数万の軍勢、ただし「最適化」の対象外
王都の空を覆いつくす、漆黒の魔法陣。
そこから吐き出されるのは、数万を超える魔族の精鋭、そして空を埋め尽くすワイバーンの大群だった。
「ひ、ひいぃ……! 終わりだ、この国は終わりだ……!」
地下牢に引かれていくゼクスが、空を見上げて絶望に声を震わせる。
一方、俺は王都の最も高い塔の頂に立ち、ただ一人でその軍勢を迎え撃とうとしていた。
「アルト様! 無茶です、一人で数万を相手にするなんて……!」
地上からエルセが叫ぶ。
「一人じゃないさ。……シルバー、準備はいいか?」
『クゥ(主殿の命のままに)』
俺の傍らで、神獣シルバーが銀色の輝きを放つ。
魔将ディザストレが、空中から俺を嘲笑った。
「愚かな! たった一人で我が軍勢を止められるとでも思っているのか? 全軍、突撃! この街を塵一つ残さず消し去れ!」
魔族たちが一斉に急降下を開始する。
空を埋め尽くす黒い影。それはまさに、世界の終焉を象徴する光景だった。
俺は静かに目を閉じ、世界の深層へと意識を沈めた。
「——【自動最適化:敵対存在の『存在確率』再計算】」
俺が指をパチンと鳴らした瞬間。
王都を囲む「法則」が、一変した。
「な……!? 何が起きた!?」
ディザストレの叫びが響く。
空から突っ込んできた数万の魔族たちが、街に触れる直前、次々と「シャボン玉」のように弾けて消えていったのだ。
血の一滴も、叫び声すら残らない。
ただ、そこに「いなかったこと」にされるように。
「な、何をした……!? 魔法か? 幻術か!?」
「いや。この空間に存在する『酸素』や『魔力』を、魔族にとってだけ『猛毒』になるように最適化した。……お前たちの体、勝手に崩壊してるぞ」
俺が歩を進めるたびに、空の軍勢が面白いように消滅していく。
一対数万? 違うな。
これは、「害虫駆除」の作業だ。
「おのれぇぇ! 貴様だけは殺す!」
逆上したディザストレが、全身の魔力を絞り出し、巨大な闇の球体を放つ。
それは山一つを消し飛ばすほどの質量兵器。
だが、俺は避けることすらしない。
「【自動最適化:衝突ベクトルの反転】」
闇の球体が俺の指先に触れた瞬間。
それはピンポン玉のように軽やかに跳ね返り、放った本人であるディザストレへと「百倍の速度」で逆流した。
「が、は……!? そんな、馬鹿な……。人間が、世界の法則を……書き換える、だ……な……」
ドォォォォォォォォン!!
魔将ディザストレは、自分の放った一撃によって、宇宙の彼方まで吹き飛んで消えた。
数秒前まで空を埋め尽くしていた数万の軍勢は、今や一点の曇りもない青空へと戻っている。
王都には、静寂が訪れた。
誰もが、空に立つ俺の姿を、言葉を失って見上げている。
「ふぅ。……少しやりすぎたか?」
俺が地上に降り立つと、エルセと、そして敗北感に打ちひしがれたゼクスたちが待っていた。
「ア、アルト……。お前、本当にあのアルトなのか……?」
ゼクスがガタガタと震えながら問いかける。
「ああ。……でも、お前たちが知っている『都合のいい道具』のアルトは、もういないよ」
俺は彼らに視線を送ることなく、王宮へと歩き出した。
だが、これで終わりではない。
空の向こう——魔界の深淵で、本物の「魔王」が目覚める鼓動を、俺の『最適化』はすでに捉えていた。




