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宴会

夕刻には俺たちの歓迎ということで宴会が開かれることになった。


村の男たちが獲ってきたらしい猪や鹿の肉を焼いたものが皿に山盛りになっている。女たちが荒削りの木の椀にご飯をてんこ盛りにして朴葉にキノコを焼いたものを盛り付けていく。

男たちは「はっはっは、今日は大猟だったよ。」と言いながら席についてきた。

俺たちはお客様席である。健斗は清子やキャシーと相変わらずじゃれあっている。瑠美ちゃんたちや富士乃下高校の連中は多分、慣れない席に座らされて窮屈そうである。朝顔ちゃんも女たちに混じって盛り付けの手伝いをしているのが見えた。


大方の盛り付けが終わった頃に村長さんがヨボヨボと上座についた。

それを見て女たちも次々と席についた。

俺の横の席には朝顔ちゃんがスッと座った。

村長さんはみんなが座り終わると存外大きな声で「今日は多くのマレビトがお越しじゃで歓迎の宴会じゃ。皆無礼講で楽しめや。」と開会の挨拶をした。


朝顔ちゃんはウッキウキで「はいお酌、召し上がれ。」って小さなお椀に白い液体を注いでくれた。

匂いを嗅ぐとお雛祭りの時の甘酒みたいな感じである。

ぐっと飲んでみたがアルコール度数はほとんどなさそうな感じであった。すると朝顔ちゃんは「はいおかわり」といってどんどん甘酒を注いでくる。

4、5杯飲んでも全く酔うことはなかったが、いつの間にか朝顔ちゃんが俺に体を寄せてきている。密着された部分の体温が熱い。

と、反対側からは強烈な冷気を感じた。


恐る恐る反対側を見ると、氷の表情をしたルシーダが俺を睨みつけていた。

「あ、あ、甘酒を飲む?あったまるよ。」

俺はそういってルシーダの子椀に甘酒を注いだ。

ルシーダは引ったくるようにして甘酒の入った子椀を取って一気に飲み干した。


「勝太郎ったら何よ。そんなにデレデレしてお酒を注いでもらって!」

「そ、そうだね。まずはご飯を食べよう?美味しいよ。」

「誤魔化そうったってダメよ。そんな田舎娘に鼻の下を伸ばしちゃって!」


いつの間にかルシーダの顔は赤らんでいる。

もしかして甘酒で酔っちゃったのだろうか。


その時反対側から朝顔ちゃんの声がした。

「田舎娘って失礼ね。これでも父上様は武田信濃守よ。あなたがどこの馬の骨か知らないけれど私のお父上は立派なお侍なのだから。」


やばい、これは火に油ではないか。

「ふん、親自慢するってことは自分に誇れるものがないってことね。」

「何よ、そんな変な髪の色、見たことないわ。勝太郎さん、もうこんな変な女など捨てて私と夫婦になればいいのよ。」

「何をいうのよ。私と勝太郎は許嫁よ。それを私を捨てろですって?この泥棒ネコ!」


最早俺の頭上をミサイルが飛び交っている。

俺はもう何も聞こえないと念じながらご飯を食べることに専念し続けた。


どうして俺はこんなに針の筵みたいなところにいなきゃならないんだとムカムカしてきていた時、健斗が来た。

「勝太郎、両手に花で楽しそうじゃない。」

どこがだよ。針の筵の修羅場だったのに。

「ルシーダちゃん、清子とキャシーの相手をしてやって。俺たちはタケヒビを救出に行ってくるわ。」

健斗が指差す方を見るとタケヒビがおっさんたちに挟まれて真っ赤っかになっている。

タケヒビもお酒に弱かったのか。

健斗は朝顔にも「ちょっと勝太郎を借りるね。」と言って俺を立ち上がらせた。

その隙にルシーダはサッと清子の方に移動して行った。

朝顔ちゃんはちょっと呆然としていた。


タケヒビのいる席に近づくとムッとお酒の匂いがする。お椀には甘酒と同じような白い液体が入っていたが、明らかにアルコール度数が高そうである。

