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オヤカタをベッドに移動させて店を後にした。出る前にオヤカタが絶対フーアを守れよ。と言われた。どうやらオヤカタは彼女を気に入ったようだ。こっそり仕事を見ていたのかもしれない。
俺とフーアは繁華街で人出入りが多い大通りを歩いていた。
「さて、次は何処へ向かいましょうか?」
「あのなあ。お前はまだ追われているんだろ?ならとっとと帰るに限る。だろ?」
「いいではありませんか。私外の景色を見るのは久しぶりなのですから」
「久しぶりってどんぐらいだよ」
「会社が出来てからずっと。ああご心配なく、学校は基本的な物は全て出来ていますので来なくても良いと言われましたの」
「……お前何歳だっけ?」
「16ですわ」
16歳で会社の武器開発を担当。彼女は所謂天才というグループに属する人物らしい。
「まあ貴方とは違って高校は行けなかったではなく行かない。なんですけど」
「失礼だな。俺も高卒だぜ?」
「あら、まさか通信制でもやっていたんですか?以外です」
「ちゃんとした学校だ。軍の士官学校だけどな」
「元軍人候補ですか。恐らく落ちこぼれで退学せざるを得なかったのでしょう。可哀想に」
「なんか扱いが酷くないか?」
「まだ成果を出してない傭兵の評価なんてそんな物です」
「あんたみたいな雇い主も滅多にみない……」
背後から殺気。俺はホルスターから拳銃を抜き素早く背後の相手を撃つ。
「きゃあっ!?」
フーアが突然の発砲に驚く。だがこんなこと気にしている場合じゃない。
「走れ!追手に見つかっていたらしい!」
「走るってどこに……」
「こっちだ!」
俺は強引にフーアの腕を掴み裏路地に逃げ込む。前にも追手らしき人物が現れたからだ。
「ち、ちょっと腕が、腕が痛い……」
「今は腕の痛みを気にするな!捕まるよりかマシだろうが!」
気にせずどんどん狭い裏路地を進んでいく。ここを抜ければ出口までもうすぐだ。
そう思い一気に路地を駆け抜ける。
が、俺の予想したのとは違う光景だった。周りはビル壁に囲まれた広めの空間。いつも通っていたときは大通りに行ける路地があったのだがそこが瓦礫やスクラップで塞いでいたのだ。
「なっ!?いつの間にこんな事に」
バシュッ。俺に対して何かが撃たれて壁まで吹っ飛ばされる。そのまま壁に激突して地面に落下せずそのまま張り付いてしまった。何かの拘束用の武器を使われたらしい。
「よォ。悪ィが護衛は拘束させて貰ったゼ」
逃げてきた路地から猫背の小男が出てきた。ボロボロになったジャケットのポケットに左手を突っ込み片目には包帯が乱暴に巻きつけられていた。
「『ガン・ネクロマンサー』か。くそっ、普段は表に出てこないって話だったんだかな」
力を込めて壁から離れようとしたがビクともしない。
「同業者かァ?残念、こういうときは出てくるのよォ俺は。いい目が取れそうなときはなァ!ギャハハ!」
男が下品な声を上げて笑う。
「下品な人ね。顔も見たくもなかったわ」
「俺も同じだァ。俺が興味があるのは目だけだからなァ」
男がフーアに向かって銃を放つ。今度は俺を撃った銃とは違いロープで彼女を縛りあげた。
「ロープガンを喰らった調子はどうだァ!?」
「最低以外の言葉があると思って?」
「ゲヘヘ。まだ余裕だなァ。けどこいつを見てどうかなァ?」
ポケットに隠していた左手を取り出した。そこには手がなく3つの小さい爪が取り付けられたアームだった。
ガン・ネクロマンサーがフーアに馬乗りになる。
「とっとと目玉を頂くとしますかねえェ。やはり生きたまま目玉を頂くのがいちばんだァ」
ガン・ネクロマンサーの息が荒くなっていきそれと同調するようにアームもせわしなく動く。
「ゲヘヘ、こんな上物の目が手に入るなんて副社長様々だなァ」
「待ちなさい。今なんと言いましたか?」
「お前の会社の副社長だよォ。お前と父親が気に入らなかっただとよォ」
アームを勢いよくフーアの目に突っ込む。
「がっ……!」
「これよ、これよォ。この痛みに悶える感じたまねェなァ」
「ぐっ、あっ、あっ」
中でアームがウィンウィンとモーター音を出しながら動いている。その度にフーアの悲鳴が聞こえる。
幾らかか動いた後アームが停止する。
「さて……どんな感じかなァお前の目ん玉はよォっと!」
アームを勢いよくあげる。がガン・ネクロマンサーが取った物は彼の思ったものとは違っていた。
「あ……?義眼?」
そのとき一発の銃声が鳴り響いた。ネクロマンサーの頭から血が吹き出しそのままフーアの目の前に倒れる。が、フーアがビンタをして横に崩れ落ちた。
「ちょっと。こいつの血で汚れたじゃないのよ。通してくれるのよ。それに義眼の方じゃなかったらどうするつもりだったの?」
「そのときはアームが突っ込まれる前にぶち抜いてたさ。それより助けてくれないか。くっついて取れねえんだ」
「知りませんわ。自分でなんとかしなさい」
「チッ」
俺はナイフを取り出し背中を傷つけないよう気をつけながら俺と壁をくっつけていたものを切る。この粘着物は刃物に弱かったのを今思い出したのだ。
「ところでどうやって発砲したんですの?拳銃は落としていたみたいですけど」
「こいつさ」
俺はアサルトライフルを『解凍』してみせた。
「……こんな技術見た事ないわね。どこで手に入れたの?」
「前にいた軍で手に入れたとだけ言っておこう。悪いが口外は出来ないんだ」
「武器をデータ化しているのかしら?いやいやそれは私の会社でもやってるけどなかなか成功していないから違うわよね……。あら?汗をかいてるけど図星?」
「……」
口ごもる俺。
「やっぱり武器のデータ化でしたか!教えなさい!どうやったの!」
背伸びして俺の肩を掴みがくがくと揺さぶる。
「悪いが守秘義務があるから教えられねえ」
「教えなさい!教えて!教えろーっ!」
普段の毒を吐いた上品な喋り方ではなく子供が駄々をこねるような感じでフーアが言う。
「……おい」
「やっぱり教える気になりましたか!さっさと教えて……っ!」
俺はフーアを横に投げ飛ばす。
「痛い!ちょっといきなり何をするの……」
フーアの目の前に飛び込んできたのは死んだはずのガン・ネクロマンサーだった。俺はナイフを持ち臨戦態勢に入った。
「操っている奴も死体になってるってどういう事だこりゃ!?」
ネクロマンサーはそのまま俺に向かって飛び込んで……くる前に奴が突然氷漬けになった。もちろん俺がやった訳ではない。
「……とりあえずぶっ放したけどあれって追手よね?間違っていないわよね?」
青い髪とそれと同じ色をした青い目をした女性が立っていた。金髪とグラマラスな身体つき以外は変装したフーアとそっくりだ。
「誰だあんた、同業者か?フーアお前が頼んだのか?」
「……私の母よ」
俺はフーアと彼女を二度見した。姉の間違いだろ?