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怪文書考察倶楽部  作者: タクミは闇属性を捨てられない。


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怪文書086号【青い死に至る黒】出会い編

 この怪文書と出会ったのは、廃墟となっていた山小屋の中でした。

 決して遭難した訳ではありません。熊に追われた訳でもありません。なにせこの山は祖父の持ち山で、僕も小さな頃はこの山を庭のように走り回っていたのです。


「この山にはオオクワガタもいるんだぞ」


 昆虫カードを戦わせるバトルマンガの影響でオオクワガタを飼いたいと常に言っていた僕に、祖父はそう返して来ました。


「嘘だよ、見たことがないよ」


 ノコギリクワガタやミヤマクワガタは捕まえたことがあるけれど、オオクワガタの存在が身近に思えなかった僕はそうやっていつも言い返していました。

 老人ホームで最期を迎えた祖父が意地でも売ろうとしなかった理由が知りたくて、初夏の爽やかな朝八時に山を訪れました。

 昨今ではホームセンターですら買えるオオクワガタが理由ではなかったでしょう。



 二十歳の誕生日にと、祖父が一括払いで買ってくれたメタリックブルーの軽自動車を山の空き地に停め、山の入り口を探しました。

 いつも、目印に赤いテープが巻かれた松の木が迎えてくれるのですが、台風か大雪か、マツクイムシの被害かもしれませんが、松は地面に突っ伏した状態でした。

 僕が十八のとき以来の山の入り口は、獣道と間違えそうなほどの草木が待ち構えていました。

 草木を掻き分けた先にあったのは廃墟とかした山小屋でした。

 僕は目を疑いました。なぜなら、こんな小屋はなかったからです。いや、もしかしたら僕が知らなかっただけかもしれませんが、入り口に間違いはないのです。

 道の途中には、入り口の松同様に迷わないようにと赤いテープが巻かれている木が等間隔にあり、それはしっかり残っていました。

 

 僕が十八のとき、祖父はまだ元気でしたが、さすがに一人で小屋を建てられるほどパワフルではありません。

 祖父は猟銃の免許がありましたから、もしかしたら猟のために、なんて思いましたが、この山は猟が出来るほど多様な動物はいません。クワガタ採りに夢中になっていても、タヌキやキツネぐらいにしか出会ったことがなく、シカの甲高い鳴き声も聴いていません。

 別荘代わりに建ててもらったのかなと、僕はそう思うことにしました。このときには既に病に冒されていて、大好きな自分の山で最期を迎えたかったのではないか……。



 小屋は木造で、木の板を繋ぎ合わせて造られていました。積雪対策の三角屋根の青色はくすんでいて、錆びれたブリキの煙突が申し訳なさそうに生えていました。

 管理者がいなくなった小屋は、窓ガラスが割れ、そこからツタ植物が這い出しています。扉も取れかかっていて、重心が斜めになっていました。



 割れた窓から中の様子を伺うと、レンガを積み上げた暖炉と、木製の机と、椅子が一脚あるだけで、あとはがらんとしていました。

 しかし、どうしても中に入りたい。ここから見えていない景色や物品があるのではないか。

 そう思い、僕は重心が(かし)ぐドアと向き合いました。

 ノブを握って、引く。それだけのことなのにひどく緊張してしまいます。果たして開くのか、それとも小屋が崩壊するのか。

 僕は恐る恐る、ノブに手を掛けました。しかし、鍵が掛かっていたのか、それとも錆び付いていたのか、ノブは回りませんでした。そのまま力を込めて数度揺すってみましたが、開きません。

 諦めきれなかった僕は、窓を割ることにしました。

 幸いにも、暖炉に焚べる用の薪は外に残されていたのです。こんなところで、ポケットに忍ばせていた軍手が役に立つとは思いませんでしたが、僕は軍手をはめて、薪で思い切り窓を叩き割りました。

 人生で初めて窓(既に割れていたが)を割った感想は、この上ない快感でした。今後、窓を割りたい衝動に駆られないか心配になるほど、ガラスの割れる鋭利な音が耳に残響しています。


 僕は丁寧にガラス片とツタを取り除くと、縁に手を掛けて、慎重に体を流し込みました。

 ガラス片で怪我をすることなく、山小屋の中に入ることが出来たのです。



 木製の床に積もったホコリが舞い上がり、割れた窓から射し込む陽光に白いノイズのように漂いました。

 部屋の中には、外から見た物以外はありませんでした。強いて言えば、ツタが死角だった窓枠下から両側に広範囲に伸びていたぐらいでしょうか。青々とした葉に、人工物と自然の境界線を感じてしまいます。

 ですが、僕はそのツタの間から白い紙が顔を出していることに気付きました。

 近くで見ると、それは封筒で、A4サイズであること。封がされていること。見えている範囲で宛名はないことがわかりました。

 僕は生命力溢れるツタを引きちぎりました。

 これは不思議なのですが、多少のヨレやシワはあるものの、守られていたかのように綺麗だったのです。神々しさすら感じる白色でした。


 僕はホコリを払うのも忘れ、机に純白の封筒を置き、椅子に腰掛けました。一瞬、先に耐久性を確かめてから座ればよかったと思いましたが、椅子の四足はしっかりと体重を支えてくれたので些細なことです。

 刃物はなかったので、僕は慎重に糊付けされている部分から剥がしていきました。



 怪文書考察倶楽部の皆様。その封筒から出てきたのはこれです。

 万年筆で綺麗な、例えるなら手本書のような文字です。祖父は手が震えてしまい、綺麗な文字は書けませんでしたから、これが誰が書いたものかすらわかりません。


 どうぞ、考察をお願いします。


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