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「……で、どんぐらい貰ったんだ?」
翌日、俺の家にやって来たクラークがそういった。
「契約をしたのは昨日なんだぞ。それに追われているんだからATMで金の出し入れなんてすると追跡されらあ」
ハッカーがいればそういう事も簡単に出来るだろう。
「昨日彼が土下座して雇ってくださいと言ってたんですよ。だから私は仕方なく雇ってあげましたの」
そんな事実はない。そういったがクラークは大笑いしただけだった。
フーアは昨日の服装からガラリと変わり長い髪をバッサリと切ってショートヘアにしてそれを防止で隠している。
服も白いパーカやダメージジーンズをおしゃれに着こなしていた。
金色の目は青色に変わっている。カラーコンタクトと義眼の設定を変えてそう見せているのだ。
勿論俺が用意していた訳ではない。突然ママさんがやって来てこいつをくれたのだ。
「せめて見た目は変えないと。勿論彼女がよければの話だけどね」
全くありがたい話である。今度酒場で散財してやろう。
「……で俺の出番はあるんだろうな。電話で呼び出したんだからそうなんだろ?」
「今はないが荒事になったらお前が必要だからな。いつでも出れるようにしてくれ」
「オーケイ。所でアヤメとDBはどうした?」
「DBは別の仕事で木星に移動した。アヤメは……まあ、例のアレだ」
「あのゲームか。引きこもると直接あいつの所にいかねえといけねえからな。俺が向かってやるからあいつのメルアドをだな……」
「アヤメがお前を名指しでメルアドを送らないようにって言ってるからな残念ながら無理だ。住所は知ってんだからそれで妥協しろよ」
仕事は信頼できるがプライベートはナンパ癖でダメダメなクラークである。アヤメも別ベクトルで似たようなものだが。
「ちょっと、護衛が私より大事な事があるのかしら?」
フーアが後ろから声をかけてきた。振り向いたら玄関で靴(これもママさんからもらったものだ)を履いていた。
「そりゃ信頼できる仲間と今後の作戦を立ててたんだ。結構重要な事だぞそれ」
「口答えをしないでくれませんか?」
「ん?追手がいるのに何処に出て行くんだ?」
クラークが尋ねる。
「仕事だとよ。武器を弄れる作業場が欲しいらしいからオヤカタの所に連れて行く」
「こんなときも仕事なんて大丈夫か?」
「まだ設計途中の物が沢山有りますの。追っ手が来たからって手を止めたらどれだけの損失になるか……」
「死んだら元も子もないだろ。ご両親も心配しているだろ?」
「おいバカ……」
フーアは無表情で答える。
「父は死んでいますのでご心配なく。貴方は早く私を護衛をしなさい。いつまで待たせるのよ」
「あ……す、すまん」
彼女が誰なのか思い出したクラークは謝ったがフーアは何も答えないまま玄関
出て行く。すぐに俺も後について行く。
道中大通りや裏道に何度も出たり入ったりして追っ手が来てないか確認したがどうもまだ来ていないようだ。昨日彼女を見つけたのにこないというのはどうも怪しいが今は彼女の護衛に集中しておこう。
普段の数倍の時間をかけてオヤカタの店に着いた。扉を開けるとオヤカタではなくモイが店に立っていた。
「オヤカタはどうした?」
「ちょっと寝込んでいる……。お弟子さんの事で参っているみたい……」
か細い声が答える。
「ああ、早速で悪いけどそのお弟子の娘が作業台を使いたいのだけれども」
「……あ!貴方はフーアさん!?なんでこんな所に……?」
「ちょっと色々事情があってね。それより作業台使わしてもいいかしら?」
「ど、どうぞご自由に!!……あ、後見学してもよろしいですか?」
「いいわよ。既存の武器の改良をするから見られても大丈夫な物だし」
「や、やった……!」
モイが物凄く喜んでいる。気弱な性格なのでこんな態度をするのは結構珍しい。
「じゃあB-3ndの改良するからそれの準備してくれる?」
「は、はい……っ!」
2人が奥に入っていく。
「おい、俺はどうすればいいんだ?」
「近くで好きにしときなさい。邪魔はしないでね」
武器には詳しいがそれを作るのは別問題だ。俺は大人しく作業台がある部屋の隅っこで壁にもたれながら作業を見る事にした。
2人とも訳のわからない単語を口に出してパソコンに映ってい?よくわかない図面にあーだこーだ言ってる。
「なかなか筋がいいわね。貴方私の会社に入ってみない?」
「おいやめろ。俺の武器の手入れができなくなるだろうが」
「貴方には聞いていません。この子に聞いているのです」
「すみません……。私はオヤカタの後を継ぐって決めていますので」
死にかけの爺さんからありとあらゆる知識を叩き込まれているモイはどうやらここの店の後を継ぐようだ。よかった。もし他の会社に行ったら俺の武器の手入れが難しくなる所だった。前にチェーン展開している武器屋に見せに行ったら手入れするのは無理だと突っ返されたのだ。
「それは残念。けど貴方のおかげでこの武器はさらにいい物になったわ。ありがとうね」
「ど、どうも……」
「おいなんだ?急ぎの修理でもやって来たのか?」
オヤカタが上から見てるこっちが不安になりそうな足取りで降りてきた。
「あ……オヤカタ。お弟子さんの娘さんが来てます……」
「何?という事はお前はデルスターの娘か?」
「そうですわ。フーア・アークボルトと申します」
「デルスターの娘なかなか可愛い娘に育ったじゃないか。あっちの方に行ったらそれでデルスターと語り合おうか」
割と笑えないジョークを言う爺さんである。最もこのジョークを言い始めたのは10年前だそうだが。
「おいオヤカタ。今こいつは追手に追われているんだ。話すと長いから訳は聞かないでくれ」
「なんじゃと?誰だそんかなか弱い娘を追手をかけた馬鹿は?モイ!武器をとれ!ぶっ殺してやる!」
モイが手元にあったロケットランチャーを無理やり持ち上げているオヤカタを押さえ込んでいる。足がものすごいガクガクと震えている。
「おいオヤカタ。また腰をやりたいのか?俺が護衛をしているんだ。心配するなよ」
「じゃ、しゃが……はうっ!」
あっ、やっちまった。ロケットランチャーが手から滑り落ちてがくりと腰を崩した。
「面白い人達ね」
フーアがそう呟いた。