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保護者

瑠美が出て行った後、俺たちはなんだか疲れた気分でぼーっとしていた。

食器を片付けた後も特に外に出る気にもならずにダラダラしていると、宅配便がきて包みを届けてくれた。

包みを開けてみると、俺の通う高校の制服だった。

ローラは「素敵です。着てみて下さい。」と言う。

俺は少し面映かったが新しい制服に手を通してみた。


俺が通う扇状ケ岳高校は京都の北部、京都市より舞鶴の方が近い山の中にある。京都のローカル線を使って数駅を通う予定である。


俺の制服はやや大きめだったがまあなんとか着ることができた。

ローラは「かっこいいです。」と言ってくれた。

高校に入ってもまだ身長は伸びるだろうから、今くらいの方が良いのかもしれない。


ローラがキラキラして俺を見続けているので、ちょっと気恥ずかしくなった俺は「じゃあもう脱ぐよ。」と言って制服を脱いでクローゼットに吊るした。

そうだよなあ、もう十日もすれば俺も高校に入学する。このままローラをここに置いておいていいのだろうか。


いつもの服装に着替えてぼーっと足を投げ出して畳に座っていると、ローラが隣に座って頭を俺の肩に乗せかけてくる。それは俺にとっては心地よいものであったが、同時に俺はこの子を養っていけるのだろうかとか守っていけるのだろうかという不安も湧いてくるのである。


俺は湧いてくる不安を無理に押し込めて座っているのだった。


それからどれくらい経っただろう。玄関のドアが開かれる音がしてドタドタという足音が聞こえた。

多分瑠美である。


俺はうとうとしていたらしい。横を見るとローラも気持ちよさそうに眠っている。

けれども頭にある耳は足音でぴょこんと動いたのでさっきの音で目を覚ましたかもしれない。


瑠美は部屋に入ってくると二人で寄り添っている姿を見て「あ、あら、また寝ていたの?」と聞いてきた。


「ああ、俺の高校の制服がきて試着していたら疲れたんだ。」と言うとちょっと目を輝かせて「どんなの?見せて!」と言うものだからクローゼットにある制服を取り出して見せてやった。

瑠美はその制服をどこかうっとりと見て「健斗もこの制服を着て高校に通うんだ。羨ましいなあ。」と言う。


「で、瑠美、どうしたの?その包は。」


「あっ、これはローラさんに着てもらおうかと思って。」

包みには「し⚪︎むら」の文字が印刷されていた。中学の側にある衣料店で、若者もよく利用する店だ。


ローラは新しい洋服を見て「わあ」と女の子らしく喜んでいる。

「いつまでも健斗のお古を着せておくわけには行かないでしょう。」

瑠美はちょっとお姉さんぶって言う。

「瑠美、ありがとう。」

俺がそういうと、瑠美は「大したことないから。」とちょっと顔を赤くしてローラと隣の部屋に行ってしまった。


少しして女性用のトレーナーとパンツに着替えてきたローラは上品に着こなしていた。どうやら瑠美は尻尾の穴も開けたらしく、優美な尻尾もゆらゆらしている。


「ローラって手は人間みたいで肉球はないのね。」と瑠美がいう。

そういえば、ローラは顔も人間と変わらず、手も足も人間と大きく変わらない。首から下の体毛と尻尾と耳くらいが獣人の特徴と言える。

「私たちは人間とも混血しているのです。」とローラはいう。

彼女によると獣人たちの世界には今は人間はいないが昔は人間がいて交雑していたようなのである。獣人同士でも交雑はあるらしい。

ローラの世界では人間たちは獣人を迫害して奴隷にしたがったのでしばしば獣人と人間たちは争っていたらしい。

それでいつの時か、獣人たちは新天地を目指して旅を始め、今の場所に落ち着いたのだという。人間がどうなったのかはそれ以降情報はないという。

「それで私が健斗さんと番になったということが明らかになった時、私は王位継承権を返上することを求められたのです。」


え、俺と番になるというためにローラって王位継承権を捨てたのか?

