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黒い森

翌日は領主館からは少し離れた地域への視察になった。黒い森から離れたところではシンプルに龍使いへの畏怖が強かった。

どうやら多くの領主巡視では大人数の兵士が同行したりするのが普通らしい。

俺はグレゴリーに「そういえばここって自警団とか騎士団って存在するの?」と聞いてみた。

「自警団はシティが持っていますね。騎士団はこれまで王領だったので王都騎士団の警備範囲でしたから独立したものはないですね。」

ふむ、それならば新しく作った方がいいのか。

エーミルは「龍殺しの英雄と龍使いがいるという噂はもう既に広まったでしょうから兵士千人くらいでは歯が立たないだろうって考えるでしょう。」とのんびりしたことを言っていた。


そこからさらに奥地、黒い森の近くの村々を回ると、村長や領民が家畜の被害や作物の被害を口々に言ってくる。

黒い森の方に探索を使ってみると確かに魔物らしい存在は探知できた。


「じゃあ龍を放して魔物を食ってもらおうか。」

俺が冗談で言うと、領民たちは震え上がって「龍は堪忍してください。」と土下座してくるのである。

どうしたものかとエーミルに図ると、彼は今日は顔見せと意見聴取のために来たのでまずは予定の村を回ってくださいと言う。見上げた官僚魂と言えるだろう。


こうして俺たちは村々を回り続けることにしたのである。


その結果、北側の黒い森に近いところでは魔物の被害をよく聞き、南側では大きな川がないための水不足で作物が育たない不安が大きかった。

特に古い貯水池が干上がってからは水不足で耕作できない土地が増えていると言うのである。

貯水池は南部の穀倉地帯のほぼ真ん中にあったが綺麗に干上がっている。

そのそばに古い邸宅があったが、そこに住んでいた地方貴族はすでにこの地を去ってしまったという。

俺はその干上がった貯水池を検分してみた。池だったくぼみの底からは炎が溢れてきているように見えた。火の大妖精であるサフルに見てもらうと、サラマンダーが閉じ込められているようである。閉じ込められているサラマンダーを解放するには鍵が必要だという。

どうやら火の呪いがかけられているようである。

元々は小川がその池に水を供給している筈だったのである。けれどもすでに小川は干上がってしまっていた。

試しに清子の水魔法で池に水を入れてみたが、入れる側から水は蒸発してゆくのである。

「こりゃダメだな。」

そういうことで俺たちは池に水を入れるという無駄な行為は諦めた。

じゃあということで俺たちは枯れた小川を遡ってゆくと、水がなくて耕作放棄された荒地を一キロくらい北上すると水が流れているところまでやってきた。小川の水はある点で地下に潜ってしまっており、そこから北には耕されている麦畑が広がっていた。

