元年 霜月 火
朝の風が冷たい。
寺の裏山の木も、
葉をほとんど落としている。
夜の間に霜が降りたらしい。
境内の草が
白くなっていた。
日が上がると
それもすぐ消える。
だが
冬が近いことだけは
よくわかる。
村の田は
もう何もない。
稲は刈られ、
束も片付けられた。
残っているのは
黒い土だけだ。
田は静かになる。
人の仕事が
終わったからだ。
だが
村はまだ忙しい。
米を干し、
籾を外し、
俵に詰める。
冬を越すための
支度である。
昼頃
寺の裏で
ばたばたと音がした。
屋根裏である。
小僧どもが
騒いでいる。
「和尚、虫がいる」
覗いてみると
梁のあたりに
虫が増えている。
屋根裏は
冬になると
虫の隠れ家になる。
煙が少ないと
特に増える。
囲炉裏の火を
少し強くした。
煙が
ゆっくり屋根へ上がる。
茅葺きの屋根というものは
煙で守られる。
煙が
虫を追う。
煙が
茅を長持ちさせる。
煙が無ければ
屋根はすぐ弱る。
家というものは
人が住むだけでは
持たぬ。
火が必要だ。
夕方
寺の裏から村を見る。
煙が
いくつも上がっている。
あれがあるうちは
まだ大丈夫だ。
煙のない家は
すぐわかる。
火を使わぬ家は
長くは持たぬ。
夜
囲炉裏の前で
小僧どもが粥を食っている。
芋や稗や粟を
鍋に放り込んだ粥だ。
白い飯ではない。
だが
腹は満ちる。
小僧どもは
椀を抱えて
静かにすすっている。
寒くなると
粥はうまい。
腹は
すぐ減るが。
囲炉裏の火を
見ていると
体が温まる。
火は
人を弱らせぬ。
わしは思う。
屋根も
人も
煙がなければ
長くは持たぬ。




