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第0話 〖ノアとミオ〗前編

第0話〖ノアとミオ〗前編

〖ノアとミオ〗

 

 私は小さな頃から、他の子とは違う、

 " 才 "を持っていた。


 ――某年三月四日。私は生まれた。


    〖ノア〗

  

 私は泣かなかったらしい。

 でもじっくりと両親の顔を見ていたのは覚えてる。


 両親に育てられ、生後三ヶ月になった時、

 「ママ、パパ」と話すようになった。


 最初は両親は喜んでいた。

 でも時間が経つごとに両親の笑顔は歪んでいった。


 一歳には、言葉をしっかり話すようになった。

 ひらがなや漢字も書けるようになっていた。


 二歳には、難しい漢字や言葉のある本を読めるようになり、両親はあまりの賢さに引いていた。


 三歳には、親の見真似で家事に手を出すようになり、炊事・洗濯・掃除を小さいながらに頭を使い、道具を使いつつ出来るようになっていた。


 四歳には、一人で買い物に行くようになった。

 親に冷蔵庫の中に無いものを伝えるとお金が貰える、だから買いに行く。

 

 私は親の為にと動いていたが、周りからみたら異常だそうだ。

 近所の人、スーパーの人、公園にいる子供達でさえ、私を化け物を見るような目で見ていた。


 私は、普通なのに。

 どうしてそんな目で見るの?


 五歳のある日、私は家の廊下にいた。

 リビングから話し声がしていたから、咄嗟に壁に張り付いた。


 聞き耳を立てると、両親が私のことについて話し合っていた。


 私は少し体が強張った。

 

「私、もうあの子と一緒にいたくない。あの子を見る周りの目、あなたも見てるでしょ。」

 母が泣いていた。

「あぁ、わかってる。あの子は異常だ。あの子のやっていることは高校や大学レベルだ。」

 父も同調していた。

「もっと、子供らしい子供を育てたかった。不妊治療頑張って、ようやく恵まれた子供があんな子だなんて、……嬉しくもなんともないわ。あんな子、いらない」


「……。」

 母の言葉が重く突き刺さる。


 手が、足が、震え出す。


 息を飲んだ。


 私は、両親の為にと、色々と覚え、できるようになったはずなのに。


 両親は、私を必要としてなかった。


 『あんな子、いらない』


 息が出来なくなる。

 喉が苦しく感じた。


 私は――


「そうだ、あの子を山に捨ててこよう。そうして、小さい子供の養子を取ろう」

「あら、素敵ね。そうしましょ。


「……!!!」


 両親との思い出が、全て崩れ去った音が聞こえた。


 何もかもが壊れた。


 そして。

 

 私は家を飛び出していた。


 ひたすら走って、走って、走って。


 ――走った。


 五歳の体力なんてたかが知れてる。


 足が痛い。

 喉が焼ける。

 それでも止まれなかった。

 

 体力が尽きるまで走った。


 知らない道、知らない公園、知らない家。


 周りは私の事なんて知らない。


 知らないから関わらない。


 関わらなくて良い、だから、皆の知らない所で死に場所を探した。


 もう、生きることに疲れた。


 


 ――川沿いまで来た。


 どこまで走ったかは分からない。

 足が震えてる。

 柵に掴まり呼吸を整える。


 風に乗って美味しそうな匂いが運ばれてきた。

 目の前には屋台があった。焼き鳥の屋台だ。


 ぐ〜っとお腹がなる。

 

 お腹がすいた。

 

 でも、もう私にはお金も無いし買う必要もない。


『あんな子、いらない』

 

 母の声が頭に響いている。


 また体が強張った。

 息が苦しくなる。


 父も庇ってくれやしない。


 捨てると言われた。


 それで生き続けるなんて出来ない。

 

 私は、死のうとしてるんだ。


 私はまだ五歳。


 どうしてこんな風になっているんだろう。


 川を眺め、柵に手をかけた。

 身長は足りない、でもこの高さならジャンプをすれば柵の上に手が届く、いける。

 

 あとは、登るだけ。

 

 そうしたら――


 私は。


「君がノアちゃん、だね。」


 すぐ後ろから低い声が聞こえ、反射的に振り向いた。

 気配は、なかったはずのに。


 背の高い男の人が立っていた。


「あなたは?」


 私は問いかけた。

 

「こんにちは、ノアちゃん。私はレオン・ヴァルセイン、賢い君なら知っているだろう?」

 

 レオンは怪しく微笑んだ。

 

「……えぇ、知っています。レオン・ヴァルセイン、シャングリーの大統領です。そしてシャングリー管理局局長です」

 

 私は柵から手を離し、淡々と答えた。

 

「うん、いいね。噂通りだ。私は君をスカウトしに来た。私と一緒に働かないか?」

 

 レオンは目を細め手を差し出した。

 

「それは何故?私はまだ五歳、何も出来ません」

 

「いいや、出来るさ。君のその頭ならね。私は君を欲している。どうだい?君のその賢い頭を、私の元で使ってみないかい?年齢なんて関係ないさ。」

 

