表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/71

ソーフィルクに向かうこと

俺たち四人でソーフィルクの城に向かうことになった。

あの龍と戦った森を抜けるとエルフの王国はもうすぐである。

ルシーダは父王とはウマが合わないということは以前から聞いていたけれども自分の国に近づくにつれて挙動が不審になってきていた。

「勝太郎、私を守ってくれる?」と何度も聞くルシーダに勝太郎はその度に「俺に任せろ」と言っている。生真面目な奴である。


この辺りの魔獣は強くはないので俺の探知を受けるだけで逃げ出すものが多い。なので道行は安全である。


キャンプでは俺と勝太郎、ルシーダと清子が同じテントで休むことになった。

清子が俺といちゃつけないのでショックを受けている。

勝太郎は自分とルシーダはまだ婚約者なので当然のことだと言ってさっさと眠ってしまった。

俺が火の番をしていると、テントから出てきた清子が俺の隣に座った。

清子は「勝太郎ってあんなに堅物だとは思わなかったわ。」という。

「まあな。でも剣への探究心を考えると想像できるじゃないか。」

「そうね。でも私たちは夫婦なのよ。そこには配慮してほしかったわ。」

「そうだね。」

体を寄せてきた清子と俺は自然に口付けをした。

少し長めの口付けを終えると、清子は「ローラだけ妊娠するなんてずるい。」とちょっと駄々をこねた。


清子の爺さんは早く孫の顔を見たいと言っていたが、本家の人たちは「そういうことは清子様が高校をご卒業になってから。」とくどいほどに言ってきたのである。

清子もそれを知っているはずなのに。


俺の膝に頭を乗せてきた清子の髪を弄りながら俺は清子に「何かあったの?」と聞いてみた。

「勝太郎の婚約式には私も呼ばれたのよ。その時、御簾君も来ていてね。」

嫌な予感がしたけれど清子は続ける。

「御簾君の言うことには、キャシーの奴、あなたに会いたいから転校すると騒ぎ出したみたいなの。」

俺は動きをぴたりと止めてしまった。あっ、頭痛が痛くなりそう。

「早川先生も同じ話をしていらっしゃったわ。」

あーそうだったわ。

「私は健斗をキャシーなんかに取られたくないわ。」

「取られないから。」

「じゃあ誓って。私が好きだって言ってよ。」

その後俺は延々と清子に愛の言葉を言わされ続けた。


「お前ら夜中に何しているんだ。」

そう言って勝太郎がテントから出てきた。

時計を見るともう2時である。交代の時間が来てしまったようである。

勝太郎は「キャンプの時までイチャイチャすんなよ。」と上から目線で言っている。

横にいた俺は清子が激怒しているのを感じた。

「ふんっ!勝太郎はお子ちゃまなだけよ。私と健斗はもう結婚しているの。夫婦なの。だからこんなことするのよ。」

そう言うと清子は俺の唇にぶちゅーっと口付けをした。

固まっている勝太郎を後目に清子は「もう寝るわ。おやすみなさい、お子ちゃまの勝太郎君。」と言ってテントの中に入って行った。

「清子ー、風邪ひかないようにね。」

俺はそう言って清子を見送った。

勝太郎はまだ硬直したままである。

ややあって我に帰った勝太郎は言った。

「あんなキスして妊娠しなかったのか?」

「はあっ?」

俺はさすがに驚いて素っ頓狂な声をあげてしまった。

「キス如きで妊娠するわけないだろう。」

「そうなのか?俺の婆やが昔キスすると子供ができると言っていたのでルシーダともキスするのを我慢していたんだ。」

「お前は保健体育の時間は何してたんだ。」

「保健体育?ああいつも寝ていたな。」

なんだか赤ちゃんはコウノトリが運んでくるとか真顔で言われそうである。

「ルシーダがキスしてほしいと言うならキスくらいしてやれ。お前は保健体育の教科書をきちんと読め。」

それだけ言うと俺は力尽きた感に包まれてよろよろとテントの中に入ったのである。


翌朝俺は少し遅めに目が覚めた。外では朝食のものらしい、いい匂いがしている。俺は毛布から出てテントの入り口を少し開けてみるとルシーダ姫と勝太郎が並んで朝食を作っているようだ。その時、ガバッと二人が抱き合いキスしているシーンが目に飛び込んできたのである


