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異世界ユース  作者: 朝夕


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2/2

異世界コーチ

「助けていただきありがとうございました。」

ケモノたちは去り、村の人達にお礼した。

「ヴォーガムの群れに襲われてよく無事でしたね。」

隣で戦っていた男が答えた。男の名はベンチ。

「そんな格好で、1人で森を歩くのは危険です。今回は運よく噛まれなかったかもしれませんが気を付けてください。」

ベンチの娘、チアリに注意をされた。そして、しっかりとかまれている…。無事だったのは、もしかして加護やチート的なものか。確かに、あの数を1人で相手するのは体力的にキツかった。やはり、最初に助けてくれた3人は3世代の親子だった。ベンチの父であるカートクがこの村の村長らしい。カートクにどうして1人で森にいたのかを聞かれたが、儀式とかで召喚されたわけでもないので、転移なんて信じてもらえないだろう。元の世界で小学生にサッカーを教えている高校生で、教え子を庇って事故にあった。なんて言うのは野暮だと思った。とりあえず、なぜここにいるのか分からないと伝えた。どうやら記憶を失っていると思われたようだが、しっかりと記憶はある。まあ、そういうことにしておくのが自然だろう。元の世界での名前もしっかりと覚えていた。だがふと思いついた。

「オレのことはコーチと呼んでください。」


少年団で指導を始めたとき、恩師がコーチと呼ばれていた。しかし、最初に恩師は生徒たちにこう紹介した。

「これからは彼をコーチと呼ぶように。私のことは監督と呼びなさい。」

「はい!」

生徒たちは元気に返事をした。新しい自分の居場所、そして指導する立場の責任を実感した。誰でも環境によって違う自分がいる。家族の中、学校のクラスの中、部活のとき。新しい環境に入ると、また新しい自分が生まれる。好きな自分もいれば、あまり好きになれないときもある。私のなかで一番好きな自分は、きっと恩師に指導者としての役割をもらい、生徒に慕われていたときだ。この世界でも、そのときのような自分でありたいと思いそう名乗った。ただ、教え子でない人たちに呼ばせるのはなかなかに烏滸がましかったなと気付いた。


彼らは、(この世界での)記憶がない私にこの村について丁寧に説明してくれた。

「この村 -ロル村は、全部で四十世帯、百八十人ほどが暮らしている。見ての通り、細々と農作業で食いつないでいる小さな村だよ」

カートクの話を聞きながら、村の全景を眺める。二百人弱か。全員が戦えるわけではないだろうが、上手くユニットを組めば、ヴォーガムの群れ程度にこれほど怯える必要はないはずだ。

「先ほどの矢や、石のツブテや斬撃はなんですか?」

戦闘でのことを尋ねた。

「ヴォーガムに噛まれたショックで、本当に、何もかも忘れてしまったのか?いいか、コーチ。落ち着いて聞いてくれ。さっきのは『属性魔法』だ。俺たちが生まれ持った属性を、魔具を通して外に出したものだよ。この世界じゃ、子供でも知っている当たり前の力なんだ。……まさか、自分が何属性だったかも思い出せないのか?」

属性魔法。その言葉が、俺の頭の中に新しい項目として追加された。

この世界には属性という概念があるらしい。土·水·火·風の4属性でこの村(この世界?)全ての人は皆、どれか一つを持って生まれる。遺伝法則は不明で、カートクとベンチは風、チアリは土で、チアリの母(ベンチの妻)は水らしい。この属性は、魔具を通すことで実体化することができる。魔具とは、襲われていたヴォーガムなどの魔物を倒すと獲れる魔石を使う。倒したヴォーガムは、魔石以外が、水で固めた土が乾燥して砂になるかのように崩壊して、地中に吸い込まれた。弓に嵌めると、射手の属性に応じて石の矢、水の矢、火の矢、風の矢が撃てる。チアリはリングにしていて、土を握ると石にすることができる。強い衝撃が加わったり、時間が経つと元に戻った。要は、誰でも魔法が使える世界なのだろう。因みに、倒したヴォーガムは無属性らしく、魔具になると使用者の属性に依存する。魔物にも属性を持つものがいて、属性付きの魔石が手に入ると、それを使った魔具は、使用者に関係なく魔石の属性の効果が発揮できるようだ。このおかげで、コンロや蛇口の魔具がある。火と安全だろう水が容易に手に入るのは心強い。因みに人と魔物以外の生き物もいて、肉や魚が市場に並ぶ。魔獣を口にすることは、なさそうだ。もう一つ、属性ごとに支援能力(バフ掛け)がある。土属性の人は防御の支援で被ダメージを抑えられる。水の支援は体力回復。火は攻撃で一撃が強くなる。風は魔力回復。属性攻撃か支援か、それらを使わないかは感覚的にコントロールできるらしい。そして属性特有の攻撃や支援は無限には使えないということだ。ステータスは見ることができないが、MP のようにキャパが決まっているのだろう。しかし、自分がどんな魔具を使用しても何も起こらなかった。うまくコントロールができていないのか、まったくMPが無いのか。さらには、どの属性の支援も効果を実感できなかった。自分がこの世界で異物であることを痛感した。恐らく、この世界で生きる術はヴォーガムに噛まれても傷一つない耐久力だろう。(いのちだいじに)で行くことを決心した。


「ヤツラは村の場所を覚えたから、また来るぞ」

カートクが言った。

「しばらくは備えが必要ですね。」

チアリがそれに答える。

カートクとベンチが頷く。

なにがそんなに深刻なのだろうか?

