表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/71

帰還

領主館に戻るとエーミルが新伯爵の就任パーティを企画していた。

「は?そんなことにお金を使うの?」

「伯爵様、就任早々これだけのことをやらかしておいて今更何を言うのです。領民たちが領主館に集まってくるのは止めようがありませんからきちんとお披露目しないとこちらの事務仕事が持ちません。」


エーミルは文官としてそつのないところを見せた。領主館の大広間にはシティの市長や神殿の大神官、ギルドの主だったメンバー、農村地帯の主な村長や長老たちが呼び集められていた。


南部の旱魃地帯の村々の人は俺を見てもう土下座せんばかりの様子である。

何人かの村長は早速挨拶に来てくれたが、帰りにエーミルから種籾をもらって帰るということだった。


清子とコパも来てもらっている。コパは参加者をビビらせないように一番小さくなってもらっているが、それでも本物の龍を見た人々は口をあんぐりあけている人がほとんどだった。


勝太郎とルシーダ姫にも出席してもらっている。


時間が来ると、エーミルの司会でパーティが始まった。

彼は新領主として俺とローラ王女を紹介し、その後に妻として清子、それにコパを紹介した。

会場中が飛び回っているコパを見てどよめいていた。

今後はコパを見ても恐慌に陥ることなくみんなが落ち着いて対応してくれるに違いない。

次に勇者勝太郎とその婚約者としてルシーダ姫を紹介した。実は聖剣を抜けない勝太郎は勇者として紹介されることに随分と抵抗したのである。

けれども、勇者の出現はハルシュタット王国にもソーフィルク王国にも福音となるわけで、その第一報の栄誉をこのケルナートに担わせてほしいということで説得しまくった結果、渋々出席してくれることになったのである。


最後に俺が挨拶した。

「皆さん、私がこの度、ケルナート伯爵に任命された健斗・海崎伯爵です。妻のローラ王女と力を合わせてこの地を豊かで幸せな土地にしていきたいと思いますので皆ちんどうぞご協力のほどよろしくお願いします。本日はささやかなパーティを用意しましたので皆さん、楽しんでいってください。」