「ローラ、どうして?」


「いまだに獣人たちの中では人間に対しては偏見が強いのです。けれども私は健斗さんと一緒になりたかった。」

ちょっと重すぎやしないだろうか。


その時、再びドアが開く音がして「お邪魔するよ」という声がした。師匠の声である。


相馬師範は落ち着いた足取りで部屋に入ってきた。

「お久しぶり、健斗くん。おや、瑠美もまだいたのか。」


「お久しぶりです。師範。こちらが猫獣人のローラ王女です。」

そう言って俺が師範に挨拶すると、師匠はローラを見て、君が例の…」と言いかける。

俺の方を見て師匠は「彼女、確かに人間にも猫に似ているが、会話は可能なのかい?」と聞いてきた。

「ええ、彼女は『言語理解』のスキルを持っていますから。」と俺が答えた。

「おや、高校に入る前なのにスキルの概念を知っているとは…、いや、今はローラさんのことだよね。」

衣装はそういうとローラの方に向き直った。

「君がローラさん、王女なんだね。」

師匠がローラに言う。


「ええ、王女と言いましても王位継承権は返上しましたので名ばかりですが。」


「私は相馬亮太という。慈恩流という剣術道場の師範をしている。」


「では健斗さんのお師匠さんですね。」


「まあそういうことになる。今日は娘の瑠美からあなたがこの家に逗留しているということを聞いてね。」


「はい。健斗さんは私の番です。私は番と一緒に生きることにしたのです。」


「つがいねえ、それってどういうことか説明してくれるかい?」


「ええ。私は健斗さんと戦って屈服しました。その時、私の中で健斗さんこそが番だという認識が全身を駆け巡ったのです。私たち獣人は番なしに一生を終えることもありますが、番を見つけると番と共に生きることが幸せになるのです。私は健斗さんが番であることを神殿の審査によって確認して、ここにきたのです。」


「ではあなたは今でも自分が健斗の番であるということに疑いはないのだね。」


「ええ、今この時も番である健斗さんと一緒に生きるという幸せに満ちております。」


「ふーむ」と師匠が腕を組んだ。


「それでね、ローラさん、この春から中三に編入できないかしら。私と同い年なの、彼女。」

瑠美が罠師に割り込んできた。


「そうだなあ。健斗くんは四月から高校だ。そうなると昼間はローラさんをこの家に一人で置いて置くことになるものなあ。」


そういえばそうだった。俺は高校に行かなきゃならなかった。ローラが昼間一人になるなんてことも何も考えていなかった。


「師範、申し訳ありません。何も考えておりませんでした。」


「中学に行かせるか、もしかすると君と一緒に高校に通わせることになるかもしれないが、そこは任せてくれないか。」

師匠が言う。


「全てお任せいたします。」


俺はそう言うしかなかった。


「時に健斗くん、この部屋ってなんか飛んでいる?」

師匠が言う。


やはり師匠はサフルに気付いたようである。


「はあ、瑠美は何か感じる?」


俺は瑠美に聞いてみた。


「え?私は何も感じないんだけれど。」


「瑠美はまだまだ修行が必要だろう。これはなんなのか健斗くんは知っているよね。」


そう詰められては言い逃れもできないではないか。


観念した俺は素直に答えるしかなかった。

「多分、妖精だと思います。」


サフルは今も「キャハハ、楽しい楽しい。師匠の顔ってまじめ腐ってて変!」とか訳のわからないことを言いながら飛び回っているのである。師匠がサフルの言葉を聞けないというのは幸いである。


「名前はあるの?」


「ええ、サフルと言います。俺が名付けました。」


それを聞いて師匠は「さすがだねえ、契約に至っているとは。」と少し驚きを顔に出している。


「わかった。それじゃちょっと関係機関と調整してくるから僕は失礼するよ。瑠美も遅くならないうちに帰りなさい。」


そう言って師匠は帰って行った。

翌日、師匠から電話があってローラは俺と同じ扇状ケ岳高校の迷宮科に通うことになると伝えられた。うちの親父が保護者になるらしい。ローラは外国からの留学生として俺の家にホームステイしていると言う設定になった。

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