表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ものぐさ坊主の覚え書き ―戦国の村を眺めながら―  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

元年 弥生 橋

川の水が増えた。


雪解けというやつだ。


寺の裏の坂を下りると、村の外れに川がある。

普段は石が見えるほど浅いが、この時期だけは別の顔になる。


水は茶色く濁り、流れも早い。

山の雪が全部ここへ来るのだ。


去年の大雨で橋が流されたままになっている。


丸太を渡しただけの粗末な橋だったが、

それでも無いと少し困る。


もっとも、誰も直そうとはしない。


直すには人手がいる。

木もいる。

縄もいる。


そして何より、暇がいる。


戦国の村には、

だいたいその暇がない。


村の男どもは、もう田の準備を始めている。


まだ風は冷たい。

朝には霜も降りる。


それでも鍬を持って田へ出る。


田は、人の都合では休まぬ。


人が減っても、

戦があっても、

春になれば耕す。


そうしなければ、秋に食うものがない。


当たり前のことだが、

人は当たり前のことに一番追われる。


寺の前を、村の若い者が二人通った。


肩に鍬を担いでいる。


「和尚、橋を直さねえとな」


「そうだな」


「でも今年は人が足りねえ」


そう言って、二人は笑った。


笑っているが、半分は本当だ。


去年の戦で、村の若い者が何人か帰っていない。


帰らぬ者の家では、

女と老人が田を見ている。


田は待ってくれぬからだ。


昼頃、小僧どもが川を見に行った。


増水した川というのは、子供には面白いらしい。


「和尚、橋がなくても渡れるぞ!」


そう言って、浅いところを探して石の上を跳ねている。


一人が滑って、尻を濡らした。


境内に戻ってきて、

「寒い寒い」と騒いでいる。


わしは囲炉裏の前に座らせた。


火の前で乾かしてやる。


小僧どもはすぐに元気になる。


子供というものは、

濡れても転んでも、

少し火に当たればまた走り出す。


大人はそうはいかぬ。


濡れたままの話を、

何年も引きずる。


夕方、寺の裏から田を見た。


あちこちで土を返している。


まだ水も入っていない田だが、

春の匂いがする。


土が黒くなり、

鳥がつつきに来ている。


橋は流れたままだ。


川は荒れている。


それでも田の準備は進む。


人というものは、

不思議な生き物だ。


戦があっても米を作る。


橋がなくても米を作る。


米がなければ、

戦どころではないからだろう。


土というものは、

人より真面目だ。


人がいなくなっても、

春になれば必ず柔らかくなる。


耕せば受け入れる。


文句も言わぬ。


人の方が、

よほど面倒である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