身の程知らずの再会
魔法学院の特別授業は大成功に終わり、生徒たちは俺を「生ける伝説」として崇めるようになっていた。
そんなある日の放課後。俺はエルセと一緒に、学院の図書塔で古い魔導書の整理をしていた。
「アルト様のおかげで、学生たちの平均魔力出力が三倍になりました。学長が泣いて喜んでいましたよ」
「少し効率を整えただけだよ。……ん?」
その時、俺の『最適化視界』が、学院の結界に生じた「異物」を捉えた。
ドゴォォォン! という爆発音とともに、中庭に数人の男女が降り立つ。
「アルト! 出てこい、この泥棒野郎!」
聞き覚えのある、下劣な声。ゼクスだ。
だが、今の彼は普通ではなかった。肌はどす黒く変色し、その瞳にはどろりとした魔族特有の瘴気が宿っている。
「ゼクス、その姿……魔族に魂を売ったのか?」
俺が中庭に降り立つと、ゼクスは狂ったように笑った。
「ハハハ! お前が独り占めしている『力』のせいだ! 魔族の幹部様が力を貸してくれたんだよ。この『魔剣グラナド』があれば、お前の小細工なんて粉砕してやる!」
彼の持つ剣からは、どす黒い魔圧が放たれている。
後ろにいるクラリスとマイアも、魔薬によって無理やり強化された異様なオーラを纏っていた。
「アルト様、お下がりください! 彼らはもう人間ではありません!」
エルセが聖杖を構えるが、俺はそれを手で制した。
「いいよ。……『最適化』された力、見せてやる」
「死ねぇ! 絶空斬!」
ゼクスが魔剣を振るう。
放たれたのは、空間そのものを削り取るような漆黒の斬撃。かつての彼の何十倍もの威力だ。
学院の生徒たちが悲鳴を上げる。だが——。
「——【自動最適化:空間強度の補強】」
俺が指を一回鳴らす。
次の瞬間、漆黒の斬撃は俺の目の前で「カツン」と軽い音を立てて弾け、霧散した。
「なっ……!? 防御魔法も使わずに、俺の全力の攻撃を……!?」
「威力が高いだけで、構造がガタガタだ。そんな魔法、空間の密度を少し上げるだけで自分から壊れていくよ」
俺は一歩、ゼクスに向かって歩み寄る。
「戻ってこいと言ったな。……断ったはずだ」
「うるさいうるさいうるさい! ならば、この学院ごと消し飛ばしてやる!」
ゼクスが魔剣を地面に突き立てようとしたその時、彼の背後の影から、不気味な声が響いた。
「——使えないゴミですね。やはり人間ごときに『魔王様の欠片』は重すぎましたか」
影から現れたのは、燕尾服を着た青白い顔の男。魔王軍第4軍団長、魔将ディザストレ。
彼は冷たい目でゼクスを見下すと、その心臓を背後から貫いた。
「ぎ、ぎゃああああっ!?」
「貴様らは、アルト・リマスタリング。貴殿の力を測るための『試供品』に過ぎません。……さて、賢者殿。本番といきましょうか」
ディザストレが手を広げると、王都の空に巨大な魔法陣が展開される。
それは、数万の魔族の軍勢を呼び出す「超大規模転移陣」だった。
「……ゼクス。最後まで、他人の力を頼るだけだったな」
俺は倒れ伏すかつての仲間を一瞥し、空を見上げた。
ついに魔王軍の本隊が動き出す。
「エルセ、生徒たちを避難させて。……ここからは、俺一人で十分だ」
俺は腰のポーチから、一本の粗末なナイフを取り出した。
それを『最適化』で「神を屠る刃」へと書き換えながら、俺は静かに地を蹴った。




