブのせいではないよ……人は大切な者を亡くしたり、なくしそうになったりすると……人は変わってしまうものなのかもしれない」
そう……サタンのように……
「何だいラブ……ここに居たのかい?」
ポイズンが、扉を開けて入って来る。
「ポイズンさん、ごめんなさい私……」
「その事かい、どうせあんたは、そうやっていつも私を困らせるんだ。馬鹿は治らないようだね……そんな事よりブレイブ、話があるんだけど良いかい?」
「僕?」
ポイズンが笑顔で、僕を手招きする。
「勇者隊の事でね。もっと寄ってくれないかい……ラブに聞かれるとまずい話でね」
ポイズンに歩み寄ると、突然、僕を抱き寄せる。
「あんたにラブは渡しやしないよ……勇者隊になられては困るんだ」
「えっ?」
「トランスチェンジ」
ポイズンの小声の言葉が何の事か、理解できなかった。そして次の瞬間、ポイズンの懐から何かが赤い光を放った。
「魔石の光?」
闇の衝撃波を生み、吹き飛ばされそうになるが、ポイズンが強い力で羽交い締めにし、それを許さない。
ところどころ解れた帽子、セーター、手袋と、白い蜘蛛糸で全身を包んだ編み物の服装は、裁縫部アラクネの姿だった。
「くっ……お前は裁縫部アラクネ!?」
「ゆっくりお眠り……」
アラクネが口を開くと、獣のような牙が剥き出しになった、
それが、僕の首筋へと迫る。
あっと! 思った時には遅かった……裁縫部アラクネの牙が首筋に突き刺さった。鈍い痛みと、燃え盛るよう熱さが僕を襲う。
僕は力なく倒れた。
「ブレイブさん!」
ラブに、裁縫部アラクネが唾を吐きかける。唾液は身体に当たり、糸状に広がり、繭のように包まれ、吊り下げられてしまう。
「ラブ!」
ラブを助けに立ち上がろうとするも、強烈な立ちくらみが襲い、僕は力なく倒れる。
「そこでおとなしくてな!」
「ジョブチェ……」
何とか手を動かし、懐をまさぐり、聖石を取り出すが、裁縫部アラクネの蹴りががそれを弾く。
「何をするんですか! ポイズンさん!」
熱が上がり、だらだらと汗が流れ、身体に力が入らない。まるで風邪が悪化したような症状。
「……毒か!?」
「ブレイブ、もうあんたは終わりかもね。変身しない状態では死ぬしかないね」
「ブレイブさん! 待っててください! 今、私が助けに行きます!」
ラブは、繭になった身体を動かすが、ゴムのように伸びて戻され、脱出は不可能のようだった。
「無駄なあがきは止めな!」
「諦めません!」
「今のあんたに何ができるんだい?」
ラブのもがいた腕が、光を帯び、糸の1本が弾ける。
「できます! 私は魔法少女です!」
「驚いた……変身無しでそんな力が使えるのかい」
ラブの自由になった手が、裁縫部アラクネに掴まれ、強く握られる。
「止めろ!」
僕は立ち上がり、近くに転がっていた野球ボールを投げる。
裁縫部アラクネは向かって来る野球ボールを破壊し、僕の腹を蹴る。
「ボールを投げるくらいの力は残ってたかい」
「ブレイブさんに乱暴は止めてください! どうしてですかポイズンさん? 貴方は、そんな悪い人じゃなかったはずじゃないですか!」
「私はね! 偽善ぶるあんたが大嫌いだったんだよ! 助けられてばかりで、人さえまともに助けられないあんたにね!」
「助けたいという思いは本気です! それが偽善だと言うんですか! 確かに私は失敗してきました! 私は失敗しても、人を助ける事を諦めません! 今、この時でもブレイブさんを助けたいと思っているんです!」
「じゃあ、今のあんたにブレイブを助けられるのかい?」
裁縫部アラクネの蜘蛛の形をした手が、僕の首に迫る。
「止めてください! ブレイブさん今、助けますからね」
ラブは自由になった右腕で、繭を引き千切ろうとする。
繭を引き千切るその手が、光を帯びて、糸を徐々に溶かしていく。
「その力は偶然ではなさそうだ」
裁縫部アラクネは、繭に針を通すと、何かを編み物するかのような動作を始める。
「やめてください!?」
赤くなって、もがき苦しむラブに、僕はどうする事もできない。
「やめろ……ラブに手を出すな!」
「苦しくはないだろう? 気持ち良いぐらいだろ?」
吊り下げられたまま、ラブに包まれた繭はセーターに形成され、身動きができない状態にされた。
「くそっ!? ラブ……!?」
