元年 文月 城
暑くなった。
寺の裏山で、
蝉が鳴き始めた。
朝から鳴く。
昼になっても鳴く。
夕方になっても鳴く。
あれだけ鳴いて、
よく喉が枯れぬものだ。
小僧どもは、
朝の掃除を早々に終わらせると
境内へ飛び出していった。
枝を拾い、
石を並べている。
何をしているのかと思えば、
戦ごっこである。
枝を槍にして、
石を城にする。
小さな城を作り、
それを攻める。
一人が攻め、
一人が守る。
あとは周りで
「かかれ」「守れ」と
好き勝手に騒いでいる。
そのうち一人が倒れた。
胸を押さえて
大げさに倒れている。
「討ち取った!」
もう一人が
得意げに叫ぶ。
だが倒れた者は、
すぐに起き上がった。
「今のは無しだ」
そう言って
また戦い始める。
子供の戦は
便利なものだ。
何度でも死ねる。
そして
すぐに生き返る。
本当の戦では
そうはいかぬ。
村の若い者も
何人か戦へ行った。
戻った者もいる。
戻らぬ者もいる。
だが
小僧どもは
まだそれを知らぬ。
知らぬから
ああして笑える。
昼過ぎ、
一人の小僧が
蝉を捕まえてきた。
手の中で
ばたばた暴れている。
「和尚、見ろ」
羽は透けていて
体は細い。
鳴く力だけは
ずいぶんある。
「すぐ死ぬぞ」
そう言うと
小僧は少し驚いた顔をした。
蝉というものは
長く土の中にいて
出てくると
すぐ死ぬ。
人も似たようなものだ。
長く生きる者もいれば
短く終わる者もいる。
夕方、
境内の石の城は
すっかり崩れていた。
誰も片付けぬ。
戦ごっこの城は
だいたい
そういう終わり方をする。
寺の裏から村を見る。
煙が
いくつか上がっている。
その煙の下で
本当の暮らしがある。
飯を食い
田を見て
子を育てる。
戦とは
そういう暮らしの外で
始まり
そして
だいたい
中へ入ってくる。
囲炉裏の前で
小僧どもが
また戦の話をしている。
誰が強いか
どの城が固いか。
好きに言っている。
わしは思う。
倒れた者が
すぐ立ち上がる戦は
子供だけのものだ。




