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第2話 あなたは私じゃない

ライブの後、蒼依は泣かなかった。


叫びもしなかった。


楽屋に鍵をかけ、鏡を見つめた。

まるで視線で映る自分を焼き消せるかのように。


「私はまだここにいる。大丈夫」


声に出して確認する。


「……それ、見えてるのか?」


「黙って」


洗面台を叩く。鏡が揺れる。


「魂なんて信じない。転生もしない。あなたは脳の防衛反応よ」


「キシナウの雨上がりの階段の匂いを知ってるか?

古い変圧器が焼ける匂いを」


蒼依の顔から血の気が引いた。


それは彼女の記憶じゃない。


他人の記憶だ。

磨いた床の上に置かれた、泥だらけの靴みたいに。


「出ていって。ここは私の体」


「頼んでない。どうしてここにいるのかも分からない」


蒼依は目を閉じた。


世界は、こんなふうにはできていない。


それから彼女は、返事をやめた。


無視した。

考える声を大きくして、彼の存在を押し流そうとした。


でも消えない。


体を奪うわけでもない。

操作もしない。


ただ、そこにいる。


朝になる頃、蒼依の手は震えていた。


「……もし本物なら。証明して」


彼は、自分の死について語り始めた。


細かく。

淡々と。

意味もなく。


それが決定的だった。


作り話は、こんなに無意味にならない。


蒼依は壁に背中を預けて座り込んだ。


「本当にいるなら……最悪ね」


「同感だ」


その時初めて、蒼依は本気で怖くなった。

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