聖域のダンジョン(2)
そのままどんどん進んでゆくとモンスターは変わってゆく。今度は巨大な骸骨が現れた。瑠美ちゃんとルシーダは流石に戦えないので真ん中で守ることになった。後衛のキャシーはだんだんフラストレーションを溜めているのがわかる。俺と健斗と清子が戦っているのにも関わらずブツブツと文句を言い出した。
あたり一面骸骨だらけなんだけれど、俺が後衛に回って健斗の横に清子とキャシーを配置することにした。
俺が後ろから攻撃してくる骸骨を叩き潰しているとルシーダの悲鳴が上がった。ルシーダの方を振り返ると、彼女と瑠美ちゃんの目の前まで迫っていた巨大骸骨がルシーダの聖女パワーでチリとなって消えてゆくところだった。
(はっ?)
俺が前衛を見ると健斗の両側で巨大骸骨を全く無視して清子とキャシーが健斗の取り合いを始めていた。
三人とも自分たちに向かってくる骸骨は無意識のうちに倒しているみたいだが、隙をついて後ろに飛び込んでくる骸骨には全く気を止めずに三人でイチャイチャ、いや、いがみ合っているのである。
瑠美ちゃんは骸骨には対応できないので震えているし、ルシーダが聖女パワーを使ってやっとの事で骸骨をチリに変えていっているようである。いや、ルシーダが聖女として優秀なのはそれでいい。けれども前衛どもが何の役にも立っていないじゃないか。
俺は後衛のポジションを捨ててルシーダのそばに駆け寄ると、ルシーダに付き纏いそうになっていた骸骨を一刀の下に切り捨てた。
「勝太郎、ありがとうね。」
「気にすることはない。悪いのは健斗たちだ。」
俺は健斗たちに「何を痴話喧嘩をやっているんだ。今は戦闘中だぞ。」とと呼びかけた。
健斗は「ああ」と答えたが、清子は「キャシーが悪いのよ。」と言い、キャシーは「清子はどこかへ行ってしまえ!」とエキサイトしていた。
俺は頭痛がするこめかみを揉みながら言った。
「あー、健斗は後衛に行ってくれ。清子とキャシーは『仲良く』前衛な。」
清子とキャシーは「「勝太郎だけルシーダの横なんてずるい。」」と言ってほっぺたを膨らませていたが、そう言う二人の間をすり抜けてくる骸骨どもを切らなければならないんだよ。
健斗も内心では困っていたのか、そそくさと後衛に移ってきたのである。
清子とキャシーの二人は「自分たちも後衛に!」と言い出したが、健斗が「うーん、この階でどちらが沢山骸骨どもを倒せるかな?沢山倒した方に俺の横にいる権利を与えよう。」と言ったのでそのあとは二人で骸骨を競って倒し始めたのでパーティが再び前進し始めたのである。
瑠美ちゃんはまだ青い顔をしていたが、「大丈夫かい?」と聞くとこくこくと首を縦に振ってくれた。
ルシーダはちょっと柔らかい表情になって「勝太郎もパーティリーダー、大変ね。」と言ってくれる。
「そ、そんなことないよ。大丈夫だよ。」と俺が頭をかきながら返事をしていると、前衛の女子二人が突然振り返って「「そこ!イチャイチャしない!」」と声を揃えてツッコミを入れてきた。
あいつらは健斗を取り合って、いつも仲が悪そうなのにどうしてこういう時にだけ仲がいいんだろう。
「わかったから。二人はきちんと仕事をしてくれ。」
前衛が真面目に仕事をすると、骸骨如きは敵ではない。あっという間に下への階段が見つかった。階段を降りながら二人は倒した骸骨の数について言い争っている。どうやらお互いに自分の方が沢山倒したのだと言い合っているようである。
二人が喧嘩をしながら階段を降り切るといきなり火の玉が降ってきた。俺はルシーダを抱き抱えて横に飛んで火の玉を回避した。瑠美ちゃんは健斗が避難させている。女子二人もそれぞれ攻撃を回避したようだ。
「八岐大蛇か。」
「それにしては小型だから助かった。」
西洋でいうとパイロヒドラである。
