中央特快東京行き
日常のふとした気まぐれが、二度と戻れない悪夢の入り口になることがあります。
見慣れた通勤電車、聞き飽きた線路の音。そんなありふれた風景が、一瞬にして不可解な恐怖へと変貌する──。
上空から落ちてきた「何か」と、決して届くはずのない視点から撮影された一枚の写真。逃げ場のない密室の頭上で響く足音を聞きながら、どうぞこの奇妙な物語をお楽しみください。
中央特快東京行き。その込み合う車内にわたしは立っていた。空いている席はなかった。乗客たちの熱気で、額から汗が滝のように流れ落ちていた。
わたしは背が低いから、吊り革まで手が届かなかった。どうせ吊り革が使えないのだったらたまには車両の一番前でたってみよう、という軽い気持ちだったのだ。初めのうちは。
列車は、中野駅で客を降ろし、逆に乗る人も乗せた。大久保駅と東中野駅を通過すれば、新宿駅に着く。大久保、東中野は高速で通過する駅だ。
風景からして次は東中野 通過するはずだった。駅の光は次第に近づいてきて、あっという間にホームの端を掠めてあっという間に通り過ぎるのだ。
ふいに、先頭車両の警笛が鳴らされた。同時に、きぃぃぃぃ、と金属の軋むようなブレーキ音。が響き渡った。大きく傾き、私は運転席との間仕切りとなっている 壁に 両手をついた。
衝撃で体勢を崩しながらも、わたしは間仕切りのガラス越しに前方を見つめた。線路の上には、誰もいない。
(……え?)
急停車した車内に、乗客たちの悲鳴と罵声が飛び交う。だが、運転士は蒼白な顔で頭を抱え、ガタガタと震えていた。
「落ちてきた……上から、落ちてきたんだ……!」
上?
ここはトンネルでも歩道橋でもない、開けた線路の上だ。
その時、パチパチと妙な音がして、列車の天井から赤い液体が滴り落ちてきた。ひとつ、またひとつ。金属を叩く重い音が、車内に響く。
ぞっとLINEが鳴り、スマホを見る。見知らぬ番号からの画像通知。開くと、そこには**「たった今、空から列車の上に飛び降りた男」**の姿が写っていた。鳥のように広げた腕、歪んだ笑顔。
そして、その画像の背景。列車の先頭車両のガラス越しに、血の気のない顔でスマホを眺める**「わたし」**がバッチリと写り込んでいた。
写真は、上空から撮影されていた。
——ドスン。
頭上で、何かが重く這いずり回る音がした。
【了】
『中央特快東京行き』をお読みいただき、ありがとうございます!
満員の先頭車両という極限の密室で始まる、上空からの不可解な脅威——。「もし日常の通勤電車で、逃げ場のない異変に巻き込まれたら」というゾッとする恐怖感を込めて執筆しました。
天井から届く不穏な音と、届いた写真の真実とは何なのか。このあとの展開もぜひ楽しみにしていてください!