おお、これは目の毒だぜ。


ルシーダ姫は「これまでキス一つしてくださらなかった勝太郎様が私にキスしてくれるようになるなんて。」と言っている。

と言うことは何か?これまで勝太郎はルシーダ姫にキスひとつしていなかったのか。よくルシーダ姫も耐えたものである。


その時、向こうのテントから清子が起きてきたようで「なになに、美味しそうな匂いがする。みんなおはよう。」と言っている。

ルシーダ姫は晴れやかな声で「清子様、おはようございます。もう朝食の用意はできていますわ。」と言った。

俺ももそもそと起きてきたように装って清子の方に向かった。

清子は「旦那様おはようございます。」と言って俺の頬に軽くキスをした。俺も「清子おはよう」と言って清子のほっぺたにキスを返す。

勝太郎とルシーダはそんな俺たちを気にしないかのようにお互いを見つめあっていたのである。

みんな揃って朝食を食べた後はテントを片付けてソーフィルクの王都を目指した。


森の中の道を歩いていると、ルシーダが不意に横の木々に分け入った。一本の木には不自然に人一人くらいが通り抜けられる穴が開いている。

「ここがゲートよ。都の周りには迷いの守りがかけられているからまっすぐ行くと永遠に迷ってしまうわ。」


穴の中に入ると転送魔法がかけられていたようで森の開けた場所に立っていた。

向こうにはエルフらしい痩身の人たちが歩き回り、森の木々と一体化したような建物がいくつもあった。更にその奥には瀟洒な城が見える。


「あの城が王族の城なの。父上もそこにいるわ。」

ルシーダはそう言って歩き出した。


遠くから見えた建物の多くは商店のようだった。

ルシーダは「ここがいわゆる目抜き通りなの。いろいろな店があるでしょう?エルフの細工物や魔法具は有名なのよ。」と言う。

清子はキラキラした目で商品を眺めているが、ここにきた第一の目的はルシーダ姫と勝太郎の婚約と結婚の確認のためなのだからゆっくりとショッピングしている場合ではない。


清子を抱きしめるように俺はルシーダと勝太郎の後を追う。


ちょっと歩くと城門に近づいてゆく。清子は俺にくっついてイチャイチャしているが、ルシーダと勝太郎は手を繋ぐくらいの清々しいカップルである。


ルシーダは胸に下げていたペンダントを高く掲げると、そこから光が溢れ出した。それが何かのスイッチだったのかもしれない。城門は音も立てずにゆっくりと開き始めた。


開いた城門の向こう側には小柄な女性が一人立っており、「案内いたします」と言って一礼した。

「案内を頼む」とキリッした声でルシーダ姫が命じるとその女性はピョンピョンと跳ねるように歩き出した。俺たちはその後についてゆく。

「清子、もう城内なのだから節度をわきまえよう。」

そう言って俺は清子を少し離した。清子は不満そうな顔をするがそれは無視である。

ちらっと後ろを振り返ると城門は音も立てずに閉じてゆくところだった。なんだか囚われの身になった気分だった。


城の謁見室に通された俺たちはちょっと顔色の悪い痩せぎすの男の前にいた。

「ふむ。確かにわしはお前たちの婚約は認めたぞ。結婚式はそうだな。今から百年後で良いかな。」

「父上、私がせっかく王宮に帰ってきたというのにそんな笑えない冗談を言うのですか。」

ルシーダ姫はピリピリしている。

「何を言う。我らエルフ族にとって百年など一瞬のこと。」

「もういいです。親子の縁を切りましょう。毒親とは話していられません。」

「わかったわかった冗談だ。けれどもこのカツタロウという男は王女の婿になる勲功を未だに上げておらん。」

「こちらのケルナート伯爵と共にドラゴンを退治しましたし、この度はハルシュタット王国の王配閣下の命をお救いしましたよ。」

「それはハルシュタット王国での手柄に過ぎん。」

あ、ケルナート伯爵って俺のことか。

「ケルナート伯爵、お会いできて光栄ですぞ。ケルナートは聖地。しっかりお守りしてくだされよ。」

「ははっ。過分なお言葉ありがたく思います。まだまだ至らぬ身ですが最善を尽くしてまいりたいと思っております。」

俺がこう返事すると、ルシーダ姫は「何それ、当てつけなの?」とプリプリしている。

「ふふふ、早く結婚したければ手柄を上げよ。聞くところによるとハルシュタットでは勇者の捜索を開始したというではないか。姫の婿殿が勇者ならばすぐにでも結婚させてやるぞ。」

ちょっとひど過ぎない?という顔でルシーダ姫がこちらを見た。確かに姫の気持ちもわかる。

俺が何か言おうと顔を上げた時、勝太郎は「委細承知仕りました。」と答えていた。


真っ青になったルシーダ姫を見ようともせず、王は満足げな顔で「うむ。それでこそだ。吉報を期待しておるぞ。」と答えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