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刻を刻む砂時計

作者: ラム肉
掲載日:2026/04/22

僕の唯一の宝物。


それは――誕生日に買ってもらった砂時計。


この砂時計は、上から下に砂が落ちている時は時間が流れ、過ぎてゆく。そしてひっくり返せば時が戻る。

これだけを聞けば、とんでもない砂時計に聞こえるだろう。しかし致命的な欠点がある。


この砂時計の砂が流れずに止まっている間、時間も止まる。


それがどういう事か。砂時計は砂が落ちきればひっくり返さなければ、また落ちる事は無い。


つまり僕は、砂時計が動いている五分間だけの空間に閉じ込められたのだ。


最初のうちは、僕もどうにかこの空間を抜けられないかと色々試した。しかし砂時計は壊れない。砂時計が返れば全ての時が戻る。何をしたって五分が経てば元に戻る。


僕の記憶だけは戻らない。

だが、空気中にも分子があるからか、体は五分前の場所に戻される。どんな場所にいてもだ。


たとえ金庫に隠れようと、入る時に一度金庫のドアを開けて閉める必要がある。

だから時間が戻る時も、金庫のドアは開き、僕が出るとまた閉まる。何事も無かったかのように。


そんな僕と何も変わらない世界だが、数年ほど経って一つ気付いたことがある。

砂時計だけは刻が経っている。例え傷がついても、傷をつけた物が戻る時に傷は治る。

だが、少しずつ、しかし確実に劣化していっている。


周りの刻が経過しないからか、劣化は普通の砂時計と比べるとかなり遅いが、それでも少しずつ壊れていっている。


その事に気付いた時、僕は大いに喜んだ。ようやくこの空間の終わりが見えた気がしたからだ。

その後、僕は自らの手で砂時計を傷付けた。

少しでも傷をつければ劣化が早まると思ったからだ。


それが最悪の選択だとも気付かずに。


どうやら砂時計は傷が一定以上になると自己修復をしてしまい、その時に時間経過での劣化も直ってしまうようだった。


その事に気付いてからは五分間、僕はずっと自分の部屋に籠り、砂時計を守り続けていた。


ずっと同じ刻の繰り返しなら意味ないのでは、と思われるかもしれない。実際僕もそう思っていた。

だが不思議な事に五分間は毎回全く同じでは無いのだ。僕が動く事で結果が変わっているのか、とも思ったがそれも違った。


おそらくほんの僅かな変化、それこそ僕は砂時計が動く度、記憶が追加されていく。そんな変化によってか、全く同じ五分間は存在しないのだ。


例え小さな変化でも段々と亀裂が広がるように、やがて大きな変化になる可能性もある。


だから僕は砂時計を守り続ける。


一度、急に鳥が部屋に入って来て砂時計が壊された事があった。それからは窓のカーテンを閉めていないと鳥が入って来て、砂時計が壊されるようになってしまった。


これは悪い方向の変化だが、こうも考えられる。


悪い方向に変化する事があるならばいつか、良い方向に変化する事もあるんじゃないだろうか、と。


それからは10年分程の五分が経過したのだろうか。

色々試してみたが、結局この五分間の脱出の鍵となりそうな良い方向への変化は起きなかった。


だが、やはりと言うべきか細かな変化はいくつかあった。それこそ鳥が部屋に来て砂時計が壊される程の大きな変化は無かったが…


その頃からは五分間が始まると、カーテンを閉め、ドアの前に本棚を倒して開かないようにし、砂時計を抱えて守るという繰り返しが、一つの流れになっていた。


本棚を倒してドアを塞いでいる理由は「なんとなく」だ。


少しの変化の積み重ねで大きな変化になる、ならば先に対策をしておくのも一つの手だろう。


最近は、段々と五分間が短くなってきている。劣化によって、砂の粒が少しずつ細かくなって来ているのだと思うが。


果たして吉と出るか凶と出るか。


だが劣化によって少しずつ砂時計の硝子部分に細かい亀裂がついていっているのもまた事実。

このまま行けばこの五分間から抜けられる、と信じたい。


このまま五分間が短くなればその分劣化する時間は減るが…まぁ許容範囲だろう。


僕はとっくに何百年、何千年分程の時間をこの五分間で経験している。


今更1年分伸びようが、100年分伸びようが、僕にとっては大した差では無い。



何故僕は時間経過での劣化なら砂時計が壊れると思っていたのか。


何故時間経過で壊れたなら、直らないと思っていたのか。


今思えばとても、とても浅はかだった。


長かった五分間でようやく、ようやく、砂時計が壊れた。

少しずつ入っていた亀裂が広がり、ようやく砂時計が割れたのだ。


だが次に砂時計がひっくり返る時、僕は絶望へと叩き落とされた――


砂時計が直った、時間経過による劣化も全て。


考えてみれば当たり前だったのかもしれない…


壊れたり傷ついた時に自然と修復されるのなら、当然砂時計が時間劣化で壊れても修復の範囲内なのだろう。


僕は諦めた。


砂時計を守るのも、五分間を脱するのも。


――生きるのさえも全部全部…

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