決戦(1)
イワナガ姫は吐き捨てるかのように言った。
「はっ?それがどうしたの?何が生きていてよかったなの?あなたはコノハナサクヤヒメ。私はハナチルヒメよ。ふざけないで。」
俺としてはなんのことかわからない。
生徒会の女子がくいっとメガネをなおすと言った。
「確かに岩永さん、頑張っていたけれど、櫻井くんとも山田くんとも次々玉砕していたものね。桜散る。」
「うっ、古傷を抉らないでっ!」
「わっ、私って男性が苦手だから皆さん全員ににお付き合いをお断りしていたの。私がハナサクではないわ。」
咲耶が狼狽えたようにいう。
「はっ。そんな贅沢を言える立場だから恵まれざるもののことをわかっていないのよ。さあ、朝顔、やっておしまい。」
「アー!私は勝太郎様に選ばれない!」
朝顔がそう叫ぶと、朝顔の周りに青い炎が浮かび、その炎が次々に俺たちの方に飛んできた。
俺は炎を切り捨てた。健斗も炎を切りまくっている。鈴木くんはまともに炎を浴びて、「痛い痛い」と転げ回っている。
瑠美ちゃんが結界を張ったので青い炎は飛んでこなくなった。
ルシーダが鈴木くんの治療を始めている。
それを見てイワナガ姫は言った。
「ほほほ。ここではこんなものね。来れるものならば試練の洞窟にいらっしゃい。さあ、八十梟帥ども、出番よ!」
そうしてイワナガ姫と朝顔は後ろに下がってゆく。
俺たちが追いかけようとするといきなり武装したおっさんが現れた。
「八十梟帥参上。この先に行きたければまずこの兄磯城を倒してからにするんだな。」
そう言って左腕を上げると兄磯城の周りには似たような筋肉ダルマどもが大量に現れた。
兄磯城が腕を前に振ると筋肉ダルマどもが一斉に抜刀すると、喚声を上げてこちらに突進してきた。
健斗は「へへへ。腕ならしだぜ。」と涎を垂らしそうな勢いである。タケヒビも「鈴木くんの仇討ちだな。」と呟いている。
鈴木くんはルシーダに治療してもらって元気を回復しているが、今回は参加しないようである。
清子は「私と咲耶は弓で支援するからね。」とすでに弓を取り出している。キャシーはいつのまにかサブマシンガンを取り出している。
「えへへ、こんな状況ならこれが頼もしいわね。」
およそ百人の八十梟帥が相手の戦いだがまるで負ける気がしない。
八十梟帥が近づいてくるのをまずはキャシーがサブマシンガンの斉射で薙ぎ倒した。バタバタと先頭の兵士が倒れてゆく。
「ああ、現代の兵器が通用してよかったわ。」
ダンジョンでは結構現代兵器が使えないところがあるからなあ。
キャシーは撃ち終わったサブマシンガンを素早くしまうと代わりにフェンシングの剣を取り出した。
「私、これでもフェンシングの全米ジュニアチャンピオンだからね。旦那様の横で戦うわ!」
「おう、キャシー。俺の横にいろ。」
「はい旦那様!」
健斗とキャシーは陽気である。
先陣の兵士を踏み越えて中軍の兵士が俺たちに襲いかかってきた。
敵兵はみんな筋肉ダルマなので剣を振り下ろす勢いは強いが隙だらけである。
一撃をサッと避けてカウンターで相手に切りつけた。
鎧は何でできているのか知らないが硬いので剥き出しの首筋や腕を狙う。
中軍の兵士たちも難なく片付けてゆく。
討ち漏らした兵士は後ろから弓部隊が片付けてゆく。あっという間に残るは最後方の十人ばかりの兵士と兄磯城だけになった。
こいつらはそれまでの兵士に比べて体格が大きい。兄磯城は更に大きく、他の兵士とは違って全身を鎧で覆っている。中世の騎士みたいなゴツいやつである。
彼らはいきなり弓矢で俺たちに撃ちかけ始めた。とりあえず飛んできた矢は刀で払い落とす。
矢を打ち尽くしたようで、彼らは抜刀して向かってきた。俺たちも立ち向かってゆく。
さすがに兄磯城の側近部隊ということなのだろう、さっきの兵士たちとは実力が違う。後ろからの弓矢の攻撃も俺たちのように払い落としている。俺たちも彼らの攻撃を受け流すが彼らも俺たちの攻撃を受け流すのでなかなか致命傷を与えられない。
少しこう着状態になりつつある。
その時、「ほあお!」と奇声を上げた奴がいた。健斗だ。
健斗はいきなりバク転するとそのまま踵落としで相手の脳天に蹴りを入れた。そのまま逆立ちから足を拡げて回転しながら更に二人を蹴りで沈めた。
「なんだよそれ。」
俺が思わず聞いてしまうと、健斗はやや自慢するように「カポエイラから想を得たんだ。」と言う。
カポエイラってそんな空中戦だっけと思ったが、取り敢えず3人は沈んだ。後の連中はいきなりの「カポエイラ」に度肝を抜かれている様子である。
それを俺たちが横から切りつけると彼らは対応できずに倒れた。
残った連中はヤケクソになったのか全力で斬り込んできた。そうしてくれると俺もカウンターがやりやすい。あっという間に残りの数人が倒れた。
一人になった兄磯城は剣をスラリと抜くと「ふっふっふ、では俺の番だな。」と言う。
ちょっと違和感がありすぎである。
声が高いし、なんだか合成音のように聞こえた。
俺はグッと踏み込んで先に兄磯城の腕を切り落としてやった。
ブワッと血が流れて兄磯城の左腕は飛んでいった。これで勝負有りだろう。
ところが兄磯城はやはり高い合成案のような声で「ムダムダムダア!」と吠えた。すると切り落としたはずの腕が生えてきた。
「は?」
俺が驚いている隙に兄磯城は俺に切り掛かってきた。俺は必死で受けるが、馬鹿力である。俺が剣を持つ手はもう痺れてしまった。
そんなことは言ってられないのでグッと押し返そうとするが、単純な力勝負では向こうの勝ちであった。
俺はサッと体を躱すと横っ飛びに逃げた。
その後は俺が相手の腕を切っても足を切ってもすぐに再生してしまう。俺の方は傷を治す暇はないのでこちらだけが致命傷はないけれども傷だらけである。
こんなの打つ手がないじゃない。
それでも戦い続けていると、倒れていた敵の兵士の中から誰かが起き上がるのが見えた。
えっ?討ち漏らした敵の兵士?
