第26話
サリアとフィーネが客人をもてなしていた頃、リゼとランはディランの寝室の前に立っていた。
コンコン、と寝室の扉をノックするが、返事はない。
リゼとランは顔を見合わせた。
「どうする? 勝手に入ってもいいのか?」
リゼが問いかける。
「寝てるなら起こす。それだけ」
ランはそう言って、ためらいなく扉を開けた。
そこにいたのは、帰還した時の服のまま、ベッドにだらしなく横たわるディランだった。
その顔は穏やかで、まだ16歳のあどけなさが残っている。
あまりに気持ちよさそうに眠っているため、二人は少しだけ気が引けた。
しかし、厨房でみんなが待っている。見て見ぬふりはできない。
「オーイ。起きろよー」
リゼがディランの耳元で声をかける。
「……うーん」
ディランがうなり声を上げた。
「仮眠じゃなくてガッツリ寝だな」
「ディラン、起きて。美女ふたりが起こしにきた」
今度はランが耳元でささやく。
「……ん、美女?」
ディランがゆっくりと目を開ける。
「……お前、なにに反応してんだよ。……まあ起きたからいっか」
リゼは呆れつつも、ディランが目を覚ましたことに安堵した。
ぼんやりとまぶたを開いたディランの視界には、メイド服姿の美女二人が自分を見下ろしている。
はて、自分は何をしていたんだっけ……と寝ぼけ眼でゆっくりと思い出す。
「ああ……食事、できたの?」
そう言いながら体を起こした。
「おう。客人のふたりはもう厨房に案内したぜ? お前も早く準備しろよ」
リゼが促す。
ひどい空腹を思い出し、ディランは自分の腹をさすった。
「ありがとう。今日のご飯は何だろうねえ」
のほほんと言い放つディランに、ランが詰め寄る。
「ねえ。それより聞きたい。どうしてグルセナ・ハートネスと一緒だった?」
「グルセナ?」
ディランは首を傾げる。
「お前が連れてきた女だよ。以前は剣聖ライザとも呼ばれてた超有名な剣士だ。なんで一緒にいたんだ?」
リゼも尋ねる。
「ああ、ライザさんね。剣聖って呼ばれてるの?」
ディランはあっけらかんと言う。
「……知らないで一緒にいたのかよ……」
リゼが額に手を当てる。
「確かに戦いが好きそうだよね。ケンカっ早いし」
ディランはクリュードとの戦闘を思い出した。
「まあ成り行きかな。変な男たちにさらわれて、そいつらがライザさんの手下だったらしくて、でも手違いでどうこうって」
「……なんだそりゃ」
リゼは困惑する。
「ディラン、組織にさらわれたの?」
ランが問う。
「組織?」
ディランは、そういえばリーダー格の男がそんなことを言っていたな、と思い出す。
「そうだね。組織の人たちだね」
リゼとランは顔を見合わせ、不安げな表情を浮かべる。
「……組織の連中はどうしたの?」
ランの問いに、ディランは屈託のない笑顔で答えた。
「なんかね、全員死んじゃったんだよね」
その笑顔に、二人の背筋にぞくりと冷たいものが走った。
そして二人同時にディランに背中を向ける。
「聞いたかよ、アイツ組織の連中をぶっ殺しやがったぞ? しかも笑って言いやがった!」
リゼがランに耳打ちする。
「うん。やっぱりディランは頭がおかしい」
ランが同意する。
そんな二人をよそに、ディランはベッドから立ち上がり、着崩した服を整える。
「さあ、食事だ。ふたりは行かないの?」
「あ、ああ、行くよ」
ディランがスタスタと部屋を出ていくと、二人は慌ててその後ろをついて行った。
厨房に入ると、他の者たちはすでに食事を始めていた。
「お先にいただいてるわよ、ディラン」
ディランが椅子に腰掛けると、隣に座っていたサリアが言った。
「いいよいいよ、遅れてごめんね」
ニコニコ笑うディランの前に、フィーネが大皿から肉料理を取り分ける。
「とても美味しくいただいております。クインズヒル王陛下」
抑揚のない声でライザが言った。
その眼前に積み上げられた大量の空き皿を見て、隣にいるクリュードは若干引き気味だった。
ライザは細い体に似合わず、かなりの大食漢なのだ。
「ところで陛下、お聞きしたいことがあったのを思い出しました……」
ライザがおもむろにフォークを置いて言った。
「ん? なに?」
肉を頬いっぱいに詰め込みながらディランが聞き返す。
ライザの伏し目がちな金の瞳が淡く光る。
ピクリ、とリゼとランが体を震わせた。
「……組織からアークの情報を買った理由をお伺いしても?」




