第5話 《守炎の選択肢》
第五話 《守炎の選択肢》
ミオは感情が荒ぶるまま、大学を飛び出した。
初めて守ると言われた、初めて好きと言われた。
そして好きになってしまった。
どんな顔をしてレンの前に立てばいいのか分からなくなってしまった。
感情を、心を落ち着かせようとひたすら走った。
知らない広場に着いた。
どれだけ走ったのか、自分でも分からない。
周りに人はいない。静かだった。
ミオは息を整え、近くの自動販売機に手を伸ばした。
ボタンを押そうとした時、押してもいないのに商品が落ちてきた。
見た目が黄緑色単色のパッケージ。
逃げなきゃ。
反射的にその場から走ると、黄緑色の商品が爆発した。
「きゃっ…!」
ド派手な紙吹雪と爆音が響く。
「あひゃひゃっ、ビビった?ねぇねぇビビったの??」
自販機の後ろからカラフルな頭をした男が出てくる。
(…!追っ手がもう来たの…?逃げなきゃ……)
ミオは立ち上がり反対方向へと走った。
「うぉーい、無視かよ〜!!ちっ、なんだよ。そっちいったぞー!」
男は大声でミオの向かった方に叫ぶ。
「かへへ、きたきた。さぁ、おいで、殺してあげるよ!」
路地から小太りの男が両手に鉈を持ち出てきた。
「っっ!!……銅刃と紙爆、ですね……。命令が来たんですか?」
ミオは冷静になり敵の能力を分析する。
「そうだ!俺たちは強いからな!任されたんだ!」
「かへへ。俺たちのコンビは最強だじぇ?紙爆!援護しろ!」
銅刃は乱暴に腕を振り回した。
鉈は狙いも定まらぬまま、力任せに飛んでくる。
ヒュンッと風を切る。
鉈は美しくもなく、ただ重さだけで飛んできた。
投げるというより、ぶん投げた。
ミオは横に避けた、そして、カツンと、何かに足が当たった。
ぱぱぱーんっ!!
ぶつかったものが紙吹雪を撒き散らし爆発した。
「っっ!!」
ミオはバランスを崩し尻もちを着く。
「もらったじぇ〜!」
銅刃は続けて、二本目を投げた。
(避けれないっ!!)
「おぉぉりゃあぁっ!!」
次の瞬間、気合いの叫びと共に、石が空を切る。
ガキンッ!!
石が刃を弾き、鉈の軌道が逸れた。
鉈が標的を外し、ドスッと地面につき刺さった。
ミオは、助かった。
「何っ!?」
「おっしゃぁ!!どんなもんだいっ!!!」
グッと、ガッツポーズを取る。
「レンっ!!……なんで、来たの…!!」
レンが助けに来てくれたのが嬉しくなった。
と、同時に巻き込んでしまった罪悪感で苦しくなる。
「守るって言ったろ?俺は父さんと同じ不器用なんでね!一つのことしかできねぇ!守ると決めたら守るんだよ!!」
レンは持ってきた竹刀を構える。
「なんだぁ?ガキンチョが何しに来た?」
「かへへ、ガキは引っ込んでろ〜ぶっ殺されてぇのか?」
「やだね、俺は逃げねぇ。……そして、お前らを倒す!!!」
「…………ふぅ。」
一通り喋りきったあと、息を整える、そして昨日起きた出来事を思い出す。
(昨日は助けれた。だから今日はミオを絶対に助ける!!)
「よし。行くぞ!――めーんっ!」
覚悟を決め、銅刃に打ち込む。
「あらよっと。」
紙爆が爆弾を銅刃の足元に落とす。
コツンと落ちた瞬間、大きな音とともにカラフルな紙が飛び散る。
「うわっ!!」
レンはバランスを崩し、竹刀は空を切り地面に叩きつける。
「うぉっ!!おい紙爆!!やるならやるって言えよ!!危ねぇじゃねぇか!!!」
「あーん?避けねぇおめぇが悪いんじゃん?俺のせいじゃねぇ〜」
「なんだと!!」
男達は喧嘩をし始めた。
「っ、今だ!」
レンは立ち上がり竹刀を銅刃の横腹へ払いぶつけた。
だが、竹刀はポフッと横腹で受け止められた。
「……およ?なにか当たったか?」
「ッ…んなっ!!」
「まずはお前から殺すべ〜」
銅刃は錬成した鉈で後ろに振り回し、レンを切りつけた。
「――ッッ!!!!」
咄嗟に後ろに避けたものの両腕を切られた。
「いっってぇ……」
傷口を押さえ、痛みを堪える。
「レンっ!!!逃げて!!!あなたじゃ勝てない!!」
「……だから、逃げねぇって…!…おらぁっ!!」
痛みを堪えながら再び竹刀を振る。
「かへへ、むだむだぁ〜」
銅刃は鉈を振り回し竹刀を叩き落とした。
「ッ!!」
レンは竹刀から手を離し、後ろに下がり距離を取った。
「ガキィ!くらえっ!」
白色の爆弾をレンに向かって投げる。
白色の爆弾が地面に触れた瞬間、
真っ白な紙が飛び散り視界を覆った。
「くっ……」
白い紙に乱反射した光がレンの目を潰した。
その瞬間。
ザクッ!