そう思っていると、彼は兄磯城を見て「兄の皮を被った化け物め!」と叫ぶと懐から石礫のようなものを取り出して兄磯城に投げつけたのである。
俺は当たらないように体を躱したが、兄磯城には当たったようである。
すると、兄磯城は膨れ上がるように見えた。鎧はその体に吸収されてゆくようで、気がつくと兄磯城は消え、そこには醜悪な巨大なエビの怪物が出現していた。
「え?エビ?」
俺が呆然と呟くと、後ろから健斗が「エビやろうか」と言い、清子が「ホロゴンね。」と言うのが聞こえた。
「おい、勝太郎、後ろに下がれ。後は俺たちでやる。」
健斗が言う。
「は?俺は負けていないぞ。」
俺は抗議したけれど、清子も「アイツには剣じゃダメだわ。勝太郎、下がりなさい。」と言うので俺は渋々後ろに下がった。
後ろに下がるとルシーダが駆け寄ってきて「ああ、勝太郎、傷だらけじゃない!」と言いながら治癒の魔法をかけてくれた。ルシーダの魔法はあたたかい。
向こうでは健斗がストームオブファイアの魔法を唱えると、ホロゴンは熱で真っ赤になっていた。その時、清子がアイスストームを唱えた。熱せられていたエビの殻が急に雪で冷やされたためだろう、雪嵐の収まった後にはその殻がヒビだらけになっており、瞳の光も消えたエビの怪物はドウと地面に倒れて動かなくなった。
俺も呆然とその様を見つめていたが、さっき石飛礫を投げた兵士の男も呆然とその様を見つめていた。おそらく驚きが覚めるのが早かったのだろう、タケヒビが後ろからその男の首根っこを掴むとこちらに連れてきた。
「お前は何者だ。何故あんなことをした?」
タケヒビは淡々とその男に質問した。
「わ、私は弟磯城と言います。兄磯城の弟です。」
「ふむ。」
「兄があの魔物に喰われて魔物が兄のふりをし始めたので復讐のためにやったのです。私が投げたのは破魔の宝珠でした。」
「ふむふむ?」
「あの怪物を打ち取って兄の無念を晴らしていただきありがとうございます。」
そう言って弟磯城は俺たちに向かって何度も土下座している。
健斗は「いやあ、それほどでも。」と喜んでいるが、清子は「こらっ健斗。ちょっと真面目にしなさい。」と怒っている。
俺は弟磯城に向き直って「この向こうにはもうイワナガ姫だけなの?」と聞いてみた。
「いえ、洞窟の守りには長髄彦様がいらっしゃいます。彼も化け物に乗っ取られていますが、その軍勢はさっきのエビの化け物が人間に化けていますし、長髄彦様は更に強力な化け物です。」
弟磯城は淡々と言う。
健斗はおどけるのをやめて「ヒュッ」と息を吐いた。
「あんな化け物がわんさかいるのか。」
「長髄彦様の後ろにイワナガ姫がいらっしゃいます。」
「もしかしてその後ろにも?」
「はい。いつの頃からか次元の穴ができておりまして、化け物たちはその穴から来たのです。私は知りませんが、その穴の向こうには化け物の王がいるだろうと思います。」
「か、帰りましょう。」
健斗は明らかに怯えている。
「ダメよ。岩永ちゃんや朝顔ちゃんを救わなきゃ。それに私たちも元の世界に戻らなきゃね。」
清子はさすが生徒会長をやっているだけある。正論で健斗をぶった斬った。
咲耶も「すみません。岩永の救出をよろしくお願いします。」と頭を下げた。
咲耶もどう考えても岩永ちゃんに逆恨みされていると思うが、その子のために頭を下げるなんて偉すぎる。
一緒に来ていたおっさん達も意識を取り戻していた様子である。
「わしらではもうこの先は勘弁してくんなせえ。朝顔はずっと男運だけは悪くていい縁がなかったのですがきっと皆様方ならばその縁を良い方に変えていただけるでしょう。いい子なのでよろしくお願いします。」と何度も頭を下げて帰っていった。
「さて弟磯城くん。鎌はここからの道案内をできるかい?」
俺がそう言うと、弟磯城は「兄の仇を討って頂いた皆様方です。喜んでご案内いたします。」と先頭に立って「こちらです。」と道案内を始めてくれた。




