聖なる泉は「目詰まり」していただけ
聖女エルセに導かれ、俺は聖王国の王都『ルミナリア』に到着した。
白亜の城壁に囲まれた美しい街並みだが、どこか活気がない。
「アルト様、見てください。あちらが我が国の命運を握る『天光の泉』です」
王宮の中庭にある巨大な噴水。だが、そこから水は一滴も出ておらず、底の魔法陣はひび割れていた。
「あの泉が枯れてから三百年……国の魔力供給は絶たれ、大地は痩せ細る一方なのです。我が国の魔導師たちが代々修復を試みましたが、誰一人として——」
「……ああ、なるほど。これ、単なる『目詰まり』だな」
俺がひょいと泉の縁に立つと、周囲にいた宮廷魔導師たちが血相を変えて飛んできた。
「おい、どこの馬の骨だ貴様! 聖なる遺構に触れるな!」
「エルセ様、いくら貴女の連れとはいえ、この無礼者は何ですか!? 我ら最高幹部が三百年かけても直せなかった神の呪いを、目詰まりだと!?」
怒号を飛ばす老人たち。彼らはこの国で最も権威ある魔法使いらしい。
だが、俺の目(最適化視点)には、泉の構造がはっきりと見えていた。
「いや、呪いじゃなくて……魔力の回路が、複雑に絡まりすぎてショートしてるだけだよ。当時の設計者が、機能を盛り込みすぎたんだな。……ちょっと失礼」
俺は宮廷魔導師たちの制止を無視して、指先を泉の底にある「核」へと伸ばした。
「【自動最適化:回路再編】」
パキィィィィィィィィィィン!!
鼓膜を揺らすような澄んだ音が響き渡る。
次の瞬間、ひび割れていた魔法陣が純白の光を放ち、幾何学的な模様が猛スピードで組み替わっていく。
三百年かけて誰も解けなかった「神のパズル」が、俺の指一本で、一瞬にして「最も効率の良い形」へと書き換えられていく。
「な……魔法陣が……書き換わって……!? 莫大な魔力の数式を、詠唱もなしに一瞬で計算したというのか!?」
腰を抜かした宮廷魔導師の一人が叫ぶ。
ドゴォォォォォォォォォン!!
泉から、天を突くほどの巨大な光の柱が噴き上がった。
それはかつての「泉」などという規模ではない。国全体を包み込むほどの濃密な魔力が、王都全域へと流れ出していく。
「あ……枯れていた花が……!」
エルセが声を震わせる。
王宮の庭園に咲く枯れ木が一斉に芽吹き、一瞬で満開の花を咲かせた。
呆然とする人々。その中で、俺は額の汗を拭った。
「よし、これで大丈夫だ。ついでにフィルターも最適化したから、あと五百年はメンテナンスフリーでいけるはずだよ」
「……五百年……メンテナンスフリー……」
宮廷魔導師たちは、もはや言葉を失い、その場に平伏した。
その時。
「おおお……これぞ神の再来! 伝説の賢者の再臨なり!」
王宮の奥から、豪華な衣装を身に纏った国王が、家臣も連れずに走り寄ってきた。
「若き賢者殿! 貴殿のおかげで我が国は救われた! 望むものは何だ? 富か? 領地か? それとも、我が娘エルセとの婚儀か!?」
「ええっ!? お、お父様! 急に何を……(赤面)」
「……いや、静かに寝られる場所があれば、それでいいんだけど」
俺がそう答えた瞬間、王都の鐘が一斉に鳴り響いた。
街の人々の歓喜の声が、地響きのように伝わってくる。
俺の知らないところで、俺は「無職の万能職」から「救国の聖賢者」へと、一気に格上げされていた。
——その頃。
王都の外、ぬかるんだ道を進むボロボロの一団があった。
「クソッ、アルトの野郎……どこへ行きやがった。……おい、なんだあの光は!?」
ゼクスが王都の空を見上げ、目を見開く。
彼らが「無能」と呼んで捨てた男が、一国を救う神の如き業を成し遂げているとは、この時の彼らはまだ微塵も思っていなかった。