 ――ノアは考える。

 

「なぜ私なのでしょうか?頭の良い人なんて大人にもたくさんいます。」

 

「大人なんて欲望まみれの汚い奴らしかいやしない。だからこそ君に来て欲しいんだよ。」

 

 レオンは不敵な笑みを浮かべる。

 

「…私が……私が役に立てるのでしょうか…?」

 

「もちろんさ!君にしか頼めない事がある!――おいで、私は君をエデンに歓迎するよ。」

 

「……わかり、ました。よろしくお願いします。」

 

 ノアはレオンの手を取る。


「よろしい、……賢い子だね。」


 レオンの低い声が、脳に響いた。

 

 

 そして私はレオンの秘書となった。


 エデンと呼ばれた場所はシャングリー管理局だった。


 裏の名前は異能力管理局、通称エデン。


 異能力を持つものは少数だった。


 私はレオンと秘書になるにつれて契約を交わした。


 レオンの異能力は、

 【絶対契約(アブソリュート・パクト)


 私に与えられた契約は、

 『終末秘書契約(エンドロール・コンダクター)


 そして私は【契約継承(アーク・サクセッション)】の力を授かった。

 【契約継承(アーク・サクセッション)】とは、異能力を他人に与えることが出来る

 『異能付与(いのうふよ)』というものだ。


 異能を付与する強大な力には代償がある。


 それは【契約継承(アーク・サクセッション)】の私が死ぬと、付与された人間も道連れとなり死んでしまう事だ。


 だが、それを知っている者は極わずか。


 この組織は上位異能、中位異能、下位異能、と別れている。


 元々異能力を持っている人達もいるが、その人達は上位や中位にいる。

 私が【契約継承(アーク・サクセッション)】を施したほとんどの人は下位異能にあたる。

 レオンからは被検体とも言われている、能力が弱い者達の名称だ。

 レオンは人としては見ていない、人のことは道具だと思っている。


 必ずしも【契約継承(アーク・サクセッション)】が成功する訳では無い、【契約継承(アーク・サクセッション)】は対象者の中に眠る異能を基準に異能力を無理に開花させる物だ、でも対象者と異能との相性が悪ければ対象者は弾け飛ぶ。対象者は死ぬんだ。


 初めて人が目の前で弾け飛んだ時は、罪悪感を覚えた。私が殺したと。


 でもレオンは、

「仕方ないさ、合わなかっただけだ」

 と、流していた。


「この次もあるから引きずるんじゃない」

 レオンは私の頭にポンッと手を乗せ、慰めてくれた。


 これから先も、たくさんの人が死んでいくかもしれない、でもそれはレオンから指示であり、契約であるから。

 

 私は、感情を置いていくことを覚えた。

 泣くことは無意味だと知った。

 

 

 レオンに拾われてから、

――十年が経った。私は15歳になった。


 私は、レオンに言われるがまま、【契約継承(アーク・サクセッション)】を

 何百人と繰り返してきた。


 今日も、「次の被検体を連れてきたから、頼むよ」と言われた。


 私が死ぬと道連れなのに。


「運の悪い人だ。」


 何百人と繰り返して来たからこそ、もう可哀想だなんて思わなくなっていた。


契約継承(アーク・サクセッション)】を行う部屋に向かい、部屋に入る。


 私は目を疑った。


 五歳の小さな男の子だった。

 

 私がレオンに拾われた歳。


 私は戦場には行ってはいないが、レオンはこんな小さな子ですら戦いに行かせるのかと、心の奥底から怒りが湧いた。


 それでも上からの指示は絶対。


 私は感情を殺し、震える手を押さえ付け。

契約継承(アーク・サクセッション)】を行った。


 男の子は笑った。

 怖がるでもなく、泣くでもなく。

 私を見上げて、笑った。


 ……どうして。


契約継承(アーク・サクセッション)】の光が彼を包み込んだ。


 部屋の音が聞こえなくなった。

 静寂が訪れた。

 

 ――そして男の子は死んだ。


 音が、消えた。

 

 付与された力に耐えられなかったのだ。


 男の子だった肉塊が弾け飛び、壁には真っ赤な飛沫が、べったりと張り付いていた。

 

 私は、膝から落ち、頭を床に擦り付けた。

 喉が裂けるほど泣き叫んでいた。

 

 私が拾われた年齢、未来ある子供、それすらも利用するレオン、怒りと悲しみ、何も救えない悔しさ。


 声が枯れるまで泣いて、悔やんで、叫んだ。


「ふぅむ。子供は無理か。今のとこ17歳以上だな。まぁ、いい、次の被検体を入れろ。」

 いつの間にか後ろにいたレオン。

 レオンは顎に手を当て、冷静に分析していた。


「っ……もう、やめ…て……」

 私の声はか細く震えていた。


「……ん?どうした?ノア」

 レオンは至って普通に接してきた。


「もう!!!やめて!!!こんな子供を巻き込むなんて!!!ありえない!!!!!…ぁっ………ごめん……なさい。」

 私は今まで押し殺してきたはずの感情が爆発してしまったのか、レオンに刃向かってしまった。


「……そうか、ノアと出会った時の歳の子だな。それは辛い思いをさせてしまったね、すまない。」


「……ぇ…?」

 レオンが謝罪をするなんて思ってもみなかったので、声にならない声が出てしまった。


 レオンは膝をつき、ノアの目元の涙を指先で掬い上げた。

 その指は驚くほど冷たく、まるで精巧な人形に触れているようだった。

 