八本の蛇の首から次々に火の玉が吐き出される。
「散開しろ!」健斗が叫んだ。
俺は安全地帯と思しき場所にルシーダを下ろすとすぐに八岐大蛇の前に取って返した。
女子二人も喧嘩している場合ではないと悟ったのか既に攻撃のポジションをとっている。
どこかに瑠美ちゃんを下ろしたらしい健斗もすぐに攻撃の列に加わった。
蛇の頭を切ってもすぐに新しい首が生えてくる。
普通のヒドラであれば首を切った切り口を火で焼いてしまえば新しい再生は起こってこない。ところがこの八岐大蛇は健斗の火魔法で切り口を焼いても再び首が生えてくるのである。
「どうしよう。何度やっても首が生えてくるよ。」
清子が少し弱気な声を上げた。
「火魔法がダメなら土魔法はどうかしら。」
キャシーがそう言うと首を切った切り口にストーンバレットで石礫を打ちつけ始めた。
石礫だらけになった傷口はぐぐぐっと膨らんだような感じがして、やはり中から新しい首が再生してくる。
「ダメみたいね。」
その時、瑠美ちゃんがおずおずといった。
「燃やすのがダメなら凍らせるのはどうでしょう。」
「ああ、試してみよう。でも誰か氷魔法を使えるかな?」
瑠美ちゃんは「私は修験道以外に氷魔法も少し使えるのです。」と言う。
「じゃあやってみましょう。」
俺たちは刀を構え直して八岐大蛇の首を切り飛ばした。
「瑠美ちゃん、さあ、やって!」
「はいっ」
瑠美ちゃんが九字を切ると八岐大蛇の傷口にぐぐぐっと氷が盛り上がってゆく。
けれども残念なことにさっきよりもかなり時間がかかったが、やはり首は再生してしまった。
「ああ、やっぱりダメでしたね。」
瑠美ちゃんはショボンとしている。
「いや、そんなことはない。首の再生はかなり遅くなったぞ。こうなれば首が再生する前に切って切って切りまくるんだ。」
健斗は穏やかならぬことを言い出した。
「そ、それは……(脳筋すぎやしないだろうか)」
俺が思わず後半部分を飲み込んでしまうと、ルシーダは「健斗さん、そうですわ。私は加速の呪文を唱えられますからみなさんガンガンやっちゃって下さい。」と朗らかな声で健斗に答えた。
ああ、ルシーダも脳筋だったのか。
それからは八岐大蛇の首を切ると瑠美ちゃんがその傷口を凍らせて、首が再生する前にさらに切り込んで行くというある意味何も考えていない潔さのある攻撃を続けたのである。
俺と健斗、清子とキャシーが代わり番こに切りまくった結果、八岐大蛇はその首だけではなく本体の部分までメチャクチャに切り裂かれることになった。
もう何度切りつけたかわからないくらい攻撃したことで、ついに流石の八岐大蛇も自らを支えきれなくなり、どうとその巨体を横たえることになったのである。
俺も健斗も疲れ果ててぶっ倒れそうだったが、清子は何を思ったのか、八岐大蛇の尻尾の部分に刀を入れて切り裂いていった。
「あ、あった。」
清子は八岐大蛇の尻尾から一本の刀を取り出したのである。
「よし、鑑定してやるよ。」
健斗はその刀をじっと見つめた。その後すぐに笑い始めた。
「どういうこと?」
清子が健斗に詰め寄った。
「いや、たいしたことじゃない。その剣は草薙剣だ。」
「えっやっぱり?三種の神器発見だわ。」
「でもなぜか(簡易版)ってなってる。」
「……簡易版ってどういうことよ。」
「それは俺にもわからないな。使ってみたらわかるんじゃないかな。」
清子は複雑な表情をしながらその剣を拭いて八岐大蛇の血を拭い去り、剣を抜いてみた。
いきなりまばゆい光を剣が発したので驚いたのだろう、清子はすぐに剣を鞘に戻してしまった。
「やっぱりヤバそうな剣ね。」
清子の機嫌は少しだけ戻ったようである。
このフロアは八岐大蛇だけだったようで他のモンスターには出会わなかった。
さらに下に続く階段が見つかった。




