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聖剣起動

抜いた聖剣は淡く輝き、電子的な音が聞こえた。

「HGR-25型聖剣、個体名『デュランダル』対龍対魔王特化型インテリジェンスソード再起動します。確かな攻撃力と信頼性のクラインケベック工業です。」

「はっ?」

俺は思わず清子を見た。

彼女も俺の顔を見ていた。

「ち、厨二病」

「………」


ぴっぴっという単調な音の後におかしな抑揚で「ドラゴン発見、ドラゴン発見。速やかに排除が必要です。」という言葉が続く。

勝太郎はゆっくりと聖剣を振り上げるといきなりコパに向かって剣を振り下ろした。

俺は咄嗟に剣を振るって聖剣の攻撃を受け流した。


清子はキャーっと絹を引き裂くような悲鳴を上げてコパの前に立ちはだかった。

「勝太郎!コパに攻撃するなんて正気なの?」


俺が勝太郎を見ると、彼は白目をむいていた。明らかに意識はなさそうである。全く正気ではなかった。

ルシーダはオロオロしている。

俺は勝太郎の剣を弾きながら「勝太郎の正気を取り戻すことはできる?」とルシーダに聞いた。

ルシーダは「ごめんなさい。無理よ。」と泣きそうな声で言った。

清子は「コパを殺そうとするような勝太郎は許せない!」と勝太郎の急所に向けて次々と攻撃を繰り出している。聖剣は清子の攻撃を軽々と弾き消しているけれども。


「清子!勝太郎じゃなくて剣を叩き落とすんだ。勝太郎は操られているだけだよ。」

コパは飛び上がって勝太郎にドラゴンブレスを吐いた。

聖剣はコパのドラゴンブレスを軽々に切り裂いた。勝太郎は無傷である。

「さすが聖剣、勝太郎にはもったいないなあ。」

「旦那様、そんなことを言っている場合ではありません。」

清子は尖った声で俺を叱咤してきた。


俺は気を取り直して聖剣に立ち向かう。

「なあ、ルシーダ姫、勝太郎の右腕を切り落とすから後で回復魔法で繋いでくれないか?」

「健斗様、お気持ちはわかりますが、私の旦那様になる人にひどい傷を負わせないでください。」

まあそうだよな。俺だってこの返事は予想通りである。

聖剣の方も清子には手加減しているようである。

といっても、清子はだんだん追い詰められて聖剣に剣の腹で思いっきり吹っ飛ばされて横の大木にぶつかってズルズルと崩れ落ちた。多分意識を失ったようである。


ルシーダ姫が慌てて清子のそばに走って行って回復魔法をかけるのを見て俺は怒りを抑えきれない。

「この聖剣野郎、俺の清子に何してくれるんだよ。」

俺は聖剣を跳ね飛ばしてやろうと切り掛かってゆく。

聖剣は清子には剣の腹で攻撃するが、俺に対しては本気で斬り殺そうとして攻撃してくるようである。一つ間違うと俺も大怪我しそうである。


勝太郎が剣を取り落とすように彼の手首に剣の腹で強烈な一撃を喰らわせるが、常人ならば剣を取り落とすような打撃でも勝太郎にはほとんど効果はない。多分、意識のない勝太郎を操るために聖剣が魔力で繋げているのかもしれない。

やっぱり腕を切り落とすしかないのか。


ちらっと見ると清子の治療は終わったみたいで、おそらく意識のない清子は地面に横たわっている。その前でルシーダ姫が心配そうな顔でこっちをみつめている。


(ルシーダ姫を泣かせるわけには行かないか)

俺は「やあっ」と気合の入った声を出すと勝太郎に切り掛かった。聖剣が防御の構えをするが、それを弾いて勝太郎の懐に飛び込んだ。俺はそのまま剣を捨てて勝太郎の腰を両手で掴み、足払いをかけて転ばせた。転んだ勝太郎の右腕をそのまま掴み、十字固めにした。


肘と肩を決めているので剣は動けなくなったが、剣の奴は手首を動かして俺に切りつけようと必死である。俺は剣に切られないように顔を左右に動かして逃れる。


「ルシーダ、今のうちに聖剣を解呪して無力化してくれ!」


俺の声を聞いたルシーダはハッとしたように俺の方を見てこちらにやってきた。

「私が解呪しても一時的なものですよ。」

「それでいい。早くしてくれ。」


意を決したようにルシーダ姫が解呪を行うと、執拗に抵抗していた聖剣もポロリと勝太郎の手から離れて動かなくなった。


「聖剣に解呪をかけて本当に良かったのでしょうか。」

ルシーダ姫が悩みながら言う。

「勝太郎が聖剣の力に飲み込まれたのだから解呪はやむを得ないよ。」

清子はすぐに目を覚ましたが、コパの首に抱きついて勝太郎に怖い顔をむけている。


俺は台座の後ろに保管されていた剣の鞘を見つけて、聖剣を鞘に収めた。また弾かれたらどうしようと思ったが、スイッチがオフになっているらしく、聖剣は俺が触っても何の反応もなかった。


