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竜宮城?

階段を降りると海底だった。


「はっ?」


海中?をタイやヒラメが踊りながら泳いでいる。


「俺たちは呼吸できてきるよな。」

海斗が俺につぶやいた。

「ああ。」

明らかに海中アピールだが俺たちは普通に呼吸できている。

横を見るとルシーダと瑠美ちゃんが呆然と空中を泳ぐ魚たちを見て、「ここは海中の世界なの?」と言い合っている。


海斗は「現実のの世界ではヒラメは海底にいるもんだよ。」と笑った。

それを聞いた海中?を泳いでいたヒラメたちはショックを受けたのだろうか、泳ぐことすら忘れたように呆然と漂っている。


清子は「ヒラメが海底にいるならばヒラメとカレイの区別はどうするのよ。」と絶望したように叫んだ。

多分、ヒラメたちもその叫びを聞いたのだろう、我先に地面に滑り降りると体の色を地面の色に同化させたみたいで、もうどこにいるのかわからなくなってしまった。


完全に部外者だったキャシーが奥の方を指差した。

「向こうに何か建物があるよ。」

まだエビやカイなど多くの海の生き物が空中で踊り狂っているが、一連のバカ騒ぎの結果で少し視界が開けていた。その向こうに建物らしきものがあるのである。

俺たちと違ってキャシーは冷静沈着だった。

やっぱり米軍で鍛えられているからかもしれない。


俺たちは気を取り直してその建物の方に向かうことにした。


建物に近づいてゆくと、それは瓦葺きのお城みたいな建物で、上階の辺りに肉筆で「竜宮城」と書いた看板が掛けられている。

「わお、竜宮城!」って瑠美ちゃんとルシーダは歓声を上げたが、もう俺たちは騙されないぞ。

俺と海斗は頷きあった。

「竜宮城」の看板には消された跡があり、それは「黄泉」と見えるのである。

キャシーは「黄色い泉?」と不思議そうである。


「「黄泉」は死者の国のことだよ。日本神話では常世の国とも言われているわ。」

さすがに優等生の清子は博識である。


「ということはやっぱりルシーダ姫が無双する展開かな?」

健斗が俺を突きながらニヤニヤする。


「俺を突いてどうするんだよ。」

俺が健斗を睨むけれど健斗はニヤニヤを止めようとはしない。

ルシーダ姫は「私が活躍ってやっぱりあの、アンデッドが出てくるのでしょうか。」と不安そうに俺にささやいた。


そんな会話をしているうちに建物のそばに近づいてきた。


健斗は閉じられた大きな扉にツカツカと歩み寄ると、力一杯その扉を押し広げた。


中は大広間になっていて、極彩色の衣装を着た乙女たちが優雅に舞い踊っている。

大広間の真ん中にある大机にはご馳走の満載された大皿がいくつも載せられていた。

その奥には玉座のような豪華な椅子に妖艶な美人が座っている。


「見知らぬ旅人が来たようだ。我が歓待を受けるが良いぞ。」

一番奥にいる美人が言った。


すると、踊っていた乙女たちがサッと二手に分かれて俺たちのために道を開け、大机には椅子が準備された。

キャシーは「ウヒョー、これはご馳走だよ。」とウキウキした声で言った。


俺はキャシーにまだ食べないように手で制して、一歩進み出てその妖艶な美女に向かって言った。

「私は布留那一刀流後継者の勝太郎でございます。このような寛大なお申し出をなさって頂いたのはどこの神様でございましょうか。」


妖艶な美女はかすかに顔を顰めて「当ててみよ」と言った。何だか「チッ」と舌打ちしそうな感じである。


神様の名前を当てるなんて審神者である。俺にはそんな芸当はできない。日本のことを知らないルシーダ姫に頼るわけにもいかない。

健斗のやつはそもそも明後日の方向を向いていた。清子に縋るような目を向けたが下を向いてかすかに首を横に振られた。

もう残すは瑠美ちゃんだけである。

瑠美ちゃんの方を見ると、青い顔をして一人の乙女を見ている。

(うん?)

