第4話 それでも、守ると決めた。
第四話 それでも、守ると決めた。
ミオは、大学に向かい走っていた。
追っ手が現れないことに違和感を覚えたのだ。
弥生たちの斥候は、確実な情報を持ち帰るはず、
それなのに、誰も追って来なかった。
もしかしたら、と。
大学に着くと、体育館から泣き叫ぶ声が聞こえた。
「……バリーの声」
廊下から、こっそりと中を覗く。
バリーの姿を捉えた。
そして、その一点を見つめる"視線"を。
あぁ、終わったんだな。――と。
ミオは、光が収束した先に「何も残っていない」ことを確認してから、戻ろうとした。
すると、体育館の外から裏口を使い校舎に入る美影先生を見つけた。
目が青色に輝きニコニコとした、いつもの美影先生の雰囲気ではないことに、ミオは静かに目を閉じた。
――――――
レンは唖然としていた。周りの皆を見ると何事もなかったかのように剣道の準備を始めていた。
「よーし、稽古始めるぞ〜、準備しろ〜」
父の声が聞こえた。
入り口から何もないかのように入ってきた。
「……えっ?ま、待ってくれ父さん…!今大男が!」
「大男?何を言っているんだ。そんなものどこを見てもいないだろう。寝ぼけてないで準備しろ。」
「……いない……?……駿平先輩!!!今の!!」
「今?今はみんなで準備中だったよ。そんなに汗かいてどうしたのさ、まだ稽古始まってないよ?」
駿平先輩はさわやかに笑い準備へと戻った。
「…今皆と戦ってたのに……一体どうしちまったんだ……」
ただ、レンだけは確かに覚えていた。
手に残る感触が、消えない。
確かに――“触れていた”感触が。
誰もこの状況を覚えていないことに、不信感を覚え。
「……ミオ」
ミオなら何か知っているかもと思い、体調不良を理由に早退した。
ミオを探し回った。教室、講義室、家庭科室、職員室。
「ミオっ!!!」
最後に図書室を探した。
「……レン?」
ミオは本棚で本を選んでいた。
「ミオっ!!聞きたいことがある!!!」
レンはミオに駆け寄った。
「…………レン……。あのね……ここでは」
小声で静かに話す。
「ミオ!!頼む!!」
「だから……ここではっ」
「ミオっ!!!」
「お黙りっ!!!!!図書室は走らない!!喋らない!!!騒がない!!!!出ていけ!!!!」
空気が、凍りついた。
強面の図書室の先生に怒られた。
「ひぃっ!!ごめんなさいっ!!」
「……もうっ……!行くよレンっ!!」
ミオはレンの手を取り、図書室を出た。
「もう、ちゃんと話聞いてよレン、図書室は大きな声を出しちゃダメ!」
空き室に入り、ミオは言いかけたことを口にする。
「うっ…それは……ごもっとも……。ごめんなさい……」
レンはしゅんとする。
「……それで、聞きたいことって…?勉強の事なら教えてあげれるけど」
「……俺、ミオと会ってから、周りで不思議なことが起きてる気がするんだ。やたらと視線を感じたり、大男が暴れてたりと、普通ではありえないことが起きてる。」
レンは今まであった違和感を、初めてミオに伝えた。
「それはミオと会ってからなんだ!だから、ミオは何か知ってるんじゃないかって思って。もし知ってたなら、もし、襲われてたりするなら、俺はミオを守りたい。」
拳をぐっと握る。
「…………それは、言えないよ。守ってもらう義理なんてない。」
「それはある!!」
レンは、一度だけ息を吸った。
「俺は……ミオの事が、好きだっ!!!」
レンはずっと溜めていた気持ちを吐き出した。
「初めて見た日、一目惚れした!家で養子だって聞いたときも、驚いたけど……嬉しかった!!毎日会えるのが、幸せなんだ!!だから、守りたい!!!」
「………………無理……だよ。あなたに私は守れない……あなたが守ろうとしてるのは、ただの女の子なんかじゃない……」
ミオは突然の告白に驚くも、胸がぎゅーっと苦しくなり俯いてしまう。
「……それを、教えてよ。ミオを守るって俺は決めたんだ。教えてくれなきゃ、分からないだろ。」
「…………」
ミオは沈黙した。
「…………そっか、教えてくれないか……。それなら、俺は勝手にミオを守るよ!相手が誰だろうと、俺の好きな人をこんな顔させるやつを許せねぇ!!だから、絶対ミオを守ってやる!!!」
「…………無理なんだって……異能力相手に、無能力の人なんか……。私が関わった人は、みんな――」
ミオはぽつりと呟いた。
「……異能力……?異能力ってなんだ…?」
「……!!なんでもないっ!」
思わず口から出てきた言葉を疑った、だから逃げようとした。
でも手を捕まれた。
「教えてよ、ミオ。お願いだから。」
「───!!!」
レンは真っ直ぐな目をしていた。
気になっていたあの目。
ミオは、気付いてしまった。
自分も、この子が好きなんだと。
この子に好きと言われて、わかってしまった。
両思いなんだと。
揺らいでしまう。
でもこの子を巻き込んでしまう、死んじゃやだ、死んじゃ嫌だ!!!
