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第1話 違和感

第一話 違和感

 竹刀が空を裂く音が、体育館に何度も響いた。

 

「――めーんっ!」

 

 レンは前に出た。

 思ったよりも身体が前に流れ、足がもつれる。


「足が違う!右だ、右!」

 

 レンの父の声が飛ぶ。

 言われた通り、右足から踏み出す。

 だが焦りが先に立ち、身体ごと走るように前へ突っ込んだ。

 

「走るな!滑れっ!」

 

 叩きつけるような声に、レンの肩が強張る。

 竹刀を振り下ろすたび、息だけが荒くなっていった。


「――めーんっ!」


 声を張り上げる。

 だが足は揃わず、走るように踏み込み打った後の姿勢も止まらない。


「……止め!」

 

 父が一歩、前に出た。


「お前は、一つの事しかできないのか!」


 父の声が、体育館に響いた。

 体育館の空気が、張り詰める。


「強くなりたいなら、まず立ち方を覚えろ!!」

 

 レンは唇を噛み、俯いた。


「頭冷やしてこい!!」

 

 怒鳴り声に背中を押されるように、レンは体育館の端へ向かった。

 竹刀を握る手が、微かに震えていた。


「はぁ…なんで上手くいかないんだろ…ちゃんと意識してんだけどなぁ……」

 体育館端に体育座りをし、水を飲みながらブツブツと呟く。

 

「父さんみたいに全国大会連続優勝!みたいになりてぇのに……程遠いなぁ〜」

 レンの父は、剣道全国大会を10連覇した元選手だ。今はサークルで講師をしている。


 レンは「はぁぁぁぁ……」と、とても大きなため息をついた。


「なぁなぁ、こないだのバズってた動画見た??テレポート人間現る!ってやつ!!」

 

 先輩の声がする。藤堂啓介(とうどうけいすけ)先輩だ。

 ムードメーカーで、色んな話を知っている、作り話も多い。


「え?テレポート人間?いやぁそんなわけ、またフェイク動画だろ?」

 

 この信じてない人が朝霧駿平(あさぎりしゅんぺい)先輩。

 サークルのリーダーで、全国大会にまで出場してる強者だ。


「けい〜、また作り話してるの〜?やめなよ〜」

 

 このおっとりしてる人は白石(しらいし)つむぎ先輩。

 おっとりしている割にはカウンターで一本取ることが得意な強者。


「いやいやいや、俺の話じゃないんだって!ほんとに最近バズってたやつ!!レンも見てくれよ!!ほれ!!」

 

 啓介(けいすけ)先輩はバズったという動画を見せてくれた。


 動画は、監視カメラに歩いてる人が途中フッと消える映像だった。


「映像の乱れとかなんじゃないのー?」

「そうだよ〜、心霊写真みたいに電波が邪魔してどうのこうのみたいな〜」

 

 駿平(しゅんぺい)先輩とつむぎ先輩は否定していた。


「いーーやっ!絶対テレポートだね!!なっ!?レン!!そうだよな!!!」

 

「え…いやぁ……あ、そうっ…すね!」

 

 啓介(けいすけ)先輩は必死の形相でレンに詰め寄っていた。


 確かに映像には乱れとかは無く、フッと人が消えているように見えた。

 先輩達が言い合っている間に、動画が何度もループしているのを見ていた。


 (……あれ?なんか、消える直前…こっちを…見てる?)

 

 レンの中でふとした違和感が渦巻いた。

 

「気のせい…か。」

 

「おいレン!!見ろ!!首席だぞ!!!サークルを見に来たんだ!!」


 アラームのように劈く勢いの声に耳がやられそうになったが、啓介(けいすけ)先輩が指をさしてる方を見た。

 首席と呼ばれた少女が取り巻きの女の子達と剣道サークルを見に来ていた。


 レンは一気に目を惹き付けられた、なびく茶色の髪、美しい所作、取り巻き達との話し方、笑い声、綺麗な瞳。

 

 レンは夢中で彼女を見ていた。


「……!…ッ!!レンっ!!!」

 

 啓介(けいすけ)先輩に何度か呼ばれ、我に返った。


「休憩は終わりだ!!早く戻ってこんか!!」

 

 父の声がこちらに向かっていた。


「……はいっ!!」

 

 レンは急いで練習に戻った。

 

 ――数時間後


「正面に、礼!」


「「「ありがとうございました!!」」」


 稽古が終わり、皆、バラバラと更衣室に戻っていく。


「レン、今日は家に帰ってきなさい。紹介したい者がいる。」

 

 レンも更衣室に向かってる途中、父に呼び止められた。

 

「紹介したい……?……えー、何?再婚?」

 

 レンはおどけた声で言った。

 

「馬鹿者。いいから帰ってこい。」

 

 父は、少しムッとしていた。

 踵を返しそそくさと体育館を出ていった。


「なんだよ……あれ?あの子は?」


 レンは辺りを見渡した、一目惚れした姿は、もう見当たらなかった。

 

「……もう帰ったのか……。まぁ、たまには家帰ってやるか。」

 

 あの子がおらずがっかりしたが、気持ちを切り替え

 一度寮に戻り、着替えを持って実家へ向かった。


「ただいまぁ〜」

 

 ノロノロと家に入り、リビングのドア開けると、

 稽古の休憩中に一目惚れした、あの少女がそこに立っていた。


「ほれ、レンよ、この子が紹介したい子だ。少し前に養子になったぞ、未緒って言うんだ。」

 

 父は嬉しそうに紹介していた。

 

「…え、…えっ!……ぇぇぇええええ゛え゛え゛!?!?」

 

 レンはあまりの驚きで話が入ってこなかった。

 夢では無いかと目を疑っていた。


(どうしてこの家にあの子が……!?)