声を出した瞬間、僕の口から、血が吹き出た。
「そろそろ毒が効いてきた頃合だと思ったよ……その毒はあんたの血をドロドロにして、食べ頃にしてくれるんだよ」
「ブレイブさんに治療をしてください! 私ができる事なら、何でもしますから!」
「今、何でもって言ったね?」
裁縫部アラクネが笑みを浮かべ、針を動かすと、ラブの手がアラクネの前に差し出される。
「……駄目だラブ……そいつの……言う事を……聞いちゃ……駄目だ……」
僕は叫ぶ事もできず、口から血がだらだらと流れる。
「こいつは魔石と言ってね。こいつを持ってトランスチェンジと叫べば、毒を治癒する力が得られるかもしれないよ」
裁縫部アラクネが、ラブに握らせたのは、魔石だった。
「……これでブレイブさんを……助けられるんですね」
「イブフェアリ!」
「馬鹿だね……何処にいるんだい?」
ステンドグラスを破り、入ってきたのはイブフェアリだった。
「声は届いたよブレイブ! 受け取ってラブ!」
何かを投げるイブフェアリ、魔石が何かに当たって弾かれ、ラブのその手には、代わりに聖石が握られる。
「羽虫が!」
裁縫部アラクネに唾を吐きかけられ、身体が繭に包まれるイブフェアリ。
「ラブ! ジョブチェンジって、叫んで! 貴方の愛は全てを救う力になるはずよ! さぁ言って! 貴方が救いたいものはなに?」
「私が救いたいものは愛……愛で全てのもの救いたいです! 私は愛でみんなを救って頑張りたいんです! ジョブチェンジ! 魔法少女ガンバレヨ!」
ラブの身体が光に包まれ、その姿が変わっていく。
「やはりガンバレヨになったかい……本気で死にたいようだね」
服を光の粒子に分解し、裸にした後、胴体、腕、足と、羊をイメージした、白色の機械鎧とローブを構築し、背中にマントと、頭にティアラが構成される。
光が晴れると同時に、現れたのはラブとは違う姿だった。これが新しい勇者隊、魔法少女ガンバレヨの姿なんだ。
「全ての愛を守る為……傷ついた人の癒し手となる為! 私は戦う! 愛の力の名のもとに魔法少女ガンバレヨここに、可憐に登場です!」
ポーズを決め、ウインクをする魔法少女ガンバレヨに唖然とする裁縫部アラクネ。
「……ふざけてるのかい?」
蜘蛛の腕を振り下ろす刹那、魔法少女ガンバレヨの姿が消える。
「テレポテーションです!」
魔法少女ガンバレヨは、光と共に現れたかと思うと、僕にステッキを向ける。
「リカバーです!」
僕の身体は白色の光に包まれる。すると、熱を帯びていた身体は嘘のように、すっきりとし、立ちくらみは無くなっていた。
「ありがとう魔法少女ガンバレヨ」
「まさか!? 解毒したというのかい! なら、これならどうだい! バイオネット!」
口から糸を吐き出すと、あやとりのように糸を操り、一瞬にして投網を作り上げる。
僕と魔法少女ガンバレヨに、投網が迫る。
「さらに、アリエスサイズ!」
ステッキが光の刃の鎌に変化すると、魔法少女ガンバレヨは投網を斬り払う。
「私の編みが簡単に!?」
僕は聖石を拾い上げ、変身する。
「ジョブチェンジ! 勇者ガンバレヨ!」
僕が聖石を掲げると、服を光の粒子に分解し、裸にした後、胴体、腕、足と、獅子をイメージした赤い機械鎧を構築し、背中にマントと、頭に小さなクラウンが構成される。
「ふん! 隙だらけだよ!」
変身の隙に、素早い動きで裁縫部アラクネは僕の背後につく。
「エアブーストアロー!」
裁縫部アラクネは素早い動きで避けるが、風を帯びた矢は肩を掠め、鮮血を舞わせる。
「この攻撃はまさか!?」
「ボクを忘れてもらっちゃ困る!」
「やはり弓士ガンバレヨかい!?」
「私もいるの! ストーンブレイカー!」
屋根を破り、戦士ガンバレヨが舞い降り、石の巨魁を纏った地斧タウルスアックスを裁縫部アラクネに向けて、殴打する。砕けた巨魁と共に、裁縫部アラクネは吹き飛び、壁に叩きつけられ、瓦礫の下敷きとなる。
「はわわ……教会が大変な事に……それにポイズンさんいえ、裁縫部アラクネさんはペチャンコになってしまいます」
慌てる魔法少女ガンバレヨに、戦士ガンバレヨは頭を掻きながら、すまそうな表情で謝る。
「ごめん……後で直すの。裁縫部アラクネに関しては多分、大丈夫なの」
「つくづく甘い奴だね! 魔法少女ガンバレヨ!」
