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なんとなく見ていたテレビで前にやった仕事の謎だった部分がわかった。重鉄など面倒な物は俺たちに任せオクタの連中を全力で潰し両方共自分達の手柄にして名声を得る。(そして俺達は金を得た)
テレビではオクタの船が複数の太陽系同盟軍の船に主砲の光線砲を撃たれ沈む場面が映し出された。こうしてみると少しかわいそうに見える。
こうして同盟軍は非合法の売人とテロリストを倒したという名声を得たのだが次のニュースで台無しになってしまった。
「名声よりも入っている連中をどうにかした方がいいんじゃないか?」
スボンとタンクトップというラフな格好でスナック菓子をボリボリ食べながら独り言を呟く。
ニュースの時間が終わり子供に大人気のカートゥーンアニメが始まった頃俺の携帯端末からメロディーがなる。メロディーでメールだと理解する。手をパチンと叩くとホログラムを展開する。その中で浮いているメールのアイコンに触れてメールを確認する。
『武器の点検、シールドの充電が終わったから取りに来な』
オヤカタからのメールだ。前の裏切り者の同盟軍と戦ったときに消耗したシールドが復活したようだ。
時間つぶしにも飽きたところなので適当に服を羽織り武器を回収するために手の甲にレンズがついたグローブをつけて店に向かうとすることにした。
「あら、こんにちはボウイちゃん。ちょっとお出かけ?」
全体的にケバい化粧をした年をとった中年女性にも見えなくもない男が話しかけてきた。ピンクの髪型はパーマをかけて丸い形に整えられ服は胸が大きく開かれたワンピースでいろんな意味で注目される格好だ。
「どうも。ところでなんでいつもボウイと呼ぶんですかねママさん?」
「そりゃあなたまだピッチピチのオトコノコじゃない!だからボウイ、よ。うふっ」
このオカマは近所の酒飲み場の店主をやっている。いつもクラークが入りたびっている場所だ。
どうやら元々各地の星々を回る凄腕の傭兵だったらしく俺たちみたいな傭兵(殆どの傭兵が何でも屋に近いが。時代の変化という奴である)に仕事の斡旋を副業で行っていたりしている。
客には美味い酒と料理を出し、傭兵には上手い話を持ってくる。それが彼……じゃない彼女の店のモットーだ。
「どうやら火星に居なかったみたいだけれど大丈夫?怪我はなかった?」
「少し仕事で太陽系から出ていたんだよ。撃ち合いになったが見ての通り無傷だ」
「本当に?もし本当じゃなければ私泣いちゃうわよ?」
両手を目に当てメソメソ泣いているジェスチャーをする。何度か見ているが180センチ以上の大男がそれをやるのはやはり気味が悪い。
「武器の調整が終わったから今から取りに行くんだよ」
「あらそう、怪我しないように帰って来なさいよ」
オカンかお前はと心の中で思いながらママさんとの会話を終えて目的地に向かう。
空を見上げるとちょうど太陽の他に地球が見えた。ずっと前に太陽が大きくなったのとある理由のせいで昔あった大陸は海に沈み今そこに住んでいるのは1億人にも満たないらしい。まあ、学校で習っただけで実際行った事はないが。
火星も昔は外だと宇宙服でもないと死んでしまう様な環境だったが長い年月をかけて地球とほぼ変わらない環境を得る事が出来たらしい。どうやってやったって?まあ未来の技術でなんとかしたことだけは間違いない。
と、そんな事を考えたらいつの間にかオヤカタの店についた。繁華街から少し離れたところにあるその店は店の名前などは一切なく一目見ただけではとても武器を売っている店とはわからないだろう。
「きたぜオヤカタ」
「おう、やってきたか」
扉を開けると白髪交じりで老眼鏡をかけた爺さんがロッキングチェアーでゆらゆら揺れていた。あごひげがごま塩みたいに点々と生えている。
「DBから聞いたぜ。お前また無茶な使い方したんだってな。もっと大切に扱う様に心掛けろよ」
六角形のワッペンの様な形をした携帯シールドを俺に投げてくる俺はそれを片手でキャッチする。
「仕方ないだろ。飛び降りなきゃ死んじまってたんだから。それにそんな無茶な使い方でもぶっ壊れないのはオヤカタの腕がいいからだろ?」
「へっ、違いねえ。だけど今回は俺の弟子がいじったんだぜ。なあ、モイ」
後ろの作業台で武器を弄っていた女の子が振り向いた。そばかすと目が隠れるぐらいのブロンドの髪が特徴だ。
モイはそのまま俺の所まで歩いて行き武器を渡してきた。俺の愛用しているアサルトライフルだ。
「ああ、ありがとうな。モイ」
モイは少し恥ずかしそうにしながらまた作業台に戻っていった。
「立派な弟子だな」
「ったりめえよ。ワシの技術を叩き込んだからな。ヘマしたら杖でぶっ叩いた所だ。それとちょいと悪いが椅子を窓の方に向けてくれないか?自分じゃちょっときつくてな」
ここ数年のオヤカタは弟子の育成に集中していた。目も悪く身体もガタが来ているらしい。杖がないと歩けないほどだ。
俺はオヤカタの背後に移動しロッキングチェアーを回転させる。窓にはでかい高層ビルが建っているのが見える。
「悪いな。最近この景色を見るのが楽しみでなあ。よく昔を思い出すんだ」
オヤカタは生まれてからずっと火星に住んでいた。100にギリギリ届かない程度まで生きていたのだ。色々な思い出があるのだろう。
「この高層ビルの中にある会社もワシの弟子が社長でな。あいつはスポンジの様に様々な事を覚えてだな……」
オヤカタは俺に何度も話した弟子の話を話している。ボケが始まっているのだろうが流石に何時間もかかる長話を聞くのは懲り懲りだ。なんとか穏便に話をやめさせる事を考えなければ。
と、考えたらある想定外のことで爺さんの話は止まった。
それは俺も近くにいたモイも唖然とせざるを得なかった。
目の前のビルが突然爆発したのだ。