エピローグ
……静かだ。
痛みも、重さも、もうない。
俺は、溶けていく。
これが“消える”ってことか。
怖いはずなのに、不思議と落ち着いている。
長い間、ずっと重たい鎧を着ていたみたいだ。
守れなかった顔が、浮かぶ。
名前も思い出せない人たち。
救えなかった街。
俺の選択で、終わった世界。
それでも――
後悔は、ある。
エリナを、ひとりにしたこと。
それだけが、胸に残る。
でも……
神に決められた運命の中で、
俺が選んだのは、初めて“俺自身の選択”だった。
誰かを救うためじゃない。
世界のためでもない。
ただ――これ以上、選ばされる世界が嫌だった。
だから、終わらせた。
……ああ、そうか。
これでやっと、守れたんだ。
誰も、犠牲にしなくていい世界を。
――エリナ、聞こえるか。
兄ちゃんは、約束を破る。
守れなかった。
でも、終わらせることはできた。
怖い。
消えるのは、怖い。
でも、ひとりじゃない。
お前が、ここにいる。
ああ……
海の匂いだ。
帰れるな。
やっと。
⸻
光が、消えた。
レインは、存在そのものとして溶けた。
翼も、名も、記憶も、世界から消えた。
循環は止まった。
。。。
循環が止まった日、
リゼは、笑った。
「やっと、終わった」
彼女は、誰にも看取られず、
静かに眠った。
教団は、目的を失い、
祈りを忘れ、
やがて、歴史の中に溶けた。
神も、守護者も、いない世界で、
人は初めて、自分の意志で生き始めた。
。。。
空は裂けない。
災厄は生まれない。
守護者も、神も、いない。
人は、滅びることも、救われることもなく、
ただ、生きている。
港町ルーシェの跡地に、
小さな村がある。
漁に出る少年が、妹の手を引いている。
「お兄ちゃん、海に行くの?」
「ああ。帰ってくるよ。必ず」
その空には、翼はない。
ただ、風が優しく吹いていた。