彼女が見ている乙女を見ると、衣の端から何かがポタポタ落ちている。よく見ると蛆虫が落ちていっているのである。

ふっと黄泉の文字が思い出された。黄泉比良坂では伊弉諾大神と伊邪那美大神の大離婚劇が行われたはずである。

「伊弉諾大神の…」

俺がそう言いかけるとその美女は「ハズレじゃ。いくら何でも妾は女神ぞ。父と間違われてはかなわぬ。」と言い、腕を振った。


眩く輝いていた照明はサッと暗くなり、乙女たちはいきなり髪の毛が崩れ落ちて蛆がたかっている姿になった。机のご馳走ももう蛆だらけである。

「さあ、黄泉醜女ヨモツシコメども、このマガツヒが命じる。こやつらを葬っておしまい!」

(マガツヒって日本神話でも結構やばい悪神ではなかったっけ)

俺は襲いかかってくる黄泉醜女の攻撃を振り払いながらぼんやりと考えていた。


ルシーダはターニングアンデッドを試みているがうまくゆかないようだ。

健斗は清子とキャシーとで連携しながら黄泉醜女と渡り合っている。

俺の方は俺一人でルシーダと瑠美ちゃんを守りながら戦わなければならないので結構大変である。

救いは瑠美ちゃんの「破邪」は黄泉醜女を数歩だけでも後退させてくれるので守る比重をルシーダの方に割けることくらいである。

俺は黄泉醜女を倒す方は健斗達にお任せしてルシーダと瑠美ちゃんが傷つけられないように必死で守り続けた。


健斗達三人は苦戦しながらではあるが、黄泉醜女を葬っているようである。

俺はとにかく黄泉醜女の攻撃を受け流すことに集中するしかない。下手に攻撃してしまえば別の角度からの攻撃を受け流し損ねかねない。


もう何十合攻撃を受け流したかわからない。健斗達に目を配る余裕はなく、鉛のように重い腕を必死で動かして攻撃を避け続けるのみになった。


その時、黄泉醜女の攻撃を交わしたつもりが刀にまともに打撃を受けてしまい、侍大将の刀がボキッと折れてしまった。

その瞬間に瑠美ちゃんが「破邪」を掛けてくれたのでその黄泉醜女は健斗達の方に転がっていった。


何とか難を逃れたが、最後の刀が折れてしまったので、もう残っているのは聖剣だけである。


気づいてみると、大方の黄泉醜女はすでに事切れており、残った数体の黄泉醜女が健斗達に向かって攻撃しており、マガツヒも健斗の方を向いているのでこちらには意識すらしていない様子である。


今、俺が聖剣を抜いてマガツヒを攻撃すれば完全な奇襲になる。マガツヒさえ倒せばこの意味不明な戦いは終わるはずである。

問題は、聖剣を抜いてしまうと俺の意識は政権に飲まれてしまい、バーサーカーのように攻撃し続けるのを誰が止めてくれるのかということである。


けれども、もう刀の予備は使い切って折ってしまっているのでもし黄泉醜女がこちらを攻撃するようなことがあればいずれにせよ聖剣を抜かざるを得ない。それなら先に意図的に聖剣を抜いたほうがいいかもしれない。


(ええい、ままよ!)

俺は聖剣を抜き放つと雄叫びを上げてマガツヒに向けて突進した。

そのまま肩口からマガツヒを袈裟懸けに切りつけたのである。


俺は意識を失うことを覚悟していた。けれどもマガツヒの傷口から大量の清水が噴き出すのを感じた。

マガツヒの姿は光と共に消し飛んでしまい、その中(?)からはマガツヒとは似ても似つかぬ清楚な少女が現れた。


少女からは大量の清水が噴き出しており、大広間に倒れていた黄泉醜女の死骸などがどんどんと洗い流されてゆく。

俺はそれを無言のまま見つめていた。

「妾は瀬織津姫。」

少女は厳かに言った。

「は、はあ。はじめまして。」

神様にそんな言い方していいかということはあるのだが、さすがに俺のキャパシティを越えすぎである。言葉に構っている余裕はなかった。

「あれ、俺は意識を失っていない。バーサーク化していないぞ。」

「それはお主が神であるマガツヒを切ったのじゃ。聖剣とてお主を認めぬわけにはいかぬだろう。」

その時、俺はお尻に激痛を感じた。

恐る恐る振り返ってみるとルシーダが怒った顔をしてこちらを見ている。

「浮気厳禁」

は?こんな時にそういうことを言っている場合か?

俺は目を白黒させた。


瀬織津姫は案に相違して結構上機嫌だった。

「ふむ。妾に懸想してはならぬぞえ。特に愛しの婚約者殿がいる時にはのう。」

(うわ、瀬織津姫がめっちゃイタズラっぽそうな顔をしている)

「娘ごよ安心せよ。妾は他人の婚約者を奪うなどせぬからのう。」

何だかいきなり会話があらぬ方向に脱線しまくっている。どうしたらいいんだろう。こういう時は健斗だ。

俺は瀬織津姫の水流で流されてしまった健斗達が早く戻ってきてくれと心の中で祈るのであった。

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