レンの腹に鉈が突き刺さる。
「うぐっ!!がはっ……」
レンは痛みで地面に倒れ、吐血する。
腹からはボタボタと血が流れ、地面に広がっていく。
「だ、だめ…やめて!!!お願いやめて!!」
ミオは近くにいた紙爆を掴む。
「うるせぇ、男の喧嘩に口出すんじゃねぇっ」
紙爆は軽々しくミオを弾き飛ばした。
「ミ……ミオ…!!!くそ……くそ!!!」
レンは自分が押されている事、ミオを守れていないことが許せなかった。
「かへへ、終わらせてやるよ。地獄で先に待ってな!」
銅刃はレンに近づき、頭に鉈を振りかぶった。
「ふんっ!ごはっ……」
レンは右に体を回転させ、勢いよく振り下ろされた鉈を避けた。
お腹に刺さっている鉈でダメージも受け続けている。
「これでしめぇ〜だろ!」
紙爆は火力の高い赤色の爆弾をレンに投げた。
(避けれない……!!!)
ドンッ!!!
大きな破裂音と共に赤い紙吹雪が空を舞う。
爆弾はレンに直撃した。
「レンっ!!!!」
ミオは叫んだ。
「げほっ、ごほっ……かはっ……」
レンは咄嗟に、爆弾に背を向けていた。
だが、背中には服が破れ、火傷や無数の紙切り傷。
「レン……!!お願い!!もうやめて!!!逃げて!!!」
「……やめ、ねぇって……。」
レンは息もからがら、鉈を抜き、痛みに耐え、ゆっくり立ち上がった。
「なんでっ……なんでそんなにっ…!」
「だからぁ……!!!俺はっ!!!"お前"をっ!!!
――守りたい!!!!」
まただ、またあの目をしてる。
決して曲げない強さの目。
どうして、そんな身体で立っていられるのか。
どうして、私のためにそこまでできるのか。
逃げればいいのに。
逃げてほしいのに。
それでも、レンは動かなかった。
「……もういい、もういいよっ!!!そんなに言うなら…!!」
ミオはボロボロになったレンを見て涙を零した。
そして一息吸った。両手をレンに向け。
「私と……私と一緒に!
――死んで!!!」
レンはニヤリと笑った。
「やだね!!二人で生きる!!」
その瞬間、レンは炎に包まれた。
ミオが【契約継承】を行ったのだ。
「うぉぉぉぉおお!!!」
レンは叫んだ。
叫び声と共に炎で剣を作った。
「な、なんだあれは!?火の剣!?おい!まずいぞ!!」
「火なんかで俺の銅刃は!!溶けねぇ!!!かかってこいだべ!!!」
紙爆が焦るも銅刃は自信満々に鉈を生成した。
「俺の炎はぁ!!そこらの火と一緒にすんなぁぁあ!!!」
炎の剣を地面に突き刺す。
すると、地面に散らばっていた紙が燃え始め、男達の元へ燃え広がった。
「あっつー!アツい!暑い!熱い!!!こんなとこいられるかぁ!!!」
紙爆は燃えた地面から逃げ出した。
「うぐ……、こんなのまだまだ…!!アチッ!!……な、なんだ!?」
カランッと地面に鉈が落ちる。
銅刃は地面に広がる炎の熱さを我慢していたが、
手に持っていた鉈が赤く柔らかくなり、熱を発していた。
「どういうことだ!?火なんかには溶けねぇはずだ!!」
「へへへ、どうやら俺の炎が強いみたいだな!!」
レンはニヤッと笑っていた。
「レンの炎は《守炎》……!
守りたいって気持ちが強いほど、燃え上がるの!!
つまり――あなたじゃ、止められない!!」
ミオは言い放った。
「さぁ…!!どうする!おっさん!!」
「おっさんだと!?くそっ、熱くて持てやしねぇ……!!今日は見逃してやる!!!」
銅刃は、逃げ出した。
「……は、ははっ、勝った……?勝ったぞ!!ミオ!!勝ったぞ俺!!!勝った……あれ……なんか……回って…………」
「レンッッ!!!」
レンは守りたい気持ち ――《守炎》の力で身体を保っていたが、緊張が解けた今、保っていられなくなり、地面に倒れ込んだ。
炎も消え去った。
「レンっ!!レンっ!!!だめ、死なないで!!お願い!!!」
ミオは駆け寄り、抱き起こした。
涙をボロボロと零し、生きることを祈った。
「…………み……お……。」
「…!!!レンっ!レンっ!!!!!」
レンはゆっくりと目を開けた。
「へへ、……なんて顔……してんだ……可愛い……顔が……台無し……だよ……」
けらけらと笑った。
「……っ……もうっ、ばか!!冗談言ってる場合じゃないよ!!急いで医療班に……!……あ、違う……医療班じゃなくて……」
焦って昔のことを言ってしまった。
「…………ミオ」
「な、なに?」
「……好きだよ。」
「……っ!!!ばか!!ばかばかばか!!!今はそんなところじゃ……!!…………レン?レン!レン!!!返事して!!!!」
好きを呟いていたレンが、目を閉じていた。
呼吸が浅くなっており、意識が無い。
「ダメダメダメ、やだよ!嫌だよレン!!!だめ!死なないで!!!!」
ミオは必死に叫ぶ。
「お願い……!!死なないで……!!!」
声がか細くなる。
「あれ?ノアちゃん?」
「……!!!」
レンの炎は消えた。
それでも、その手はまだ、何かを掴もうとしているように見えた。




