怪文書086号【青い死に至る黒】後日談
怪文書考察倶楽部の皆様、先日はありがとうございました。考察会議はライブで拝見しました。
烏天狗の話が出たとき、心臓を掴まれたようにどきりとしました。なぜなら、その山の一帯には天狗伝説が残っており、町のマスコットキャラクターになっているからです。ゆるキャラというやつです。
祖父がどうしても山を売らなかった理由を求めて山に入ったのですが、結局は何もわからず。怪文書と虫刺され数か所が残っただけでした。
父の話では、山の購入の話はよく来ていたのだそうです。ほとんどが中国人で、かなり高額での話だったようですが、売ってしまうと、この地に住むことは出来なくなると父は教えてくれました。
山の管理は大変です。なので手放す人も多いとか。しかし、そうすると大規模な改修工事が行われ、周辺住民が望まない形で観光施設等が建てられてしまうそうです。そうなれば、どんな目で見られるか想像するのは容易いでしょう。
「それだけではなかったみたいだがな。俺にはわからん。売ってしまいたいよ」
父はそう言って渋い顔で窓の外を眺めていました。
僕もそれ以上は突っ込めず、結局わからずじまいですが、山は父が管理していくことになったので、あの山で祖父がいると言い張ったオオクワガタを探そうと思います。
僕は今、昆虫ブリーダーの元でバイトをしています。餌虫(コオロギ等)の世話やショップへの出荷を担当しています。
90センチのプラケースを部屋いっぱいに並べて、餌虫のサイズごとに分けてその中で管理しています。初齢は2ミリ程度ですが、それも需要があるんです。
僕は、命を支えるための命を育てる仕事をしているんです。
世界中のカブトムシやクワガタムシもブリードしていて、紫月さんに是非来ていただきたいと思います。きっと大興奮しますよ。
もちろん、オオクワガタもブリードしていて。まだ僕は手を出せないけど、半透明の菌糸ビンに入った幼虫を見ているだけでも幸せです。おがくずにきのこの菌糸を混ぜ込んだものを詰め込んで、幼虫の餌にするんですよ。
リーダー(雇用主のブリーダー)はすごい人で、ひと目見るだけで昆虫の状態がわかるんです。弱ってきている個体なんて一瞬で見分けます。菌糸ビンの中の幼虫なんかはどう見たらわかるのか、聞いてみたいと思っています。
そういえば、外国人がオオクワガタを買付けにきました。リーダーの育てるオオクワガタは質が良くて、サイズはもちろん、角の形状や足先の鉤爪まで、「黒いダイヤ」と呼ぶに相応しく、外国でも評価されているみたいです。
僕とリーダーは似た境遇だったんです。初めてオオクワガタを捕まえたのは、リーダーの祖父の持ち山だったそうです。
その山には小屋があって、そこで昆虫採集をしていたんだと言っていました。その小屋の近くの木にいたオオクワガタを捕まえたんです。
うらやましすぎますね。その時のオオクワガタは、しっかりと標本になっていました。見せてもらうと、90ミリのオスでした。このサイズ、実はとんでもないサイズなんですよ。僕は驚き過ぎて、固まってしまいました。
「その山は外国人が買おうとしていたんだ。勝手に山に入って小屋まで来ていたから、脅かしてやったんだ。そうしたらあいつら来なくなったんだよ。だけど、もしかしたらあいつらが復讐に来るんじゃないかって思っているから、買付けに来る外国人は気をつけてるんだ。特に初めての人はね」
そう言って、リーダーは笑いながら、初めて取り引きする外国人業者との商談に向かいました。
本当に不思議なもので、倶楽部の皆様の考察を連想させるようなリーダーの話でした。
先日の山火事のニュースはご覧になりましたか? 火元は僕のバイト先のファームでした。
リーダーは全身大火傷で、命は取り留めましたが、全身包帯に巻かれた身体が弱々しくベッドで仰向けになっています。
そして昆虫たちは……。
僕には青い光は見えませんが、リーダーは長くないでしょう。
だから僕は決めたんです。リーダーの育てた虫達を奪ったあいつらを捕まえるって。
次回の考察会議も楽しみにしています。この度はありがとうございました。




