生徒会選挙
「ちょっとそこのあなた、箒の会のメンバーではなくて?」
午後の授業が休校となった為、友人達と街にくり出そうと思っていた矢先、怪しげな人達から呼びとめられた。
見ると、腕には鶴マークの(箒の会のマスコット)腕章。
どうやら、彼女達は“箒の会”の先輩らしい。
私がこっくり頷くと、
「箒の会・代表選では、間宮ちづるさんに投票するのよ」
先輩の一人がそう言って、一枚のパンフレットを差し出した。
桐里短期大学では毎年、生徒会の役員選挙が行われる。
通常、短大の生徒会なんて、お飾りの様な物だけど、うちの場合は各部への予算配分等、かなりの権限が与えられている。
箒の会は、家政学部しかなかった頃の、伝統的なクラブを代表する組織で、支持母体は日本舞踊部、茶道部、薙刀部といった面々だ。
その“箒の会”が、この1年、“モップの会”に生徒会役員を独占されてきた。
モップの会は、サッカー部やラクロス部、チアリーダー部など、洋物クラブを支持母体としていて、参加者が多かったのだ。
それが度重なる内輪もめと学祭運営の不手際で、このところ急速に人気をなくしていた。
次期生徒会長は、2年ぶりに箒の会から選出されそうなので、その前に会の指導権を握ろうという人達が争っていたのだ。
「わかりました。間宮さんに投票します」
私は先輩の命令に逆らわず、その場を切り抜けた。
「真奈美、こわい先輩方に絡まれていたようね」
門の脇に隠れていた美香子と由紀が言った。
彼女達も箒の会に属していたので、先輩達に見つからないように潜んでいたのだった。
「ほんとに迷惑な話よね。私達には関係ない事なのに」
私はため息をついた。
が、・・・
「あら関係ないってことはないわよ。そのパンフの間宮ちづるさんが代表になったら大変だもの」
「そや。彼女は茶道部出身で、大学のクラブ予算を私物化し、新しい茶室を作ろうとしてるんや」
どうやら美香子達には意中の候補がいるようだった。
「となると新しい代表には、やはり山際素子さんがいいんじゃないかな」
この美香子の言葉に由紀が噛みついた。
「そらアカン。あの人は生徒全員に日本舞踊を習わせる気や! ウチは昔から強制されるんが大嫌いやから、代表を選ぶんやったら梅本奈美さんしかおらへんがな」
「あの人は優柔不断だからダメ。最近は河川敷の市営グラウンドも、戸倉短大の連中に独占されてるし、はっきり抗議できる人じゃないとね」
「フン、そらよけい話がこじれるわ」
「なんですって!」
ケンカになりそうだったので、「まあまあ、どっちでもいいじゃないの」と私が止めに入ると、
双方から、「真奈美は黙ってて!」と怒られた。
これはもう、どっちが勝っても大変だ。
どうなる事かと思っていたら、代表にはあっさり先輩達の推す間宮さんが選ばれた。
もっとも、彼女が生徒会の会長になったわけじゃない。
箒の会も健闘し、モップの会を上回る票を得たのだが、それ以上に票数を伸ばした団体があった。
コスプレ愛好会やアニ研といった新興団体の組織、ミシンの会だ。
結局、生徒会・会長はこの団体から選ばれる事になった。
トンビに油揚げってこの事だね。
( おしまい )
※・・・・・この物語はフィクションですべて架空の話です。