「あの残りの数なら、明日にでもこちらから倒しに行けないんですか?」

3人に問いかけた。

「俺たちは冒険者じゃない。この村には、冒険者は常駐していないから街まで討伐依頼をしないとならない。それまでは今日のように防衛に専念した方がいい。」

ベンチがそう答えた。いや、この戦力でヴォーガム数体は余裕だろう…。残りは恐らく5匹。こちらの戦力は6人で数的優位がある。攻めたほうが主導権を握ることができる。

「それなら、僕とチアリさんとゴーンさん(氷の弓で援護してくれた若い村人・水属性)で森に入ります。カートクさんとベンチさんとビブズさん(火属性)、ラーダーさん(土属性)は村に残ってください。」

ちなみに、ゴーンは漁師、ビブズは鍛冶屋、ラーダーは大工だ。村長の家系は、何でも屋だ。領主としてその時々で必要とされることをする。

「コーチ、この村のことは俺たちに任せてくれ。」

ベンチにたしなめられた。

「こちらから攻めて、勝てるの?」

チアリが聞いてきた。

「僕が壁になります。実は、ヴォーガムに何回も噛まれました。でも全然ダメージがないんです。チアリさんとゴーンさんはお互いを支援しながら戦ってください。耐久力に振って負けない戦いをします。」

ヴォーガムの牙で小さく穴が空いた服を見せた。服を急いで捲くられたが、傷1つないことにみんなが驚く。

「無理はしません。でも、この戦力で十分勝てると思ってます。」


サッカーのコーチ時代を思い返す。うちの少年団はセレクションをしていない。そのため、1人1人 の実力差がかなりあった。それでも監督は勝負に拘っていた。戦略はシンプルで、攻撃は少数精鋭。守備は全員。この約束を守れないと試合に出れなかった。しかし、全員守備と言っても簡単に下がらない。1人はボールに行く。1対1で勝てるのが理想的だが、足下が上手な相手にはあっさり抜かれる。そこを後ろの子がスペースをなくしておくことで前と後ろで挟み撃ちにできる。基本的にはゴール前までこの繰り返し。近くの選手は、下がりながらパスコースを消してインターセプトを狙う。お団子サッカーをする相手ならパスワークは警戒し過ぎず、前後だけ狭くして、全体は相手よりも広い間隔で守る。結果として、大きくクリアするとマイボールにしやすく、一気にカウンターが決まる。ポジショニングがしっかりしているチームには相手よりも少し狭い間隔を意識させる。前線から短いボールを引っ掛ける。突出したドリブラーにやられたり、裏ポンで抜かれたりして、失点してしまうこともあったがそれなりに負けなかった。小学生の実力内でかつ、理解して実行できる戦術をしっかりと完成させているチームは多くない。対戦相手は、実力のある子だけ集めたチームと、遊びの延長で楽しくサッカーをするチームとで2極化していたが、うちは後者のような環境ながら前者に対抗できるチームだった。強いチームも1つの作戦が崩れる、1人の選手が捕まると途端にリズムが悪くなる。自分達や自分に迷いが生まれると普段のサッカーができない。だからこそ監督は、上手く行っても行かなくてもこのシンプルな守備を鉄則にした。結果として、ほとんどのチームよりも迷いなくプレーしていた。攻撃については個人技の禁止などはなく、基本的に子供たちが考えた。どちらかといえば、守備練習の副産物としてできたのがほとんどだ。


「どこで遭遇してもやることは同じです。僕が壁になって、ヴォーガムを1体ずつ倒します。2人は僕が対峙している個体以外を牽制して下さい。むしろダメージは2人の方が与えられるはずです。そちらに向かう個体がいたときは、僕のターゲットと2人のターゲットを入れ替えます。向かったヴォーガムを僕が止めて、対峙していたヴォーガムを仕留めて下さい。それでも俺の壁を抜けることがあれば、こちらの援護を後回しにして、抜けたやつを倒し切るか撤退して応援を呼んでください。僕は、6対1になっても村まで戻ることはできると思います。村までもどれば、6対6かそれよりも有利な状況で戦えます。」

全員に作戦を説明した。

「万が一、こちらが遭遇せず村に来た場合、陣形(ゾーンと言った)で守って時間を稼いでください。」

ヴォーガムたちが近くに潜んでいなければ、それで十分だ。深追いはしないことを約束した。

「さっきのコーチ君の作戦で、被害なく追い返せた!今のも、分かりやすいしなんかできそうな気がする!」

チアリはこの作戦に前向きだ。

「村長、どうしましょう。」

ベンチは迷いがあるようだ。決定権はカートクが持った。

「ベンチ、おまえもコーチくんと一緒に行きなさい。村の戦力はまだいる。コーチくんの作戦は愚策とは思えんが、彼自身の犠牲を軽視している。先ほどおまえが言ったように、このロル村のことだ。討伐チームの責任者としてコーチ君をサポートしてあげなさい。」

カートクは討伐の許可を出した。ベンチが来てくれるのはとてもありがたい。頭の中で、いくつかの戦略が湧き上がった。

「信頼してくれてうれしいです。確かに、自分の危機管理が疎かでした。無理はせずにみんなでしっかり戻ってきます。」

さっそく、(いのちだいじに)が抜けていた。カートクの家でお世話になり、討伐作戦を何度も確認して眠りについた。夜襲もなく、朝を迎えた。

「行ってきます」

4人は森へ出発した。





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