「だが、こんなにも美しい涙を流せるとは……。君はやはり、私が選んだ最高傑作だよ」

 

 謝っているはずなのに、その瞳には慈しみではなく、手に入れたばかりの玩具を検品するような光が宿っていた。


「さて、これではちゃんとした仕事が出来なさそうだな。ノア、今日はもうおやすみ。明日、話をしよう。」

 レオンは立ち上がり、軽く手を振り部屋を後にした。


「………………。」

 私は感情がぐちゃぐちゃになった。

 手がまだ震えている。


『明日、話をしよう』

 

 この言葉は、私の中で重く感じた。


 自部屋に戻ってきた私は、ベッドの中でうずくまり考え込んでいた。


 今まで抑えていた感情が爆発してしまっているのだ、涙が止まらなくなっていた。


 このままここにいたら、私はもっとおかしくなってしまいそうで、すごく怖くなった。


「帰りたい。」


 ふと、呟いた。


 私に帰る家なんて無いのに、私は何を求めているのか。


 ここから出たい、逃げたいという欲が出てきた。


 だが、逃げれるはずがない。


 レオンは私をみすみす手放すはずもない。

 でも、このままここにいたら。


 私はものすごく葛藤をしていた。


 ――次の日。


 ピコンッ、と携帯が鳴る。


 レオンから[管理室へ来るように]とメッセージがあった。


 昨日の出来事だ、何かしらの処罰かもしれない。


 私は、あの後泣き疲れたのか寝てしまっていた。

 目が腫れていて隈が酷い。


 服装も昨日の服のままだ。


 私は軽く顔を洗い髪をとかして、服を着替え、管理室へ向かった。



 ――管理室。


 コンコンとノックをし、中へ入る。

 

「おはよう、ノア。よく眠れたかい?」

 レオンは何事も無かったかのように書類に目を通したまま話しかけてきた。

 

「おはようございます。……なんとか。」

 私は酷い顔を見せまいと俯いた。

 

「そうか。……昨日は、すまなかった。辛かったな」


 まただ、また謝罪をしてきた。本当はそんなこと思って居ないはずなのに。私は俯いたまま黙っていた。


「……ふん、それなら単刀直入に言おう。……逃げなさい、ノア」

 レオンは痺れを切らしたのか、意外な提案をした。

 

「……!!!」

 今日初めてレオンと顔を見合せた。


「ノア、お前はもうわかっているだろう。余計な感情を持ったお前はいらない。」


 思った通りだ。レオンはいらないと判断したものは容赦なく消す人間だ。


「逃げなさいノア。私は鬼となります、そして時が満ちた時、お前を捕まえに行きます。」


 鬼となり、捕まえる…?鬼ごっこ?

 つまり、逃げた私を時間が経てば消すってこと?


 逃げる猶予をくれるって事?

 レオンが?何故?


 私は分からなくなっていた。


 いらないと判断されたものはすぐに処分していた人が、時間をくれるなんて……。

 

 よく分からない。


 でも、私は昨日逃げたいと思ってしまった事もあり少し乗り気になっている。

 

 無謀だとは思った。どうせ逃げれない。


 でもここにも居たくなかった。


「……わかり、ました。」


 自室に戻り外へ出る支度をした。


 残したものは、沢山ある。でも持っていけない。


 十五歳の朝、私はエデンを飛び出した。


 五歳の頃にも私は逃げた、でもその時と違うのはお金があること、知力があること、そして、"生きたい欲"があること。


 だから、車を使い、飛行機を使い、遠くへ逃げた。


 丸二日かけて到着したのは日本だった。

 ほぼ真反対に位置する日本。


「……長かった。」


 本当に、ここまで来てしまった。


 ここまで来れば、しばらくの時間稼ぎにはなるだろう。


 到着した頃には夜だった。

 私は逃げてきた身なので、近くのお店で変装用のものを調達し、トイレ内で変装した。

 髪色を変え、カラコンを日本人に合わし、メガネやマスクをしたりと、服を着替えたりと変装した。


 鏡を見た。鏡に映るのは、

「……ノアじゃない。私は、……終わったんだ」


 少しだけ口角が上がった。

 

 街に出た、夜だったためかどこもかしこも賑わっていた。


 街で軽くご飯を食べ、静かな住宅街の方へと歩いてきた。

 ここまで来ると、少し疲れが出てきてしまった、近くにあった公園に入り、ベンチに横たわった。


 その日は少し肌寒かった。シャングリーは暖かかったからつい薄着を買ってしまった。


「寒い……でも、生きてる」


 そう呟いて私は眠りについた。


 

 ――エデンから逃げた十五歳の少女は日本へ到着した。


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