こりゃドブロクだな。


タケヒビはそのドブロクを椀に入れてぐいぐいあおっている。

顔は真っ赤っかで息も酒臭い。


おっさんは俺たちを見て「おっ、お前らも飲むか?」とドブロクを注ごうとした。けれどもタケヒビは「俺は大人だけれどこいつらは子供だ。」とそれを止めさせた。

いや、同学年のはずなんだけど。タケヒビの実年齢は高校生ではないということだろう。お酒は二十歳を過ぎてからである。


おっさんは不承不承お酒を注ぐことを諦めたが、今度は自分で飲みながら自慢を始めた。今日は猪や鹿を大物を仕留めたという話から始まって、試練の話まで出てきた。

「試練ってどういうものなんですか?」

俺がそう聞くと、彼によると穴から出てくる怪異なのだそうである。その怪異は多くは人型なのだけれど人間ではなく、人を襲ってくるのだという。最近はそこに強い女怪が加わったようで、何人かの犠牲者が出る事態になっているらしい。

「まあ、俺様は強いから大丈夫だけど。」

おっさんは腕の力こぶを見せて大笑いしていた。


その時、タケヒビはオエっと苦しそうになり、健斗が苦しそうなタケヒビを連れて行ってしまった。周りを見てみるともう多くがそこで眠ったり、部屋に戻ろうとしている。

ルシーダの姿も朝顔の姿もすでになかった。


俺はおっさんに「その化け物はどこからきているのか」と聞いてみた。

おっさんは穴の場所はわかっているが、その穴がどこに続いているのかはわからないという。

朝顔の父親である武田信濃守は数人の部下と共にこの地を訪れ、マレビトとして朝顔の母親と一夜を共にした後、怪異を切り伏せて穴に入って行ったらしい。けれども信濃守は二度と穴から出てくることはなく、いつしか再び怪異が出現するようになったらしい。

おっさんは「朝顔ちゃんは気立もいいしよく働く子だから幸せになってほしいんだよ。」という。彼女は男どもからはモテモテらしいけれど、みたことのない父親に憧れて、すでに亡くなった母親のようにマレビトと一夜を過ごして子供を授かることに憧れているらしい。


ふと横を見るとタケヒビが座っている。

あれだけ酔っていたのにもうその影響はなくなっている様子である。健斗はいない。

もしかしてこれが神様パワーなんだろうか。

タケヒビは瀬織津姫の息子さんで立派な神様のはずである。

彼は「そうだよ。一人の夫に妻が一人だけっていうのは正しいことではない。好きなら妻が二人でも三人でもいいじゃないか。それをしっかり養ってゆくのが男の甲斐性ってものだよ。」と静かにいう。

おっさんはタケヒビの背中をバシバシ叩きながら「ニイちゃん、いいことを言うじゃねえか。そうだよ、据え膳食わぬは男の恥だよ。」と喜んでいる。

そんな誘惑には乗らないぞ。朝顔ちゃんは確かに可愛いしいい子だけれど、手を出してしまったらルシーダの怒りが怖いじゃないか。

と言うより俺はそんなことをしてルシーダを悲しませたくはない。


「そんなことを言うならばタケヒビこそ親衛隊の女子たちをみんな幸せにしてやればいいじゃないか。」

「???」

タケヒビは俺がいったことを理解できないように首を振っただけだった。

俺はタケヒビの反応に少し違和感を感じたが、そんな暇もなくおっさんは「よーし、小僧、お前も明日、猟に連れて行ってやるから何なりと仕留めて朝顔ちゃんに渡せ。そうすれば朝顔ちゃんも惚れ直してくれるって。ガハハ。」と言って俺背中をバシバシ叩いた。


俺は何を言う暇もなく翌日におっさんたちの猟に同行することが決まってしまった。

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