「……だめ、だめっ!!」
手を振り切り、ミオは逃げた。
「……ぁ……。……ダメと言われても。俺は守るからな、ミオ。」
レンは覚悟の決まった目をしていた。
――シャングリー管理局――エデン
任務を終え、エデンへ戻った弥生は、呼び出しの通知を見た瞬間、足を止めた。
「……はは。……もう終わりかよ。」
小さく息を吐く。
声は、思ったよりも震えていなかった。
「……はーぁ、弥生とも今日で最後か〜。いやー、楽しかったよ〜!ありがとね!」
管理区画の廊下で、日向が呑気に手を振る。
「うわ、軽っ……四年も一緒にいたのにさぁ」
弥生は肩をすくめた。
「んじゃ、死んだらお前のことだけ、ぜってぇ呪ってやるからな〜」
「はいはい、勝手に呪ってけ〜!ばいばーい!」
そのまま背を向ける弥生を見送りながら、日向は笑顔のまま立ち尽くしていた。
――数秒後。
「………………はっ……あたし……笑えてた……?」
ぽろりと、涙が落ちる。
「……くそ。早すぎるだろ……変なこと、しやがって……」
握りしめた拳を、壁に叩きつけた。
――管理室
コンコン、と控えめなノック。
「入れ。」
「失礼します。お呼びですか?」
弥生はにっと笑って入室した。
死ぬ覚悟は、もうできている。
だからこそ、笑えていた。
「……どうした?」
レオンの問いは、たったそれだけだった。
「どうしたって……別になんも無いっすよ?」
軽い口調で返す。
「そうか。」
沈黙。
レオンは書類から目を離さず、淡々と判子を押し続けている。
「……あのー?」
「あぁ、失礼。少々考え事をしていてね。選挙前で忙しいんだ。」
「へぇ〜、そりゃ大変っすね。期待の新人とか、いないんすか?」
冗談めかした声。
「いることはいるが……私の世界にはいらない。」
判子が置かれる音が、やけに大きく響いた。
「……あー……そう、なんすね。」
弥生の口元が、ほんの一瞬だけ引きつる。
「ノアの件、誤報したそうだな。」
その一言で、空気が変わった。
「……まぁ、俺だって。死にたくないっすから。」
視線を伏せて、弥生は正直に答えた。
「ふん。なら、生かしてやろうか?」
初めて、レオンが顔を上げた。
嘲るような目。
「……そんなこと、しないじゃないっすか。」
声が、わずかに揺れた。
「いや?あるかもしれないよ。……一%くらいは。」
「ほぼ無いじゃないすか……!冗談やめてくださいよ!!」
「ははっ。すまない。少し、気分転換だ。」
レオンは楽しそうに笑った。
「……でも、ちょっとは嬉しかっただろう?」
「……まぁ。そりゃ。生きたいんで。」
正直な言葉だった。
「そうか。なら、生かそう。」
レオンは視線を落とす。
「弥生と日向は優秀だ。失うのは惜しい。」
「………………」
「どうした?」
最初と、同じ問い。
「……いや……こんなこと、あるんだなって……」
弥生は、ぽつりとこぼした。
「俺が見てきた連中は……みんな、すぐ消されてたんで。」
「あぁ。それはいらなかったからだ。」
レオンは、引き出しから一枚の写真を取り出した。
――ノアと、隣に立つ少年。
「だが、お前はまだ必要だ。」
「気になっているんだろう?ノアの隣の者を。」
弥生は、何も言えなかった。
「情報が欲しい。やってくれるね?」
「……はい。」
「よろしい。」
レオンが目を細めた。
「次は、ないよ。」
その瞬間。
空間が歪み、弥生の姿は消えた。