岩が砕ける音がした刹那。砂埃が舞う中、裁縫部アラクネのシルエットが浮かび上がる。
「気をつけろ! 奴はまだ攻撃する気力は残っている!」
僕は弓士ガンバレヨの注意の声に、僕は身構える。
「気をつけろだって? 笑わせるね。罠にはまった事さえ気づいてないようだね」
「僕達が罠にはまっているだって!?」
「そう、あんた達は私の操り人形という事だよ!」
砂埃から現れた、裁縫部アラクネの10本の指には、無数の透明の糸が反射して見えた。
「まさか!?」
手足に違和感を感じた。そう、まるで糸が絡みついたような……
「気づいても、もう遅いよ! マリオネットスパイダー!」
裁縫部アラクネが手を動かした刹那、僕の肩に痛みと共に鮮血が散った。
肩には矢が刺さっていた。僕の前には、風弓サジタリウスアローを構える弓士ガンバレヨの姿があった。
「弓士ガンバレヨ……どうして?」
「違う! これは……」
次の矢を放とうと、弓が僕に向けられる。
「弓士ガンバレヨ! 何をするの!」
地斧タウルスアックスが横になぎ払われ、吹き飛ばされる弓士ガンバレヨは壁に激突する。
「ぐふっ! 違うと言っている戦士ガンバレヨ……これは奴の糸の仕業だ」
「私じゃないの! 身体が勝手に!?」
「勇者隊ガンバレヨといえでも、私の糸には逆らえないよ!」
「はわわっ……そんな!?」
動揺する魔法少女ガンバレヨに、アリエスサイズが構えさせられる。
「魔法少女ガンバレヨにはその大鎌で、勇者ガンバレヨの首をはねてもらおうか」
魔法少女ガンバレヨが僕に迫る。僕の身体は、全く身動きがとれない状態だった。
「できません! やりません! 私は、私の意志で行動します!」
魔法少女ガンバレヨは糸に抵抗し、踏ん張るように手足に力を入れる。抵抗したせいか、手足に糸が食い込み、血が流れ出る。
「抵抗するんじゃないよ! 手足が無くなってしまうかもしれないよ!」
「知りません! 誰かを傷つけるなんて事は、死んでも嫌なんです! 私は魔法少女ガンバレヨなんです! アリエスサイズをアリエスロッドに変換!」
アリエスサイズが変形し、先端がロッド状へと変わる。
「あくまで抵抗するというのかい!」
裁縫部アラクネが強く糸を引くと、強く踏ん張る魔法少女ガンバレヨの手足から、鮮血が飛ぶ!
「無駄です! 魔法陣展開! 術式解放! ホーリーレイ!」
魔法少女ガンバレヨの足元に光の魔法陣が形成され、掲げたソーサリーロッドから、無数の光線が放たれる。
無数の光線が裁縫部アラクネと僕達の周囲に、降り注いだ。
「相変わらずの不器用だね! 何処に狙ってるんだい!」
「狙い通りです! ブレイブさん!」
光線で僕は糸が切れたのを確認し、天井ギリギリまで飛び上がる。
「サンフレア!」
裁縫部アラクネの腕輪の魔石を狙い、炎を帯びた刃で、円形に斬り裂いた。
地面に着地と同時に、美術部メデューサの中心に、小さな炎の太陽が生まれ、爆発する。
「きゃあああっ!?」
「これでどうだ!」
煙が晴れると同時に、膝をつく裁縫部アラクネが現れる。
「まだ……だよ」
裁縫部アラクネの腕輪の魔石に、ヒビが入る。
「ポイズンさんいえ……裁縫部アラクネさん、考え直してください! 私は敵とか関係なく、友達の関係として付き合いたいんです!」
「ふん……あんたみたいなドジでお節介な人間は、こっちから願い下げだよ!」
裁縫部アラクネは飛び上がり、空いた屋根の穴から、出ていく。
「待て! 裁縫部アラクネ!」
「待って! ブレイブ!」
叫ぶようなイブフェアリの声が聞こえ、僕は振り向く。
「えっ? な、なに?」
そこには、無残に瓦礫に潰されたイブフェアリの姿があった。
「みんな……気づいてよ……誰も気づいてくれないなんて……」
「ごめん、イブフェアリ」
僕は裁縫部アラクネを追うのを止め、瓦礫をどかし、イブフェアリを助ける。
「ポイズンさん私は……貴方が悪い事をするような人には見えないんです」
呟くように言う、魔法少女ガンバレヨの声を、僕は聞き逃さなかった。
続く……
勇者隊ガンバレヨの中編を読んでいただきありがとうございます。嘉村健です。作品傾向としてましてはハートフルで、「燃え」「萌え」な展開を目指してます。という訳で、楽しんでいただけたら幸いです。後編もお付き合いいただけたら幸いです。