ルシーダ姫に「クラインケベック工業」について尋ねると、クラインケベックはエルフの中でも古い神として名前だけが残っているらしい。

「もうクラインケベックの神殿は存在しないのです。おそらく信者もいないに違いありません。クラインケベック工業とはもしかすると古い神が信仰されていた時代に神の名前を冠して作られた工房だったのかもしれませんね。」と言う。

クラインケベックについては聖剣の秘密を知るためには調べなければならないかもしれない。


清子がどうしても嫌がるので、勝太郎はロープでぐるぐる巻きに縛り上げて領主館まで連れて帰った。


翌朝目が覚めた勝太郎は清子に平謝りだった。彼によると途中からは意識がなかったものの、最初は意識も残っていて聖剣の支配に抵抗しようとしたが叶わなかったらしい。


清子は「コパに切り掛かるなんてどう言うこと?旦那様がいなかったらコパが怪我していたじゃない!聖剣に支配されるなんて未熟者!士道不覚悟よ!」と怒鳴りまくったのである。


エーミルは「勇者出現は間違いないのでお披露目はどうされますか?」と勝太郎に聞いていたが、さすがの勝太郎も苦笑いしながら断っていた。


勝太郎はしみじみと「一から修行をやり直しだなあ。」と言う。

俺はそれならいいところがあるよと勝太郎とルシーダ姫の肩を抱いた。


あの小川の下流に火の呪いによって干上がったため池がある。そこが乾いてしまったので南部地域が水不足になって耕作できなくなってしまっているのである。


ルシーダ姫は「私の勝太郎を救ってくださった伯爵様の申し出ですから喜んでやらせていただきますわ。」と言うし、勝太郎はおそらく出てくるであろう火の精霊を倒す役目を申し出てくれた。なお、聖剣は封印をかけて抜けないようにしている。


馬車であの古い邸宅のそばまでやってきた俺たちだが、ルシーダ姫は干上がったため池を見た途端に「ああ」と嘆声を上げた。

馬車を降りて「じゃあ解呪しますね。」と言ったルシーダ姫は両手を上げて解呪の呪文を唱えた。するとため池の底が淡く輝くと、そこから炎が噴き出してきた。

「おーおー、縛られていた火の精霊が出てくるよ。可哀想にもう彼らは意志を奪い去られているから滅してあげないとね。」とサフルが言う。


勝太郎が「任せろ!」と言ってため池の底に飛び込んでゆく。もちろん、手にしているのは聖剣ではない。以前に持っていた「katana of sharpness」である。

修行のために一人でやらせてくれと言うので俺たちは池の外に待機である。万一、勝太郎が対処できない状況になったならば救援に入らなければならない。


サフルは「サラマンダーとイフリートが何匹かいるだけだからいくら勝太郎でも大丈夫でしょう。」と呑気に言っているが、いくら勝太郎でも十匹程のモンスターと戦うのは大変だろう。


火に塗れて戦っているので肉眼では見えないが、探知を使うと火の精霊は少しずつ屠られていっていることがわかる。

周りを見ると清子はコパの首筋を撫でながら冷たい目で炎を見下ろしている。

一方でルシーダ姫はもう心配そうな顔を隠そうともせずにハラハラと見守っている感じである。


最後のイフリートが倒された時に勝太郎はなおも立っていた。よく見ると皮膚のあちこちには火傷のような変色があちこちに見えている。

ルシーダは悲鳴のような叫びを上げて池の底の勝太郎の所に駆けて行った。


おそらく応急処置を終えたのだろう、少しして勝太郎とルシーダの二人は手を繋いでゆっくりと上にあがってきた。俺が手を振ったが勝太郎はニコリともしない。けれども、清子は二人が上がった後のため池に水魔法で水を溜め始めた。

よく見ると小川の方からもチョロチョロと水が流れ始めてきている。


火魔法の呪いのなくなった溜め池では少しずつ水が溜まり始めた。それを見てルシーダも笑顔になっている。およそ半分ほど水が溜まった頃に清子も水を降らせるのをやめたようだ。

俺のところにコパと一緒にきた清子は「小川の水量が増えているから多分、このままで水量は増えていくと思うわ。」と冷静に言った。

周囲にいた村人たちは手を取り合って喜んでいる。

後で南部の村々の村長や長老などからの挨拶を受けた。

みんな嬉し涙で笑顔である。

春蒔き小麦については種籾は領主から無利子で貸し付けるのでエーミルに相談せよと言うとみんなハハッと平伏した。

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