 

 レンは目を見開き、口をパクパクしていた。


「色々事情があって養子にした。深くは聞くな。……飯が冷めちまう。」

 

 父は淡々と言い、テーブルにつきご飯を食べ始めた。


「いやいやいや、嘘だろ父さん、養子って……えぇ??」


 心の底から驚いた。

 

「初めまして。柏木未緒(かしわぎみお)って言います。二ヶ月前から養子としてお世話になっています。よろしくお願いします。」

 

 レンがパニックになっていても、ミオは淡々と笑顔で自己紹介をしてくれた。


「あっ…えと……レン、暁煉(あかつきれん)。えっと……なんでこの家に…柏木さんが……?」


 レンは手が震え、心臓が飛び出そうなほど胸がいっぱいになっていた。

 

「ミオって呼んでください、同い年だしタメ口でもいいですよ。」


 にこっと笑った顔にレンは目を奪われた。

 

「…………はっ!!あれ!?俺今何して?」

「ふふ、タメ口でいいですよって私が言ったのよ」

 我に返ったレンにミオは笑いながら改めて伝えた。

 

「あ、じゃあミオで!俺もタメ口でいいよ!」

 

「ありがとう、レン。さっきもお父様からお話あったと思うけど、養子として、これからお世話になります。よろしくね。」

 ミオはペコリと軽くお辞儀をした。


「そう、なんだ……。」

 また所作に見惚れていた。


「……ンンッ!」

 父はわざとらしく大きく咳払いをして、レン達に食事を促した。同時に詮索はするなという目で釘をさした。

 

 その時は詮索はせず、誰もが何かを飲み込んだまま夕食を終えた。


 父は部屋に戻り、レンとミオはまだ食卓で、少し話していた。

 

「その、俺の父さんとはどう知り合ったの?」

 レンはなにか話題をと、ふと思いついたことを聞いた。

 

「………」

 ミオは俯いた。

 

「……そっか、えと、首席だったよね学部はどこ?」

 

 釘を刺されていたので深くは聞かず、話題を逸らした。

 

「文学だよ。文学の心理学」

 

「文学か〜そうだよなぁ〜頭いいんだもんなぁ。俺は理工の情報〜、正直全く分からないよ。出来ると思ったけどぜーんぜん出来ない。父さんと同じく不器用だからさ〜。」

 

 少し自虐的に言うとミオはクスッと笑った。

 

 笑った顔を見たレンは


「可愛い…」


 思わず呟いた。

 

「あっ、いやっ…いやー!最近暑いね!もう七月だよ〜。エアコンつけなきゃのぼせちゃうよな〜!あはは、俺先に寝るね!!お、おやすみ!!」

 

 焦ったレンは早口で喋り早々に自室へ戻った。

 

「…ふふっ、何も言ってないのに…んふふ」

 

 様子がおかしかったレンに笑ってしまうミオだった。


 翌朝――

 

「おはよぉぉ〜」


「おはよう、レン。お父様ならランニングに行ったよ」

 テーブルには朝食が並んでいた。


「うまそー!これミオが作ったの?」


「あれ?気付いてない?昨日の夕食も私作ったのよ?」


「ま、まじ!?だからめちゃくちゃ美味かったんか!!!」

 思わず顔が緩んだ。

 

「……好きな人が作ってくれたから、かな」

 ボソッと本音が出た。


「……えっ?」

「え?」

 お互いに顔を見合わせ、同時に赤くなる。


「え、いや、あ!ごめ…ちが、い、いただきます!!!!」


「う…うん。」

 互いに目を逸らした。

 

「お、そうだ、今日の俺の運勢は?……なんだまだ天気か」

 

 レンはふとテレビを付ける。

 

 テレビでは、朝の情報番組が流れていた。


「本日の天気ですが――」

 

 キャスターの明るい声とともに、画面は屋外の中継に切り替わる。

 お天気予報士が笑顔で指し示す空の下、人通りのある交差点が映っていた。


――その時だった。


 画面の奥、お天気キャスターの少し後ろを歩いていた一人と目があった。


 その瞬間――フッと消えた。


「…………!」

 レンは、昨日見たテレポート人間の動画が、頭をよぎった。

 

 情報番組のスタジオ内がざわついた。

 

 誰もが言葉を詰まらせ、下手に反応しないようにと  

 目配せをする姿がワイプに載っていた。


 生放送だった。


 レンは、言葉を失ったまま画面を見つめていた。

 ふと、隣を見る。


 ミオは、目を伏せた。


「……何が起こってるんだ……?」

 

 その時、ピピピッ、とスマホが鳴った。

 啓介(けいすけ)先輩からだ。


「おはようテレビ見たか!?」というメッセージだった。


* * *


 エピローグ

 

 某日、シャングリー管理局内。


「──さぁ、時は満ちた」


 背の高い男が、窓の外を眺めながら呟く。


「諸君、狩りを始めよう」


 男が目を細めた瞬間、部屋の空気がひやりと冷えた。


 集められた者たちは、誰一人として声を発しなかった。

 

 

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