「呪いか。」

「そうかもしれませんね。」

清子が冷静に言った。

「この小川の流れをトレースしてみましたがこの先ですぐにぶつりと切れていますから追えませんね。」

「解呪ならルシーダに頼むのがいいんじゃない?」

「どこにいるのかわかればねえ。」

俺はそう言ってチラッとエーミルとグレゴリーを見たが、彼らは話を聞いていないかのように明後日の方向を向いていた。

俺はため息をつくと「まずはこの小川の源泉を探しにいこう。」と言った。

麦畑をどんどん進むと行きに通ってきた街道にぶつかったのである。小川は黒い森の中に続いている。

俺はエーミルに他に回るべき村はないかと確認したが全て回っているということだった。

「よし、じゃあエーミルとグレゴリーはローラを連れて館に戻っていてくれ。俺は清子と奥に入ってみるよ。」

「は?」

エーミルとグレゴリーは俺の言葉に固まっている。

「えー?旦那様と清子が行くのなら私も行きたーい。」

ローラは分かりやすく駄々を捏ねている。

「ローラはお腹の子を労ってもらわなきゃ。聞き分けよく館に戻って俺たちの帰りを待っていてくれ。」

侍女は俺の言葉に頷いた。

「ローラ様、旦那様のお言い付けを聞いて馬車に戻りましょう。冷えてきますとお腹のお子様に触りますよ。」

そう侍女に言われたローラは仕方ないといった感じで馬車に乗った。馬車から俺にあっかんべーをしている。俺はニコッとしてローラに手を振った。


「恐れながら伯爵様もお帰りになられた方が宜しいかと愚考します。夜になると魔物は凶暴化しますよ。」

グレゴリーはしたり顔で言う。

清子は清楚な顔をして「ああ旦那様は大丈夫ですよ。コパもいますし。」と言う。

「ふん、勇気と無謀は違うのです。」

グレゴリーは自分のいうことが聞かれなかったためなのか、あからさまに俺を無視して馬車に乗り込んだ。

エーミルは心配そうに俺を見たがやはり馬車に乗り込んだので馬車は館に向かって動き出すことになった。俺と清子は馬車を手を振って見送った。

その後、黒い森に足を踏み入れた。


「さて、肩慣らししようか。」

俺は侍大将の刀を抜き放った。

清子はコパを解き放ち、「好きにご飯を食べてきなさい。食べていいのは魔物だけだよ。」といっている。

コパは嬉しそうに頷いていきなり飛び上がった。

清子も侍の刀を抜いて「旦那様と二人で戦えるなんて理想のデートだわ。」と言っている。


エルダーゴブリンやハイオークのようなヒューマノイドタイプの魔物が十重二十重に俺たちを取り囲んでいる。彼らは音もなく動き出し、俺たちに襲いかかってきた。俺と清子は背中合わせになって奴らと戦うことになった。

向こうは押し合いへし合いやってくるので首を跳ね放題である。200人くらいの集団だったけれど逃げもせずに攻め続けてきた。


普通はこういうヒューマノイドタイプは半分くらい倒されたら負けを感じて逃げ出すものが増えることが多いが、逃げないのは士気が高いのかと思っていたが、前線が崩れてくると、後ろにエルダーゴブリンの二倍くらいの大きさの大きなエルダーゴブリンが抜き身を下げて立っていたのである。

すでに数匹のエルダーゴブリンがジェネラルの周りで切り捨てられた骸になっていた。

「ああ、逃げても無駄だったのね。」

ジェネラルだけでなくシャーマンのような杖を持ったゴブリンもいる。

シャーマンたちが呪文を唱え始めたので咄嗟に前にいたエルダーゴブリンを持ち上げて投げつけてやった。

ゴブリン同士ぶつかってシャーマンは後ろに倒れて動かなくなってしまった。

もう1匹のシャーマンは魔法を唱え終わってその杖からは火の玉が現れた。

清子はウォールオブウォーターを展開する。

飛んできた火の玉は水の壁にぶつかってもうもうと水蒸気を上げて小さくなって消滅した。


俺はお返しとばかりにストームオブファイアを唱えた。

エルダーゴブリンのジェネラルとシャーマンは炎に巻かれる。

炎が収まってみれば、シャーマンは黒焦げになって倒れていた。

ジェネラルはまだ立っている。

「えっ?あのゴブリンジェネラルしつこい。」

「旦那様、ここはよくぞ立っていたと相手を褒めるところでしょう。」


その時、ジェネラルは剣を抜くとこちらに向かって突進してきた。

俺が思わず清子を後ろにして守ろうとすると、清子は「旦那様、ここはお任せください。」と言う。

俺の脇から俺の前に出てきた清子は迫ってきたジェネラルに刀を一閃するとジェネラルの首がころりと落ちた。

ジェネラルはさらに二、三歩タタラを踏んだが、そのまま血煙の中にどうと倒れた。

「すげえな」

思わず俺はうめくように言った。

「それほどのことはありません。それより旦那様、早く魔石を回収しないと日が暮れてしまいます。」

「そうだな。」

少し遠くではコパがドラゴンブレスを吐いているようである。多分魔物を丸焼けにして食べようと言う魂胆なのだろう。このコパのドラゴンブレスのせいで黒い森周辺の人たちはこの日を「ドラゴンの日」と名付けてドラゴンの怒りを買わないように毎年祈ることになったそうである。コパも罪なやつである。

俺は数十匹のハイオークの魔石と肉を切り取ってマジックボックスに入れていく。コパに食べられたので在庫を補充しておかねばならない。

清子はエルダーゴブリンの魔石をせっせと取り出している。


エルダーゴブリンのジェネラルとシャーマンの魔石は10センチ級の大きなものだった。清子に「記念に欲しい?」と聞いたら「旦那様と力を合わせて勝ち取った魔石ですね。」とぼんやりした雰囲気で答えた。

魔石の採取にはかなり時間がかかったのでそこで夕食にすることにした。

俺のマジックバッグにはコパの食事だけでなく人間用の食事も入っている。

食事を終えると清子は疲れが出たのか少し眠そうだったが、俺は「この小川の源泉まで行くよ。」と清子を促した。

清子は「うん」と頷いたものの俺に寄りかかったまま歩いている。

密着している清子の体の部分が柔らかくて意識してしまう。

清子の体からはいい匂いがした。

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