会場からの大きな拍手と共に音楽が始まった。

俺とローラのところには挨拶する人が列を作った。

勝太郎は渋めの表情であるが、それは令嬢たちの興味を誘っているらしい。ルシーダ姫がちょっとヤキモキしているがこちらも手一杯で助けに行くことはできない。

勝太郎は氷の表情で令嬢たちを次々に切って捨てているので大丈夫だろう。


俺も多くの人たちからさまざまな陳情を受けた。

その中にはすぐに実施できるものもあれば時間がかかりそうなものもある。あとでエーミルに丸投げしておこう。

中央では若い男女が思い思いにダンスを踊っている。

王領ということで領民も自由があるようだった。


多くの人の挨拶を受けていると俺たちが食事をする余裕はない。

挨拶の列を捌き切った後は俺たちもそっと退場したのだった。


エーミルはパーティは成功だったとニコニコ顔である。多くの招待者に実際に来てもらえたし、俺やローラと挨拶してもらえたのである。

今後数ヶ月はうまくやってゆけそうだという。


「じゃあ、任せた。」

「ハイっ?」

「ローラの出産があるから。あと学校もあるからね。」

侍女も「出産についてはあちらの方が安全でしょう。」と言う。


「また戻ってきてくださるんですよね。」

「そりゃ当然だよ。駐日本大使のロドリーゴさんに連絡をとってもらえれば連絡はつく。」

「わかりました。ではお気をつけて。」

エーミルは心底残念がってくれた。


翌日には俺たちはケルナートを離れ、王城に来た。女王陛下にご挨拶するためである。

女王様に「勇者発見と聖剣発見」のご報告をすませた。ルシーダ姫はソーフィルクの大使に勝太郎が聖剣を得て勇者になったことを伝えたらしい。

女王のご機嫌は良かったのでローラのお産は日本でやることも快く了承してくれた。


その日は王城で一泊してローラと俺と女王陛下との水入らずの時間を持てた。

まあ、主な話題は女王の孫についてである。

ローラのお腹はまだまだ目立たないとは言え着実に大きくなってきている。ローラはマタニティウェアを着ている。

「無事に子を産んでくれればそれで良い。」

女王は何度もそう言うのであった。


女王に見送られて俺たちは馬車であの国境の扉までやってきた。

「魔王軍」に破壊された部分は随分修復されていた。

護衛していた騎士団の人達は「伯爵様、陞爵おめでとうございます。」と言ってくれた。

扉を潜ると日本側の施設も随分と直されていた。

杉山さんがいてご挨拶すると、すでに話を聞いていたらしく、「事件を解決してくれてありがとう。その功績で伯爵になったと聞いたよ。」とお褒めの言葉を頂いた。

どうやらこの国境施設の稼働で杉山さんは東京に戻るらしい。

「僕も故郷はこの近くだから残念だけれど。東京に来る時にはあそびにきてくれ。」と言ってもらえたのである。それと親父が帰ってきていると言うことも教えてくれた。

「彼は喜んでいたぞ。日本政府もね。」

どうやら俺の話題は結構広まっているらしい。


回廊を抜けて日本側に出てきたらロドリーゴ大使がいた。

「健斗様、伯爵陞爵おめでとうございます。」

「い、いえ、どういたしまして。」

「伯爵は高位貴族ですからね。」

ニコニコするロドリーゴ大使と道を下って俺の家についた。

五分ほどの道のりである。


家には明かりがついていた。中には親父と師匠がいてまだ昼間だと言うのに既に飲んでいた。

「おう、健斗、お前、伯爵になったそうじゃないか。これは祝いの宴会だ。」

親父はそういうが、恐らくは単に飲みたかっただけだと思う。

ロドリーゴ大使は「あはは、健太郎様もお喜びですなあ。私もこのあと公務がなければ是非一緒に飲みたかったですね。」と言って帰って行った。

俺が親父にひとこと言ってやろうとしたら、奥に瑠美がいて三つ指ついて「健斗様、伯爵ご就任おめでとうございます。」ときれいに頭を下げたから毒気を抜かれて「お、おう、今帰った。」と言ってしまった。なんだか亭主関白みたいである。

大人たちは宴会していて、後から杉山さんも参加して騒いでいる。

大きくなったコパには使っていないガレージをねぐらにしてもらうことにした。もう清子の頭にとまれないコパはガレージを気に入ってくれたようである。


酔っ払った大人三人は雑魚寝していたが、侍女さんが布団を掛けてくれていた。

俺たちは久しぶりに俺の家に泊まったのである。

朝にはシェフを乗せた大使館の車が来てくれた。久しぶりのシェフの朝ごはんは相変わらず美味かった。

登校時間にはソーフィルクの車もやってきてルシーダと勝太郎はそちらに乗り込んだ。


学校に着くと俺のあだ名は既に「烏天狗」ではなくて「伯爵」になっていた。

勝太郎とルシーダ姫、清子は一度寮の部屋に戻ったので俺とローラが教室に行くと、既に高柳生徒会長と横田先輩が来ていて「伯爵くん、生徒会室に来てもらおう。」と拉致されたわけである。

生徒会室での事情聴取の後、高柳先輩が「では生徒会主催の祝賀会をしよう。」というのを「それだけは堪忍してください、やめてください。」と固辞して教室に帰ってくると、「健斗が伯爵ってどういうこと?」というクラスメートたちに俺の武勇伝とやらを滔々と語る勝太郎や清子の姿があったのである。

俺のあだ名が「伯爵」になったのは当然だろう。


ローラは「旦那様は単なる伯爵ではなくてケルナート伯なのだからケルナート伯爵」と正しく呼ぶべきだわと言っているがそれもずれすぎである。


早川先生は最近は俺のことを「魔王」と呼び出している。彼女はサッキュバスなのだが、封印されているが実の妹である横田先輩を娶れとうるさい。

「どうせあんたはもうハーレムを作っているのだからそこに一人くらい増えたって変わらないでしょう。」というのである。

俺は横田先輩を尊敬しているのでそんなことはしたくないのであるし、ハーレムなんて作っているつもりはない。


良かったことと言えば瑠美が無事合格したことだろうか。

「健斗の横は私のものですからね。ローラや清子先輩には負けないんですから。」

瑠美は謎の闘争心を燃やしている。

えっ?ミンナナカヨクネ。


勝太郎はまだ聖剣を抜けない。抜くと聖剣に精神支配されるので師匠の道場に通って精神修養を始めている。

「瑠美はやらんからな。」というと「俺はルシーダ一筋だ。」と言っている。ヤンデレにならないか心配である。他にも俺たちでパーティを組んであちこちのダンジョンを踏破しまくっている。


ローラの経過は順調そうである。妊婦健診に行ってエコー検査を受けると赤ちゃんが大きくなっているのを写真で見せてくれる。

多分夏前にお産になるので夏休みには女王陛下に孫の顔を見せてあげられるのではないかと考えているのである。


60話で一旦区切ります。

先の話も考えているのでどこかで再開するかもしれません。

また準備して別の話を書こうかと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