授業参観? いいえ、魔法の「大掃除」です
国王の強い要望により、俺は王立魔法学院の「特別客員講師」として招かれることになった。
この学院は、国中の天才や貴族の子女が集まる最高峰の教育機関だ。
「……というわけで、今日から君たちの指導を任されたアルトだ。よろしく」
教室に入った俺を待っていたのは、歓迎の拍手ではなく、冷ややかな視線だった。
「……はあ。父上(国王)も何を考えていらっしゃるのか。こんな冒険者上がりの若造が、我らエリートに何を教えるというのです?」
最前列に座る、銀髪の少年が鼻で笑った。彼は公爵家の嫡男であり、学年トップの成績を誇るカイルというらしい。
「アルト先生でしたっけ? 貴方はさっき『魔法を最適化する』と言いましたが、魔法とは神が定めた絶対の方程式。人間の分際で手を加えるなど、不遜だと思いませんか?」
生徒たちがクスクスと笑い声を上げる。
どうやら「泉」を直した実績も、彼らにとっては「運が良かっただけ」と映っているらしい。
「……絶対の方程式、か。じゃあ、君のその火球を見せてくれ」
俺が促すと、カイルは自信満々に立ち上がった。
彼は長い詠唱を紡ぎ、巨大な火球を訓練用の標的へと放つ。
「くらえ! ——極大火炎!」
ドォォォン! と大きな音を立てて火球が爆発する。確かに威力はあるが、俺の目には「無駄」だらけに見えた。
「どうです? これが我が家に伝わる完璧な魔法——」
「……燃費が悪すぎるな。あと、熱が逃げている。九割の魔力が無駄になってるぞ」
「な、なんですって!?」
俺は教壇に置いてあったチョークを手に取った。
そして、黒板に書かれていた「火炎魔法の基本式」を、無造作に消し、書き換える。
「魔法陣の右下、ここの変数を三つ削って、代わりに大気中の魔力供給をここにつなぐ。……ほら、これでいい」
「ば、馬鹿な! 数式をそんなに削ったら、発動すら——」
俺は書き換えた理論を指先でなぞり、軽く魔力を流した。
詠唱はない。ただの「最適化」の結果だ。
シュン。
現れたのは、親指ほどの小さな、青白い炎だった。
生徒たちは一瞬沈黙し、次の瞬間、爆笑が巻き起こった。
「ハハハ! 小さすぎる! ライターの火かよ!」
「これが『最適化』の結果ですか? 笑わせないで——」
だが、その声は最後まで続かなかった。
青い炎が標的に触れた瞬間。
——ズガガガガガァァァァァァァァァァァン!!
音を置き去りにした衝撃波が走り、頑丈な魔導合金製の標的が、一瞬で「消滅」した。
後ろの防壁も、その向こうの森まで貫通し、一直線の焼け跡が刻まれている。
「……あ。……あ、あああ……」
カイルが腰を抜かして座り込む。
「火力を拡散させずに、一点に『最適化』しただけだよ。魔力消費は君の百分の一以下だ」
静まり返った教室で、俺はチョークを置いた。
今や、馬鹿にする者は一人もいない。生徒たちは、自分たちが「原始的な焚き火」を教わっていたと気づき、震えながら俺の板書をノートに書き写し始めた。
「先生……! どうか、私にもその……『本物の魔法』を教えてください!」
カイルが床に頭を擦り付ける。
「ああ。……まあ、俺のやり方は少しスパルタだけどな」
こうして、魔法学院の歴史は一日で塗り替えられた。
——一方その頃。
王都の路地裏。
「アルトの野郎……学院で先生をやってるらしいぞ」
ゼクスが、ゴミ捨て場の影から血走った目で学院の塔を睨んでいた。
「ふん、魔法学院のガキどもを人質にすれば、あいつだって俺たちの言うことを聞くはずだ……。なあ、クラリス?」
彼らの心の闇は、この時すでに、王都に潜む「魔族の工作員」に目をつけられていた。




