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第8話 「休み」は与えられたが、時間は与えられなかった

休みは、突然決まった。


二日間。

予定調整の結果、そうなった。


「念のためです」

そう説明された。


アオイは、反射的に頷いた。


理由は、聞かなかった。

聞いても、答えは決まっている。


――コンディション調整。

――負荷軽減。

――イメージの安定。


そういう言葉で包まれる。


初日は、何もなかった。


スケジュールは白紙。

通知も少ない。

身体は休めと言われている。


アオイは、久しぶりに目覚ましをかけずに起きた。


体は軽い。

疲労も、確かに抜けている。


それなのに、胸の奥が落ち着かなかった。


休んでいるはずなのに。


動画を、何本か見せられた。


過去の映像。

デビュー当時。

少し前の自分。


「この頃の雰囲気が、やっぱり強いですね」


誰かが言う。


「安心感がある」

「期待通り」

「ブレがない」


褒めているようで、

戻す話をしている。


アオイは、黙って画面を見ていた。


確かに、そこにいる自分は――

わかりやすい。


感情の位置が決まっている。

反応が予測できる。

“正解”をなぞっている。


「今のあなたが悪いわけじゃありません」


そう前置きされる。


「ただ、少しだけ修正できれば」


修正。


その言葉が、静かに落ちた。


二日目。


軽い打ち合わせ。

短い確認。

何度も使われる言葉は同じだった。


「戻す必要はありません」

「極端でなければいい」

「前と同じでなくていい」


でも、そのすべては、

同じ方向を指している。


“今”から、少しだけ離れること。


アオイは、笑顔を作った。


できる。

それは、得意だった。


「……私、急ぎすぎましたか」


ふと、口をついて出た。


一瞬の間。


「急いだ、というより」

言葉を選ぶ。

「“変化が早かった”ですね」


否定ではない。

でも、肯定でもない。


「チャンスは、あります」


そう続けられる。


「調整できれば」

「今なら、まだ」


その言い方で、十分だった。


時間はない。

でも、切られてはいない。


休みの終わり。


アオイは、自分の部屋で、静かに座っていた。


体は回復している。

声も出る。

問題は、どこにもない。


――問題は、ないこと。


「……ねえ」


心の中で呼ぶ。


「うん」


イオンの声は、いつも通りだった。


「私、戻れると思われてる」


少しの沈黙。


「戻ることを、求められている」


訂正する。


イオンは、否定しなかった。


「時間は、くれない」

彼は静かに言った。

「でも、席は残してる」


アオイは、膝の上で手を握った。


「それって……」


「“考える時間”じゃない」

イオンは続ける。

「“修正できるかを見る時間”だ」


胸の奥が、ひりついた。


二日間の休みは、終わる。


与えられたのは、猶予じゃない。


試すための、短い空白。


彼女は、ゆっくり息を吸った。


直せるかどうかを、見られている。


時間は、与えられていない。


与えられたのは――

“直されるチャンス”だけだった。

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