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「……おい、一体何を見てるんだ?」
全身を重厚なアーマを装備している2メートル超の大男が俺に話しかけてきた。大木みたいな手足、そして背中に掲げているのは体の半分ぐらいは隠れるミニガン。ただアーマで隠されてない顔はとても人間とは思えないものだった。
鼻はなく皮膚はくすみかかった灰色で髪の毛のかわりにイカやタコの足ような太い触手で頭を覆っている。
「2000年ぐらい前の俺がいた軍の入隊祝いのビデオを見てたんだよ。ブラックマーケットで偶然手に入れたんだ」
ビデオの再生が終了したので携帯端末を『圧縮』して右手からアサルトライフルを『解凍』して武器の手入れを行う。
「2000年前!こりゃ大昔ってレベルじゃないな。一体どんな内容なんだ?」
ストレッチをしているのか関節を人間では動かせない範囲までグニャグニャ動かしながら大男が聞いてくる。
「我が太陽系同盟軍は最強!どんな異銀河人でもぶっ殺せる!だとさ」
今度はマガジンの中身を確かめる。中は鋭く尖った銃弾が顔を見せていた。早くぶっ殺させろ。弾がそう俺に話しかけているみたいだ。
「それは面白いな。タイムマシンがあればその時代に行ってみたいものだ。どんな反応をするんだろうな?」
肉声と合成音声が混ざった声が聞こえる。そいつは剣の手入れを終えてクローク装置を確かめているらしく細い体が消えたり現れたりしている。大男より少し低い程度の身長に対して横幅は程々の体格の俺よりも細い。
今はフルフェイスのアーマで顔を隠しているがその中身は昔映画で見たグレイという宇宙人をもう少し縦に伸ばしたような感じだ。
「まあ当時は誰も思わなかっただろうな。太陽系同盟軍が逆襲されてボロ負けするなんてな。おまけに今じゃ腐敗しきって賄賂や武器の横流し当たり前になっているし。辞めて正解だったな」
スコープを覗き込みズレがないか確かめる。サーモやズーム機能も正常に機能するのも確認する。
「まあそのおかげで私達にこんな仕事がまわってきてるんですけどね」
俺や他の二人の装備と比べてかなりの軽装……というかメイド服という今からやる仕事には到底似合わない装備をした女性が話す。青い髪を左に束ねた頭にはカチューシャ。
彼女はこれまたメイド服には似合わない自分の身長以上に長い対物狙撃銃の手入れを行っている。その武器は大の男二人がかりでないと反動で吹っ飛んでしまうとんでも銃である。彼女はそれを一人で運用しているのだ。
「ははは!その通りだな!今回も稼がせてもらうぜ!」
巨体に似合うミニガンにベルト状になった弾丸を装填している大男。それを終えて手で6本に束ねられた銃身を回している。
「で、どうだいアヤメちゃん。よかったら今夜デートでも……」
「すみません今夜はユウジ君とデートなので」
「またゲームの話か?」
とグレイ顏の男。
「ゲームじゃありません!ユウジ君はリアルの恋人なんですから!」
「そう言い切れるなんて本当重症だな」
アヤメと呼ばれたメイド服の女は重度のゲーム中毒者だった。画面越しじゃない彼女(氏)に会える!そんなキャッチコピーで太陽系どころか別の銀河系でも大人気になったゲームだ。
「私はそういう恋愛ごとには理解できないな」
「そりゃそうだ。お前はなんせ分裂して増えていくんだからな。恋愛もせず子供だけ増えていくなんて悲しいな」
「お前はもう少し女を口説くのを我慢しろクラーク」
「そいつは無理な相談だ!俺に恋愛をとったらただの海産物になっちまう!そうだろDB?」
「返答は控えさせて貰う」
イカのような髪を持ったクラーク。縦に伸ばしたグレイ顏のDB。共に俺が見ていた太陽系同盟軍でいう『異銀河人』だ。
二人とも太陽系の惑星や銀河系とは別の銀河系の出身だ。
【目的地付近に到着。各自突入用ポッドにお乗りください】
機械音声でアナウンスが入る。どうやらそろそろ仕事らしい。皆何も言わずポッドに入っていく。
俺は無線を入れて他の奴らに話しかける。
「よし、俺たちの今回の仕事は?」
「太陽系同盟軍の裏切り者をぶっ殺す。だろ?」
「目的地に着いたら?」
「何時もの通りクラークが盾。俺とあんたが遊撃。で、アヤメは大物退治。何時もの通りだな」
「弾丸、武器。他異常はないな?」
「私は特にありませんよ」
「よし、じゃあいくぞ!」
と俺が言い終わらないうちにポッドが星に急降下する。とっとと殺して報酬を貰いたいものだ。