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第3話 消された声

第三話 消された声

 ――翌朝


「ふぁあああ、夜更かししちまったから眠てぇや……。」

 レンは欠伸をしながらリビングへと降りてくる。

 

「おはよう、レン」

 ミオの声が聞こえた。椅子に座っていた。


「あっ、おはようっ!!起きてたんだっ!」

 レンは慌てて寝癖を直す。


「うん、ちょっと眠れなくてね」

 ミオは浮かない顔で下を向く。

 

「具合治ったの?」

「うん、横になってただけで少しは落ち着いた。サークル、行けなくてごめんね」

 上目遣いにレンを見る。

 

「い、いやいや、具合悪いのに無理しちゃダメだよ、部活じゃないんだから、休むの優先の方がいいよ!」

「……うん、大丈夫」

 

 レンはミオのどこか浮いてる返事が気になった。

 

 心ここに在らずのような感じがして。


「あっ、俺もう行くね!一限なんだ!ミオも治ったら来るんだよ!!じゃっ!!」

 レンは嘘をつき何も持たずそそくさと家を出た。


「……ミオはちゃんと帰ってた。本当に具合悪いだけ、だったのかも。……でも、浮かない顔してたな。本当に……具合悪いだけ……?いいや、本人が大丈夫って言ってるんだ!俺が信じなきゃ誰が信じてあげるんだ!!」

 レンは気合いを入れ、授業の時間まで走り込むことにした。


 

 二限目が始まる。


「うぃーす、始めるぞ〜」


 ボサボサ髪の先生が教室に入ってくると、名簿を片手に出席を取り始めた。


「呼ばれた人、前来て紙取ってってな〜」


「高橋〜、荻原〜、松戸〜、(あかつき)〜……(あかつき)〜?」

 呼ばれた生徒が返事をし、紙を取りに来るも、レンがいない。


「なんだ、あいつ休みなんか?えーと、じゃあ…」


 その瞬間、教室のドアが勢いよく開いた。

 

「遅れましたッッッッ!!!!!」


 レンが汗だくになりながら教室に入ってくる。


「お、おう。どうした汗だくで……」

「自主練してました!!!!」

 汗だくなレンを見て若干引いてる先生。


「そ、そうか、わかった。ほれ紙、お前の分だ。」

「あざます!!みかちゃん先生っ!!!」

「だぁーっ!その名前呼ぶなって!出席取らんぞ!!」

「はーい!ごめんなさーい!」

 いじっても笑って許してくれる、この先生は美影(みかげ)先生、ダルそうな雰囲気だけど、分からないとこを聞いたらちゃんとわかるまで教えてくれる優しい先生。

 レンの好きな先生だ。


 空いてる席に座ると、ふと違和感を感じる。

「……あ、なんにも持ってきてねぇ。」

 なんとレンは何も持たずに走り込みをしたため授業道具を忘れてきたのである!!

 

「忘れ物をしたそなたに天からの授け物をやろう〜」


 頭の上からノートとペンが降りてきた。


「…ん?つむぎ先輩!?なんでここに!?」

「んー、レンが走ってくの見えたから着いてきた!空きコマで暇だったし〜」

「まじすか……ありがたく頂戴しまっす!!」

「うむ。よろしい。」

 つむぎ先輩、コホン、天からの授け物で授業を受けることが出来たレンなのだった。

 


