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第1話 違和感
蒼依が最初に感じたのは、違和感だった。
怖さでもない。
痛みでもない。
頭の奥で、本来鳴るはずのない音が鳴ったような感覚。
彼女は笑っていた。
体は自動で動く。
一歩。ターン。カメラを見る。カウントに合わせて呼吸。
照明がまぶしい。音楽が胸を叩く。
いつも通り。
――その時。
自分のものじゃない思考が、入り込んできた。
「……え? ここ、どこだ?」
蒼依は一瞬だけつまずいた。
ほんの一瞬。
でも、心臓が沈むには十分だった。
「集中して」
パニックは今までもあった。
疲労は、何にでも化ける。
でも――頭の中の声なんて。
「なんで、こんなに腕が細いんだ……?」
蒼依は息を飲んだ。
「やめて」
幻覚。解離。私はおかしくない。
「聞こえる?」
戸惑った、少し荒い声。
自分の中にあるはずのない訛り。
踊り続けながら、蒼依は心の中で呟く。
「ありえない」
すると、その声ははっきり言った。
「俺は男だった。モルドバ出身だ」




