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第24話

クインズヒル城では、ディランがいつの間にか姿を消したことに気づき、ちょっとした騒ぎになっていた。


「城のどこにもいませんね……」フィーネが眉をひそめる。


「厨房にもいないぜ」リゼが肩をすくめた。


「部屋にもいない」ランは窓からひょいと入り込んで報告する。


「……書庫にもいないわ」サリアも困ったように言葉を添える。


フィーネが窓の外を不安げに覗き込む。


「ということは……外に出かけたのでしょうか……」


「アイツって王様の自覚ないよな。ま、あれだけ強けりゃ襲われたってどうってことないだろうけど」


リゼが頭の後ろに腕を組んで、のんきに言った。


「とはいえ、国王が一人で出歩くのは良くないわ。威厳の問題もあるし」


サリアがため息をつく。


結局、放ってはおけないと、全員で城の外へディランを探しに出ようとした、その時だった。

重厚な城の入口の扉が、ゆっくりと内側へ開く。


四人が一斉に目を向けると、そこに立っていたのは、軽い笑みを浮かべたディランだった。


フィーネが慌てて詰め寄る。


「ディラン様……!一体どこへお出かけされていたのです?!」


ディランは悪びれる様子もなく頭をかいた。


「ああ、ごめんごめん。ちょっと散歩に出ただけなんだけど、なんか変な人たちに捕まっちゃって……」


「……えっ、捕まった?」


フィーネが訝しげにディランの顔を覗き込む中、扉の奥からさらなる人影が現れる。


「それと、こちらはお客さん。せっかくだからもてなしてあげて」


現れた人物を見て、サリアは思わず口元を押さえる。


「……師匠?!」


「お久しぶりです。サリアさん……」


抑揚のない声でライザが挨拶する。


そのすぐ後ろには、気まずそうな顔をしたクリュードが続いていた。

並んだ二人を、ディランが紹介する。


「えっとね。こちらがライザさんで、サリアの知り合い?なんだよね?」


「え、ええ……知り合いというか……」


戸惑うサリアをよそに、ディランはクリュードに目を向ける。


「それでこちらが……あれ? そういえば君、誰だっけ?」


ここに来てようやく、クリュードのことを何も知らないことにディランは気づいた。

死闘を繰り広げた二人がその場で解散するのも何だか物足りない気がして、何の気なしに二人とも城へ連れてきたのだ。


「……クレヴァス国、グリーンホロー陛下の騎士、クリュードと申します。どうぞお見知りおきを……」


クレヴァスの名を聞いて、クインズヒルの面々がざわめく。

特にフィーネは、先代王の外交に連れ添ったこともあり、クリュードの顔を知っていた。


「ようこそお越しくださいましたクリュード様。……しかし来訪の日取りはもう少し先だったと記憶しておりますが」


フィーネが探るように尋ねる。


「非公式の来訪です。……どうかグリーンホロー陛下には内密にしていただきたい」


それは明らかな敵情視察とも取れる発言だった。

フィーネだけでなくサリアもわずかに眉を寄せたが、クリュードの幾分疲れたような、牙を抜かれた雰囲気を見て、それ以上追求するのをやめた。


「ディランにはあとで説明してもらうとして……お二人を貴賓室に案内していただけますか?」


サリアがリゼたちに声をかけると、ふたりは得意の社交的な笑顔でライザたちを促した。


その背を見送りながら、サリアはディランに尋ねる。


「……何をお考えなのですか?」


横目にディランの瞳を覗き込むが、そこにどんな思惑も見受けられなかった。


「うん。……とりあえずみんなでご飯にしようか。お腹すいたし」


意味が分からないといった表情をサリアが浮かべるが、ディランは意にも介さない。


「フィーネ、グリムドルに今日は夕食を多めに作るように言っといて。あと食事が出来たら二人を厨房に連れてきて」


「お、おふたりに厨房で食事をさせるんですか?!」


フィーネが目を丸くする。


「うん。そのほうが運ぶ手間が省けるし」


「い、いや……でも、さすがにお客様を厨房には……」


「大丈夫、大丈夫」


そう言ってディランは二階に続く階段を登る。


「ディラン、どちらへ?」サリアが問いかける。


「疲れたから少しだけ寝るよ。夕食が出来たら起こしてもらえる?」


笑顔でそう言うと、そのまま振り返ることなく自室へと向かった。


「……一体何がなんだか……」


フィーネが困惑したように首をふる。


「相変わらず掴みどころがないわねぇ……」


サリアも呟いた。





◇◇

コン、コン。


控えめなノックの後、サリアは貴賓室の扉を開けた。


部屋の中では、ライザとクリュードがテーブルを挟み、無言で紅茶をすすっている。

奇妙な静寂が支配する空間だった。


「よろしいですか?師匠」


クリュードを横目に、サリアはライザのもとに歩み寄り、静かにひざまずいた。


「顔を上げてください、サリアさん。ここにいるあなたは一国の王妃。私にへりくだる必要はありません」


ライザの金色の瞳が、冷ややかに弟子を射抜く。


「いいえ。どこにいようと、師匠は私の師匠ですから」


はにかむように微笑むサリアの言葉に、ライザの表情がわずかに和らいだ。


「久しぶりにお会いできたのです、師匠。よろしければ少しお話を」


「……そうですね。文のやり取りはしていましたが、顔を合わせるのは随分と久しぶりです」


そう言うと、目の前に座るクリュードに視線を流した。


「……ああ、お邪魔だったかな。なんならバルコニーに出ていようか?」


そう言って窓の外を顎で指す。


「ええ。そうしてもらえると助かります」


遠慮のない言葉に、クリュードはやれやれと首を振って立ち上がる。


そして去り際に言った。「……あんたが剣聖なんだな。てっきりカノアの王女だと思っていたぞ」


何のことか分からず、サリアが疑問の目をライザに向ける。


「……こちらの話ですから、お気になさらず」


それ以上の言葉はなく、ライザは再び紅茶を口にする。


サリアはライザの隣に腰掛けると、久々に会えた剣の師へ、敬愛の眼差しを向けた。

だがライザは冷ややかに瞳を伏せ、ぽつりと告げた。



「私は……クインズヒル王に、敗れました」


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