 授業終了、チャイムが鳴る。


「よーし、今日はここまで〜。レポート出すから忘れんなよ〜」


 ざわっと教室が緩む。

 レンは借りたノートを閉じ、隣を見る。


「つむぎ先輩、ノートありがとうございました!助かりました!」

「どういたしまして〜。相変わらず全力だね、レン〜」


 つむぎは椅子に座ったまま、くすっと笑った。


「走ってたでしょ。廊下からでも分かったよ」

「えっ、そんなに!?」

「うん〜。お顔、真っ赤っか〜だった」


 からかうような声。

 でも、その目は少しだけ真面目だった。


「……なんかあった?」

「え?」


 レンは一瞬、言葉に詰まる。


「いや、別に……」

「“別に”って顔じゃなかったけどなぁ〜」


 つむぎは立ち上がり、レンの方を見下ろす。


「無理に話さなくていいよ。でもね」

 一拍、間を置いてから。

「走り込む時って、大体“考えたくない時”でしょ」


 図星だった。


「……先輩、鋭すぎません?」

「二年やってるとね〜、後輩の顔くらい読むようになるの」


 軽い口調。でも、突き放さない距離。


「一人で抱え込むタイプでもなさそうなのに」

「……誰か巻き込むの、苦手で」

「ふーん。優しいんだか、不器用なんだか」


 つむぎは肩をすくめた。


「ま、今日はそれでいいんじゃない?」

「え?」

「ちゃんと授業出たし、遅刻したけど元気だし」


 にっと笑う。


「困ったら、また天から授け物落としてあげるから」

「それ、先輩のノートですよね!?」


 二人で小さく笑ったあと、つむぎは教室の出口に向かう。


「じゃ、私は次行くけど」

 振り返って一言。

「無理する前に、ちゃんと息しなよ」


 レンはその背中を見送りながら、

 なぜか胸の奥が少しだけ軽くなった気がした。



 エデン――管理局、監視室。


「ご報告致します。斥候部隊から目標の居場所を特定したとの報告かありました。現在、バリーが目的地へと接近中です。」

 黒服が窓の外を見ている背の高い男に跪いている。


「ふん。ご苦労。下がれ。」

「はっ。」

「……さて、もうすぐだよ、ノア。」

 男は嬉しそうに口角を上げた。



 体育館に続く廊下――


 サークルの時間となり、レンは体育へ向かっていた。


「……?なんだ…?」

 レンはふと気配を感じ振り返る、

 誰もいない。


「うーん。なんだろなぁ。最近変だよな。夜更かしばっかしてるから幻覚まで見始めてんのか?しっかりしろ俺!」

 自身の胸を叩き気合を入れる。


「きゃぁああああああ!!!」

 その瞬間、悲鳴が聞こえた。体育館の方だ。


「なんだっ!?」

レンは体育館へと走り、状況を確認する。


「しおりさんを離せっ!!!」

 駿平(しゅんぺい)先輩の怒号が聞こえた。


 しおりと呼ばれた女性を、大柄の男は軽々と片手で持ち上げていた。

 抵抗する素振りすら見せず、まるで物のように。


 その腕には、ありえないほどの筋肉の筋が浮き出ている。

 人間のものとは思えない、硬く、張り付いたような筋。


 そして大柄の男は、シマシマの服にサスペンダーをつけた短パンという、場違いなおかしな格好をしていた。


 

 何人もが飛びかかった。

 竹刀が叩きつけられ、怒号が響く。


 ――だが、効かない。


 男は眉一つ動かさず、しおりを持ち上げたまま腕を振る。

 その拍子に、彼女の身体が大きく揺れた。


「……っ」


 レンの喉が、ひくりと鳴った。


 これ以上刺激すれば、

 あの人が危ない。


 ――分かった。


 考えるより先に、身体が理解した。


 守りたい。

 助けたい。

 ただ、それだけだった。


 落ちていた竹刀を取り、構えた。

 足が、自然と前に出る。

 右足。左足。

 床を蹴るのではなく、滑る。


 視界が、静かに研ぎ澄まされた。


 竹刀を握る手から、余計な力が抜ける。

 構えが、崩れない。


「……今だ」


 レンは、踏み込んだ。


 音は、ひとつ。


「コテ――ッ!!」


 鋭く、短く。

 刃を立てるように、男の腕へ。


 竹刀が、まるで鋭い『何か』に変わったような。


 骨を断つ感触が、竹刀越しに伝わった。


 次の瞬間、

 しおりの身体が、宙を離れた。


 レンは反射的に彼女を抱き止める。

 遅れて、床に落ちる音がした。


 切り落とされた腕だった。


 体育館が、凍りつく。


 レンは荒い息のまま、竹刀を構えていた。

 自分が何をしたのか、まだ理解できていない。


 ただ、

 ――助けられた。


 その事実だけが、胸に残っていた。


「んぁ?…いたい…?いたい…!いたいぃ!!!いたいいいい!!!!!うわあああああ!!!」


 男は腕を斬られた事に遅れて反応し、床をのたうち回った。


 この男を見ていると、

 レンの中で、ばらばらだった違和感が、あと一歩で繋がりそうなところまで来ていた。


「お前は……何が狙いなんだ!」


 レンは叫んだ。


「うぅぅ……! うぅ……ノ、ノア……!」


 男は腕を押さえながら、縋るように名前を呼ぶ。


「……ノア? 誰だそれは! ここにはいない!」


「……いる! いるもん!!」


 男は必死に首を振った。


「テレポートの奴が……そう言ってたんだ!!!」


 その瞬間。


 レンの中で、違和感が一つに重なった。


 テレポート――。


 あの黒い影。


「……忍者……?」


いや、まさかな。

忍者なんているわけない。

――昔話だ。

 


 床に膝をついた男は、腕を押さえながら、荒い息を吐いていた。

 苦悶の声を上げながらも、まだ意識がある。


 その姿を視界に捉えたまま、

 レンの胸に、ふと浮かんだ顔があった。



 ミオ。


 今、この場にいなくてよかった。

 心の底から、そう思った。


 ――もし、ここにいたら。

 もし、あの腕が掴んでいたのが、彼女だったら。


 想像しただけで、喉の奥がひりつく。

 息が、浅くなる。


 助けられただろうか。

 さっきと同じように、迷わず踏み込めただろうか。


 答えは、出なかった。


 レンは、ぎゅっと竹刀を握りしめる。


 ――守りたい。


 今日みたいな偶然じゃない。

 間に合ったから助けられた、じゃない。


 次は、最初から守れるように。


 その想いだけが、胸の奥に静かに残っていた。


「うぅ…おで……おではぁ……!」

 男は半べそをかきながら、何かを言おうとしていた。


「なんだ…!」

「おでは…!やれって…!言われただけでぇ…!」


「誰に言われたんだ!」

「それはぁ…!!………………っ!!!」


 男が言葉を紡ごうとした、その瞬間。


 一点を見つめ、蛇に睨まれた蛙のように、男の身体が強張った。

「…………!!」


 口は動いている。

 だが、喉を押し潰されたかのように、声だけが落ちてこない。


 一瞬の出来事だった。


 眩い光が、体育館を包み込んだ。


 視界が白に塗り潰され、

 次に瞬きをした時——


 そこに、男の姿はなかった。


 床には、

 先ほどまで男が踏みしめていたはずの場所だけが残り、

 まるで最初から、誰もいなかったかのようだった。


「……え?」


 レンの掠れた声。


 倒れた身体も、

 血の跡も、

 悲鳴の続きもない。


 ただ、

 “消えた”という事実だけが、

 体育館に残されていた。


「どういう……ことだ……」

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