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「なんだよ!こんな美人がいるんだったなら俺も助けに行けばよかったぜ!」
「黙っとけクラーク。こいつは訳ありなんだ」
かなりの酒を飲んだらしく頭のタコ足まで真っ赤に染まっていた。酔っ払いらしく普段のテンション2割増しといった感じだ。
「ママさん、2階の個室使わせて貰うぜ」
「はーい。自由に使っていいわよ」
まだ『教育』しているみたいでチンピラの悲鳴が聞こえる。
俺は彼女と共に二階に登り右と左にひとつずつ扉の右側のドアを開ける。中には応接間のように対面するように並べられたソファーとその間にはそこそこ高級なテーブルがひとつあった。
ここは静かに飲みたいという連中の希望で建てられた個室だ。もっとも大半は秘密の会話をするときにつかわれるのだが。
「さて、どうして追われているのか聞かせて貰おうか。勿論言いたくなければ言わなくてもいいし、さよならしたければその通りにしよう」
「まず貴方は誰なの?名前を名乗りなさい」
「……」
随分と上から目線な奴だ。仕方なく自分の名前を言う。
「出して面白くもない普通の名前ね」
大きなお世話だ。
「まあここら辺の連中と違って礼儀がなっている方なのでいいでしょう。私はフーア・アーチボルト。アークボルト社の社長、デルスター・アークボルトの一人娘です」
「そのアークボルトの一人娘がなんで追われてんだ?」
「さあ?自分で考えてみなさい」
こいつ……!いやいや落ち着け。怒ればこいつの思う壺だ。とりあえず考えた事をいってみる。
「追ってるのは母親か?家出だろお前」
「そんな訳ないでしょう。バカですか貴方」
「なんだよ。答えはなんなんだ?」
「名前しか知らない相手に自分の事は言いたくありません」
ああ言えばこう言う。全く面倒くさい。こいつの話は無視して本題に入ろう。
「見た所かなり窮地に陥っているが護衛をしてやろうか?」
「お断りします。一応助けてもらったのは感謝していますがここまでヤラセの可能性もありますしそれにそれを盾にしてくだらない脅しをするかもしれないですし」
「心外だな。契約は破った事は無いんだぜ?それにここでも腕がたつ方だ。」
「そういう事を言う人は十中八九自身の事を過大評価しているものです。そもそも私の護衛より弱そうですしあなた」
相手が相手なら机をぶっ叩いて脅していたところだ。こいつの場合は『あら?たかがそれぐらいで怒るなんて程度がしれますわね』とか言ってきそうなので止めておいた。
「で、その護衛はどこに行ったんだ?お嬢を置いて散歩か?」
「まさか。私の追っ手を巻くために別れたのです。もっとももう来ているみたいですがね」
フーアがそういうと扉が開き二人の男が入ってきた。サングラスに白いスーツが特徴の大男だ。
「よく戻って来ましたねバルト、オームス。褒めてあげますわ」
「……」
「……」
「あら?どうしたの?返事はどうしたの?二人共」
サングラスの間から見えた目は片目は瞳孔が完全に開いておりもう片方には目がなく真っ黒な穴が開いていた。
まずい。そう思った俺はアサルトライフルを『解凍』して二人に対して弾丸を足元にばらまく。
2人共ピストルを抜こうとしていたがその前に膝を撃ち抜かれて体制を崩した。
俺はその隙を見逃さずに2人の頭部に弾丸を直撃させた。
「ちょっと、流石に護衛を殺すなんで何考えているのかしら?」
俺は護衛の1人のサングラスを取り彼女に顔を見せつける。彼女は目をくり抜かれている護衛を見て驚いた顔をしてすぐに元の表情に変わる。
「オームスの片目がなくなっていますわ。彼は両目ともしっかりあったと言うのに」
「目をくり抜いて脳に直接洗脳用の機械を打ち込んでやがる。『眼球を愛する死体使い』の仕業だ。殺し屋に片足突っ込んでいる奴に追われているなんて何隠してやがる?」
「わ、私は特に……」
その時で真下から銃声が聞こえてくる。数発の銃声があっという間にけたたましい戦場のBGMに変わっている。気が短い連中(含クラーク)が最初に撃った連中と銃撃戦をやっているようだ。
「とにかく追っ手に居場所がばれたようだな。逃げるぞ」
「逃げるって……きゃあっ!?貴方急に何をしていますのっ!?」
奥にある窓を開けてフーアを無理矢理お姫様抱っこしてそこから飛び降りる。衝撃をシールドで吸収させる。
着地先は丁度酒場の裏口に当たる場所だ。
勿論そこにも追っ手が待機していたが唖然としている間には足を撃っておく。これですぐに追われる事はないだろう。
「貴方いったい何処に行くんですの?というか早く下ろしなさい!」
「下ろすと追いつかれちまう。とりあえずいい隠れ場所に行くんだよ」
「何故そんな事を……?」
そんな事決まっている。殺し屋もどきの傭兵、殺しにかかってくる追っ手。そんなやばい事に首を突っ込めばいい稼ぎになる。そう感じたからだ。