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第27話


ライザのひと言が落ちた瞬間、厨房の空気がピンと張り詰めた。


それは彼女の放つ圧倒的な存在感ゆえだった。


殺気とは違う。だが、刃のように鋭い意思が、言葉を受けたディランだけでなく、その場にいる全員へ突き刺さっていく。


クリュードは全身の毛を逆立てる。

まるでつい先ほどの激戦が蘇ったかのような、強烈な死の気配に戦慄した。


フィーネやグリムドルも、額に冷や汗をにじませる。

この言いようのない不安と恐怖の中心にライザがいることに、動揺を隠せない。


ランとリゼに至っては、蛇に睨まれた蛙のように、身動き一つ取れなかった。


なんとか冷静を保っていられたのは、師弟としてライザと長らく生活を共にしたサリアと、そして、直接死の気配を向けられているはずなのに、なぜか一向に動じることのないディランだけだった。



(アーク?)


疑問符を浮かべたディランは、ライザの目を真っ直ぐに見つめ返す。


ライザの放つ威圧は、ディランにまるで刺さっていない。

……そもそもディランは超絶的に鈍感で、興味のない相手や事柄にはほとんど反応しない性質なのだ。


ライザの瞳は、爛々と金に輝きはじめる。


それはライザの血族だけが持つ、魔力を帯びた瞳。

威圧や殺気を発した際に、本人の意思とは無関係に輝く金の瞳は、彼女が「恐ろしき剣聖」であることを証明する重要な特徴の一つとなっていた。


吸い込まれるようなその瞳を見て、動揺しない者はごくわずか。

組織のボスであるマハト・アルディナスや同じ幹部連中、そしてかつて弟子であり一時期寝食を共にした経験のあるサリアくらいのもの。

初対面でまともにライザと目を合わせられる者などいなかった。

……たった今、イレギュラーと化したディランを除けば。


(私の威圧が効いていない……)


ライザは冷静にディランを観察する。


彼女の魔力は闇に属する類。

死霊術師や呪術師など、彼女の一族の大半が世の中で後ろ暗いとされる職業に就く。

そんな影に潜む者たち特有の死の気配が、ライザの瞳力に込められている……はずなのだが。


目の前の若き王に、その力が響く兆しは全く見えない。


それどころか、無いはずの興味を必死にこちらに向けているようにさえ見える。


(絶対的、強者……)


弱者の威圧など、強者に効くはずもない。

認めたくはないが、この場において自分は弱者なのだ……とライザは小さく自嘲の笑みを浮かべた。


その間、ディランは記憶を巡らせる。


「アーク」なるものの情報を買ったことなどあっただろうか……?

そもそもアークが何なのかすら分からない……。


だからしばらくして、正直にライザに伝える。


「悪いけど……答えられないなぁ」


分からないのだから、答えようがない、と。


ふたりのやり取りを見守っていた周囲の者たちは、一触即発の空気を感じて、ごくりと生唾を飲み込んだ。


ライザは無表情でディランを見つめ返す。

1秒が1時間にも感じられるような、苦しい沈黙が流れた。


やがてライザは威圧を引っ込めて、ぼそりと言った。


「そうですか……。まあ、そうおっしゃるとは思っていました」


そうして視線を料理に戻すと、フォークを手に取り食事を再開する。

みんなもほっと息をつくと、それまでの息苦しい時間を無かったことにするかのように、再び料理を口に運んだ。


人並み外れた強さを持つリゼやラン、クリュードなどは、服が透けるほどの冷や汗をかいていた。


(何だったんだろう?)


ライザの返答に首をかしげながら、ディランも食事を続ける。


(僕がアークのことを知らないと思ってたなら、なんで聞いたんだ?)


無自覚のままライザの死線を越えていたことにも気づかないディランだったが、「まあいいや」と笑顔で肉を頬張る。


クインズヒルの面々は、そんなディランの姿に一様に、恐れと尊敬の入り混じった視線を向けていた。




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