クソみたいな人生からの解放
「アルト、悪いが今日でクビだ。……いや、パーティから『追放』と言ったほうが分かりやすいか?」
冒険者ギルドの最高級個室。
豪華な革張りのソファに深く腰掛けた勇者・ゼクスが、俺の顔に数枚の硬貨を投げつけた。
チャリン、と虚しい音を立てて床に転がったのは、わずかな手切れ金。
「理由は分かっているな? お前は器用貧乏なだけの『万能職』だ。攻撃魔法も回復魔法も中途半端。俺たちSランクパーティに、平凡な人間は必要ないんだよ」
「……俺がやっていた、魔力の供給と魔法の軌道修正はどうするんだ? あれがないと、ゼクスの大魔法は命中率が三割を切るはずだが」
俺が淡々と問い返すと、ゼクスは鼻で笑った。
「ハッ! あんなの気休めだろう。俺の実力があれば、お前の小細工なんてなくてもどうにでもなる。これからは『本物の魔導師』を雇うことにしたんだ」
背後に控えていた他の仲間たち——剣聖のマイアも、聖女のクラリスも、申し訳なさそうな顔ひとつせず俺を見下している。
「分かった。……今まで世話になったな」
俺は床の硬貨を拾うことなく、席を立った。
本当は言いたいことが山ほどあった。
俺のスキル『自動最適化』が、彼らの荒ぶる魔力を裏でミリ単位で調整し、暴発を防いでいたこと。
俺がパーティを離れれば、彼らの装備も魔法も、本来の「粗悪な出力」に戻ってしまうこと。
だが、もういい。
毎日「給料泥棒」と罵られながら、仲間の機嫌を取るために魔力を使い果たす生活には、もう疲れた。
(……ようやく、自分のために魔法を使えるな)
ギルドの扉を押し開けると、外には抜けるような青空が広がっていた。
とりあえず、人里離れた森でゆっくり野宿でもしよう。
そう決めた俺は、指先で少しだけ空間を叩いた。
『——自動最適化:発動。目的、目的地までの【最短・最速・最高効率】の移動ルート構築』
その瞬間、足元に現れたのは、本来なら伝説の賢者しか使えないはずの「神速転移」の魔法陣だった。
「……あ、少し出力を上げすぎたか。まあ、いいか」
俺の体が光に包まれ、驚愕するギルドの冒険者たちの前から、一瞬で姿を消した。
これが、後に世界を揺るがす「真の賢者」による、気ままなスローライフの始まりだとは、この時の俺はまだ知る由もなかった。




